受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第47話 人里に降りるぞ。

 絶体絶命。


 それは迫りくる危険からどうやっても逃げ出せない様を表す言葉だ。








 ――――僕たちは『そいつ』とばっちり目があった。


 その目はいったいなんだろう。
 大きな瞳。大きな顔。全身が金属でできているのではないかと思わせるほどの金属光沢をもつ生き物。


 ゴツゴツとした体。それはまるで、体中に鉄鉱石が埋まっているかのようで――――






『――― ゴアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』




 地面から首だけをひょっこりと出した鉄鉱石竜メタルドラゴンが咆哮し、こちらに向かってブレスを吐こうと大きく口を開けた


「うわあああ また出たああああああああ!!! キラ! 下がって! マイケルもこっちに来て!
 僕が一度防壁を張るから、いったん奥に逃げよう!!」






「はいなのです!」
「ふう、ふう………」


「《鉄砲弾アイアンキャノン!!》 糸魔法・捕縛《蜘蛛網スパイダーズネット!!》 《百倍重力グラビティ・ハンドレット!》 《溶岩壁!!》」
「ルーも! ………《アイスバレット!》 《ウインドカッター!》 《ライトレーザー!》」


『グ……ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』






 鉄砲弾で無理やり口を閉ざしてブレスを吐けなくすることはできた
 でも、もっと、もっと糸に粘りをつけないと! もっと、もっと!!


 もっと重くしないと! たりない、動きが止まらない!
 物理的な分厚い土壁を作り出してそれを炎壁で焼き、触れるとやけどでは済まない壁を作り出す
 糸魔法で拘束しようと思っても僕の糸の強度を軽く超えている。
 だから糸の粘り気で動きを阻害するしかできない


 ルスカが僕を援護して氷弾を射出してくれるけど、硬い甲殻に弾かれて効果がまるでない
 光線ライトレーザーを放つが、独特の金属光沢で反射し、ダメージを与えるにはいたらない!


「くううううう!! もうすぐ突破される! みんな急いで! こいつにはなんでかしらないけど闇魔法の効果が薄い!!」
「それにしても、この巨体の移動の音が全く聞こえなかったのはどういうことでしょう。こいつはイズミ殿が押さえて時間稼ぎをしていたはずですし。」


 そう。それが問題だ。
 僕たちはこの鉄鉱石竜メタルドラゴンから逃げていたはずなのに、いつの間にか目の前にいる


 超重量で超巨体。こんな生物が移動する音は聞こえないとおかしい


 でも、実際に目の前に存在しているという。認めざるを得ない現実


 なんでこんなことに巻き込まれないといけないんだよー!
 さっさと帰りたいのに!


『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』


 さっきまでこいつの足止めをしていた赤竜戦士長で赤竜亜種である《紅竜くれないりゅう》のイズミさんの姿が見当たらない




 まさか………! いや、考えたくない






 僕たちは、まさに絶体絶命のピンチに陥っていた








                     ☆








 事の始まりは赤竜の里で暮らし始めて早2カ月。
 赤竜の里での生活も慣れてきたときのことだ。


 あいも変わらず、今日も今日とてマイケルはジンの後ろをちょこちょことカルガモのようについて回った。
 マイケルの憧れの人は誰かと聞かれれば僕らは間違いなくジンだと大声で言うことだろう。


 僕たちだって赤竜たちとも仲良くなったし、いいことづくめだ。
 最初は火山地帯の気温に気圧けおされていたけど、赤竜の里で竜たちと一緒に生活していたら、なんだか気温が気にならなくなってきた。


 そういえば、紫竜の里で暮らしていた時も、低気圧に慣れてきたのか、頂上に行っても大して息苦しくなったりしなくなった。
 もしかしたら僕の身体の中でいろいろなことが進化しているのかもしれない。
 もしくは、魔王の子は環境に適応しやすいのかもしれないね。






