受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第22話 ★黄竜族長 ニルド



 ミミロが紫紺竜として生まれ変わった。
 素直にうれしい事なんだけど、それはひとまず置いておく。


 ミミロが産んだタマゴがすべて孵ったので、一応ここで紹介しておくよ。


 ミミロから生まれた順番ではなく、タマゴが孵った順番で


 長女ママ――紫紺竜ミミロ
 次女――白竜はくりゅう
 長男――黒竜こくりゅう


 紫紺竜がミミロであること以外、おおかた予想通りの生まれ方だったね。


「はぇ~ 色竜カラーズドラゴンのタマゴって不思議だらけだねー」


 フィアルがしきりに感心した声を出す。
 魔法に関しても、新しいことを生み出すのが好きな人なんだ。
 フィアルは未知を知ると、研究欲が湧くらしい。


 勉強熱心なこって。


 実はフィアルはマッドなバイオエンジニアだったりして。


 ………ないか。


『ぎぃぎぃ!』 『きゅ~♪』
「きゃ~! まってー♪」
『三人とも待つであります! 転んでしまいますよ!』


 ゼニスの住処でちょこちょこと走り回る4人(一人と三匹?)を目で追う。
 みんな楽しそうだ。


 その辺にあるものに興味津々の白黒竜は当然いろんな場所に走り回り、それを楽しそうに追いかけるルスカも、それを宥めようとするミミロも。
 幸せな光景だった。


 そこでチラリと戦士長テディの顔を窺った。
 でも僕はすぐに目を逸らした。
 テディはそのことに気付いたようだ。


 テディは、泣いていたんだ。ミミロが生まれ変わって、消滅したわけじゃなくて。
 声は出さなかったけど、涙を流していた


 僕はその涙を見なかったことにはしない。噛みしめて、目に焼き付けた。




『なあ、リオルよ』


「なに。」


 テディが話しかけてきた。
 テディの瞳は、3匹の竜をロックオンしている。


『本当に、よかったな。』


「………うん、テディもね。」


『ははっ』


 くしゃくしゃの笑顔で、テディは笑った。


「テディ。他の紫竜にも知らせてきてよ。ミミロは紫紺竜として蘇ったってね」


『ああ、俺は席を外させてもらう。ありがとう、リオル』


「気にしないで。それより、もう住処を破壊しちゃだめだよ。」


『もちろんだ。落ち込む必要がなくなった。俺が腑抜けてしまった紫竜たちのケツを蹴り上げてくる。ではな。』




 僕はテディに泣く時間を与え、僕はこれからの事について考える。
 ゼニスがいないと考えられることじゃないけど、この子たちをどういう風に育てたらいいのか、まったくわからない




『きぃ………きゅぅ~………』


 おっと、走り回っていた黒竜が体力切れでへばってしまったようだ。


『きゅっーぴぃー!』


 訳すると『だらしないわね!』


 白竜が黒竜の腹を蹴りつけてブッ飛ばした


 生まれたてと言っても、ドラゴンなわけで、中学生サッカー部キャプテンレベルの凶悪な蹴りが黒竜をサッカーボールのように蹴り飛ばした


『ぴぎゃ! ぴぇええええええ!! きぃ――――――!!』




 蛙のように壁に貼りついた黒竜であったが、さすがはドラゴン。頑丈だ。


 でも蹴りの衝撃は相当痛かったらしく、泣き出してしまった


『ああもう! だから言ったであります! 』


 ミミロがため息交じりに黒竜をあやす。
 どちらも赤ちゃんなのに、おかしな光景だ。




『よーしよーし、あ、フィアル殿。アルノーは持っているでありますか? この子はおなかを空かせてしまっているようであります』


 だけど、蹴られた痛みではなく腹減りで泣いているとは思わなかった!


