受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第16話 ★え!? ミミロ、タマゴを産むの!?



「魔力量に任せて強引に火魔法を発動させてはダメよ。それじゃあ燃費が悪くなっちゃう。
 だから、頭の中で現象をうんぬん~~~」


 フィアルの講義を適当に聞き流す。
 フィアルは、紫竜のタマゴを盗みに来た冒険者。
 そこを僕たちが捕まえ、ゼニスが説得し、僕たちの教師をしてもらっている。


 ここは紫竜の里。


 人間の立ち入りを禁止する場所。
 そこに、エメラルドグリーンの髪をポニーテールにまとめた少女が一人。


 わかったことは、一つ。


 『フィアルは教えるのが下手だ。』




「フィアル。そこはもうわかってる。こうでしょ?」
「こうなの~♪」


 適当に指先に炎を灯す。
 もちろん、フィアルによる《最適化》を施した上で。
 ルスカも指先に水の玉を出現させ、小さなつむじ風を発生。らせんを描くミニチュア水の鞭がくるくると回っていた。


 なんかわからんけど、フィアルさんの説明のおかげで魔力の燃費が良くなった。
 魔力を体内でめぐらせてうんぬんかんぬん。


 本当によくわからないけど、何となくできた。
 要約すると、魔法に核となる部分を用意しとくといいらしいよミ☆


 ということらしい。本当によくわからない。《最適化》とはいったいなんだったのか。


「うそ! 私が3年も掛けて編み出した《最適化》方法が………」


 あと、もう一つ。おそらく僕とルスカは天才だ。
 フィアルさんもだいぶ天才だと思うんだけど、僕たちは存在がチートだからね。


 《最適化》して何が変わったかというと、
 1 発動までのタイムラグをほぼゼロにする。
 2 魔力の消費が少なくなる
 3 魔法の操作性・応用性が増す。


 といった感じ。たしかに少し便利になった。
 魔力の消費に関してはあまり気にしたことはないけど、他はすごく助かる。


 魔法は大技になればなるほどタイムラグが起きる。
 詠唱時間とでもいうのだろうか。
 それがほぼゼロになるのだ。


 闇魔法はそれでも魔力の消費が大きくて若干タイムラグが残ってしまうけど、この辺りは要修行かな。


「魔法はもういいや。全部わかった。文字を教えて?」


「あ、うん。まかせて!」


 こうして、僕たちの日々は過ぎていく。




              ☆






 そのまま、数か月が過ぎた。


「ねえ、フィアル。」
「どうしたの、リオル。」
「僕が怖くないの?」


 僕はフィアルを見上げて、そんなことを聞いてみた。


「んーっとね。最初は怖かったよ。でも、リオルはただの妹思いの優しいお兄ちゃんだってことをもう知ってるからね。それに私も、ゼニスさんにリオルの昔話を聞いて、同情しちゃった。」


「そう………」
「わわ! 泣かないでよ、私何か悪い事いっちゃった?」
「ううん………ありがとう。今まで、本当に辛い事しかなかったから………同情されたことなんて、なかったし………」
「んっと、私に言わせればこの標高5000mの紫竜の里での生活も辛い部類なんだけど」
「元貴族だったっけ。」
「うん。ま、14歳からは私も冒険者してたから辛いこともいっぱいあったけどね。」


 フィアルは僕が生まれた年に冒険者になっているのか。


 フィアルはいい話し相手になってくれる。
 もちろん、ルスカをほったらかしになんてしないよ。


 いつも僕の服の裾を掴んでいる。


「りおー………」
「よしよし、るー。僕たちは遊びに行ってくるけど、フィアルも来る?」


「あー……… どこまで遊びにいくのかな?」
「標高6000mくらいのところで、紫竜たちと鬼ごっこ。」
「ひえええ! わ、私は遠慮しとくよ。今日は城下町で用事があるし。」
「なにがあるの?」


 アルノー山脈を下山するだけで3日はかかる。
 なのにフィアルは今日用事があるらしい。こんなところでゆっくりしてても大丈夫なのか?
 大丈夫なのだ。


「城下町の冒険者ギルドに寄って、少しだけ依頼を受けてくる。
 私もゼニスさんに《ブースト》を教えてもらったから、少しくらいなら無茶できるようになったんだよ! まさか私が《ブースト》を使える日が来るとは思わなかったよー。
 まさか伝説級冒険者『魔眼のゼニス』に教えてもらうなんて、夢にも思わなかったよ。
 それにしても、ゼニスさんが紫竜の族長だなんて、しらなかったなぁ」