「人里に下りるぞ。」




 赤竜族長のジンの言いつけで本格的な体力トレーニングを始めた僕は、ジンから借り受けた木刀を両手で握って振り回す練習をしていたときに、ジンに声を掛けられた




「わかった。何しに行くの?」




 木刀をマイケルに手渡し、ジンの持っていた手ぬぐいで汗を拭う。
 ふう、運動は好きじゃないけど、いい汗をかくと気持ちがいいなね


 そういえば昔の僕はゼニスに人里に下りると言われた時には即答で拒否していたっけ。
 今は信用するに足る心強い仲間がいるし、頭を隠したら問題ないということから人里に下りるのも賛成だ。


 ちなみに、木刀を振り回しているけど、まだ僕の筋力が弱いからか、木刀に振り回されている感がある。


 しかたないよね。だから頑張っているんだけどさ。
 でも、木刀の方がわずかに僕の身長を超えている。練習用にと渡された木刀だけど、マイケルの方が僕よりも上手に扱っているようだった。
 この様子なら、マイケルが大剣をチョイスしたことに間違いはないだろう。


 ただ、最近は僕と組手すると僕が簡単に転がされてしまうから、ちょっと調子に乗っている節がある。
 こないだマイケルと組手した時なんか『へへーん、おれのかちだもーん!』とか転がる僕に言ってきやがった。
 くやしい。でも事実だ。いいもんいいもん。僕は接近戦をしなければいいだけだもーん




「うむ。実は最近は鉄鋼不足でな。人里に買い出しに行こうと思ったのだ。」


 ジンは赤竜の族長でありながら一流の鍛冶師だ。
 ジンの作る武器は人間たちにも大人気。


 魔剣と呼ばれる類の強力な剣を生み出したこともあるという。




 ジンの作る武器にはΨ←こんなマークがついているのでジン印の武器には一種のブランドがあるんだってさ。
 恐ろしいほどの高値で取引されるのだ。すごい!




 しかし、気まぐれな性格のせいか、鍛冶をするのは趣味程度。
 だから本数も揃わないんだよね。


 マイケルはそんなジンに剣を打ってもらえるんだ。
 こんなに光栄なことは無いだろう。


 でも、そのためには鉄鋼不足のせいで金属が足りないらしい。
 人里に買いに行くのも当然だね。




「それじゃ、みんなを集めて出かける準備を済ませておけ。」


「うん。わかった! マイケル、準備だって」
「えー! もーちょっとするー!」
「だーめ。ジンに迷惑を掛けちゃダメでしょ」
「むー。はーい」


 反抗期真っ盛りだ。
 そんなマイケルの手を引っ張って一度屋敷に戻る。
 ジンを引き合いに出したら渋々言うことを聞いてくれる。


 よっぽどジンに懐いちゃってるな。


 屋敷に戻ると、赤竜戦士長で赤竜亜種の《紅竜くれないりゅう》であるイズミさんが居間でルスカとキラとミミロに礼儀作法を教えているところだった。
 フィアルは僕たちに一般常識と算術と魔法と年相応の知識を教えてもらった。


 イズミさんは僕たちに道徳や礼儀作法、東大陸の人間語を教えてくれる。
 タイプは違うけど、どちらも僕たちの先生だ。




 先生役はイズミ先生にバトンタッチ。




 実はイズミさん、まだ《紅竜》として産まれてから25年くらいしか経ってないんだって。


 なのに人化するし戦士長にまで上り詰めたらしいよ。
 最初に人化の術を覚えたのは7歳くらいの時らしい。すごい!


 まぁ、《紫紺竜》のミミロに至っては0歳で人化できるようになってるからもっとすごいけどね
 人化の術を使うには魔力量が多く、そして強くないといけないらしい。


 色竜カラーズドラゴンの亜種である故に魔力は多く、強かったからなのかすぐに人化できるようになったんだって。
 ミミロは紫紺のタマゴが産まれた時に、紫竜みんなから魔力を貰って産まれてきたから、他の竜より既に魔力量が多いっぽい。


