受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第35話 ★リオル vs 盗賊ダズ

 キラの擬人化が解けて牢屋内がパニックになったけど、おかげで僕はローラを信じることができた。
 今までの事を許すかと聞かれれば、それは許さない。
 聖人君子じゃあるまいし、僕はそんな寛大な心は持ち合わせていないよ。


 チャンスは一度だけだ。
 この母のぬくもりが嘘であったならば、ローラは成長なんかしないそれまでの女ってことだよ。


 もしかしたらローラは、再び同じ過ちを繰り返すかもしれない。


 だけど、僕の中で一番大きな懸念だった『今再び嫌われてしまう』ということは無くなり、肩の荷が下りた。


 しばらく僕を抱きしめてくれたローラだけど、無情にも時は過ぎていく。


 というか、牢屋内がパニック状態だから、10秒くらいで離してもらった。




「おい!! コレは一体何の騒ぎだ!! ………って、なんだこいつ!?」


『きゅー!! ぴ―――!(やー! くさいおじちゃん!! あっちいってー!)』






 うわわわわ!! 騒ぎを聞きつけて団長がやって来た!!






「ちっ! 魔物か………何が起こってやがる! おい! 全員を牢から出せ!!」


 団長が仲間に素早く指示を出した。
 牢の中に魔物と思わしき生き物が居るのなら、商品を傷付けさせるわけにはいかない。
 牢の中の女性たちを出してから竜型に戻ってしまったキラを拘束するなりしたほうがいいと考えたようだ




「………ああ? 神子が居なくなってるじゃねえか、おい魔女! 神子はどこに行きやがった!!」


 部下が牢のカギを取りに行っている間に、団長はキラの姿が居なくなっていることに気付いたようだ


 ………最悪だ。


 ローラは団長からぷいっと顔を反らす。
 団長は苛立たしそうに舌打ちをすると、今度は牢の外から僕を見下ろした。
 僕が本物の魔王の子だって話は届いているはずだ。
 あからさまに僕のバンダナを見ている。




「そういや、お前が本物の魔王の子なんだってなぁ。
 ん? ………そういや、たしか魔王の子と神子は双子だったか………。
 じゃあ、年齢差があるってことは、あのガキは神子じゃねェってことか………。
 ガキが消えて魔物が増えたとなると………この魔物………この形状は白竜の子供か? 
 白竜は人間に化けることができるらしいしな。」


「なっ!!?」
『きゅっ!(そうだよー! なんでわかったのー?)』




 竜言語で認めないでよ、キラ!


 幼さゆえに状況を理解できていないんだな。キラはアホの子か。


 白竜が人に化けられるという話は『勇者物語』にも出てきて、有名な話だ。
 目の前に本物の魔王の子がいるとなると、眉唾物の物語でも信憑性が増すというもの。


 この団長は小さな状況証拠だけで正解にいち早くたどり着きやがった!


 ああもう!! タイミングが最悪だ! コレからゼニスが急襲を掛けようってときに盗賊と関係のない人たちまで巻き込まれかねない!
 せめてゼニスが全部片づけてから牢屋出たかったのに!




「くは、クハハハハハハ!! 笑いが止まらねェ!
 マジでコレが白竜かよ! ここまで面白れぇことは初めてだ!
 おいダズ! テメェとんでもねェお手柄じゃねぇか!」


「まさか、こいつが本物だとは思わなかった………じゃあ、あの時にいたバンダナと黒髪は………そっちが神子と黒竜か!」


 馬鹿笑いをし始めた団長。
 そして、その少ない情報で真相に気付いたようすの盗賊ダズ


「なら早い話、明日か今夜にでももう一度村まで攫いに行きゃあいい話だ。みすみす逃すかよぉ」
「だが団長。かなりの実力者の冒険者が居るぞ。いいのか?」
「いーんだよ。替えくらいいくらでもいる。」




 ダズはキラとマイケル、僕とルスカが同時に居たことを知っている。


 これはマズイ流れだ! 情報は断たないといけない!!


 ええい! こうなったらやるしかない!!




(ゼニス! 早く来て! 今なら牢の前に盗賊が集まってるからチャンスかもしれない!!)




『うむ、洞窟内が騒がしいからそうみたいだな。とにかくリオルも落ち着け。私も入口の盗賊を片付けてすぐにそちらに向かう!!』




 おっけー! じゃあこっちはこっちで時間稼ぎだ!
 そこで笑ってろ! 笑っていられるのは今の内だ!




