受難の魔王 -転生しても忌子だった件-
第45話 ☆色竜族長の武器
ジンの屋敷の中を案内してもらっている。
赤竜の里に一軒だけ屋敷が立っているっておかしな話だね。
「ねえジン。こんなところに屋敷を建てといて、いろんな人に目をつけられないの?」
「そうだな。オレは変わり者の鍛冶屋で通っているから大抵のことはみんなスルーしてくれるぞ。」
「でも赤竜の里だよ?」
「ああ。オレはSランクの冒険者でもあるからな。大抵のことは許されるのだ。オレくらいの実力者なら赤竜を従えてもおかしくない、とな。みんないいように解釈してくれる。」
………。まぁ、たしかにジンは族長だからここの赤竜たちを統べる竜だけどさ。
つまり赤竜の誰よりも強いってことなんだけどさ。
「でも、東大陸の大きな国から『赤竜を捕獲して来い』なんて命令が下るかもしれないじゃん。」
冒険者ギルドとか、そういったものはきっと国と何らかの繋がりがあるだろうね。
そう言うの程国からの命令から逆らえなかったりするんだ。
Sランクなって実力と肩書きがあるからなおさらだよ。
「ああ? そんなもんは『鍛冶で忙しいから無理だ』とでも言い訳すればいいだけの話だ。」
国からの個人命令さえバックレるこの根性。
見習いたい。
僕は朝の全校集会を欠席したことすらないのに!
「おっと、ここが鍛冶場だ。入れ入れ。」
「おじゃましまーす」
ジンの仕事場に到着した。
見たことない機材やら釜戸やらハンマーやらなんやら。
いっぱい置いてある。
「ん? これって………」
その中で、僕の眼をひくものがあった。
それは『蛇剣』だ。
柄は普通だけど、剣が6等分に切れている。それを三本の針金を剣に通して一つにまとめて剣をくっつけてあった。
おそらく、スイッチ一つでムチにも剣にもなる凶悪な武器だろう。
「ああ、それは試作品だ。《青竜族長》である《サンディ》の注文に合わせて作ってみたやつだが、剣の間と剣の間を固定できる伸縮自在で強度もある紐がみつからないんだよ。」
そう言って僕から軽く蛇剣を受け取ると、部屋の隅に向かって軽く振るった。
――――シュパン! タタタタタ!
という奇妙な音と剣の柄を残して、全ての刃が壁に突き刺さった。
途中で針金が切れてしまい、針金から刃がぜんぶスッポ抜けてしまったんだろう。
「な? まだこの蛇腹剣は完成には程遠い。今度はバネにしてみるか。」
それをどうにかするのが、ジンの仕事なのか。
「かっちょいい………!」
そんなジンの姿を、キラキラと純粋な瞳で見つめるマイケル。
本当にマイケルはジンの事が気に入ってしまったようだ。
「あ、そういえば、ゼニスの武器もジンが作ったんだよね?」
「む? ああ、そうだな。あの斧槍だな?」
「他にはどんなのがあるの?」
なんとなく気になったので聞いてみることにした。
「ふむ。そうだな。ではオレの武器を紹介しよう。よっと、これだ。」
そう言ってジンは大斧を取り出した。
全体的に黒と赤のシルエット。
大斧の反対側には禍々しいとげとげがくっついていた。
「これは、斧? だけではないよね?」
「うむ。これは大槌斧。斬撃も打撃もこなせる武器だ。
コレでぶっ叩いたら大抵のものはミンチになるぞ。」
………ジンはめちゃくちゃパワータイプだ。
マイケルもパワータイプだし、なんか似ているな。
「あとは………各族長たちの人間形態の為に作った武器の設計図がある。」
机の引き出しから古い紙を取り出した。
何束も重ねてある。年季が入っているなぁ。
ぱらぱらとめくれば、斧槍の絵が描いてあった。図面も引いてある。