「え、うん。いっぱいあるよ。竜の赤ちゃんって、何を食べるの?」


『基本的に何でも食べるであります! 肉も果物も鉱物でも、とにかくいろいろなものを食べて魔力を体内に取り込みます!』


 さすがにそれを魔力譲渡で補うことはできないだろう。
 フィアルはリュックからアルノーを取り出すと、白竜と黒竜がフィアルの元に群がった
 ついでにルスカもフィアルの元に向かった。なんでや


『きぃ! きぃ!』 『きゅー! ぴきぃー!』


 訳すると『ちょうだいちょうだい』『はやくはやく!』


 フィアルからアルノーを手渡されると、黒竜は器用にそれを掴んで僕の所に走ってきた


『ぎぃ、ぴー!』


 訳すると『χДЮξ もらったよー! やったー!』


 うれしいのはわかったから落ち着いて。
 うまく翻訳できなかったじゃないか


 僕は黒竜を抱き上げてから膝の上に座らせる。


 すると、黒竜は一心不乱にアルノーを齧り始めた




 ルスカの方も見てみると、白竜が黒竜に張りあうかのようにアルノーに頭を突っ込んでいた
 その様子に、僕は少し噴き出した。
 ミミロもおなかがすいているようで、フィアルからアルノーを受け取るとむしゃむしゃとアルノーを頬張る。




「今戻ったぞ。おお、タマゴは無事孵ったようだな。」


「ちぃ――ッス! ってうわ! ほんとに黒竜がいるじゃん! にゃははは! すげーすげー、初めてみた!」






 ゼニスの声とよく知らない男の声が聞こえてゼニスの住処の入り口を振り返ると




「ゼニス―――と、誰?」




 なんかゼニスの隣には20代前半くらいの兄ちゃんがいた


 《黄色い髪》をツンツンと立たせ、色の薄いサングラスをつけていた。
 この世界にもサングラスってあるんだ。


「ああ、紹介しよう。こいつは―――」


「にゃははは! Fo~~~~!! よくぞ聞いてくれたNa! 《黄竜きりゅう族長 ニルド様》たぁ俺様の事Da☆」




 しゃべり方がウザくて軽い兄ちゃんだということはわかった


「って、族長!? 黄竜の族長さんがなんでこんなところに!?」


「おいおい、そりゃあこっちのセリフだZe☆ 人間族ヒューマン禁制の竜の里になんでこんなガキんちょが居るんだYo! お? そっちのねえちゃんマブいねぇ、どう? 今晩一緒に遊びにいかない? もちろん、夜の繁華街にSa☆」