 ゼニスは有名人らしいしね。
 でも、聞いた話じゃゼニスがSランクになったのは百年くらい前だったみたいだよ。
 それじゃあゼニスの顔を覚えている人とか、あんまりいないだろうね。
 ゼニスは基本的に竜の姿で生活しているし。


「これで私も前衛で無茶できる!!」


「いや、無茶はしちゃダメでしょ。」


 テンションの上がってしまっているフィアルを宥める。
 なんだかんだ、魔法使いであっても、フィアルは魔力を扱う天才なのだ。
 前衛の一部の人のみが感覚で獲得することができる《ブースト》を、理論と卓越した魔力操作の技術でモノにしたのだ。


 たいしたものだ。


「まだ《ブースト》にも慣れていないから、そこまで無茶な無茶はしないよ。じゃあね、リオルも気をつけて。《ゲート》!」




 そう唱えると、フィアルの目の前の空間が歪んだ。
 フィアルはその歪んだ空間に向かって歩いていく。


「お土産になにか本でも買ってあげるよ。」
「ありがとう。フィアルのおかげで文字がわかるようになったからね。」
「感謝したまえ! じゃあね」


 歪んだ空間に入り込むと、フィアルの姿が見えなくなった。




 これはフィアルの無属性魔法《門魔法》による効果だ。
 本当に門魔法と言うのかは不明だが、僕はそう呼ぶことにした。


 門魔法の《ゲート》は、設定したポイントに、一瞬で移動することができる。
 ただし、設定できるポイントは5つまで。発動までに少々時間がかかる。


 一つは紫竜の里。
 一つは王都の城下町
 一つは自宅に設定してあるらしい。


 他は未設定。最低でも一つは空きを作っておくんだって。
 そんで、魔力総量が増えたら、ストックできるポイントも増えるんだとか。


 僕も一度王都とかいう場所にも行ってみたい。調味料が欲しいのだ。
 アルノーを齧って羊の肉を焼いて食うだけの食生活に飽きてきた。
 醤油が欲しい。あと生姜ショウガ。少量のミリンと合わせて生姜焼きにしてみたい。
 前世でも肉を食べた記憶があんまりないし、野生生活の方が肉を食べている。


 しかしながら、味がしないというのは、苦痛だ。


 醤油は大豆をどうにかすることはわかるんだけど、どうすればいいのかわからないから、醤油を作ることもできない。


 ゆえに味噌も作れない。味噌汁が飲みたい。


 そういえば、僕たちがよくおやつ感覚で齧っている果物。アルノーは、かなり高価なものだった。
 煮だした濃縮エキスは魔力回復薬になるらしい。
 だから重宝されているんだって。


 そして、キングアルノーはもっとすごいっぽい。
 魔力回復はもちろん、濃縮液は微力ながら魔力増加もするすばらしい果物だそうだ。
 ということで、この前ミミロとフィアル、ルスカを含めた4人でキングアルノーの採取へと向かったんだ。


 そしたらさ、§←こんな果物がでっかくなって木にぶら下がってるの。
 僕の身長くらいはあったも。でかい。


 とりあえず、たくさんあったので、フィアルが一つちぎってジュースにして飲ませてくれた。


 アルノーよりもおいしかった。
 でも粘り気が強くて二度目はいいや、と思わせる何かがあった。
 あれを煮詰めるのか………。ねばねばしそうだなぁ。


「あ、みみろ! こっちなの!」


 ルスカがミミロを発見し、手を振ってこちらに招く。
 さて、最近はミミロをほったらかしにしてたけど、いつものようにミミロの背中に乗って開けた場所まで飛んでもらおうかな。


 ………あれ? なんかミミロの様子がおかしい気がする。


『グルルゥ、ガルー………』


「………?」


 訳せなかった。知らない単語だったのかな。


 それに、なぜかミミロはのっそのっそと足元を気にしながら歩いてきた。


「どうしたの、ミミロ? 体調でも悪いの?」


 なんかすこし辛そうだったから、心配してしまった。
 大丈夫かな、ミミロ。
 なにか問題でも抱えているんだろうか。


 また、イジメだろうか。
 それだったら、助けてあげよう。


 ………僕も、ミミロにそうとう入れ込んでしまっているようだ。
 最初は見捨てようとしていたくせに。


 しかし、ミミロの次の言葉で、僕は驚きに声を上げた。


『ギャゴー! グガガグルゥ』


「な!! それは本当なの、ミミロ!?」


 訳すと………ええい、こうしちゃいれないよ!