そのうち一枚には小さく『紫』と書かれていた
これがゼニス用だってことか。
『赤』と書かれたページには、『大槌斧』が描かれている
『橙』と書かれたページには、『死神の鎌(極大)』
『黄』と書かれたページには、『棍棒』
『緑』と書かれたページには、『指ぬきグローブ(小)』と、『拳骨当 (小)』
『青』と書かれたページには、『刺突剣』追加で『蛇腹剣』
『藍』と書かれたページには、『鉤爪』
『紫』と書かれたページには、『斧槍』
「うわぁ………ジン、なんでも作れるんだね。」
「作る側は大変だが、まぁ趣味みたいなものだからな。幸い、赤竜族長であるオレなら、各竜の素材に困ることはないから、それぞれの色に合った武器を作ることが可能だ。」
そっか、昔盗賊に襲われた時、ゼニスは籠手だけで盗賊を相手にしたことがあった。
その時にたしかゼニスが言っていたな。
『私の籠手は紫竜の鱗でできているのだ。なまくら剣程度では傷も付かんぞ』
なるほど、籠手を作ったのもジンなのか。
本当になんでも作れるんだなぁ。
「すっげー! すっげー!」
目をキラキラさせながらマイケルがジンを見上げると
「ま、半分は趣味だけどな。」
と言いながらマイケルを抱き上げてから肩車した。
子供に対しても柔軟に対応して優しい。
「なんならリオ坊に一本作ってやろうか?」
「本当!?」
「うむ、どうせ趣味だ。」
僕も興味津々に部屋を眺めていたら、ジンが魅力的な提案をしてきた
ああ! うれしい! どうしよっかなー。何を注文しようかな。
やっぱり刀? 日本刀チックなモノ?
それとももっと個性的なモノとして、鎖鎌とか!
あー、迷う!
「にーちゃんいいなー………」
「……………。」
ジンの上でマイケルの羨ましそうな視線が僕に突き刺さった。
そっか。使わないものを注文しても迷惑なだけだ。
冷静になろう。無駄な行動はしない。効率的に動くことを優先しよう。
「僕はいいよ。どうせ僕は接近戦はしないから。作るならルーに………いや、マイケルに作ってあげてよ。僕に武器はまだ早いかなって。」
「ふむ………それもそうだな。木刀があるから、これをくれてやる。これで修業しろ。
では、マイケル。お前になにか武器になるものを作ってやろう。」
「うわ~~~い♪」
………木刀? 刀? うわ! 本当だ、刀の形をしている!
刀の長さがおよそ1m 僕の身長と同じくらいの長さだ。
軽く持とうとしたら、持ちあがらなかった。
「ふんぎ!」
両手で持って足腰に力を入れつつ、プルプルと木刀を持ち上げる。
ルスカにも持ってもらったけど、やはり結構重そうだ。重心がブレブレのふらふらだ。
5歳児体系では厳しかったね。
これは身長が150cmくらいの人たちが持ってしかるべきものなんじゃないかな
「よし、マイケル。お前はどんな獲物が欲しいのだ?」
「えっとね、おおきいけんでまものとたたかいたい!」
「じゃあ大剣だな。竜形態に戻れるよな。戻ってくれ。」
「うん!」
僕がルスカと木刀の持ち方ついてあれこれ考察していると、マイケルが黒い光を放ちながら竜形態に変身した。
『ぎゅあ~~~~♪』(これでいい?)
結構大きい。もうすぐ高さ80cmを超えると思う。
体長だけでいったら1m40cmくらいかな。マイケルもずいぶん大きくなったなぁ
ゼニスや生まれ変わる前のミミロに比べたらまだまだ小さいけど。
「よっと。」
ジンは肩からマイケルを前に抱き上げるようにして持つと
―――バリバリバリ
『ギャ――――――――!!!』(ギャ―――――――――!!)
ジンがおもむろにマイケルの鱗を引っぺがし始めた!
