受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第55話 可能性

            ★リオルSIDE




 最悪だ。
 先ほどまで僕たちを狙っていた鉄鉱石竜は、突如ターゲットを変えてルスカ達の方へと向かってしまった!


 地中に潜った鉄鉱石竜メタルドラゴンは、またも『ドガガガガガ!!』という爆音を出しながら地面を掘り進めて移動する。


 この移動の衝撃だけで岩盤が崩れるんだ。




 くそっ! 地中に潜る敵は厄介だ。
 もともと僕は頭がいい方ではないし………対処法が全然思いつかない


 土魔法で生き埋めにしようと思っても、地中を移動できる鉄鉱石竜だから意味ない!


「イズミさん! 全力でルスカ達の所に!」
「ええ! ちょっと《ブースト》で走るので、しっかり掴まっててください!」




 視界がブレる。
 僕はその間に糸魔法をくっつけておいた鉄鉱石竜メタルドラゴンの位置情報を詳しく探る


 あーもう! 鉄鉱石竜メタルドラゴンは結構移動スピードがはやい!
 おそらく地中を移動しているだけなのに時速60kmくらいのスピードだ!




 《ブースト》で走るイズミさんの時速はおそらく100kmくらい。
 最初に距離をロスしてしまっているから間に合うかどうかわからない。


 それでも!!




「ルスカ―――――――――!!!!」




 ルスカ達を視認した瞬間、僕は叫ばずにはいられなかった。
 間に合え、間に合え間に合え間に合え!!




「あ、リオ!!」
「リオ殿!」




 鉱山夫たちと逃げていたルスカとミミロがこちらを振り向いた、その瞬間




―――ビキッ!




「跳べ!!!」




 僕が命令すると、ルスカ達の行動は早かった


 ミミロは即座に竜の脚力でマイケルに向かって体当たりをして距離を稼ぎ
 ルスカはキラを抱きかかえて《ブースト》で上空に跳びあがった


――――バキン!!




 瞬間。鉄鉱石竜メタルドラゴンが最初に現れた時と同じように、地面が割れて大きな顎が現れた




『なっ!? うぎゃあああああああああ!!!』
『ヒッ! 助けえええええええええああああ!!』




 その大あごに2人の炭鉱族ドワーフが飲み込まれてしまった
 中央大陸の人間語が東大陸の住人には通じなかったことが悔やまれる


 一応ルスカたちは助かったとはいえ、一歩間違えばみんな食われていた。




 キラとマイケルに至っては産まれたばかりで、今まで自分にかなう敵がいなかったこともあり危機管理能力がやや薄い


 ミミロとルスカがいなかったら、確実に食われていたんだ


 僕は怒りで頭が沸騰しそうだ






「《フラッシュ》!!」


『GRYYYYYYYYYYYYY!!!!』




 キラを抱えて空中に跳びあがったルスカは、鉄鉱石竜メタルドラゴンに向かって【閃光フラッシュ》】を掛けて目を奪った


 さすがだ。
 これで一時的に目が見えなくなるはず


「こい!!!」


 その隙に僕は4人を闇魔法の引力でこちらに引き寄せる




「みんな無事!?」
「だいじょうぶなの! リオ、ありがと!」
「助かりました、リオ殿………」


「礼はいいから! とにかく逃げ………」


『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』


 あ、やばっ!


 僕たちは全員、バックステップで素早くその場から離れる


―――ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!






 目の見えなくなった鉄鉱石竜メタルドラゴンは、手当たりしだいにブレスを吐きまくる
 僕たちは気づいたおかげで避けられたけど、それの犠牲になってしまったのが




「あ、親方!!」




 前方に走って逃げていたドワーフの親方たち。
 僕たちの初めての依頼を発注した親方だった


『う………ぎゃあああああああああああああああああああああ!!! なんだよこれえええああああああああああああああああ!!!』
『体が! ぐああああああああああああ!!!!』


 親方はブレスの直撃を受け、体が石化し始める




石化吐息 メタルブレス………親方たちはもうあきらめましょう。助けられません」
「くそ! せっかくの僕たちの依頼がパァになったじゃないか!」


 イズミさんが冷静に告げた
 最初の依頼は、依頼者の死亡で失敗か。
 最悪だ。


鉄鉱石竜あいつの眼も、直接見てはいけません。邪眼光を放ってそれを直接視認してしまえば、そちらも石化されてしまいます。頻度は低いはずですが、そちらの方がより深刻に石化します」
「ハァ!?」


 なんだよそれ! 口もダメ! 目もダメ!
 どうやって倒すってんだよ!