「《暗幕ブラックカーテン》!!」




 コレは光を通さない空間を生み出す魔法だ。
 僕を中心に世界が『黒』に塗りつぶされる。




 自分の手すらまともに見えない視界阻害魔法だ!
 これで牢の鍵穴を見つけられるもんなら見つけてみろ!




「ちっ! あのバンダナのガキが本物の魔王の子だってのは本当みたいだな!
 そんなことならバンダナを剥いで確認しておくんだったぜ。
 おい! 早く鍵を開けろ! んでテメェは宝物庫で脱出の準備をしろ!」


「はいっ!」
「わ、わかりました!!」


「団長! そりゃあ悪手だ! 甘く見るな! 牢を開けちゃいけねェ!!」
「うるっせぇ! 俺の指示だ! こんなおいしいネタを手に入れたんだ、利用しない手はねえ!」


 一人の盗賊がこの場を離脱し、鍵を取りに行っていた盗賊に素早く指示をだした。


 団長はダズの進言を無視し、独断で鍵を開けさせた。










 ―――がちゃり、と牢の鍵が開いた


 視界は真っ暗なのに鍵が開いたのだ。


 それはなぜか。


 鍵が南京錠だったからだ。


 南京錠だったら、手さぐりで錠の場所さえわかれば鍵は開くよね。




 って僕のアホ―――!! そんなんじゃ時間稼ぎにもなりゃしないよ!


 南京錠なら真っ暗闇でも鍵穴を見つけるのなんか簡単だよ!




「女どもは死にたくなければ早く出ろ! 白竜と魔王の子だけを閉じ込めるんだ!!」


「「は、はいい!!」」
「何も見えないぃ………」
「魔王の子の魔法ね! なんて禍々しいの!」




 牢の女たちは盗賊たちの言うことに逆らえない。


 最悪だ。誰も僕の事を信用していなかった。




 僕はただ嫌われたくないだけなのに………




 魔王の子ってだけで………
 くそっ!




 僕はローラから距離を取ってから土魔法で“鉄パイプ”的なモノを作り出す。


 なぜ刃物ではなく鉄パイプなのか。


 ここには僕に怯える女性たちが居る。
 できるだけ人間に害する人物ではないと印象付けたいんだ。


 そのためには悪人であっても人前で殺すのはマズイと思ったんだ。


 僕は今更人を殺すことに躊躇なんかしない。
 昔、紫竜の里にタマゴ泥棒に来たフィアル。それにルパンっていう冒険者がいたけど、あの時とは状況は違う。


 あの時はミミロや戦士長のテディに死体を食わせて証拠を残らないようにさせた。


 今回は周りに人がいる。
 僕だったら目の前で殺人をする人なんか、簡単に信用なんかできない。
 そんな人が近くに居たら、僕だって怖いよ。


 フィアルだって最初はものすごく取り乱していた。


 もし盗賊だけを殺したとしても、目の前で殺人を犯す人間を信用なんてできないと思う。
 だから、『魔王の子は人を軽々しく人を殺すような悪いヤツではない』と印象付けさせたい。




 さらにいえば、暗闇は僕のテリトリーだ。
 闇の中ならばどこに誰が居てどういう動きをするのかなど、手に取るようにわかる。




 《暗幕ブラックカーテン》内部であればだれにも負ける気がしない!


 だからこその鉄パイプ。
 油断することなどありえない空間での、殺さないための手加減だ!


 何人かの女性が牢の出口に向かって走ろうとする。
 もちろん、僕以外の人たちには目が見えない。
 暗闇に目が慣れることもない。
 僕がすべての光を黒で塗りつぶしているからだ。


 夜目が効いてもすべてが黒に塗りつぶされた世界では意味がない。
 そんな僕のテリトリー内で目が見えずによたよた歩く人たちを闇の重力魔法で拘束するのは簡単だ


「くっ、なに!? おもい!」
「なんで!? 体が、動かな………」
「魔王の子の魔法ね!!」


 誰だ! さっきから僕に怨みを持ってるやつ!
 僕がお前に何をした! あ、拘束したな。
 とりあえず、牢の外に向かって逃げようとする女の人たちを重力の魔法で拘束する


 よし、そして―――






「でやあああああああ!!」


 僕は牢の扉から飛び出し、鉄パイプを振り回して南京錠を開けた盗賊の側頭部を殴った


―――ガンッ!


