受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第15話 家庭教師







「ゼニス。タマゴ泥棒を捕まえてきたよ」


『む、そうか。少し待っておれ。』




 ゼニスの住処までミミロに運んでもらった。


 ゼニスは人間の姿で現れる。
 ミミロはゼニスが人間の姿で現れたことに驚いていた。
 ゼニスが擬態している姿を、あたり見たことがないんだ。


「………‥…」




 フィアルさんも、少々驚いていた。


 そりゃそっか。紫竜の里なのに、人が現れたら―――って僕もだよね。


「おねーさん、こっちきて。」


「ひっ!」


「大丈夫だって。何もしないから。今は。」


「ひぃぃぃぃいい!!」


 こりゃダメだ。


「ゼニス、このお姉さん、任せていい? 見た目年齢は同じくらいでしょ」


「構わんが………私は族長だぞ。数百年単位で生きておる。」


「知ってるよ。」






 僕はフィアルさんをゼニスに任せて、ルスカの手を取ってミミロの所に戻る。




『グル?』


 いいの? と聞いてくる。


 いいも何も、僕は冒険者を6人も殺しちゃったしね。
 タマゴを盗んだ本人は族長さまに判断してもらおうと思っただけだよ。


 僕はコクリと頷いてミミロに飛び乗る。


「ミミロ。高度6000mくらい開けた場所までお願い。るーも行くよ」
「は~い♪」


 なぜそんな高所まで行くのか。


 酸素のうすい場所で特訓をするのだ。


 どんな特訓か? ミミロに食べられないように全力で逃げ回る死の鬼ごっこだよ!






 ――――― 3時間後








「ぜー………ぜー………」




『ぐるるー…‥…』




 だいじょぶ? と心配そうに聞いてくるミミロ。


 だいじょぶなわけない。だいじょばない。




 体力がついてきたと言っても4歳児、やっぱり子供なわけで。
 転んで走って転んで。100転び50起きくらいはしたんじゃないかな。


 そうだよ。体力が足りなくて半分くらい起き上がれなかった。


 酸素も薄い場所で自分に1.2倍の重力を掛けつつ紫竜の突進から逃げ続ける。
 娯楽がないから、こういうことで暇をつぶしつつ、まさに死ぬ気で特訓をしないといけないのだ。