「とにかく、今は逃げましょう! 自分の命が最優先です」
「で、でも! 親方が!! ジャムのおじさんも! た、倒さないと!」
「落ち着いて! 自惚れてはだめです! 今の貴方では倒せません! 今は逃げることだけを考えてください! わたしが時間をかせぎますから! リオルに今できることはなんですか!!」




 イズミさんは僕たちの背中を押してから鉄鉱石竜メタルドラゴンに向き直る


 先ほどイズミさんが刀で攻撃した時も、黒いオーラと鱗に阻まれて攻撃できなかった。
 なのにイズミさんは命がけで僕たちを逃がそうとしてくれている


 そんなことをしたらイズミさんが死んでしまう!!




 そんなの嫌だ。
 いやだいやだいやだ!
 死んでほしくない!


「大丈夫です。わたしはまだ死ねませんよ。いざとなったらわたしも逃げますから。」


 自信満々に頷くイズミさん
 僕たちの手に負えない相手を目の前にして、突貫してわざわざ死んでしまうなんて、それこそ馬鹿だ
 ここは意をくんで逃げるべきであろう


 大丈夫。イズミさんならきっとうまくやって巻いてくれる


「もうすぐ鉄鉱石竜メタルドラゴンの眼も見えるようになるでしょう。ジンが来るまでの辛抱です! 急いで!」
「くそっ、くそっ!! イズミさんも無理しないで逃げてね!! キラ、マイケル!! こっちへ!!」
「はいなのです!」
「うー、にーちゃん、おれ、あいつたおしたい」
「馬鹿なこと考えるな! そんなことしたら確実に死んじゃうんだよ!! いいから走って!!」


 ヒーロー願望の強いマイケルが言うことを聞こうとしないけど、無理やり手を引っ張って走る


 ルスカとミミロも僕の後ろを走ってついてきてくれた






                       ☆




 どれだけ走っただろうか。


 イズミさんは無事だろうか




 そんな考えが頭の中をぐるぐるとまわる


 僕たちは険しい山を、道なき道を突き進み、廃鉱から遠く離れた大きな岩場に身を潜め、つかの間の休息を取る
 僕が座ると、マイケルが僕の道具袋から水とタオルをみんなに渡す。
 ありがとね、マイケル。こらこら、木刀は道具袋に戻しなさい。


 あれ? 僕が背中を預けているこの石、たしか【マナレイ結晶石】とかいう魔力を多く含んだ鉱石じゃなかったっけ?
 採取の冒険者であるフィアル先生に教えてもらったから知ってる
 魔法使いの魔力切れ対策に魔法使いが念のために持っておく結晶石だったはず。
 純度によって魔力の回復量もかわるっぽい。
 ちょっとアルノー山脈のアルノーに似てるね。


 かなりレアな鉱石じゃん。純度も高そうだし。結構な量の魔力を貯蔵してそうだ。
 なんでこんな廃鉱にあるんだ?
 掘りつくされてて当然の場所にマナレイ結晶石があるのは不自然だけど、こういうこともあるのかな。


 もしかしてこそこそ逃げ回っている内に秘境にでもついちゃったのかな。
 まぁなんでもいいや。貰っておこう。
 息を整えながらピッケルで結晶石を傷つけないように掘り出した。