 あ、当たった!
 でもすごく嫌な感触だ


 いつもは魔法でやってるから、実際に自分で殴るのは初めてだ




「ちっ! いてぇ………」


 4歳児のへっぽこ棒術では盗賊を昏倒させることもできない。




 だけど、それでいい
 僕の目的は牢の中には誰も入れず、牢の中から誰も出さないこと。
 つまり、時間稼ぎだ!




「《落石フォールストーン》」


 僕が殴った衝撃で数歩よろめいた盗賊。
 その足元の地面に丸っこい石ころを出現させる。




「おわっ!」
「なんだぁ!?」
「何事だ!!」




 それを踏んづけ、見事にスッ転んだ盗賊は、盗賊の団長によろめいてぶち当たり、転倒させた。
 その拍子に最初に僕が鉄パイプで殴った盗賊が何かを取り落した。
 あれは………ああ、ダズが盗んだ服が入っている道具袋だ!
 そういやこの盗賊に手渡していたね。


 これはラッキー!


「《土拘束アースバインド!》」


 洞窟内の土を変形させ、盗賊と団長をまとめて固める


 その隣に居て転倒に巻き込まれた盗賊もついでに拘束。


「くそが! どきやがれええええええええええええ!!!」
「うわああああ! 動けねえ!!」
「くそう! なんで俺まで!」


 今は放置する。
 戦闘不能ならいないも同然だ。


 盗賊たちはウザいから後で捕まっているみんなを逃がした後に拷問してからこいつらを殺してやろう。
 この洞窟で僕のストレスはかなり高まってしまった。
 女性牢内での言動しかり。ローラしかり。


 今は捕虜たちからの信頼を集める時だ。
 殺しはしない。
 だけど、捕まってた人を逃がした後なら何をしてもいいよね。


 ま、とりあえず今のところは ゼニスが来るまで、時間を稼がないとね


 ここには10人くらいの盗賊が集まってきている
 そのうち3人を拘束できた


 僕は床に落ちてしまった道具袋を牢屋内に蹴りいれる。
 あの道具袋には服が入っているはずだ。
 あとで捕虜たちに服を着せないといけないから、ちょうどよかった。


 んでもって、僕は体の向きを地面に固められた団長たちに向け、鉄パイプを振り上げると―――




「うりゃああああ!」




―――バキッ! 


「ガハッ!!」




 まずは一発、団長の顔面に《ブースト》込みの鉄パイプをお見舞いする
 顔面の骨が陥没する嫌な音が聞こえた。


 まぁ、信頼を勝ち取るための時間稼ぎといっても、とりあえずはローラを犯した分の一発をお見舞いしなければ気が済まなかった。
 今なら《暗幕ブラックカーテン》の影響で今なら誰も目が見えないしね!




「今のはローラを犯した分だ! 歯を食いしばってね、次は右腕行くよ!」




 再び鉄パイプを振り上げて、今度は団長の腕をへし折ってやろうかと思っていると


「こんのクソガキがああああああああああああああ!!!」




 叫びながら僕に向かって正確に短剣を振る盗賊が一人


 ゼニスの目をかいくぐって僕を攫った盗賊、ダズだ!




 もちろん、集中すれば闇の中では僕はすべての動きがわかる。
 一ミリの動作も。呼吸や心拍数すら。
 油断なんて、するはずがない。


 《暗幕ブラックカーテン》 これは便利な魔法だ。


 ただ、まだこの能力に振り回されている感はあるね。
 僕の身体能力の低さがこの能力を生かしきれていないっぽい。




 ダズが所有する武器は短剣。
 これがバカ盗賊グッヂと同じ長剣だったなら、鉄パイプを鉄板に変えて斜めに構えて受け流すことができただろう。
 もう二度と手首を折りたくないから、同じミスはしないよ。


 だけど、相手は短剣。
 まずはその大振りの一撃を―――


「えいや!」


―――キンッ!




 僕は鉄パイプで剣の腹を叩いて軌道を逸らした
 闇の中ならばすべてが見える。


「なっ―――!」




 こいつ、目が見えなくなったからと《魔力探知》で僕の位置と行動を当てやがった


 やっぱり、この盗賊団の中で一番強いのはダズだ


 でも、《魔力探知》は大雑把な情報しか得られない。


 正確な情報を得られる《暗幕ブラックカーテン》や《糸魔法》の方が優秀だ
 《魔力探知》は所詮は探知。索敵くらいにしか向かない!


