受難の魔王 -転生しても忌子だった件-
第43話 ★赤竜族長 ジン
レース中盤。
僕たちは今、プチ運動会をしているんだけど、思いのほかてこずっていた
なににてこずっているかって?
ミミロの妨害だよ! あの子、本当に容赦がない!
僕たち全員が木の上を伝う立体移動をしていたんだけど、あろうことかここら辺の木はほとんどミミロの支配下に置かれているんだ。
ミミロの意思で木々は僕たちに攻撃したり、僕たちが捕まろうとしていた枝を揺らしたり、躱したりする。
ウザい事この上ない
さらに困ったことがもう一つ。
もう木々を伝った立体移動ができなくなったのだ。
なにがいいたいのかというと、『木が歩いてどこかに行ってしまったため、地面を走って赤竜の里まで行かないといけなくなってしまった』ということだ!
なんてこった! この世界の木は歩くのか!
だったら地面を走ればいいじゃんと思うかもしれない。
ところがどっこい地面にもツタで作った罠が満載だった。
踏めばブービートラップが発動。
逆さ釣りにされてしまう。
しかも、絶妙に見えづらい位置に罠を張るものだから、回避も難しい。
くそっ 最初の頃はターザンしながら結構なスピードで進めたのに。
上手くいかないのはミミロがそれだけ一枚上手だったってことだ。
罠の設置がうますぎる
「うー!」
「じゃまなのです!」
「どくのー!」
「うわわ、こわいなぁもう」
さらに、紫の竜魔法による【洗脳】でミミロの支配下に置かれたオオカミ
『デウルフ』とかいうガウルフの上位互換な感じのオオカミに僕たちは囲まれていた。
まずはルスカが足止めを食らい、僕が土の砲弾系魔法で牽制しようとしたら躱され、そんなこんなでキラとマイケルにも追いつかれてしまった。
デウルフの数は8匹。
一人あたま2匹の相手をしなければならないわけで
「はっ! やあ!」
まずはマイケル。
爆発的な脚力でデウルフに距離を詰め、左ひじを鼻っ柱に喰らわす。
流れるような動作で握り締めた右拳のハンマーをデウルフの脳天に叩きつけ、絶命させた。
マイケルはパワーがやばい。
腕力はめちゃくちゃ強い。
「えい! はいです!」
次にキラは、砂を掴んでから正確にデウルフの眼をつぶし、加速する。
キラが光にでもなったのかと思うほど、一瞬で場を移動し、キラが通り過ぎた後にはデウルフの首がねじれていた。
キラはスピードが速い。
糸による空間把握が無ければ追うことはできないだろう。
キラに不意打ちを喰らえば、僕はきっと一瞬で死ぬ。
僕には反射神経と言うものがほとんど無いらしい。
見て理解してから行動しようとするから、脊髄反射しないんだよ。
「にゃー!」
ルスカに至っては、《ブースト》を込めた一撃をデウルフに叩き込み、背後の2匹をまとめて吹き飛ばした。
おかしいな。
デウルフって確か、Dランクの上位の害獣だったとおもうんだけど。
初心者から抜け出した程度の冒険者がやっとこすっとこ討伐できるオオカミだよ?
この子たち、どこかおかしいよ。
僕? 僕は、あの子たちみたいに接近戦したら死んじゃう。
「糸魔法・処刑【執行】!」
というわけで、残った3体を僕が首ちょんぱ。
死体回収はしない、移動しながら火魔法で焼却処分。
これでゾンビ化することもないろう。
「ふわ~~~~♪」
「にーさま、すごいのです!」
「りおはつよいの!」
「………だから、言ってるでしょ? 僕は強くなんかない。みんなの方が強いんだから、僕程度、超えてくれないと困るよ」
これは謙遜でもなんでもない。
僕は身体能力が極端に低い。
だからこそ、僕はちょっとバタ足すれば簡単に踏み越えられる小さな壁、いや、石ころだ。
「石ころ程度に負けてどうする! 僕は石ころだ! 足元の石ころなんか気にするな、もっと前を見ろ、僕よりすごい人なんて世の中にはいくらでもいるんだよ! ほら、ゼニスとか!」
「う、うん! おれ、がんばる! にーちゃんをこえる!」
「に、にーさまはつよいのです! にーさまにまけても、まいくにはまけないのです!」
「りおはすごいの! りおがじしんをもってほしいの!」
みんながやる気になってくれて何よりだ。
みんな、僕を過大評価しているけど、僕はチキンなだけだよ。
筋力なんか、誰よりも低いよ。
ミミロだってなんだかんだでドラゴンだから筋力は高いし。
それに、ルスカ。自信をもってバッファローと戦った結果がアレなんだよ。
謙虚に行きましょう。接近、こわい。
でもこれで確認できた。
Dランク程度なら問題にならない。
だけど、油断はしない。
僕は弱いから油断は死に繋がっちゃう。
Cランク以上はゼニスが一度先行して排除しているため存在しない。
―――はずなんだけど
『きゃああああああああああああああああ!!』
フィアルの悲鳴が僕の糸から伝わってきた
『ど、どうしたの? フィアル!』
『あ………あ………あの………紅色大熊と、一角獣が、いるんだけど………』
ブラッディビッグベアと一角獣………ユニコーンか?