「りお、みみろ、どうしたの?」




 竜言語を理解していないルスカが、僕に聞いてきた。


「ミミロがタマゴを産むんだって! ルスカ、大急ぎでゼニスを呼んできて!!」


「たまご? たべるの?」


「食べないの! あ、でも僕も食べてみたいかも」


『ガルァ!?』


 訳すと、『ちょっとやだやめてよ恥ずかしいよ………って食べちゃダメ!!?』


 ミミロはノリ突っ込みを覚えたみたいだ。
 まぁ、僕の適当翻訳エンジンなんだけどね。


「とにかくルスカ、GO!」
「にゃあああ!!」


 パチンと背中を軽く叩いてあげると、ルスカは《ブースト》を発動。


 タンッ    タンッ       ヒュッ!


 という短い足音だけで、すぐに見えなくなるルスカの後ろ姿。


 三段ジャンプの世界記録を狙えそうだ。
 というか二歩目で軽く超えているだろう。




「ミミロ、大丈夫? 落ち着ける場所に行こう。産卵場所って何処? 山頂!? 
 バカ! その体で無茶して飛んでタマゴを壊しちゃったらどうする!
 ゼニスを待ってて!  すぐにルスカが連れてくるから!」


『ガルゥ………』


 訳すと『リオ………そんなに心配してくれて、ありがとう』


「りぃおー! つれてきたのー!」
「よーっし、よくやったぞルスカ! こっちにおいで!」
「にへへ~………ほめてー」
「えらいえらい。むにむにー!」
「きゃうわうわうきゃー!」


 ルスカのほっぺたをムニムニして、ギュッと抱きしめる。


『ルスカが来いと言ってきたから来たが、何の用なのだ。』


 ドスドスと走ってくる巨大な竜。
 族長ゼニス。


「ミミロがタマゴを産むんだって! 手助けをしてあげたいんだけど、どうかな?」
『む………勝手に産めばよかろう、と言いたいところだが、ここ最近は紫竜も個体数が少ないからな。皆で盛大に祝わせてもらうかの』


 ゼニスはバサリと翼を広げ、ミミロの肩を足で掴んだ。
 僕とルスカは慌てて《ブースト》を使い、ゼニスの背中に飛び乗った。


 糸魔法でゼニスの背中に体を固定し、頂上までゼニスがミミロを運ぶ。


『リオル、ルスカ。耳を塞げ。』


「うん」
「わかったの」




 ゼニスの言うとおりに耳を塞いでおく


『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!』




 ゼニスが竜言語で叫んだ。
 訳すと『頂上に集合!!!』


『グルゥ………』


 訳すと『みんな………来てくれるのかな』
 ミミロは序列最下位の若い竜。苛めを受けていたこともあるのだ。


「ミミロ。めでたい事なんだから、そんなネガティブになっちゃダメだよ。」
「おめでとうなの~♪」


『くぎゅう………』


「そうなの。きっとみんな来てくれるんだから、自信を持ちなって」


『グル!』


「そう! その意気だよ! ところでミミロ。誰の子なの?」


『グル、グリィル』


「え!? 戦士長!? テディとの子かぁ、紫竜の序列最下位だったのに、ミミロも成り上がったねぇ、このこの!」




 ゼニスの背から糸魔法で伝ってミミロの背に移り、ぺちぺちとミミロの背中を叩く。
 4歳児のペチペチなんて、蚊が止まった程度のダメージすらないだろう。感触すらないかもしれない。
 僕の手の方が痛かった。気分的には肘でつっつく状況。