 レア物ゲット。冒険者なら、こういう状況でもずぶとくお金を稼ぐ手段ことを考えなきゃね。
 ふぅ、休憩休憩。


「はぁ、はぁ………それにしても、鉄鉱石竜メタルドラゴンはどうしてここに来たのでしょう?」


 息を整えながら、ミミロが道具袋にマナレイ結晶を突っ込む僕に聞いた


 ありゃ、こっちにもマナレイ結晶がある。もらっておこう。


 コンコンと僕が採掘する音が響く。
 座りながら作業しているから、一応休憩は取っているよ。


「僕にもわからないよ。でも、鉄鉱石竜は魔界の生き物だ。それに最初に僕を見た時に『魔王様、見つけた』って言ってた。僕を探しに来たんだと思う」


「リオ殿をでありますか? それはいただけませんね。」


「んー。なんで僕を探しているんだろう。鉄鉱石竜メタルドラゴンが現れた時期って僕が産まれた時期と重なるんだよね。だとすると、そのころからずっと僕のことを探していたのかな。」


 ピッケルとマナレイ結晶を道具袋にしまった僕は腕を組んだ。


 だとしたら東大陸だけじゃなくて、他の大陸にも僕を探しに来たあいつみたいな化け物が居る可能性がある


 だーもー! 鉄鉱石竜メタルドラゴンは何のために僕を探すんだ!? 僕を殺すため!? それとも僕が必要なのか!?
 なんっにもわかんない!


 ただ、あの鉄鉱石竜メタルドラゴンからは友好的な雰囲気は感じなかった。


 くそっ、とりあえずそれはひとまず置いておこう。考えてわからない問題は脇に置いておいた方がいい


 僕が思考の泥沼に片足を突っ込んで引き抜けないでいると、ルスカがポツリと呟いた




「リオは【まおうの子】なの。ルーは【みこ】なの。ルーたちがうまれたら、“ライナーさま”か“ハルトさま”にはすぐにわかるとおもうの。」


 珍しくルスカが言葉を発する。
 話の腰がポキッと折れているけれど、子供の思考回路ではよくあることだからそのまま聞く。
 逃走の合間の休憩にはちょうどいいかもしれない。


 ルスカが言ったライナー様っていうのは、たしかこの世界の宗教の《ダゴナンライナー》という神様のことだ。
 んで、“ハルト様”っていうのが、主に400年前の魔王、【ヨルドハルト】のことを指すことが多い。


 えっと、たしか現職の魔王はヨルドハルトが討伐されたことでその時代の魔王の子であった“ジャック”って人だったかな。
 だったらルスカの言っているハルト様っていうのは“ジャックハルト”のことかな?


 400年前の【勇者物語】にもダゴナンライナーが出てきた。
 たしか魔王を打ち滅ぼせと勇者に神託を下したんだっけか


 今の世間的には魔王の子が生まれたことも神子がうまれたこともあまり知られてはいないっぽい。
 だが、神様や魔王様と崇められている存在ならわかるかもしれないってことか。


「ふむぅ、だから僕たちの存在に気付いた魔王が、5年前から鉄鉱石竜メタルドラゴンを人間界に送ったことによって現れたってことだよね。
 ルーはなんで魔王や神なら僕たちが産まれたことを知っているだなんてそんなことがわかるの?」


「うん。ルーはね、あたまのなかに声が聞こえてくるの。さいきん、ずっとなの。『まおうの子をころせ』って。………たぶん、ライナーさまの声だとおもうの。」


「ふーん………はぁ!?」


 突然のカミングアウトに一瞬思考がショートした
 話の方向がまたもいきなりズレた。子供の頭の中は覗けない。


 僕を殺せ!?


「ルー、どういうこと!?」


 ルスカの肩を掴んでルスカの眼を見る
 一瞬だけ嬉しそうに「ひゃん♪」とか言ってたけど今はいい。




「んっとね、せきりゅうの里についてから、ときどき声が聞こえるの。『あなたはみこですの。まおうの子はころさなくてはいけないのですわ』って。でもルーはリオのことがだいすきなの、ルーそんなことしたくないの!」


「あ、ありがとう。でも、それとさっきの話と、何の関係があるの?」


 そんな一直線に僕のことが好きだとストライクゾーンにボールを投げられたら食らいつかづにはいられないけど、今回だけは見送る。1ストライクだ。
 なんか僕の命に係わりそうだから


