受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第4話 食われる覚悟があるなら、かかってこい

 村にドラゴンが攻めてきた


 未曽有の大ピンチ。


 それでこの村を僕の力で救って崇められる?


 はっ、ふざけるな。
 こんな村の連中なんて、全員死ねばいい。


 もちろん、ルスカ以外だけど。




「あぅ~~、りお~~。」


 びくびくと体を震わせるルスカ。


「大丈夫。ここにかくれていて。」


 ルスカのほっぺを撫でて落ち着かせ、村の外れまで二人で歩き、土魔法を駆使して作った穴倉に押し込む。
 地面に向かって土魔法を施し、穴をあける。ふたを閉める。


 僕もその中に入る。
 この土魔法で作った穴倉。実はオリハルコンでできているんだよ。
 土魔法ってすごいね。魔力を込めれば込めるほどものすごい硬い鉱物になるんだもん。


 オリハルコンみたいな伝説の鉱物なんて見たことない。
 でも、なんか魔力を込めたら光の反射でいろんな色に変わる鉱物ができた。鉄パイプみたいなのを作って叩きつけても壊れなかったから、これが多分オリハルコン。


 ミスリルも作れたよ。最初はなんか軽い鉱物が出来て、失敗かと思ったけど、丈夫だしよく伸びるし、でも頑丈だし。だからこれはたぶんミスリル。




 サファイアとかルビーとか作れた。コレで生計を立てようかな。
 冒険者なんかしないぞ、簡単にお金持ちになることができる。
 それまで生きていたらの話だけどね。




 というか、この穴倉程度でドラゴンの攻撃を防ぎきれるのかはわからないけどさ。


 村人の連中がドラゴン来襲の知らせをきいて慌ただしく動き回る。




「リオルとルスカはどこだ! あの子たちを生贄にささげれば、ドラゴンたちは怒りを鎮めてくれるやもしれん!」


 おい魔法屋のババア。あんた最低だな。
 自分が助かるためなら保身に動くのか。
 出ていくもんか、死んでたまるか


「あ、おばあちゃんがよんでるよ、りおー」
「だめだよ。ドラゴンに食べられちゃうよ」
「たべられるのー?」
「うん。たべられちゃう」
「そーなんだー。」
「しばらく、ここで魔力の特訓をしよう」
「うん♪」


 ルスカは3歳。 爆発的に魔力の量が増えるっぽい。


 最初から化け物じみていた魔力に、さらに磨きがかかったわけだ。
 僕も充分化け物だ。この村を滅ぼすくらいは簡単にできるかもしれない


 でも、僕は肉体的に子供だ。そして悪魔扱いという社会的弱者だ。
 体が成熟するまでは耐え忍ぶしかあるまい。




『グルルルゴギャアアアア!!』




「ドラゴンが現れたぞー! 逃げろ! 散れ! 生贄をささげろ!」
「ぎゃあ! こっちに来た! にげ―――ブヂュル」
「ピクシー! あ、あああああああああ! 神様天使様どうかお助けくだ――」


 どうやらピクシーが死んだらしい。


 僕がなぜ蓋のしまった穴倉の中から外の状況がわかるのか


 簡単だ。僕の無属性魔法『糸魔法』の効果だ。


 穴倉から村全体に糸を張り巡らせ、糸の振動を直接耳に届けさせている。


 ローラは生きているだろうか。
 死んでいるだろうか。できれば生きていてほしいな。
 なんせ衣食住が保障されるから。


 死んだなら死んだで、冒険でもしてみるけど。


 とりあえず、ルスカだけでも守らないと。




『GYAOOOOOOOOOOO!! GAAAAAAAAAAA!!』


 うっさいトカゲ。


「りお。のどかわいた。」


「ん? はい。」


 僕は土魔法で作り出したコップをルスカに渡す。
 ルスカは水魔法で少量の水を作り出し、コップに注ぐ。


「んく、んく、ぷはぁ、えへへ。りおものむ?」
「そうだね、ありがとう、るー。気がきくね」
「にゃー! えへへ~」


 土魔法と水魔法は便利だ。
 水や氷を作り出せるというのはそれはすごいアドバンテージとなる。


 ローラは水属性の魔術師だ。
 ピクシーは風属性
 親父ニルドは水属性と火属性。


 あのクソ親父、2つも属性を持っていやがったとは。知った時はびっくりしたよ。
 ランクとかは知らんけど、Cランクの冒険者をしていたらしいよ。
 生前は狩人だって。接点なかったけど、もう死んだしどうでもいいや。




