受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第27話 魔法を使うにあたって。

 朝方、町に着いた。『ファンタ』という名前の小さな町らしい。
 ああ、炭酸飲料を飲みたい。


 町に入る前に、自分の頭にきちんとバンダナを巻いてあるのを確認して、門をくぐる。


 僕の髪は真っ黒。


 この世界の人々にとって黒い髪とは悪魔の象徴だから、隠しておかないといけない。


 町に入るには簡単な身分証明が必要らしいけど、ゼニスとフィアルは冒険者の証明書ライセンスを持っているため、簡単に入ることができた。
 あと、15歳以下だったら特に何かを言われるでもなく、町に入ることを許されるみたいだ。
 だから僕とルスカは問題なく町に入ることができた。


 ちなみに、黒竜マイケル白竜キラ紫紺竜ミミロは、フィアル先生のバッグに詰め込んである。


 こらこら、宿に着くまで動いちゃだめだよ。




 ちなみにだけど、町に着く40km前くらいから歩きはじめていた。
 夜明け前からだ。疲れた。


 もちろん、ゼニスが昼間にドラゴン形態で町の近くに行くと、人間が騒ぎ出してしまうから。




「む………なにやら陰気くさいな。」


「そうですね………。町全体の空気が重いです。」


 ゼニスのセリフにフィアル先生が同調する


 僕も同じことを考えていた。
 空気が重い。


 雰囲気が暗い。


「ああ。最近、この付近で盗賊がアジトを作っているみたいでな。
 商人が襲われたり、女や子供が攫われたりしているんだ。
 この町の連中も被害に受けたヤツが居る。あんたら冒険者みたいだが、大丈夫だったか?」


 それを聞いていた門番の兵士さんが、僕たちに情報を教えてくれた
 なるほど、だからこんなに雰囲気が悪いのか


「うむ。盗賊団らしきものたちに襲われたな。馬車で2日くらいのところだろうか。」


「あんたらも大変だったみたいだな。この町は今物資不足で人手不足。何のもてなしもできないだろうが、ゆっくりしていってくれ。」


「ああ。そうさせてもらおう。」


 門番の人に宿屋の場所を聞いてから、門番に手を振って分かれる。


 ゼニスの後をついて、まずは宿の予約をする。
 『しかなべ亭』とかいう宿屋だ。おひとり様一泊3,500Wウィルだ。子供は2,000W


 朝晩のご飯が付いてこの値段で、体を拭くためのお湯とタオルは別料金となるっぽい。




 ゼニスは大銀貨1枚10,000W銀貨1枚1,000Wをカウンターへ置いて、大部屋の鍵を受け取った。


 宿屋って、このくらいが相場なのだろうか。
 そうだとしたら、かなり安いな。


 日本だと一泊が安くても5,000円くらいでしょ。
 旅行とかしたことないけど、昔雑誌を立ち読みしていたときに、旅館が1万円くらいだったから、泊まるだけだったらそのくらいだと思う。


 おそらく、だけど1W≒1円 こんな感じだと思う。
 何かが少し変動するだろうけど、だいたい同じかな。


 部屋に着くとゼニスは少し休むと言ったので、黒竜マイケル白竜キラをゼニスに任せ、フィアル先生を連れて町を見て回ることにした






「りお! あのこたちがあそんでるのはなに?」






 ルスカが指を指すのは、広場で子供たちがボールを蹴って遊んでいる姿だ。
 この世界にもサッカーはあるのか。


「あれは、サッカーだよ。手を使わないで、足だけでボールを相手のゴールに入れる遊びだよ。」


 僕はルスカの手を引きながらルスカに教えてあげる。


「リオル、よく知ってるね。実はこの遊びはね、大人もすることがあるし、正式な大会もあるんだよ!」


 フィアルが僕の説明に補足説明を入れる。


「引退した冒険者とかがメインなんだけど、全員《ブースト》を使った大迫力の人気スポーツだよ!」


「………それはすごそうだ。超次元サッカーができるんだね、この世界は………」




 僕は期待のこもったため息をつく。他にはどんなスポーツがあるのか聞いてみると、フィアルがよく行く王都には野球もあるし、ドッジボールもあるようだ
 玉をついてリングにボールを入れるスポーツはあるのかと聞いたら、それは無いらしい。


 ちょっと残念。


 バスケ、やってみたかった。
 前世だと敵からも味方からもボールをぶつけられて、痛いだけだったもん。
 今の僕の体力なら、ちょっとしたヒーローにはなれるかもしれないな。






「ん? あれは………」


 そんな適当な雑談をしながら道を歩いていると、どこかで見たことがあるような看板が目に入ってきた


 看板の名前は『魔法屋クロムル』


 魔法屋か………。たしか、1歳の時に属性の判定をしたんだっけ。


 そこで僕に闇属性があることが判明して、魔法屋のババアに害悪呼ばわりされて、母親ローラにもいじめられるようになったんだった。


 あの時に比べると、本当に有意義な時間を過ごしている。
 紫竜があの村を滅ぼしてくれて、本当によかった。


 そう言えば、あの時は属性判定だけして帰ったけど、魔法屋には結局何があるのかわからなかったんだっけ。




「フィアル。魔法屋って何をするところなの?」




 疑問に思ったら聞く。これ大事。


「ん? えっとね、魔導書を売っていたり属性判定をしたりする場所よ。魔導具もここに売っているわ。特別な免許を持つ人しか販売することはできないけどね。」


「魔導具ってなに? 魔力付加具マジックアイテムとなにが違うの?」


 前々から疑問に思っていたことを聞いてみると、だいたい予想通りの答えが返ってきた。


 魔導具ってのは、魔石とかを使ってたり道具に魔方陣を入れて特定の効果を現すものらしい。


 で、魔力付加具マジックアイテムってのは主に迷宮に落ちているらしい。
 迷宮の《魔素溜り》とかいう濃い魔素を含んだ空気が、冒険者たちの落とした剣や防具などに特殊な効果を及ぼしたもの。