 そういえば、思い返せばルスカが頭を押さえて走り回っていた




『や――――! ルーそんなことしないの―――!!』




 赤竜の里から出て行く前に、ちょっと目を離したすきにそんな風に叫んでいた記憶がある。
 最初は病気かと心配してたけど………
 あれは神………おそらく現職の神、ダゴナンライナーから「僕を殺せ」って命令をされて、その命令に逆らっていたからなのか


 しばらく嫌だと叫んだあと、高確率で僕にべったりと甘えてくる。かわいい。
 2ストライクだ。


「なんかね、ずーっとルーたちのことをみてたんだって。ルーたちがずっとずっと小さいときから。」


 ずっと見てた? 監視されてたのか?
 神様なら、可能なのか?


 わからん。魔眼の種類に千里眼というのがあるらしいし、その類かもしれないな。




 あ、そういえば僕の《糸魔法》だって遠隔の地を糸に視覚情報を組み込んで脳裏に移すことができる


 それと似たようなものかもしれないな。


 そんで、神様であるダゴナンライナーは僕たちの行動を監視している?
 なぜ?


 僕とルスカが魔王の子と神子だからだ。
 だったら、魔王も僕のことを監視しててもおかしくないか


 だったら、なんでルスカには交信があって、なんで僕には魔王からなんの交信もないんだ?
 うーん、思いつかない。あ、もしかしてあれか?


 神様は“魔力で神子の位置を特定している”ってやつか?


 もしそうなのだとしたら、一つの仮定が産まれる。


 僕は赤子の頃から魔力を圧縮して圧縮して練って凝固にして体内に隠してた。
 もうやりかた覚えてないし、圧縮の解き方も覚えてないけど。


 なんか最近は魔力が生成されると同時に練って凝固になって圧縮されていくんだよね。
 無意識内にそういうプロセスが形成されているんだ。


 僕が産まれてすぐに魔力をひた隠しにしていたせいで、僕の魔力を感知できなかった魔王は僕にコンタクトを取ることができなかったと考えられる。


 それで、仕方ないから僕を探すために魔王のしもべとして鉄鉱石竜メタルドラゴンを送り込んだと。


 そう考えるとつじつまが合うかも。こじつけすぎるかな。
 いや、でも鉄鉱石竜メタルドラゴンは僕を探していたみたいだいし、その可能性は高い。


 まだ仮定だけど、ルスカの発言から思わぬところで今回の騒動の原因が判明した。


 この鉄鉱石竜事件は、僕のせいでもあったんだ。まだ、断定はできないんだけどさ。




「んー、その声が聞こえるようになったのは赤竜の里についてからなんだよね?」
「うん♪」
「だとしたら、なんで赤竜の里についてからなんだろう? ずっと監視してたなら接触の機会はいつだってあったはずなのに。紫竜の里に居る時にでもコンタクトは取れただろうし。」
「えっとね、『まがんつかいがいたから、いままではなすことができなかったんですの』ってさいしょにいってたの」


 魔眼使い………。僕の知る魔眼使いは、ゼニスとウサ耳少年のラピス君だけだ。
 ラピス君、元気にしてるかな


 魔眼使いが居ると接触できないのか?


 見られるとマズイのかもしれない


 それはなぜ?
 その監視の魔法が魔力でできていて、魔眼使いには見破られるから
 だから魔眼使いっていうのはゼニスのことなのだろう。
 ラピス君の魔眼は【魅了眼チャームアイ】っていう相手を魅了する魔眼だったし。コレは関係ない。


 僕の糸も、非実体化すると魔眼使い以外には視認できない。


 使用者本人である僕にしか見えない。
 そういうものだった。


 今の神………ダゴナンライナーも、似たような能力を持っているのかもしれないね




「ふぅー。ありがとう、ルスカ。なんだかルーのおかげでいろんなものが見えてきたよ」


「にへへ、ほめてー」


「うん、えらいよ、ルー。」


 僕の方に寄ってきたルスカが僕にしだれかかった。
 僕はそれを抱きしめて、ほっぺどうしを合わせてすりすり。
 あったかい。 スリーアウト。


「にへへへ~~~♪ あっ!」
「ん?」


 とろっとろにとろけきったルスカの顔が、何かを思い出したかのような表情になる
 どうしたの?