 この世に対して絶望しかしていなかったけど、魔法に対しては信頼している。
 自分がどれだけ異常なのかもわかっている。
 この無駄魔力こそが、僕とルスカの持つチートだと考えられる。


 修行は怠らない。継続は力なり。




「ん? 外で音がやんだみたいだ。」
「でるの? たべられない?」
「んー。ちょっと待って。」


 糸魔法に視覚情報を組み込む。


 糸を通して、村全体の様子を脳裏に映してみた。
 糸は僕の身体から出ている。糸の情報はすべて僕のもとへとやってくる。


 糸魔法、便利だ。


「あー。村人全滅。ママもピクシーも魔法屋のババアも全員、たぶん死んでる。」
「ママも、ぴくしーも? えぅ………うえええええええええええ!! 」
「………ま、元気出して。僕がいる。」
「びええええええええええええええ!!」




 穴の中では反響してルスカの声が響いて脳にガンガンと響く。
 ルスカを抱きしめて背中をさすりながら、ルスカをあやし続ける。


 逃げ出した村人も居るけど、大半はドラゴンたちのおなかの中。


 “たち”。
 ドラゴン“たち”である。いっぱいいるよ。実は6匹いるんだよね、ドラゴン。




 怖い。
 怖いよ。
 勿論怖い。


 でも、僕たちは子供。
 子供だけで生きていけるわけがない。


 ということで、ヘタレのお兄ちゃんがドラゴン相手にひと肌脱いでみる




「りお、りお! いかないでぇ、おいてかないで!」




 穴倉からよっこらどっこいぽんぽこりんと這い出ると、ルスカが手を伸ばしてきた


 少し考える………。


 ま、ルスカなら死なないだろう。いざとなったら僕が絶対に守る。
 穴倉からルスカを引っぱり出す。筋力が足りないから、ルスカを大根のように引っぱり出したら尻餅をついてしまった。




『GIIIIIIIYAAAAAAAAAA!!!』


 だからうっさいトカゲ。




 ルスカを引っぱり出すと、ルスカを後ろに隠して正面を向く。
 そこには6匹のドラゴンが口元から血を垂らして僕たちを見下ろした。


 村人たちの血だろう。


 足が震えた。
 どんなに魔力の訓練をしても、生前でも現在でも、忌子でしかない。
 どんなに繕っても、僕はヘタレでただのいじめられっこでしかない。


「僕を食べる?」


『グルルルアアアアアガガアアアアア!!』




「日本語でおk」




『GYAAAAAAAAAAA!!』




 ドラゴンがこちらに向かって走り出した。食うつもりらしい。
 僕は唇を三日月型に歪めて右手を上に掲げる


「そっかそっか。僕を食べる気か。いーよ。食われる覚悟があるなら、かかってこい、トカゲ共。 こちとら昨日腐りかけのりんごを食べた程度しか胃に物を入れてないんだ。」




 僕が右手を降ろすと同時に、闇魔法を発動した。
 僕を中心に、重力が10倍になった。


 6匹のドラゴンが這いつくばって地に伏せた。


 絶景絶景。


 中心である僕とルスカを除く、全てが地に伏せる。
 見ているだけで愉快痛快。


 僕にひざまずけ。
 ひれ伏せクソトカゲ。






「あは、アハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
「きゃあん♪ りお~~~~♪」




 ルスカが泣きそうな表情から一転。僕に抱き着いた。
 爽快な気分に浸っていたんだけど、自分でもこんなに楽しくなるとは思わなかった。
 心を落ち着かせるために、ルスカの背中に手を回してから深呼吸する。
 まだ興奮は残っているけど、やるべきことがある




「るー。あのトカゲの翼、ちぎって。」


「うん♪」


 言うや否や、ルスカは右手に光を溜める。光魔法を使って右手に溜まった光を指先から打ちだして光線を放つと、一匹のドラゴンの翼をもぎ取った。


『GUGYAGAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』


 だまれ。


 僕は無言で右手を上に掲げて魔力を放出。ドラゴンの上空に土魔法で鉄塊を作り出す。
 10倍にした重力を受けて、鉄塊が音を立てながらすごい勢いで落ちてくる。


 鉄塊がドラゴンの頭をつぶした。




 贅沢に魔力を使おう。
 僕は頭をつぶしたドラゴンによじ登る。


 解体したい。


 解体して肉を食べたい。
 久しぶりに肉を食べたい。


 頭の中を占めるのはそればっかりだ。


 そういや、転生してから肉を食べた記憶がないな。


 ルスカは食べているだろうか。希少だしなぁ、でも食べてるだろうなぁ。
 ぼくはリンゴを芯と種とヘタも食べるほど栄養が足りないんだ。
 家族が貴重なお肉を僕なんかに食べさせるはずがない。
 動物性蛋白質が欲しい。