 それに、無属性魔法使いの特殊な能力を物の中に閉じ込め、任意にその能力を解放するというもの。


 無属性魔法というのは、ユニークな魔法が多いらしい。
 僕の糸魔法だってそうだ。


 フィアル先生の『ゲート』だって、そうそう使える人は居ないはずだ。


 そういう特殊な魔法を付加エンチャントすることができる無属性魔法使いが居て、ようやく人の技術で魔力付加具マジックアイテムを作ることができるとのこと。




 黄竜族長ニルドが持っていた巾着は、収納ストレージ系の無属性魔法を付加エンチャントして作ったことになる。


 特定の魔法を物に付加するためには相当な魔力が必要になるだろうし、付加される魔法についても、付加をさせるために相当な魔力を使うのだろう。
 そういうことが容易に想像できる。


 量産には向かないだろう。




 だから、魔力付加具マジックアイテムは便利なものが多く、普通ではちょっと考えられないほど高い値段になってしまう。
 金貨(100,000W)単位でのお買い物だ。
 ご利用は計画的に。




「魔導書っていうのは?」


「あれ? 知らないの? じゃあなんでリオルは魔法を使えるのよ。」


「え? なんとなくだけど?」


「な、なんとなくって………魔王の子ってめちゃくちゃだよ、もう………」


 フィアルが呆れてため息を吐いてから、簡単に説明をしてくれた。


「えっとね。私の属性が風と火だってことは知ってるよね?」


「うん」


「基本の魔法はその属性の魔導書を読んで詠唱を覚えて、初めて使えるようになるんだよ。」


「今まで会った冒険者やフィアルだって詠唱はしていないじゃん。」


「私は魔法に慣れているから詠唱短縮できるの。さすがにルスカちゃんみたいに 《光るの♪》とか言いながら光魔法を使ったり、リオルみたいに無詠唱とはいかないわよ。」


「ああ、また魔王の子だから、かな。」




 よくわかんないけど、魔王の子と神子の特権が出てきたようだ。
 魔導書無しで無為詠唱とか。魔法に関することが異常に覚えが早いとか。
 そういうチート。


 詠唱か………考えたことはなかったな。僕は念じるだけで火を起こせるし………


 確かに、よく思い出せば冒険者たちは、わざわざ魔法名を叫んでいた。


 それは詠唱短縮ってことか。


 聞けば、長い間使って慣れ親しんだ魔法は唱えるのは魔法名だけでよく、極めると無詠唱が可能となるそうだ。


 魔王の子特権で僕は最初から極めることができた、ということか。
 つくづく嫌な身体だ。


 僕もあの『勇者物語』の勇者と同じ、運に当てられただけの存在ってことか。
 ヘドがでる。


 ま、勇者と僕の違いは、そんなチートがあったところで、全てを帳消しにされるほどの社会にとって圧倒的弱者のレッテルだ。
 この、黒い髪のせいで。


 僕に理不尽を行う輩以外に手を下すつもりはないけど、僕に理不尽を行うようなら容赦をするつもりはない。


 ははっ、最強の悪運だよ。泣けてくる。




「うーん。リオルとルスカには私のお下がりの魔導書をあげよう。それで一度、基礎の方からやり直してみようか。今までがすごすぎて応用しか教えてこなかったもんね」


「ありがと、フィアル。」


 といっても、基礎の方も大体わかってるんだけどね。


 フィアルはゼニスをマネするかのように腕を組んで『うむ』と一度だけ頷いた


「とりあえず、この魔法屋に寄ってみよっか。リオル、ずっと気にしてたもんね」


「いいの?」


「もちろん!」




 魔法屋はかなり前から興味はあった。
 なにがあるのか気になっていたからね。


 先生から許可をもらったので、僕とルスカはさっそく魔法屋の暖簾のれんをくぐろうとすると




「おじゃましま―――」










『あああああああああああああああああああああん!!
 ママぁあああああああああああああああああああああああ!! マーマあああああああああああああああああああ!!
 どーこ―――――――――!!! うああああああああああああああああああん!!』








「―――した。」






 赤ん坊の泣き声が聞こえてきたので、くぐる前にUターンした。






「さて、フィアル。帰ろっか。」


「え? ど、どうしたの? なんか子供の泣き声が聞こえるけど………」


「放っておこうよ。首を突っ込むとろくなことにならないよ。」


 そもそも僕たちは観光するためにこの町に来たのではない。
 赤竜の里へ向かうためにゼニスには英気を養ってもらわないといけないんだ。


 余計な道草を食っている時間はないのだっ!






「だれかないてるの!」


「あ、ルスカ! 待って!!」


 と思ったらルスカが好奇心に任せて魔法屋に突撃をかましてしまった!!


 UターンからのUターン。左足を軸にくるくると回る僕。
 コレはピポット。バスケの知識もないのにピポットした。


 ボールでも持っとけばよかった。


 だけどそんなことはどうでもいい。


 大事なのは今、ルスカが魔法屋に入って行ってしまったということだ。




『あああああああああああああああああああああああああん!!
 うえええええええええええええええええええええええええええええん!!!!』




 しかたない。




「フィアル。行こうか。」


「そ、そうだね」


 ルスカを連れ戻して一刻も早く宿に戻るために。



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