どっちもAランクじゃないか!
一角獣の方は魔物でブラッディビッグベアは害獣だったと思う。
違いは魔物の体内に魔石があるかどうか、らしいけど、くわしいことはわかんない。
『ゼニス、撃ち漏らし?』
『索敵の範囲外だった。すまない、私のミスだ。』
ゼニスもタマにはミスをするのか。
『すぐそちらに向かう。刺激しないように待っていろ。』
ゼニスが念話でそういうと、僕たちの近くからゼニスの気配が消えた。
僕たちのペースに合わせているだけで、ゼニスはもっと早く動くことができるということだ。
今でも僕は全力で走っているはずなのに、ゼニスに全く追いつけない。
程なくして、ゼニスは2匹のAランクの魔物たちを打ち取った。
「ね、みんな。まずはあんな風になろう。僕もゼニスを目標にするからさ。」
僕と並走する3人に語りかけると、3人ともコクコクと首を縦に振った。
☆
赤竜の里に着いた。
赤竜の里は東大陸の西側に位置するケリー火山にあるんだよ。
僕たちは中央大陸西部のアルノー山脈から東大陸までやってきた。
おそらく距離にして地球半周分くらいかな。
長旅だった。
でもほとんどゼニスの背中につかまっておくだけの簡単なお仕事だったよ。
それはそうと、赤竜は火山地帯の竜だ。
紫竜と違って全体的に4足歩行で犬みたいなフォルム。
白黒竜の時もそうだけど、色竜は色によって形がバラバラだ。
逆に言えば、色ごとに形が統一されている。
細部は違うけど、大まかなところはほとんど同じだね。
『グルルル』(ジンに私が来たと伝えろ)
『ガアアウ!』(了解しました!)
ちなみに、ゼニスが竜形態で僕たちの側に居るから赤竜が僕たちを襲ってくることは無いよ。
なんてったってゼニスは族長だからね。
竜の中じゃ顔が知れ渡っているみたいだ。
「うー………にーさま、はやいのです」
「くやしいのー!」
「ぐす………えぐ………」
あ、レースの順位?
実は僕が1位だよ!