 ドラゴンの肉だったら、相当栄養価は高いだろうか。


 もはや爬虫類の肉だろうが知ったことか。


 水だけじゃ腹はふくれないんだよ。
 そもそも、ここ最近はネズミだろうが虫だろうが、構わず口に入れたんだ。
 爬虫類の肉なんてまともなものを食うのは、垂涎ものだ。




 土魔法で上空にギロチンを作り出し、羽がもげ、頭の潰れたドラゴンの首を断ち切る。




 闇魔法を操作して、ドラゴンの足から持ち上げる。


 首から大量の血が出てきた。
 首が落ちても体が動く、このドラゴン、そうとう生命力が高いみたいだ。


 まだ心臓が動いているのか、勢いよく、ドピュドピュ、時折ビクンと身体を痙攣させながら、大量の血を出していく。


 やがて、血が出なくなった。


 あたりはドラゴンの血で真っ赤だ。




 土魔法でオリハルコンの包丁を作り出し、ドラゴンの解体を試みる。


 関節を見極め、闇魔法を駆使してドラゴンの銃弾すら弾くであろう鱗を穿つ。
 包丁がドラゴンの肉を裂いた。




 自身の身体を血に染め、腰骨まで包丁を入れ、左足の解体に成功した。




 ルスカの水魔法で僕の身体に付着した血をすべて蒸発させた。
 気化熱で少々肌寒くなったけど、そんなことよりもお肉だ。


 ドラゴンのもも肉をブロック大に切り分け、火魔法で肉を焼く




「りおー。りょうりー?」


「うん。るー。調味料を取ってきてもらえるかな。」


「ちょみりょー?」


「うん。お塩とか、コショウとか。」


「えへへ、わかったの♪」


 ルスカが僕の闇魔法の有効圏内に入ろうとしたため、慌てて闇魔法を打ち切る。
 ルスカが闇魔法の10倍重力を受けたら一瞬で潰れてしまう。


 そういや、そもそも塩とかあるのだろうか。
 僕は料理らしいものを一口も食ったことがないからわからないや。
 胡椒だって、希少なモノなのかもしれないし、こんな片田舎の村にはある方が珍しいかもしれないね


『GURURURUU』


 闇魔法を打ち切ると、ドラゴンたちが動き出した。
 襲い掛かってくるようなら、僕は糸魔法でドラゴンの首を切断するつもりだったけど、ドラゴンたちは知能が発達しているようだ。


 僕には勝てないと判断したようだ。
 日ごろの努力が報われた。


 前世でも努力は報われなかった。
 僕は自分を虐めてきた連中を殺す妄想ばかりしていた。
 この状況こそ、まさにそれだ。






 そして、このドラゴンは、僕をいじめていた連中を食べたんだ。


 そう思ったら、不思議な昂揚感が体を突き抜けた。


 ドラゴンたちは僕を地獄から救い出してくれた恩人ともいえるだろう。
 僕らを食べようとしたのは事実だけれど、こんなクソッタレな世界をぶっ壊してくれたこのドラゴンたちに、感謝の念をささげたくなる


「僕はこのドラゴンを食べる。文句は言わないでね、弱肉強食。いや、強肉弱食とでもいうのかな、この状況は。勝負に勝ったものの特権だよ。」


 これを言ったのは生前のクラスメイトだったかな。
 皮肉なものだ。


 ドラゴンたちは、襲い掛からなかった。
 かといって逃げもしなかった。


 はて、ドラゴンたちは何を考えているのやら。




「りーぃおー♪」


 ルスカが両手いっぱいに調味料を持って現れた。


「ありがと、るー。」


「えへへ~♪ やあん、きゃはっ♪」


 ルスカを撫でまわす。
 親が死んだというのに、そんなに僕が好きか。
 うれしいなこのやろっ♪




 ドラゴン肉のブロック焼きに塩をまぶしてかぶりつく。
 コショウはやっぱりなかった。


 3歳児の、栄養失調のおなかには重い。
 筋張っていて硬い。
 だけど、うまい。久しぶりに肉をたべた。
 生前も肉を食べたのだって、数えるくらいしかないと思う。


 だから、僕は栄養が足りなくて、背が低くて、ガリガリにやせていたんだ。
 いまだってそれは変わらないか。
 うまい。ドラゴンの肉がうまい。
 涙が出てきた。




「だぅー………」


 ルスカの方を見れば、指をくわえてよだれを垂らしていた。


「ん? ルスカも食べる?」


 涙と鼻水をすすってから、ルスカに聞いてみると、ルスカは眼を輝かせて


「うんっ!」


 大きく頷いた。
 僕のお腹もだいぶ膨れて来たし………


「はい、たべていいよ。」




 僕はもう、おなかいっぱいだ。
 三歳児にしては、食べた方だろうか。
 なんせ、僕は1歳からほとんど何も食べていないんだから。
 でも、栄養失調の身体にいきなり重いものは入らないし、元々の胃が小さいからあまり食べたような気もしない。食べないよりはマシか。