 だからミミロもすぐに人化の術が使えたのでは?
 と魔眼もちのゼニスが推測していた。


「みんなー。人里に下りるんだってさ。準備してってジンが言ってるよ」


「はい、わかりました。少々お待ちください」
「はーいなの!」
「わかったのです!」
「………(こっくり)。」


 イズミ先生とキラとルスカが元気よく返事をする。
 ミミロはアホ毛が頼りなくふらふらと揺れていた


 あのアホ毛の動きは、おそらく寝ている。
 勉強中に居眠りとは何事だ。けしからん。


 僕はそろそろとミミロの側に忍び寄り、耳に「フッ」と息を吹きかけてみた




「ふやあああ!? なん、にゃにごとでありましゅかぁ! いま、ゾクってしましたよ!」




 わたわたと耳を押さえて真っ赤な顔で狼狽するミミロ
 こらこら、スカートに気を付けてよ。パンツ丸見えだよ。


「おはよう、ミミロ。いい夢見れた?」
「いえ、わちきは寝ていないでありまふ!」


「………。」
「………。」


「へえ、じゃあそのよだれの跡はいったいなんなんだろうね」
「ええ、ほんとうになんでよだれの跡があるのでしょう。不思議ですね!」


 ごしごしと口元を擦るミミロ。


「………。」
「………。」


「出かけるから準備して」
「………………はい。」




 あきらめて準備を始めるミミロ。
 アホ毛がしんなりと垂れた。


 思いのほか反応がかわいかったから機会があったらもう一度やってみよう。
 僕はホクホク顔で居間を後にした


 出かける準備と言っても、なにをすればいいのかよくわからない
 動きやすい靴をジンが最優先で作ってくれたから移動はその靴でいいだろう。
 革靴なんか履いてたら山岳地帯ではすぐにボロボロになっちゃうよね。


 ジンがゴム質の靴を作ってくれて本当によかった。
 靴に限って言えば、前世のスポーツシューズの有用性はすごいけど、ジンの靴もそれに近い出来だ。
 さすがに前世の科学技術にはまだ敵わないようだけど、この世界でこの靴の性能はトップレベルだ
 そんな靴を使わせてくれてありがとね、ジン。


 カバンの代わりに、僕は道具袋を用意する。
 この道具袋はローラたちが住んでいるファンタの町で盗賊たちに攫われた時に、どさくさに紛れて盗賊たちの道具袋は僕がもらうことになった。
 アルノーが50個ほどと、キングアルノーが10個。ケリーの木の根が1本。木刀が1本と小物類がちらほらと入っている。
 これでも容量はまだまだ8割くらい余裕がある。
 結構大きな袋だということもあり、500kgまでならどんなものでも収納することができる。
 黄竜族長ニルドの持っていたものが200kgまでだったから、それと比べるとかなり高価なものだ。市場に流せば大金貨(百万W)が何枚必要になることやら。
 それを無料タダで使わせてもらえる運の良さ。


 もともとは魔法屋のババアのお店から盗賊が盗んだものらしいけど、ババアの店なんて潰れてしまえばいいと思っているから使うことに罪悪感なんてないよ。
 だからこれは僕のだ。


 必要なものは僕の道具袋に入れて行けば荷物はほとんどいらないだろう。


 あとは、人里に行く服装かな。


 オシャレしちゃおう!
 キラには少しだけ露出度が高い服を。ルスカはワンピースを。マイケルには腕白な子に似合う服を。
 僕は黒いパーカーを。


 あ、でも登山や下山しないといけないんだよね。


 だったらもうちょっと動きやすい服を着て、人里に着いたら着替えた方がいいかも


 下山しやすい服ってなんだろう


 長袖長ズボン?


 じゃあそれでいいか。
 ここじゃ火口近くだからちょっと暑いけど、火山の麓まで言ったらだいぶ涼しくなるはずだ。






「や―――!!」




 ん? 声が聞こえてきた。なんだ?