「りおー………」


「ゲホッ、ゴク るー。次は、僕を置いて、………先に行っておいで………」


 僕は瀕死の状態で壁にもたれかかり、ルスカを死地から遠ざけるように死地に送り出す。


「わかったの!」


 ものすごく小さい拳をぎゅっと握りこんだルスカ。


「みみろ、つかまえるの~♪」


 と思ったらルスカはミミロを追っかけまわし始めた


『グガ!?』


 訳すると『ファッ!?』
 突然追いかけられ、訳も分からないままドスドスと逃げ出すミミロ。


 さすが我が妹。
 4歳の年齢に恥じぬ意味不明な行動だ。




 ミミロもルスカが幼いことはわかっているため、本気で逃げたりはしない。
 地面を走っているため、飛ぶことは無い


「まってー!」


 ポテポテ走りからパタパタ走りにシフトしたルスカ。


 つかまらないと痺れを切らし、《ブースト》で距離を詰める


『ギャワ!』


 訳すると『甘いわよ!』


 ミミロは跳んだ。
 若年竜とはいえ巨体だから、跳ぶのは難しいと思っていたのだけれど、やっぱりドラゴンはすごい。
 だてにSランクレッドクラスやってないな。


 《ブースト》を使ってなお、ミミロに追いつくことはできなかった


 着地前に一度翼を広げてホバリングし、ルスカの背後の地面に足を付けた。


 そのホバリングでものすごい突風が僕を襲ってひっくり返っちゃったけど、爆心地のルスカは地面に両手をついて耐えた


「まだなのー!」


 ルスカは体制を立て直し、ブーストは使わずに攻める。
 水魔法でミミロの足元に水の膜を作り、すぐさま凍らせた。


『ギャ!?』


 訳すと『なんと!?』


 足を滑らせるけど、紫竜はドラゴンだ。強靭な足腰で転倒を防ぐ


「むー!」


 ルスカはそれに苛立ち、両の手のひらをミミロに向けたまま、おでこのあたりに持ってきた


 その構えは―――


「《たいようけ「わあああああああ!!」」




 僕が教えた技だった。


 ピカー! とルスカを中心に光を放つ。


『ググラグルゥ!?』


 訳すると『眩しい!?』
 ルスカを中心に目も開けてられないほどの光があたりを照らす




「えへへ、いくの~。むむ~」


 今度は右手の人差し指と中指を眉間にあてて、うむむと唸る。


 その構えは―――




「《まかん「アウトだよ!」」




 僕が教えた技だった。
 本当はただの《光線ライトレーザー


 光線を放ったルスカだったが、ミミロは目が見えないであろう状態でかろうじて避けた


 避けきれずに右足を10cmほど抉ってしまったけど、ドラゴンの生命力なら1週間もあれば完治するだろう
 というか、その攻撃は下手したらミミロを殺しちゃう攻撃だよ!?


 ちなみに僕も、《暗幕ブラックカーテン》と《闇矢ブラックアロー》という似たような技を最近になってようやく開発した。
 ダークじゃないのかって? 僕はそんな悪人じゃないもん。


 ちなみに、今はもう闇魔法のレパートリーはない。
 でも、アイデア次第でまだまだ強くなれそうな気がする。
 たぶん使う機会はなさそうだけど。ルスカが居れば、たいていなんとかなる。


『GYAAAAAAAAA!!!』


 完治できるとはいえ、ミミロはかなりの怪我を負ってしまった
 特訓の続行はできないだろう


「ルスカ。その技は禁止。」
「はーい」


 あまり深く考えないルスカは、その技がどういう結果を生むのかをよく理解していない。
 僕は竜鱗さえ穿つその光線が怖い。


 散らばった竜鱗は回収。


 竜鱗も1週間くらいで復元するって。




 ボタボタと足から血を流すミミロの足をルスカの光魔法で治癒する。
 さすがに散った竜鱗は戻らなかったけど、これで大丈夫。


 僕の体力も限界だし、ミミロもルスカに捕まった。
 ミミロの背中にのって、紫竜の里に戻ることにした。




 ルスカがどんどん体力おばけになって行く………




 紫竜の里に着くと、フィアルさんはだいぶ落ち着いたのか、特に美味しいわけでもない果物アルノーをかじりながら、ゼニスとなにか話をしていた。




「お、帰ってきたようだな。」


「うん、ただいま。」
「ただいまなの♪」


『ガルッ!』


 訳すると『はい、ただいま戻りました、族長!』




 言っとくけど本当に適当に訳してるだけだからね。
 竜言語を完全に理解してるわけじゃないんだから。




「さっきも言ったように、私はここで族長をしている、ゼニスだ。お前は私の家族のタマゴを盗んだ。相応の罰は受けてもらう。安心しろ、殺しはしない。」


「は、はい………。あの………あの子たちは………?」


「私が保護した子だ。私の息子たちがこの子たちの村を滅ぼしてな。その生き残りだ。詳しくは言わんが、私の息子と娘みたいなものだ。」


「ぜにすはママなの♪」


 ぴょこぴょことゼニスの側へと寄って、ルスカはゼニスに抱き着いた。


 ゼニスは慣れた手つきで抱きしめ、足にルスカを乗せる。
 バンダナごと頭を撫でた。


「えへへ~」


 と言いながらゼニスの胸に顔を埋めるルスカ。
 うらやまけしからん。


 今の僕も4歳だから笑って許されやしないだろうか。


「…………(ちょこん)」


「む? リオル。珍しいな。」




 とりあえず、ゼニスの膝の上に座るにとどめた。


 これでも結構恥ずかしい。
 とか思っていたら、ルスカとまとめて抱きしめられた。


 柔らかいよゼニス!