「うわあ―――! マイケル、マイケル―――!」
「まいく―――――!!」
「あわてるな、鱗を剥いでいるだけだ。1週間もあれば元に戻るっての。」
「で、でも、なんで鱗を取る必要があるの?」
「幼竜でも黒竜の鱗だ。無いよりましだろ。
他の族長たちの武器にも、それぞれの鱗や牙、角が混じっているのだ。頑丈だぞ。
それにしても、幼竜の鱗は柔らかくてちょっとしっとりしているな。」
そうなのか。後で僕も触らせてもらおう。
ジンが別に慌てた様子もないし、竜の鱗を剥ぐのも慣れた手つきだった。
………大丈夫だと信じよう
なんか背中から結構な血が出てるけど。
「ほら、今度は口を開けろ。」
『ぎ………ぎゅぅ~~~』(い、いたかった………)
そういってジンはマイケルの口の中に手を突っ込んで―――
――――ブチッ!
『ギャオ――――!!』(いぎゃあああああああああ!!)
…………牙を引っこ抜いた
暴れるマイケルを片手で軽くあやす。
鱗を引っぺがされて、牙を引っこ抜かれて。
可哀想だ。
あ、口からも血が出てる。
「………ふむ。鱗も牙も小さすぎて使い物にならないかもな。あ、もう人型に変身していいぞ。」
『ぎ………ぎぃぃぃぃ…………』(おれ、なんのためにこんないたいおもいをしたんだろう)
「牙も鱗も1週間あれば元に戻るだろう。前より丈夫なもんが生えるさ」
………本当にかわいそうだ
人型に変身したマイケルは、口元と背中を手で押さえていた。
牙と鱗の場所だ。すぐにぬれタオルを押し当てて応急処置をしつつ、
「ルー、おねがい」
「わかったの!」
ルスカの光魔法で治療してもらった。
「よし、しばらく待ってくれれば、マイケルに最高の武器を作ってやろう。」
「ほんとう!?」
「ま、いろいろ仕事も立て込んでるから、かなり後回しになるのだがな。」
「うわーい! やったー!」
痛い思いをしたというのに、マイケルはジンにべったりだった。
すぐにかんしゃくを起こして嫌いにならないような子でよかった。
☆
それからしばらくジンが黄竜族長の棍棒の修理をしているところを見学し、
キラとルスカが船を漕ぎ始めた頃。
「ジン。なんだかルスカとキラが眠そうだから、僕たちはゼニスの所に戻るよ。」
「おう。ま、ガキに鍛冶の魅力がわかるとはおもっちゃいねえさ。ゼニスたちはおそらく客間にいる。場所がわからなかったらそのへんに居る戦士長に聞け。」
「うん。わかった。ルー、キラ。いくよ………って」
「にゅぅ………」
「くぅ………」
すでに寝てた。
「しかたないか。糸魔法・捕縛【おんぶ紐】」
しょうがないのでお兄ちゃんがルスカをおんぶする。
力の抜けた子供は重い。おんぶ紐がなかったら僕はルスカを落っことしてしまう可能性が120%だ。
オーバーキルだ。
転ぶ回数も2,3回程度では済まないだろう。
キラの場合は僕の筋力の関係で運ぶことができない。
というわけで、闇魔法先生にお願いします
ふわりとキラの身体が宙に浮く。
見た目ではお姫様抱っこされているような感じだ。
抱っこする王子様は透明人間だけどね。
「ほう、それが闇魔法か。初めて見たが、便利そうだな。」
「うん。まさに痒いところに手が届く感じだよ。この闇魔法と糸魔法はとくに重宝しているんだ。」
「糸って、そのロープか?」
ジンは僕の背中を指差す。ルスカを僕に引っ付けるように固定している糸魔法だ。
実体化してあるからジンの眼にも見えるし、今は極太のロープ状にしているから頑丈だよ。
「伸縮自在。細太自由。実体化や非実体化可能。ローコスト。糸魔法は万能だよ。今のところはCランクのバッファローの首を落とす程度の強度はあるよ。」
僕は現在わかっている糸魔法の効果も教えてみた。
念話とか。粘着性を付加できるとか。視覚情報を組み込めるとか。自由自在に動かせるとか。
「糸は切り離しても大丈夫なのか?」
「………ううん。僕の魔法でできているから、僕から離れたら数秒で魔素になって溶けちゃうよ」
「そうか………。残念だ。」
そう言って、ジンは蛇剣の残骸を見つめた。
僕の身体から離れても魔素にならないように設定できるかな。
今度やってみよう。
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