 声の方を見れば、ルスカが頭を押さえて走っていた
 ああ、またか。


「や――――なの――――!!! ルーそんなことしないの!!」


 なにかに怒るように大声を出すルスカ


「ね、ねーさま、どうしたのです?」
「や―――――!!」


「ねーさまおちつくのですー!」


 キラが宥めるが、どこかヒステリーを起こしたような感じだ


「ルー! どうしたの!? なにかあったの!?」
「ぁ…………リオ………」


 僕の方を見たルスカは、一瞬だけ寂しそうな顔をして


「………なんでもないの」




 といった。
 どうしたんだろう。キラがなんかしたのだろうか?
 それとも、イズミさんが変なことでも言ったんだろうか。


 実は赤竜戦士長のイズミさん、かわいいものが大好きでね
 ルスカにいろんな手作りの着ぐるみを着せて遊んでいたりする。


 この間はペンギンの着ぐるみを着せていた。
 タヌキのフード付パジャマみたいなのも着せられていた。
 僕もお揃いのクマさんパジャマを着せられた。


 なぜかクマさんのパジャマは黄色だった。


 これはあれかな? ハチミツ大好きなウィニーザプー的なあいつかな?
 いやいや、この異世界でそれは無いでしょう


 紅色大熊ブラッディビッグベアが居るくらいだし、黄色い熊さんがいたっておかしくない。
 いつかそんな黄色い熊さんに出会ってみたい。


 日本にだってバナナをたくさん食べたら黄色くなっちゃう象さんがいたくらいだしね!
 それはちがうか。




 話がそれた。今はルスカだ。


 まぁ、ルスカは着ぐるみパジャマを着ることに不快感を覚える子ではないし、イズミさんが何かをしたわけではないだろう。




「ルー、大丈夫?」


 とりあえず、今はルスカが心配だ。
 病気だろうか。だったらあんなに元気に走り回るなんてことはありえないだろうけど………


「なんでもないの。だいじょうぶだから………」


 ……………ならいいけど。不安だ。
 最近はよく頭を押さえていやいやと叫ぶ姿をよく見かける
 そして、なぜか僕が近くによると収まる


 本当にわけのわからない症状だ。


「準備できたなら、ジンのところに行こっか」
「うん♪」


 今度は屈託のない笑みで僕に甘えてきた
 なんかぺたぺたと僕の顔を触ってはニマニマしてる。


 ときどきルスカが僕にすごく甘える時がある。
 三割増しくらい。
 僕もルスカとスキンシップをするのは好きだから、僕も三割増しくらいでルスカの頭を撫でまわした。
 でも、なんでだろう。ルスカ頭を押さえたあと、かなり僕に甘えてくるんだよね。
 ほんとうにわけがわからない。


 聞いてもなんでもないっていうし。
 人里に着いても同じ症状が出るなら、医者に見せてみた方がいいかもしれないね


 そのまま手を繋いでジンの元に向かう




「ジーン! 準備できたよー!」
「おう。では、行くか。」




 さて、準備を済ませて、ジンの元に集まった。
 僕とルスカはオレンジのバンダナ。
 キラとマイケルは白と黒のニット帽をかぶっている。


 ミミロだけは髪を隠す必要がないので、元気に紫紺のアホ毛がぴょこぴょこと動いている


「ジン殿。そもそもわちきたちは何をしに人里に行くのでありますか? 人里には鉄鋼を買いに行くだけだと聞き及びましたが」


 5歳児体系のミミロがその背丈に合ったリュックを背負いながらジンを見上げる


 ミミロに身長を追い抜かれた。


 なんか悔しい
 なんだかんだでキラもマイケルも僕やルスカと同じ背丈になっている。


 どんどん成長していって本当に僕を追い抜いてしまいそうだ。




 うう、いつまでもキラやマイケルには僕の弟でいてほしかったけど、いつかは僕が弟にされちゃう




「ああ。人里といっても、ちょっと大きな町に行く予定だからな。
 鉄鋼を買いに行くついでにお前たちの身分証も発行してもらおうと思ったのだ。
 キラやマイケル、ミミロも人の姿を取る以上、身分証があった方がいいし、リオルもルスカも親が居ない。
 身分を証明できるものがないのだ。だからそれもついでに発行してもらおうと思ったのだ。」




 そっか。ジンやゼニスと一緒に行動していることが身分証の代わりになっていたみたいだけど、僕たちが成長したらきっとゼニスやジンの元を去る日が来るだろう。
 その日の為に、身分証は作っといた方がいいということか


「安心しろ、オレが保証人になってやるのだから。」


 身分証を発行してもらうためには、やっぱり身分を保証してくれる人がいないとできないのか。
 まぁ、そうだよね。どこの馬の骨ともわからないスラムの人間に身分証を発行しても『スラム出身』と書かれていたら身分証があっても信用なんかできるわけがない