「気持ち悪いので、遠慮します」


 ドン引きのフィアル先生は、相手が黄竜の族長相手でありながら、腰を折り曲げ、丁重にお断りもうしあげた


「にゃはははは! 振られちまったZe! 誰か哀れな俺様を慰めてくれる人はいないのかにゃー……… ふぎゃん!?」


「ニルド。少しは黙れ。ひき肉にされたいのか。」




 フィアルに振られて上目使いにゼニスを見たところ、斧槍ハルバードで思いっきり殴られていた
 それに、ニルド? どこかで聞いたことがあるような名前だ。


 なんだったかな………人とあまりかかわらないから知り合いなんて居ないし………


 まぁいいや、忘れた。


「ひっでーよゼニス! せっかく俺様が遊びにきてやってんのにYo!」


「リオル、ルスカ、フィアル。昨夜遅くにこいつが来たおかげで孵化に立ち会えなかったようだな、すまない。」


「無視かYo!」


 ダメージから回復した黄竜族長ニルドが涙目で抗議するが、ゼニスが無視するので、僕もいったんこの兄ちゃんのことは無視することにする




「それよりもゼニス、黒竜と白竜の子なんだけど、この子たちどうするの? ここで育てるの?」


「うむ。それについて少々相談事に乗ってもらいたくてな。都合のいいタイミングでこのニルドバカがきたので、他の竜に伝令を頼んだのだ。数百年ぶりの《族長会議》を開く」


「《族長会議》?」


「そうだ。色竜カラーズドラゴンの族長が集い、今後の会議をすることだ。」


「いやまぁ、それはわかるけど、なんで?」


「黒竜と白竜など、私達も見たことがないからだ。どこに住まわせ、どういう扱いをすればいいのか、わからぬのだ。」


「あー、なるほどね。」


 それもそうだ。
 というか、黒竜や白竜に領地とかあったんだろうか。
 でも、こいつ等の処遇を考えてもらうのはありがたい。


 危険視して殺す とかじゃなければなんだっていいよ。
 大切な友達の子供だ。僕の子供と言ってもいい。


「ということで、おいニルド。他の族長たちに伝えて来い。白竜と黒竜が紫竜の里で生まれたから族長会議を開くとな」


「へいへーい。族長会議をするかはわっかんねーけどよ、黒竜と白竜が産まれた報告くらいはしておくZe☆」


「助かる」


「あと、ゼニスが神子と魔王の子を育てているなんて知らなかったぞ。報告くらいしろYo!
 シゲ爺もそうだけど、最近は族長たちの間で子共を育てるのが流行ってんのか?」


「む? シゲ爺も子を育てているのか?」


「ああ、まぁ、シゲ爺は人間の子じゃなくて長耳族エルフの子だったけどな。神子と魔王の子と似たような境遇だし、年も近かったにゃー。」


「それはよい、シゲ爺は何を考えているのかわからんからな、なにをしてもおかしくはないだろう」




 よくわからんけど、どこかの竜の族長であるシゲ爺さんが長耳族エルフの子を育てているらしい。
 流行っているのかもね、族長の間で子供を育てるのがさ。


 っていうか、長耳族エルフが居るのかこの世界!
 長耳族エルフと言えば排他的 美人 長寿 魔力高い おっぱい控えめ というテンプレ展開が僕のお好みだよ!
 是非お近づきになりたい!!
 うおおおお、ちょっとテンションがあがったよ!


 ああ、でも僕、結局嫌われちゃうんだよね、がっくり。




『きぃ?』


 僕の膝の上で黒竜が首を捻るけど、そんなもん関係ない!
 あ、黒竜ちゃんはアルノーを食べ終わったみたいだ。


 白竜もさっき食べ終わったようで、ルスカの抱きしめから抜け出して僕の方にちょこちょこと歩いてきた


『きゅー!』
『ぎぃ!』


 黒竜も僕の足から飛び降りてパタパタと走り回り始めた




「こんなかわいい生き物が、本当に世界の崩壊とかすんのかYo?」


「む、まぁ、言い伝えだしな。黒竜と白竜が仲が悪いというのもデマみたいだな。
 それとも、姉弟だからか? リオルたちもそうであるし。」


「しらねー。とりあえず俺様は行くわ。ゼニス、例の件、よろしく頼んだぞ。」




「ちとめんどくさいが、ニルドほどではあるまい。承った。」


「いやー、助かるZe 俺様あのおっさん苦手なんだよにゃー にゃはは」


 唇をω←こんな感じにして『ニィッ』と笑い、頭の後ろで手を組んだ
 口調は軽いけど、親しみやすそうな感じでさわやかさがある。




「最後に、ガキんちょ共とそこの姉ちゃん、名前は?」


 ニルドは頭の後ろで組んだ手を離し、しゃがんで僕に視線を合わせてきた


「僕はリオル。」
「………るすか、よんさい」


 ルスカは人見知りをしているようで、僕の背中に隠れながら控えめな声で自分を告げた
 ニルドはにまっと笑うと、僕たちの頭を乱暴に撫でた


「リオルとルスカね、覚えたZe!」


 人懐っこい虎のような猫のような笑みを浮かべ、視線を上に向ける
 そこにはエメラルドグリーンの髪の女の子が一人。


「わ、私はフィアル・サックです」


「フィアルちゃんね、了解。じゃあ、今度こそ俺様は族長たちの所に行くわ。」


 どっこらしょと立ちあがり、腰に着いた巾着袋からスケートボードを取り出した………はぁ!?