 それでここまでやるんだから、たいしたものだよ
 目も見えないはずなのにね。


 剣の軌道を逸らしたはいいけど、短剣の長所は短いリーチでの連撃にある。
 一度の攻撃が失敗したからといって、大きく隙ができるわけではない


「シッ!」
「いぐっ………!」


 僕の身体能力じゃうまくかわすこともできなかった。
 相手がどういう行動を起こすのかがわかっても体が付いて行かない。
 短剣が少しだけ左肩にかすった。


 この程度だったらまだローラやピクシーに蹴られ続けていた日々の方が痛い。
 今回も確かに痛いけど、たいしたダメージにはならない。




 そして、ダズは魔法も使える。


 至近距離と遠距離を使い分ける戦闘職だ。




「ガキが、なめんじゃねェよ! 『――我が身を燃やし、内なる力を解放する』――《身体燃焼エリアブースト!》」


 短く詠唱をしたダズは、身体能力強化の魔法を唱えた
 動きが数段よくなって、4歳児の体力じゃあどうやっても追いつけない


 僕の身長が低いから、短剣では狙いにくい。
 だから、短剣での連撃に蹴りを混ぜ込んできた。


 周りの盗賊はダズが戦っているのはわかるのだろうが余波を受けたくないのか、一定の距離を保ってすこし離れている。


 声でしかわからない状況だ。
 僕も目が見えなかったら、そんなところからすぐに離れる。


 4歳児の体力ではスピードも足りないので、右足に《ブースト》を掛けて離れる。
 あっちが身体能力を強化する魔法なら、こっちは爆発的に身体能力を上げる技能だ。
 さすがにダズもこの技術までは持っていないだろう


 ちなみに、僕は何度も闇魔法をダズに放って動きを阻害しようとしているんだけど、ダズの動きは早くて闇魔法ではとらえきれない。


 大きい魔法は発動までにタイムラグがあるからだ。


 闇魔法は元々、全てにおいて魔力の燃費が悪い。
 発動が数瞬遅れてしまって狙いを定めることができないんだ
 フィアルに教えてもらった《最適化》をしてなお発動にタイムラグが残るんだ。
 闇魔法は便利だけど、扱いづらい。


 糸魔法で拘束するのも考えたけど、糸魔法では誤って切断してしまいそうで怖い。


 牢の女性たちに怯えられないように事態を解決するにはできるだけ人死にをしないように心がけている


 もちろん、自分の身が最優先だけどね。
 とりあえず、今の所の僕の勝利条件はこうだ。


 とにかく死人を出さずにゼニスの到着を待つ。


 これだけだ。
 これだけって………これが難しいんじゃないか!




 とにかく《ブースト》で逃げまくる。
 壁や天井まで走る!




 三次元の移動ができると便利だ。洞窟の中は僕の勝利条件がいっぱいそろっている!


 ダズが身体強化の魔法を使ってから、僕はダズとは向かい合ったりしない。
 《ブースト》の方が便利とはいえ、僕は4歳児だ。
 体格と素の身体能力に絶望的な差がある。


 まともにかちあったら死ぬという自信があった。


 本気出してこのあたり一帯を重力で押しつぶしたら大丈夫なんだろうけど、そんなことしたら牢の中に捕らえられていた女性たちも潰してしまいそうだからできない。


 ゆえに、今はダズから逃げ回る。


「チッ! ちょこまかと動き回りやがって!」
「動き回っとかないと殺されちゃうじゃん! えい!」




「いっでぇ!!」
「ぎゃああああああああああ!!!」
「足が、うわああああああああああああああああ!!!」
「なんだってんだよ!! ちくしょう!!」


「アハハハハハ!!」


 そして通りすがり様にその辺の盗賊のスネを鉄パイプで殴って砕く!


 目が見えるのは僕だけだ。
 撲殺通り魔リオル君の爆誕だ!


 アハハハハ!
 やばい、なんだろう、すごくタノシイや!


「はっ! 調子に乗るなよ!! 《火球ファイアボール!》」




 調子に乗って団長の頭もついでに蹴っ飛ばしてやろうかと思った時、ここぞとばかりに火魔法を使ってきたダズ


 火魔法を使ったところで、この《暗幕ブラックカーテン》の闇は光を喰らう。
 明るくはならない。




 そして、ダズが火魔法を使うことも分かっていたので、僕は即座にバックステップで避ける。


「アハハ! どこを狙ってるんだよー!」
「あ、しまっ―――!」


 すると、後ろにいた拘束された団長たちに火魔法がぶち当たった。


「ぎゃああああああああああ!!」
「あっづ! ダァアアアズ!!! てめぇええええええええええええ!!」
「うぎゃあああああああああああ!!!」






 あーあ。やったのは僕じゃないからねー。
 ………って、団長、顔面潰したのにまだ意識があったんだ。すごいな。


「………おっと、そろそろだね!」




 さらに、僕の闇のテリトリーに侵入してきた気配が3つ。




 ゼニスたちだ。


 僕の時間稼ぎはここまで。
 ゼニスの邪魔をしないように牢まで静かに走って戻った
 牢の扉もしっかりと閉めてしまう。


 これで牢の中は安全地帯だ!