本命のルスカはゴール直前にミミロの仕掛けた落とし穴に嵌った。
そこで僕がゴールし、抜け出たルスカが2位。
スピードで抜きんでたキラが3位
残念ながらマイケルは4位という結果だ。
落とし穴なんかどうやって掘ったの、と聞いたらデウルフに掘らせたようだ。
紫の竜魔法、侮れない。
「おつかれさまでした。実は落とし穴を掘っていたらこんなものが出てきました。優勝賞品ってことでリオ殿にこのなんかの根っこを差し上げます!」
そう言ってミミロは僕に木の根っこ放った
うわ、結構重い
「これは? 」
「これはですね、なにかの木の根っこであります。」
いや、見ればわかるってば。何の木の根っこなのさ。
「族長殿が取っておけと言ってました。」
「なんかの木………ねぇ。珍しいモノなのかな?」
「そうですそうです。なんでもこの木はもともと火山地帯でなくては育たない木らしいのであります。」
「なんでそんなものの根っこを?」
貴重なモノなのかな。
「それはケリーの木の根っこだね」
僕が首を傾げていると、我らが先生、フィアル先生が補足してくれた
ケリー火山だから、ケリーの木なんだね。
「ケリーの木の実は町の薬屋にも置いてあるよ。木の実や葉っぱ単体でも効果はあるんだけど、いろんな薬品と混ぜることによって回復薬になるんだよ。」
なるほど。
アルノー山脈のアルノーがMP回復薬の元だとしたら
ケリー火山のケリーはHP回復になるってことだね。
わかりやすい
「じゃあ、根っこは?」
「根っこはね、腕が切り落とされても腕さえあればくっつくほどの回復薬の原料になるんだよ。お値段は相当張るけどね。」
「わお………」
「あと、これは王都に伝わる噂なんだけど、ケリーの根っこは蘇生薬の材料でもあるらしいの」
「蘇生!? そんなことまでできるの!? 」
「あくまで噂だけどね………」
でも、木の実よりも根っこの方が効果が高いのか。
だったらケリーの木は刈りつくされちゃうんじゃないかな。 そう聞いたら
「うん。実はケリーの木はほとんど残っていないの。冒険者がケリーの木の根を採取するからね。東大陸はほとんどが火山地帯なんだけど、ケリー火山以外のケリーの木はもうほとんど残っていないみたいなの。だから今、世間は回復薬不足だね。」
「ふーん、じゃあケリー火山のケリーが残っている理由は?」
それだったらケリー火山のケリーも冒険者に刈りつくされそうな気がするんだけど。
そう思って質問すると
『オレが管理しているからだ。』
あろうことか真上から答えが返ってきた。
なんだなんだ?
なんで上から?
いきなりあたりが暗くなって、バサバサと翼をはためかす音が聞こえる。
ズズン、と巨大な物体が僕の近くに着地すると、そこには一匹の赤竜がいた。
よく僕の声が聞こえたね。
そっか。ドラゴンは人間より五感が鋭いのか。
鋭くないと竜言語の些細な単語の違いを聞き取れないだろうから当然ともいえるか。
ちなみにそんなんだから僕は適当にしか翻訳できないんだと思う。
本気で学ぼうとは思っていないし、不自由はないからね。
本気で聞こうと思ったら竜言語オンリーなら僕もなんとか聞き取ることはできるよ
五感が鋭いわけではなくても、慣れとあとは雰囲気でなんとなく察することができるんだよ。
思考がわきに逸れた。
『ケリー火山は赤竜が住みついているからな。冒険者も下手に近づくことは無い。
木の実を取る程度であるならばオレも見逃すのだが、さすがに木を切り倒したり根っこを持って行こうとする輩は、オレが排除しているぞ。』
なるほど。ケリー火山のケリーは冒険者にとっても不可侵の物ってことか。
それなら世の中からケリーの木が無くなる、なんてことだけは避けられるわけだ。
「なるほど。勉強になったよ。ありがとう! ジンさん!」
『なに、気にするな。《魔王の子》』
僕のあいさつに否定しなかったということは、やっぱりこの竜が赤竜の族長のジンってことか。
人間語を操っている時点でそうなんじゃないかと思っていたよ。
湾曲した角がいい味をだしている。
ジンの竜形態、めちゃくちゃ渋くてかっこいい
「ふわぁ~~~~~~♪」
僕がそんなことを考えていたからか、マイケルが赤竜を見て興奮していた。
『む………? お前が黒竜か………生まれたばかりだから当然だが、幼いな。』
「ひう! ………かっちょいい………!」
巨体から見下ろされたマイケルは、一瞬だけビビッて硬直するが
そんな竜形態の赤竜族長をみて、マイケルが尊敬の眼差しを送った
どうやらマイケルはジンの事が気に入ったらしい。
たしかにちょっと怖いかもしれないけど、かなりかっこいい。
力強いフォルムといい、溢れる知性や野性といい、どこを見てもパーフェクト。
メチャクチャかっこいい
色竜の虹色の中で最強種なだけはある。
マイケルはすぐにキリッと顔をもどして僕の顔をまっすぐ見つめると
一大決心したかのように腕にぐっと力を込めて言い放った。
「にーちゃん! おれ、おおきくなったらせきりゅうになる!」
「それムリだよ」
ションボリするマイケルの顔が、結構かわいかったとだけ記しておこう。
僕たちは今、プチ運動会をしているんだけど、思いのほかてこずっていた
なににてこずっているかって?