「ニニニ、ニルド、そのスケボーは、どうやって出したの!?」


 なんでいきなりスケボーを出したのか、とかどうでもいい。
 帰ろうとしているのを邪魔する僕に、ニルドはにゃははと笑いながら説明をしてくれた


「おお、その年でスケボーのことを知ってるのか?
 いや、それよりもこっちか。この巾着袋は魔力付加具マジックアイテムなんだよ。
 200kgまでならなんでも入るZe☆」


 パチンと指を鳴らして手のひらを上に向け、僕を軽く指さし、ウィンクをするニルド。
 様になっている。


「結構値段が高いしどこにでもあるわけじゃねェ。人間族ヒューマンの無属性魔法使いしか作れないみたいだし、持ってたら便利だZe☆」


 ニルドはスケボーを地面に置くと、それに両足を乗せた。


「そして、このスケボーが俺様専用の科学具テクノアイテム 『雷鳴ライメイ』Da!
 閉鎖都市『ボルトシティ』にしかねェアイテムなのよ、すっげーだろ!」


「すごい、すごーい!」


 魔法だけかと思ったら、科学も発展しているのかこの世界は!
 いや、でも閉鎖都市とか言ってる時点で鎖国してそうだ。


「気分がいいZe 科学といったらみんな否定的になっちまうもんだからNa 
 関心してくれる人が居るだけで科学信者が増えるってもんよ!」




 そういってニルドは『バチバチ』と発電し始めた………発電っておい!


 なにいきなり発電してんの!? というかなに!? 黄竜って電気系統の竜なの!?


 ああ、そっか! もしかして昨日からある雷雲ってこの黄竜の族長さんが発生させていたやつなのかな!
 もしかしたら黄竜の住処なのかも!
 じゃあ、あの雷雲が『黄竜の里』ってこと!?


 たぶんそうだよ! ゼニスも昨日から雷雲を気にしていたもん!


「いたっ! ふぇ、あああああああああああああん! りお! いたいのー!」


 運悪くその放電がルスカにあたってしまったらしく、僕はルスカとニルドとの間に割り込んでルスカを抱きしめた


「ご、ごめんなルスカの嬢ちゃん。こればっかりは許してくれ、すごいもん見せてやっからYo! チャージ完了! デリケートな瞬間だから、押すなよ、絶対に押すなよ!?」


 え? 押してほしいのかな。


 最初は恰好よくスケボーに乗っていたけど、チャージ完了と言ってからスケボーにしがみつくようにしゃがんでしまっている


「発射10秒前! 9、8………」


 なんか知らんけどカウントダウンが始まった
 ゼニスは呆れ顔でニルドを見ている


「7、6………」


『ぎぃ、きー!』
『ぴきぃ! きゅー!』


 訳すと『なにあれなにあれ!』 『ぱちぱちしてる! おもしろそう!』


「あ、ちょ―――おまえら」


 僕は止めようとしたけど、黒竜と白竜の好奇心がスケボーに向いてしまった
 ルスカを抱きしめたままで離れるわけにもいかないし


「5、4………」


『『ぴきゃー!』』


 なにを思ったのか、黒竜と白竜は………








 二匹そろって、スケボーを蹴っ飛ばした










「3、にぃわたああああ!!?」


 ――――ヒイイイイィィィィィ…………!!


「ああ! 俺様の『雷鳴ライメイ』が!!」


 スケボーは、音速のスピードで空気を切り裂きながらゼニスの住処から飛んで行ってしまった。
 ニルドはスケボーの超スピードに慣性の法則が働いてしまい、盛大に後方宙返りを二回転もしながら後ろにひっくり返ってしまったようだ。
 超スピードだからスケボーにしがみついていたんだろうな。


 どうやら『雷鳴ライメイ』とは高速移動が可能な科学具テクノアイテムらしい。




 ニルドは後頭部を押さえながら立ちあがり


「じ、じゃあそういうわけで、俺様は黒竜と白竜が産まれたことを族長たちに知らせてくるZe!
 『雷鳴ライメイ』 待ってくれええええええええ!!」




 締まらない最後で、ニルドは紫竜の里を後にした。




『あれが黄竜の族長殿ですか。初めて見たであります!』
「な、なんだったんでしょう………」
「あいつは、ただのバカなのだ」
「………………」


 その情けない背中を、僕たちは見送り








「きゃはははははは! にるど、おもしろいのー♪」


『ぴきゃー!』『ぴきー!』








 ゼニスの住処には、ルスカと白黒竜のうれしそうな声だけが、むなしく響いたという。















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