「ぐべっ!?」
「なんだ!?」
「おい、どうし―――がはっ」
「なんだ! 何が起き――」


 次々と倒れる盗賊たち。
 僕とは違ってスマートに、一言も話さずに淡々と盗賊たちを気絶させてゆく。


 あれ? どちらかというと棒を持った人影よりも小さな影がちょこまかと動き回って盗賊たちを気絶させてるような気がするぞ?
 なんでだ?




「リオル、無事か!」
「りおー! どこなのー! えい!」
「あわわわ! ゼニスさん、ルスカちゃん! あんまり先に行かないでぇ!」


 盗賊たちをなぎ倒しながらゼニスがハルバードを振るう。
 さすがだ。
 僕の《暗幕ブラックカーテン》のテリトリーではゼニスも目が見えないはずなのに。


 あれ? よく見たらゼニスの眼が淡く光っていた
 僕の魔法は光を喰らうはずなのに………


 もしやルスカがゼニスに暗視の魔法をかけたな?
 ナイスだよ、ルスカ!




「チィ! 新手か! その声はファンタの町にいた冒険者だな! テメェら戦うな! テメェらじゃ絶対に勝てねェから宝物庫に急げ!! 団長たちは置いていく! 自身の身を守れ!」


「ムリです!! 真っ暗で何も見えません!!」
「足がぁあああ!! ぐぅううう!!」




「クソが! 遅い奴は置いていく!! とにかくさっさと走れ!!」




 ダズが僕を放っておいて洞窟内部に向かって走りだした
 まぁ、牢屋の中に逃げ込んだ時点でダズには僕を追うことはできないだろう。


 牢の扉は僕が土魔法で変形させたから開くことは不可能だよ!




「逃がすわけないでしょ! 」




   僕は≪炎壁フレイムウォール≫を発動させる
 まぁ、牢の中からだって魔法を放つことはできるわけで。
 僕は逃走を計るダズの前方に分厚い炎の壁を作り出した。






「熱っ! ちぃ! 行動阻害か………汝炎を纏いて己の道を開く《インヴァリディションフレイム!》 」




 この魔法は使用者が身体の周囲に炎のを纏わせ、炎に対する耐性を高める魔法だ。
 くそっ! 土魔法で実体のある壁を作った方がよかったのに!
 余計なことしてしまった!


 僕が出現させた火の壁を走って通り抜けたダズ。多少のやけどを負ったようだけど、便利な魔法だな
 特定の魔法に対して絶大な効果のある魔法だね。こんど覚えよう。


 でもなんで洞窟の内部なんかに逃げたんだ!?
 内部はどうせ行き止まりだろう?


「ぎゃあああ! あちいいい!!」


「なんだこれ、火!?」


 ダズ以外の盗賊は炎に行く手を阻まれた
 火があるのに真っ暗という矛盾。


 火の光は僕が黒で塗りつぶしているから。気づかずに自ら火の中に飛び込んでしまっているんだ。
 うぷぷ。バカだね!




「おら!」
「うぎゃ!」


「にゃー!」
「ふげ!!」


 バタバタと人が倒れる音が聞こえる。


 しばらくすると、近くにいた盗賊たちの声は聞こえなくなっていた。


 すべて、ゼニスたちが倒してくれたんだろう
 僕の魔法のせいで視界は真っ暗なのに、よくやるよ。
 ルスカの暗視の魔法のおかげなんだろうけどさ。


 これで、牢屋の側に居た12人の盗賊を無力化できた。


 あとは逃げたダズと、集会所にいた奴らと宝物庫に集まっている連中だな。


 洞窟の中は行き止まりだ。今は放っておいていいだろう。
 なぜ洞窟の奥に逃げて行ったのかはわからないけど、これで盗賊に捕らえられていた人たちを解放することができる


 《暗幕ブラックカーテン》を解いたら、みんなはどんな反応をするのだろうか。


 盗賊たちが倒されてて喜ぶのか。
 それとも僕の魔法に怯えてしまうのか。




 ………不安だ。



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