ミミロの妨害だよ! あの子、本当に容赦がない!
僕たち全員が木の上を伝う立体移動をしていたんだけど、あろうことかここら辺の木はほとんどミミロの支配下に置かれているんだ。
ミミロの意思で木々は僕たちに攻撃したり、僕たちが捕まろうとしていた枝を揺らしたり、躱したりする。
ウザい事この上ない
さらに困ったことがもう一つ。
もう木々を伝った立体移動ができなくなったのだ。
なにがいいたいのかというと、『木が歩いてどこかに行ってしまったため、地面を走って赤竜の里まで行かないといけなくなってしまった』ということだ!
なんてこった! この世界の木は歩くのか!
だったら地面を走ればいいじゃんと思うかもしれない。
ところがどっこい地面にもツタで作った罠が満載だった。
踏めばブービートラップが発動。
逆さ釣りにされてしまう。
しかも、絶妙に見えづらい位置に罠を張るものだから、回避も難しい。
くそっ 最初の頃はターザンしながら結構なスピードで進めたのに。
上手くいかないのはミミロがそれだけ一枚上手だったってことだ。
罠の設置がうますぎる
「うー!」
「じゃまなのです!」
「どくのー!」
「うわわ、こわいなぁもう」
さらに、紫の竜魔法による【洗脳】でミミロの支配下に置かれたオオカミ
『デウルフ』とかいうガウルフの上位互換な感じのオオカミに僕たちは囲まれていた。
まずはルスカが足止めを食らい、僕が土の砲弾系魔法で牽制しようとしたら躱され、そんなこんなでキラとマイケルにも追いつかれてしまった。
デウルフの数は8匹。
一人あたま2匹の相手をしなければならないわけで
「はっ! やあ!」
まずはマイケル。
爆発的な脚力でデウルフに距離を詰め、左ひじを鼻っ柱に喰らわす。
流れるような動作で握り締めた右拳のハンマーをデウルフの脳天に叩きつけ、絶命させた。
マイケルはパワーがやばい。
腕力はめちゃくちゃ強い。
「えい! はいです!」
次にキラは、砂を掴んでから正確にデウルフの眼をつぶし、加速する。
キラが光にでもなったのかと思うほど、一瞬で場を移動し、キラが通り過ぎた後にはデウルフの首がねじれていた。
キラはスピードが速い。
糸による空間把握が無ければ追うことはできないだろう。
キラに不意打ちを喰らえば、僕はきっと一瞬で死ぬ。
僕には反射神経と言うものがほとんど無いらしい。
見て理解してから行動しようとするから、脊髄反射しないんだよ。
「にゃー!」
ルスカに至っては、《ブースト》を込めた一撃をデウルフに叩き込み、背後の2匹をまとめて吹き飛ばした。
おかしいな。
デウルフって確か、Dランクの上位の害獣だったとおもうんだけど。
初心者から抜け出した程度の冒険者がやっとこすっとこ討伐できるオオカミだよ?
この子たち、どこかおかしいよ。
僕? 僕は、あの子たちみたいに接近戦したら死んじゃう。
「糸魔法・処刑【執行】!」
というわけで、残った3体を僕が首ちょんぱ。
死体回収はしない、移動しながら火魔法で焼却処分。
これでゾンビ化することもないろう。
「ふわ~~~~♪」
「にーさま、すごいのです!」
「りおはつよいの!」
「………だから、言ってるでしょ? 僕は強くなんかない。みんなの方が強いんだから、僕程度、超えてくれないと困るよ」
これは謙遜でもなんでもない。
僕は身体能力が極端に低い。
だからこそ、僕はちょっとバタ足すれば簡単に踏み越えられる小さな壁、いや、石ころだ。
「石ころ程度に負けてどうする! 僕は石ころだ! 足元の石ころなんか気にするな、もっと前を見ろ、僕よりすごい人なんて世の中にはいくらでもいるんだよ! ほら、ゼニスとか!」
「う、うん! おれ、がんばる! にーちゃんをこえる!」
「に、にーさまはつよいのです! にーさまにまけても、まいくにはまけないのです!」
「りおはすごいの! りおがじしんをもってほしいの!」
みんながやる気になってくれて何よりだ。
みんな、僕を過大評価しているけど、僕はチキンなだけだよ。
筋力なんか、誰よりも低いよ。
ミミロだってなんだかんだでドラゴンだから筋力は高いし。
それに、ルスカ。自信をもってバッファローと戦った結果がアレなんだよ。
謙虚に行きましょう。接近、こわい。
でもこれで確認できた。
Dランク程度なら問題にならない。
だけど、油断はしない。
僕は弱いから油断は死に繋がっちゃう。
Cランク以上はゼニスが一度先行して排除しているため存在しない。
―――はずなんだけど
『きゃああああああああああああああああ!!』
フィアルの悲鳴が僕の糸から伝わってきた
『ど、どうしたの? フィアル!』
『あ………あ………あの………紅色大熊と、一角獣が、いるんだけど………』
ブラッディビッグベアと一角獣………ユニコーンか?