 ゼニスはミミロを頂上へと降ろした。


 ミミロを降ろすと、ゼニスは人型へと変身し、ルスカを抱っこした。
 頂上は寒い。風が強い。
 僕たちは暖かい服は着ているけど、防寒装備はしていない。
 ゼニスはしゃがんで、僕に背中にしがみつくよう催促してきた。


 お言葉に甘えて首に手を回してゼニスに密着する。
 ゼニス越しにルスカの顔とご対面。にっこりと微笑んでくれたから僕も笑ってルスカの鼻をツンツンしてあげる


 ブルリとゼニスが身震いした。どうしたん?
 とおもったらあれ? ゼニスは震えていた。


「もしかして、ゼニスも人型の時は寒いの?」
「お前たちも薄着だったから、人型になったのだが。………わ、わるいか?」
「いや全然。僕たちよりも薄着だね。」
「ぜにす、あったかいの」


『グルル』


 訳すと『親子みたいですね』


 余計なお世話だ。






『『『 GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!! 』』』




 おっと、頂上にぞくぞくと紫竜が集まってきたみたいだ






 ――――― 一方そのころ王都の城下町では ―――――






「えっと、リオルには『勇者物語』を買ってあげようかしら。
 ふふっ自身が魔王の子なのに、400年前に魔王を討伐した物語が好きなんて、おかしな子ね。でも、髪の色が黒でさえなければ………それが普通の子なのよね。魔王のことも知らないみたいだし、それが当然なのかしら」




 私は今、冒険者ギルドでリオルへのお土産に買って帰ろうと思っていた本をメモしていた。
 リオルは普通な子だが、不思議な子だ。
 感情がぶれやすい子だけど、考え方がしっかりしているし、教えるのがうまい。
 私が開発した《最適化》をすぐにものにして、ルスカちゃんに覚えていた。
 あれ? ぜんぜん普通じゃない?


 なにより、すごく吸収が早い。
 あの子は本当に4歳なんだろうか。
 それに、ちょっと教えただけでまだ荒いけど《魔力譲渡》までできるようになっちゃったし、魔王の子ってやっぱり天才なんだなぁ。
 私も、同年代の中じゃ一番魔力が高いのに………。
 上には上がいるんだね。


 紙に書いたメモをリュックに入れて立ち上がる。
 今日は簡単なEランクの薬草と鉱石を採取をして、紫竜の里に戻ろう。


 冒険者ギルドの採取部門の窓口に向かおうとしたら、冒険者ギルドの建物の上にある高台で周囲の観察を行っている職員が駆け下りてきた


『紫竜の群れが集団で移動を開始したぞー!』
『どこに!? まさか、村!?』
『いや、アルノー山脈の頂上だ。何をする気かは知らないが、アルノーを採取するチャンスかもしれない!』


 それを聞いた瞬間。冒険者ギルドの空気が変わった。


 アルノー山脈にる果物。アルノーは貴重な魔力回復薬になる。
 私はもう自由に紫竜の里に入れるようになったけど、他の冒険者にとってはそうではない。


 アルノーは一つにつき銀貨2枚。2千Wウィルという高値で売れるのだ。


 市場に出る時は、銀貨6枚で売られていたりする。
 理由は場所。


 高い標高と温暖な気候でしか実をつけることがないため、アルノー山脈にしかない。


 しかし、アルノー山脈は紫竜が里を作っているため、登山がしにくい。
 いくら温厚なドラゴンとはいえ、住処に近づけば警戒する。食べられてしまえば元も子もないのである。


 さらにアルノー山脈には『ホワイトベアー』『オサイノシシ』稀に『大獅子』『ブラッドベアー』など
 BランクやA-ランクの魔物が出るので、無事に帰ってこられる可能性が低い。


 それでもアルノーはまさに金のなる木であるため、アルノーを手に入れるために無茶をする者たちが後を絶たない。
 それが紫竜がいない、というチャンスとあらば、食いつくしかないだろう。


 討伐部門の冒険者ですら、目を光らせていたくらいだ。
 それと一緒に、《転移系》の無属性魔法使いも金を稼ぐチャンスだと思ったのかアルノー山脈ふもと行きの冒険者を集めていた。


「ま、私には関係ないわね。そもそもみんな頂上に集まってなにをしているのかしら。」








 ――――― 王都ではちょっとした騒ぎになっていた ―――――







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