「かわいい………」


 ポツリと呟くフィアルさん。


「かわいい? おかしなことを言うね。さっき僕の事を散々悪魔だって言ったじゃないか」


 僕がそういうと、ペシンと頭を叩かれた。


「そういう捻くれた言い方をしてやるな。リオルの悪い癖だぞ」


「………はーい。でも事実だよ? 悪魔なんて呼ばれていい気持する?」
「それでもだ」


 そりゃあ捻くれもするよ。
 生前だったら何も言い返せないだろうけど、今の僕は力がある。
 筋力は無いけど魔力はある。


 なにか突出したものがあるから、僕はようやくひねくれることができるんだよ。


 それまでちょっとでもひねくれたら殴られたもん。
 殴られないことは素敵なことだ。




 今まさにパラダイス。
 背中の感触もパラダイス。




「さて、話の続きをしよう。フィアル。」


「は、はい!」


「お主、年は?」


「じ、18です」


「うむ。特技は。」


「え、えっと………魔法です。火魔法と風魔法。あと、一応無属性も。
 採取の依頼ならひととおりできます………」


「学はあるかの?」


「いえ………その、お恥ずかしながら、15で学校をやめました。」


「ふむ。それで、その年でBランクとは、よく頑張ったものだ。」




 ゼニスがフィアルさんを褒めている。
 ちょっとだけ照れ臭そうに笑い、アルノーをかじる。


「はい、14歳で冒険者を始めたもので………」


「金稼ぎか?」


「はい。貴族から平民に落とされまして………借金の返済のために」


 なるほど。貴族についてはなんにも知らないけど


 見たところ、この人は魔力量は生まれたてのルスカ並にある。
 かなりの才能の持ち主だ。


「よしわかった。その借金、返してやろう。」


「え!? ほ、本当ですか!?」


「ただし、対価が必要だ。お主は借金返済のために、なにができる?」


「え、ええと、何ができるかわかりませんが、なんでもやります!」


「うむ。心意気やよし。タマゴを盗んだ件については水に流す気は無いが、フィアル。お主にはこの子たちの面倒を見てもらう。」


 ゼニスはそういって僕たちの頭を撫でる。


「ゼニス。僕は人間が大っ嫌いなんだけど。」
「知っておる。リオルの境遇を鑑みれば同情に値する。」
「だったら―――」
「だが、人間にも慣れろ。」
「いじめられるってわかってるのに?」
「それでもだ。」


 はぁ、ゼニスはいじめられる辛さっていうものをなんにもわかっていないんだよ。
 理不尽なんだよ? 僕の言うことなんて信じてもらえないんだよ?


 あろうことか、先生たちですら僕を腫れもの扱いするんだもん。
 人間は醜い。保身に走り、責任を擦り付け合う。
 その責任は、いじめの被害者である僕に回ってくる。


 前世で僕がこの魔力を持っていたら、迷わず学校を闇魔法で物理的に平定するね。


「いやだ。」


 だから僕はゼニスの言うことに反対した。


 いじめ。だめ、ぜったい。


「ふむ。しかし、いつまでもここに住まうわけにもいかんだろう? いつかは人里に下りるかもしれない。」


「う………」


 今は子供だからここに住まわせてもらっているけど、いつかは人里に下りて何かをしないといけない日が来るかもしれない。
 まったく人とかかわらない、なんて生活ができるはずがないんだ。


 ルスカが僕に抱き着いてきた。
 僕もルスカを抱きしめて背中を撫でる。




「僕の答えの前に、ゼニスは、この人をどうするつもりなの?」
「鍛える。」
「はぁ!?」
「こやつは強くなる。だから、鍛えるのだ。」
「何のために?」
「ふむ。迷宮に潜るためだ。」


 初めて聞いた。迷宮があることは知っていたけど、ゼニスも迷宮に入るんだ


「迷宮には何があるっていうのさ」
「ふむ。わからぬ。だから行くのだ。」


 迷宮の奥には何があるのかわからない。
 何もないかもしれない。
 罠があるかもしれない


 それを知りたいから、冒険者をしているらしい。


「ゼニスは、タマゴ泥棒の件は水に流すっていうの?」
「いや、水にながす気は無いと言ったであろう。私の夢をかなえてもらうために、働いて貰うのだ」
「め、迷宮………ですか。上層までしか潜ったことはありませんが、そうとう危険ですよね………?」
「うむ。危険だろうな。死ぬかもしれないだろう。だが、フィアルも、私の家族を奪おうとしたのだぞ。それはもうお主が私の家族を殺したも同義。お主の命は私に預からせてもらう。何でもすると言ったのだ。約束は守るのだぞ」
「は、はい………」