どっちもAランクじゃないか!
一角獣の方は魔物でブラッディビッグベアは害獣だったと思う。
違いは魔物の体内に魔石があるかどうか、らしいけど、くわしいことはわかんない。
『ゼニス、撃ち漏らし?』
『索敵の範囲外だった。すまない、私のミスだ。』
ゼニスもタマにはミスをするのか。
『すぐそちらに向かう。刺激しないように待っていろ。』
ゼニスが念話でそういうと、僕たちの近くからゼニスの気配が消えた。
僕たちのペースに合わせているだけで、ゼニスはもっと早く動くことができるということだ。
今でも僕は全力で走っているはずなのに、ゼニスに全く追いつけない。
程なくして、ゼニスは2匹のAランクの魔物たちを打ち取った。
「ね、みんな。まずはあんな風になろう。僕もゼニスを目標にするからさ。」
僕と並走する3人に語りかけると、3人ともコクコクと首を縦に振った。
☆
赤竜の里に着いた。
赤竜の里は東大陸の西側に位置するケリー火山にあるんだよ。
僕たちは中央大陸西部のアルノー山脈から東大陸までやってきた。
おそらく距離にして地球半周分くらいかな。
長旅だった。
でもほとんどゼニスの背中につかまっておくだけの簡単なお仕事だったよ。
それはそうと、赤竜は火山地帯の竜だ。
紫竜と違って全体的に4足歩行で犬みたいなフォルム。
白黒竜の時もそうだけど、色竜は色によって形がバラバラだ。
逆に言えば、色ごとに形が統一されている。
細部は違うけど、大まかなところはほとんど同じだね。
『グルルル』(ジンに私が来たと伝えろ)
『ガアアウ!』(了解しました!)
ちなみに、ゼニスが竜形態で僕たちの側に居るから赤竜が僕たちを襲ってくることは無いよ。
なんてったってゼニスは族長だからね。
竜の中じゃ顔が知れ渡っているみたいだ。
「うー………にーさま、はやいのです」
「くやしいのー!」
「ぐす………えぐ………」
あ、レースの順位?
実は僕が1位だよ!