 魔力をエネルギーに変換するのだって、大変だったんだ。
 それをする必要がなくなった。だけでも良しとしよう。




「んふふー、おいしい♪」




 そうだね。でも、ルスカはいつもローラからおいしいものをたくさんもらっているだろうに。
 塩だけの肉なんて、単調でおいしくないだろうに。




 さて、ルスカもお肉を残してしまった。


 しょうがない。その辺にポイ。
 脂まみれになったルスカの顔を僕の服の袖で拭う。




『グルルル………』




 うっさくない。
 でも、このトカゲたちが何が言いたいのかはわからない。


「もうおなかいっぱいだ。トカゲさん。もう帰っていいよ。僕のおなかは膨れたし、キミたちのおなかも膨れたでしょ。」




 5匹のドラゴンは顔を見合わせ、ガルガルとなんか会話をする。
 ぐるる。とか、ぐがが、とかよくわからないけど、文法がありそうだ。
 竜言語とでもいうのだろうか




『グルゥ、グルアル。』


 一匹のドラゴンが背を向け、尻尾を僕の近くの地面に置いた。
 グルアルってなに。こっちにくるアル、みたいな?


 ざけんなクソトカゲ。


「っていっても、こいつ等………」


 逃げない。 襲い掛かってこないとあれば、それは僕を認めているということにならないだろうか。


 だとすれば万々歳だ。


『グルルアウ』


 よくわかんないけど、そうっぽい気がする。


「るー。このトカゲさんたち、僕たちの親代わりになってくれるみたいだよ。」
「おやー? ろーら?」
「いや、ローラではないけれど………とにかく、この土地に残っても、僕たちは生きていけない。」
「りお、どこかいくの?」
「うん。るーも行くんだ。」
「りおといっしょ♪」




 ルスカは僕に抱き着いた。
 僕と一緒ならどこだっていいらしい。


 涙が出てきた。
 ありがとう、ルスカ。


 よじよじと二人でドラゴンの尻尾によじ登って、背中までロッククライミングならぬ竜鱗ドラゴスケイル登乗クライミングでドラゴンの背中に貼りついた。


 僕の土魔法でドラゴンの背中に鎌倉を作成。
 しっかり固定。
 そして、シートベルトをしっかりつける。


 どーせ飛ぶんでしょ。わかってたわかってた。


『GYAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』




「うっせ!」


『ギャァ!』




 小さく鳴くと、ドラゴンは飛翔を開始する。


 どこに向かってるかなんて知らん。
 竜の里とかじゃないの?


 鎌倉だし、外は上空だから寒いし、とても外を見るなんてできない。


「りお、さむい………」




 着の身のまま村を出てきたからね。上空の装備なんてしていないし、鎌倉を作っているとはいえ、寒いもんは寒いだろう。


「んー。これでどう?」


 手のひらに小さな火をともす。
 火を強くすると、鎌倉の中の酸素が無くなっちゃうよね。
 だからこの程度しかしてやれない。


「………さむい。」


 やっぱり寒いか。
 シートベルトを解除。ルスカの肩を抱いて温める。


 僕も寒い。
 鎌倉は密閉してある。


 このドラゴンは上空3,000mとか平気で飛ぶんだよ。
 僕は人間だし、そんな酸素の薄くて気温が低くて気圧も低い所なんて生きていけない。


 それに、この状態になれば、鎌倉に空気穴を作ったところで、酸素を持っていかれておしまいだ。
 ルスカを抱きしめる。
 抱きしめて肌を擦る。


 するとルスカは、にへ~♪


 と、うれしそうに笑った。ルスカが笑うと、僕もうれしい。
 これが恋なのだろうか。そうに違いない。


 でも3歳児で妹だ。僕は転がりトウモロコシじゃない。
 断じてローリングなコーン的なアレではないんだ。
 僕はシスでコーン的なアレである。
 平常心。


「りーおっ♪」


「るー♪」


 抱きしめてすりすりを続けた。








 はて、僕たちはどこに向かっているんだろうか。





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