 なるほど、こじつけ臭は強いがゼニスは自分の夢のために利用することにしたのか。
 この人の魔力量は並の人間よりかなり高い。
 一流と言ってもいいレベルだ。


 火属性と風属性に続き、無属性まで備わっているとは。そこに闇か光があったら、僕たちと似たようなものになるよ。
 ゼニスはそんな彼女に、僕たちの面倒をみるようにしたいのだ。




「してリオル。フィアルに面倒を見てもらうか? 答えを聞こう」


「………わかったよ。僕は人間は嫌いだけど、僕だって人間だ。
 情報だけを聞き出そうと思ったのに………。
 それに、ゼニスだけで僕たち二人の面倒を見るのはキツイんでしょ。
 ゼニスの負担が減る家政婦がきたとでも思うよ」


「そう言ってくれると助かる。」


 ゼニスは僕の頭を撫でた。


 ゼニスたち紫竜は、僕の恩人だ。
 恩は返したい。でも、まだ僕たちは幼い。
 もうすこし成長したら、頑張って返済しよう。


「そして、フィアル。最初の方でも話したが、この子たちはわけありでな。リオル、ルスカ。バンダナを取ってはくれんか。」
「やだ。ルパンみたいに剣を抜かれる。」
「そう否定ばかりするでない」


「僕だって頭ごなしに否定したいわけじゃないよ! 僕の髪を見てもだれも剣を抜かないと保証できるなら取ってもいいんだ。
 ゼニスは僕が何のためにバンダナを巻いていると思っているんだよ! 隠す為だ、見せびらかすためじゃない!」


「むぅ………しかし、これからフィアルはここに住まわせる。
 隠し通すことはできないだろう。」


「そうだけど………」


「うゅ? りお、これとるの? えい!」


「あ、ルスカ!」


 ルスカは自分の頭のバンダナをはぎ取った。
 肩まで伸びた白髪があらわになる。伸びてきたな。切ってあげよう


「ほ、本当に、神子だったんだ………」


「僕はバンダナを外さないけど、ルスカと反対だって言ったらだいたいわかる?」
「う、うん。」


 僕はバンダナは外さない。外したくない。
 嫌われたくないからだ。
 たとえ、タマゴ泥棒であっても。


 フィアルさんは直接髪を見たわけではないからか、少しの動揺ですんだ。


「それで、ゼニス。この人に僕たちのお世話をさせて、どうするつもりなの?」


「うむ。ルスカは魔力量ならすでに賢人クラスだ。であるというのに、まだ4歳だ。成長率が著しい時期にすでにそれだというのが恐ろしい。」


「………? なにを言っているの?」


「まぁ聞け。ルスカですら賢人クラスだというのに、リオルはそれを10倍は上回っている。どういう体の構造をしているのかは知らんが、すでに神や魔王と同等の魔力量を持っているのだ。」


「それが、どうしたっていうの。」


「魔法を使うのは我流であろう。魔力の無駄をなくし、《最適化》してみないか? そのための教員が必要であろう」


「そのために、この人が必要だってゼニスは言うわけ?」


「うむ。まさにその通り。私の魔力は魔眼に使われているため、属性を持たないのだ。無属性と言うわけではないが、私はブレスも吐けなければ竜魔法も使えぬ。だから、魔法の使用について教えることは私からはできない。魔眼が優秀すぎて、私は他がアンポンタンなのだ。」


「アンポンタンて」


「事実その通り。だが、魔眼はそれだけ優秀だということでもある。故に私はリオル達に魔法を教えることができないのだ。その点、フィアルは魔法の才能がある。リオルとルスカは、フィアルに魔法を習い、最低限字を書ける程度の知識をつけるのだ。」


「………わかった。この世界の知識を学ぶ機会が欲しかったから、それは願ったりかなったりだよ。」


「うむ。よかった。それにしてもリオルよ。お主は本当に4歳の人の子か?
 成長の速い竜族ならともかく………
 少々博識すぎるし、受け答えが自然すぎる。ルスカくらいが普通だと思うのだが………」


「実は前世の記憶があるんだよ。」


「バカをいうでない。ま、兄であれば、しっかりするのもうなずけるというものだな。」


 ゼニスの事は信用しているからさらっとぶっちゃけたのに。まぁ、そうだよね。
 そんな話を信じられるはずもない。


 そんなこんなで、フィアルさんが家庭教師になった。







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