「これ、いっちゃだめっていわれてたの!」
「おいっ!」
「うゅ………ごめんね、リオ」
「はぁ、まぁいいよ。おかげでちょっとわかったこともあったのは確かだしね。」


 このうっかりさんめ!
 神様に知られたところでもうどうしようもないことはわかってるけどね。


 知られてしまったものはしょうがない。
 神様ダゴナンライナーだっていつかはこうなることくらいわかってたはずだ。




 グルグルぐちゃぐちゃと踊り狂う思考の袋小路から抜け出し、目の前の現状だけ洗い出してみる


 鉄鉱石竜メタルドラゴンは二匹居た。内一匹がここにいる
 鉄鉱石竜メタルドラゴンは、僕を探していた。
 鉄鉱石竜メタルドラゴンは魔王のしもべ。つまり魔王の指示
 魔王は僕を見つけられていない。
 神は僕にとって天敵。ルスカを使って僕を殺そうとしているらしい。
 魔王は僕にとって、味方? それとも敵?






 うう、僕の味方はルスカたちしかいないのだろうか


 とにかく、理由はどうであれ危険なことに変わりはない。
 逃げなければならないんだ
 何時間かかるのかわからないけど、鉄鉱石竜を狩れる可能性があるジンが到着するまで。


 なぜなら、僕の魔法はあの鉄鉱石竜に通じない。
 だから、情けない話だけど、ジンに頼るほか僕にできることは無い。


 鉄鉱石竜メタルドラゴンを狩れると自信満々に言い放ったジンは、その宣言通り、すでに一匹狩っている。


 それに、こちらに向かってくれているんだ!


 とにかく逃げて隠れてジンが来るまで逃げ続けよう!!
 いざとなったら戦って時間を稼いでまた逃げるんだ!


「よし、休憩は終わり! 充分休んだよね!さあ行くよ!」


 僕は立ち上がってみんなを催促した。




「………リオ殿は休憩中も鉱石集めをしていたようですし、リオ殿が一番疲れていそうですが、リオ殿がそう言うのならわちきはなにも言いません。リオ殿も、もう少し休んでいてもらいたいところすが、状況が状況ですしね。贅沢は言えませんか。」




 ミミロが僕に微笑んだ。
 うん。僕はみんなみたいに体力は無いし、体も一番小さい。


 だけど精神年齢だけはみんなよりも年上だ。


 僕だけが辛いわけじゃないんだし、もうちょっと頑張んないと。
 気をぬいたら鉄鉱石竜メタルドラゴンに食べられちゃうからね
 貪欲でずぶとく生きないとこの世界では生きられないからね。


 それに、僕はいざとなったら闇魔法で自分を宙に浮かせて滑空するよ。


「よし、つぎはあのでっかい岩場の方に行くよ」


 僕は道なき道の奥に見える岩場を指差す。
 正直、糸魔法が無ければ確実に迷う自身がある。


「はい。みんなも立ってください。行きますよ!」


「うぁー。つかれたよー!」
「マイケルは死にたいのでありますか? 止めはしませんが、マイケルが死んだらわちきは怒りすよ?」


「うぅ、みみろおねーちゃんのいぢわる」


 マイケルはちょっとめんどくさそうに木刀を杖にして立ち上がった。
 そんなことするとジンに怒られるぞ。


「意地悪で結構であります。何事も死んでしまうよりはマシなのですから。ほら立って。リオ殿に迷惑を掛けてはなりません」
「………はーい」




 最近反抗期真っ盛りのマイケルも、ミミロの言うことには逆らえない。
 ミミロはマイケルの母親なのだから。
 母は強し。
 強引にマイケルを立たせると、僕に頷きかける