本命のルスカはゴール直前にミミロの仕掛けた落とし穴に嵌った。
そこで僕がゴールし、抜け出たルスカが2位。
スピードで抜きんでたキラが3位
残念ながらマイケルは4位という結果だ。
落とし穴なんかどうやって掘ったの、と聞いたらデウルフに掘らせたようだ。
紫の竜魔法、侮れない。
「おつかれさまでした。実は落とし穴を掘っていたらこんなものが出てきました。優勝賞品ってことでリオ殿にこのなんかの根っこを差し上げます!」
そう言ってミミロは僕に木の根っこ放った
うわ、結構重い
「これは? 」
「これはですね、なにかの木の根っこであります。」
いや、見ればわかるってば。何の木の根っこなのさ。
「族長殿が取っておけと言ってました。」
「なんかの木………ねぇ。珍しいモノなのかな?」
「そうですそうです。なんでもこの木はもともと火山地帯でなくては育たない木らしいのであります。」
「なんでそんなものの根っこを?」
貴重なモノなのかな。
「それはケリーの木の根っこだね」
僕が首を傾げていると、我らが先生、フィアル先生が補足してくれた
ケリー火山だから、ケリーの木なんだね。
「ケリーの木の実は町の薬屋にも置いてあるよ。木の実や葉っぱ単体でも効果はあるんだけど、いろんな薬品と混ぜることによって回復薬になるんだよ。」
なるほど。
アルノー山脈のアルノーがMP回復薬の元だとしたら
ケリー火山のケリーはHP回復になるってことだね。
わかりやすい
「じゃあ、根っこは?」
「根っこはね、腕が切り落とされても腕さえあればくっつくほどの回復薬の原料になるんだよ。お値段は相当張るけどね。」
「わお………」
「あと、これは王都に伝わる噂なんだけど、ケリーの根っこは蘇生薬の材料でもあるらしいの」
「蘇生!? そんなことまでできるの!? 」
「あくまで噂だけどね………」
でも、木の実よりも根っこの方が効果が高いのか。
だったらケリーの木は刈りつくされちゃうんじゃないかな。 そう聞いたら
「うん。実はケリーの木はほとんど残っていないの。冒険者がケリーの木の根を採取するからね。東大陸はほとんどが火山地帯なんだけど、ケリー火山以外のケリーの木はもうほとんど残っていないみたいなの。だから今、世間は回復薬不足だね。」
「ふーん、じゃあケリー火山のケリーが残っている理由は?」
それだったらケリー火山のケリーも冒険者に刈りつくされそうな気がするんだけど。
そう思って質問すると
『オレが管理しているからだ。』
あろうことか真上から答えが返ってきた。
なんだなんだ?
なんで上から?
いきなりあたりが暗くなって、バサバサと翼をはためかす音が聞こえる。
ズズン、と巨大な物体が僕の近くに着地すると、そこには一匹の赤竜がいた。
よく僕の声が聞こえたね。
そっか。ドラゴンは人間より五感が鋭いのか。
鋭くないと竜言語の些細な単語の違いを聞き取れないだろうから当然ともいえるか。
ちなみにそんなんだから僕は適当にしか翻訳できないんだと思う。
本気で学ぼうとは思っていないし、不自由はないからね。
本気で聞こうと思ったら竜言語オンリーなら僕もなんとか聞き取ることはできるよ
五感が鋭いわけではなくても、慣れとあとは雰囲気でなんとなく察することができるんだよ。
思考がわきに逸れた。
『ケリー火山は赤竜が住みついているからな。冒険者も下手に近づくことは無い。
木の実を取る程度であるならばオレも見逃すのだが、さすがに木を切り倒したり根っこを持って行こうとする輩は、オレが排除しているぞ。』
なるほど。ケリー火山のケリーは冒険者にとっても不可侵の物ってことか。
それなら世の中からケリーの木が無くなる、なんてことだけは避けられるわけだ。
「なるほど。勉強になったよ。ありがとう! ジンさん!」
『なに、気にするな。《魔王の子》』
僕のあいさつに否定しなかったということは、やっぱりこの竜が赤竜の族長のジンってことか。
人間語を操っている時点でそうなんじゃないかと思っていたよ。
湾曲した角がいい味をだしている。
ジンの竜形態、めちゃくちゃ渋くてかっこいい
「ふわぁ~~~~~~♪」
僕がそんなことを考えていたからか、マイケルが赤竜を見て興奮していた。
『む………? お前が黒竜か………生まれたばかりだから当然だが、幼いな。』
「ひう! ………かっちょいい………!」
巨体から見下ろされたマイケルは、一瞬だけビビッて硬直するが
そんな竜形態の赤竜族長をみて、マイケルが尊敬の眼差しを送った
どうやらマイケルはジンの事が気に入ったらしい。
たしかにちょっと怖いかもしれないけど、かなりかっこいい。
力強いフォルムといい、溢れる知性や野性といい、どこを見てもパーフェクト。
メチャクチャかっこいい
色竜の虹色の中で最強種なだけはある。
マイケルはすぐにキリッと顔をもどして僕の顔をまっすぐ見つめると
一大決心したかのように腕にぐっと力を込めて言い放った。
「にーちゃん! おれ、おおきくなったらせきりゅうになる!」
「それムリだよ」
ションボリするマイケルの顔が、結構かわいかったとだけ記しておこう。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
141
-
-
755
-
-
29
-
-
37
-
-
381
-
-
111
-
-
1168
-
-
159
-
-
1512
コメント