 その点、僕は恵まれている。
 おそらく、世の中の誰よりも恵まれている。


 だって竜の族長とつながりがあるし、最強種である黒竜と白竜も僕に懐いている
 目立ってしまう髪と前世や出生を除けば、僕は誰よりも恵まれた環境にいると自覚できる




「ふふっ」
「む? どうした、リオ坊?」


 僕が笑っていると、ジンが手綱を握って振り返った。
 出発の準備にとジンが用意したものは《鈍竜どんりゅう》と呼ばれる灰竜の一種で、翼を持たず、地を走る竜だ。


 《色竜カラーズドラゴン》以外にも竜は居る。鈍竜は《色竜カラーズドラゴン》ではないのだけれど、野生化した《灰竜》が他の生物との交配の末に産まれたとされているため、灰竜の一種としてこの地にはびこっている。


 討伐ランクはA+ランク。かなり危険な生物だ。
 だけど、鈍竜は躾ければなかなか力強く頼りになるため、大商人などが竜車を引くために飼うこともあるそうだ。


 鉄鉱石などを買う予定なので、ジンは竜車を操って人間の住む場所まで降りていくつもりらしい
 まぁ、そうだよね。重いものをバッグに入れて運んでもかさばるし重いし、困るだけだ。
 僕の道具袋だって、500kgまでしか入らない。
 鉄鉱石を買うのであれば、種類もそうだが、それなりにたくさん欲しい所だろう。
 それはトン単位で。


 イズミさんが僕たちを持ち上げ、鈍竜が引くための荷台に乗せてくれた。
 僕は荷台の中で移動してジンの近くに寄る。


「いや、本当に僕は恵まれているなーって思ってね。最初にゼニスに出会ってから、僕の人生は確実に変わったよ」
「………ふむ。リオ坊はまだ5歳ではなかったか? なのに人生もなにもあるまい」


 僕たちが全員荷台に乗ったことを確認すると、イズミさんが荷台に飛び乗った。


「あるよ。ゼニスの息子さんが僕の村を攻めて来たんだけど、村に紫竜が攻めてこなかったら、僕は確実に死んでいたもん。村の人たちにいじめられてたんだよ?」
「そうか。魔王の子だからな。」


 ジンは頷いてから荷台と鈍竜をロープで繋ぐ。


「そそ。それに比べたら、今の生活は天国みたいなものだし、僕はゼニスにもジンにも出会えた。
 マイケルなんか、ジンに武器を作ってもらえるんだよ? これを恵まれないだなんてわがままを言うやつが居たら、僕がブッ飛ばしているよ!」


「わははっ! 確かにな。リオ坊は世界で一番恵まれた子供だよ。
 そんなリオ坊にも一つ武器をくれてやろう」


「ん?」


 ジンが懐から藍色の糸? を取り出した
 15cmくらいの糸の束。なんだこれ?


「………これは?」


「これは『藍竜あいりゅう族長、アドミラ』の髪の毛だ。毒が籠っているし、魔力を込めれば硬くなって針になる。護身用に持っとけ。きっと役に立つ。」


 投げつければいいのかな。ありがたくもらっておこう。


 この世界で生まれ変わった時は絶望していたけど、僕は今が一番好きだ。


 この世界で貴族に産まれるよりも。
 この世界で今を生きている僕の方が幸せだ。


「リオ坊。幸せってのはいつだってテメェの足元に転がっているものなのだ。
 ようはそれを見つけるのがうまいか下手かってことだな。
 お前はそれが巧い。それを誇っていい。どんなに小さな幸せも拾って見せろ。そしたらほら、お前が世界で一番の幸せもんだ。」


 ジンがものすごい笑顔で僕の頭を撫でた
 子供が好きなんだろう


「………うん!」


 僕もそれをかみしめて大きく頷いた。


「そう言ったら、オレだって幸せだけどな」




 僕とジンは二人で笑った後、鈍竜を走らせて人里へと向かった
 幸せは、いつでも君の足元に。


 いい言葉だ。
 不幸ばかりを見ていたらダメだ。


 前を向いて、身近にある幸せをかみしめて行かないとっ!






―――でも、これから僕は思い知ることになる。
 この残酷な世界はいつだって、僕に牙をむくということを。


 幸せは、長くは続かないということを。







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