「よし、イズミさんが足止めしてくれている今、できるだけ遠くに、隠れられるところに逃げたいからね! 行くよ!」


 と、走り出しだそうと―――




『―――グルルル』




「………は?」




 ―――したところで、目の前で唸り声が聞こえてきた




 パチリと目が開く。




 バッチリと目があった。
 この目はいったいなんだろう?
 大きな瞳。大きな顔。全身が金属でできているのではないかと思わせるほどの金属光沢をもつ生き物。


 ゴツゴツとした体。それはまるで、体中に鉄鉱石が埋まっているかのようで――――






『――― ゴアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』




 訳すると『オレの眠りを妨げる奴は誰だ!!!』


 眠り!? ハァ!? 何言ってんの!? っていうか、なんでここに!?


 うげ!


 地面からひょっこりと顔だけを出した鉄鉱石竜メタルドラゴンが咆哮し、こちらに向かってブレスを吐こうと口を開けた


「うわあああ また出たああああああああ!!! キラ! 下がって! マイケルもこっちに来て!
 僕が一度防壁を張るから、いったん奥に逃げよう!!」




「はいなのです!」
「ふう、ふう………」


「【鉄砲弾アイアンキャノン!】 糸魔法・捕縛【蜘蛛網スパイダーズネット!!】 【百倍重力グラビティ・ハンドレット!】 【溶岩壁】」
「ルーも! ………【アイスバレット】! 【ウインドカッター】! 【ライトレーザー】!」


『グ……ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』




 手当たり次第に持てる魔法の数々を放つ
鉄砲弾アイアンキャノン】でなんとか鉄鉱石竜メタルドラゴンがブレスを吐くことだけは防げたけど…‥…


 鉄鉱石竜メタルドラゴンはこちらに向かって来ようと体を起こした


 僕たちは全力でその場から去る




 まさか、こんなに早く鉄鉱石竜メタルドラゴンが現れるとは思わなかった




 でも、考えてみたらこんなところに【マナレイ結晶】があるのはおかしい。
 ここは刈りつくされた鉱山だし、こんなレアな鉱石があるわけなんてないんだ!


 なんでおかしいと気付かなかったんだ!
 ………まぁ、それだけ鉄鉱石竜メタルドラゴンが巨体だってことなんだけどさ!
 顔だけで4mはあるんだもん、そんなの気づけないよ!


 顔に浮き出ていた【マナレイ結晶】を採掘してもただの岩壁にしか見えなかったし!
 くそ!


 僕たちは後退しながらも、全力で行動阻害の魔法に魔力を注ぐ




「くううううう!! もうすぐ突破される! みんな急いで! こいつにはなんでかしらないけど闇魔法の効果が薄い!!」




 先ほど鉄鉱石竜に放った【百倍重力グラビティ・ハンドレット】と同じように、なぜかはわからないけど、闇魔法の効きが弱い
 耐性がついているのか?


 魔王の眷属だからか?




「それにしても、この巨体の移動の音が全く聞こえなかったのはどういうことでしょう。こいつはイズミ殿が押さえて時間稼ぎをしていたはずですし。」


 ミミロが的確に問題点を挙げてくる


 そう。先ほどまで僕たちは鉄鉱石竜メタルドラゴンから逃げるために走っていたはずだ。


 移動に轟音を伴うこの鉄鉱石竜メタルドラゴンがイズミさんを倒した後に僕たちの先回りをするなんて、できるわけがない


 イズミさんの安否も不明。


 まさか………殺され………! いや、そんなことは考えたくない。
 すぐに情報を集める。


 イズミさんに接続した糸の様子を探れば、いまだに交戦中だということがわかる
 つまり、イズミさんはまだ生きているし、鉄鉱石竜メタルドラゴンもあっちにいる




 ジンは遠くにいる鉄鉱石竜を討伐しに行った。
 鉄鉱石竜は二匹居るって話だし、一匹はジンが倒した。


 もう一匹は現在進行形でイズミさんが戦っている。つまり、












「こいつは、ずっとここにいたんだよ! 鉄鉱石竜メタルドラゴンは最初から三匹いたんだ!」









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