受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第1話 イジメられっ子から転生。どうやら忌子として産まれたみたいだ



「ギャハハハハ!! 死ねよお前!!」




 僕の名前はスバル。
 僕はいじめられっ子だ。




「い、いやだよ! なんでこんなことをするの!? ギッ! 」




 抗議したら、殴られた。痛みにも、もう慣れてしまった
 口の中を切ったのか、鉄の味が口内に広がる


「『なんでこんなことするのぉ?』だってよ! ギャハハハハ! マジウケる!」




 目の前で僕を殴った憎きクラスメイト、篠原銀介しのはらギンスケが変な顔をする。
 僕のマネをしているようだけど、全然似ていない




 銀介の、その変顔を見て他のクラスメイトが笑い声をあげる




 不快だ。


 不快だけど、僕にはどうすることもできない
 僕には、彼らをどうこうできる力が無いのだから。


 思えば、散々な人生だった。
 小学4年生の頃、両親が事故で死んでしまい、引き取られた伯父は借金まみれで働きもしない。
 伯父の借金はヤクザ組織から借りている闇金で、返す当てがない無職で、借りたお金もすべてギャンブルにつぎ込んで。


 運悪く、僕のクラスメイトはそのヤクザ組織の組長の息子。
 当然、その後見人である伯父の借金にかこつけて、銀介は僕に対して苛烈なイジメを繰り返していた。 


「さて、おーいてめえら、仕上げるぞー!」


 銀介が目くばせをすると、クラスメイトが僕の身体をがっちりとホールドする


「うそでしょ………侍刃たいが………?」
「………すまねえ、すまねえ、スバル………! オレにはどうすることもできなかった………」


 僕を拘束していたのは、親友の十文字侍刃じゅうもんじタイガ
 低身長の僕に対し、中学生とは思えない程にガタイのいい身体。
 身長は180cmくらいだろうか、いつもその大きな身体でいじめられている僕を助けてくれていた侍刃が、目を伏せて、辛そうに顔を歪めながら僕から顔をそむけた


 彼の頬を伝わる雫が、その無力感を表しているようだった。


「よーし! この三階の窓から放り投げろ! 俺たちは『遊んでいたら、ふざけて勝手に落ちていた』」


「「「ふざけて勝手に落ちていた」」」


 銀介が大声で叫ぶと、クラスメイト達が銀介の言葉を復唱する。
 クラスメイト全員がそう証言してしまえば、事実なんて簡単にねじ曲がる


「や、やめっ!」


 度重なるイジメで、僕の骨格は歪んでいた。
 戯れに抉られた右の眼球。
 度重なる骨折に歪んだ足。
 ギプスの右腕。
 すでに感覚の残っていない左腕。
 切り落とされた小指。


 こんな状態になっても、警察は動いてくれなかった。
 マフィアと警察が癒着しているんだ。銀介の暴走を、学校の先生も止めることはできない。できるはずがない


 痛む身体に鞭を打って、無い筋力を総動員し、侍刃の拘束から転がるように抜ける。
 侍刃が力を緩めたのだろう。でも、すぐに他のクラスメイト達が僕を拘束して窓際まで引きずられて、持ち上げられてしまった
 力の入らない身体で暴れてみても、たいした効果をなさない


「せーのっ!」


「やめて―――――――!!!」






 教室の窓から放り投げられ、僕はなすすべなく頭から地面に叩きつけられた。
 頭蓋が砕け、校庭に朱い紅い華が咲く。


 途切れ行く意識の中、クラスメイトたちの歓声と銀介の嘲笑、そして侍刃の叫び声が聞こえてきた気がした


 僕の最悪の人生は、13年という短い期間で、ここで幕を閉じた。














                   ☆








 体が締め付けられるような感覚があって頭が覚醒した


(なんだ? 苦し、息、も………)




 目も開けられない。 あ、そっか。僕、死んだんだっけ。


 でも、なんで意識があるんだろう。もしかして、病院?
 声も出せない、息もできない。


 ああ、意識不明の状態なんだろうか。3階の窓から放り出されて、頭から落ちちゃったもんね。


(うぐっ! なんか締め付けられる!)


 体全体が再び強く締め付けられ、痛みが走る 痛み? 慣れ親しんだ感覚だ。
 痛みがあるってことは、生きてるってことなのかな


 ずるりとなにかから吐き出され、ふと目を開けると、チカチカとぼやける視界の中で、体がべっとりと血の色を見せているのがわかった
 目を開けることができた感動よりも、最初に見たものが自分の身体についた血によるショックの方が大きかった


(あ、そっか。あの高さだから、僕の身体なんて、ぐちゃぐちゃになっちゃうよね)


「ひっ! おぎゃああああ!!」


 痛みと恐怖から、叫び声をあげると、何とも不思議な感じだ。
 痛い! と言おうとしたのに、おぎゃー! という声しか出せなかった


 体がうまく動かせないでいると、銀髪のお姉さんが僕の身体をひょいと持ち上げた




(な、なんで!? 僕の身体ってそんなに軽い!? まぁ、たしかに僕の背は小さくてガリガリだけど、お姉さんが簡単に持ち上げられるような体重じゃないはずだよ!? 四捨五入すれば30kgはあったもん!)


 あれ? やっぱり軽い? と思っていたら
 自分の身体がタオルで血と、よくわからないベタベタした水を拭われ、温水に着けられた


 ぼやける視界の中、眼を細めてよく見ると、お姉さんたちはすごくでかい。
 ここは病院だろうか。 でもこんな銀髪の居る病院なんて近くにあっただろうか


 僕が殴られて骨折した時も、おばあさんしかいない病院にしか行ったことないからよくわからないや


 きょろきょろとあたりを見回すと、ここにいるのは巨人のお姉さんだけじゃない


(あ、銀色の髪で巨人のお兄さんがいる)


 どことなくぎこちない表情をしているのがわかった


 さらに目を巡らせる




 ベッドに横たわり、苦痛の表情と慈愛に満ちた表情を同時にするという器用なことをこなしている美少女がいた
 美少女といっても、巨人だったけど。


 年は14歳くらいだろいうか。僕と同い年かも?


 全身が汗だくですこし色気を孕んでいた。
 でも、その表情はすぐに歪むことになった




「ふっ、んんんんんんんんん!! はぁ、はぁ、」




 いきんでいた。
 その瞬間、僕はすべてを悟った。


 この人は、出産している最中だと。




 そして、僕は自分の身体を見回す。




 あまりにもミニマム。
 自分の身体じゃないみたいだ。




 ああ、なるほど。僕は転生したのか




 おそらく、あの女の子が、僕のお母さん。


 長い金髪。整った顔。美人だ。
 それと、自分と同い年くらいの子から産まれたというなんとも不思議な感じがする


 そして、また悟った。今いきんでいるということは、まだ居る。
 双子だったんだ、僕は。




 しばらく金髪の美少女がいきんでいると、一人の赤ん坊が取り出された






「んぎゃああ! おぎゃあああああ!!」




 よかった。元気な子だ。
 でも、ここからだと、性別もわからない。




 僕は生前は軟弱な男だったけど、今自分の性別すら確認できていない


 ………。しかたないじゃないか。
 全身羊水や胎盤の血にまみれていたんだからショックの方が大きかったんだよ!




「――――。―――、――――。」
「―――――、――――――!!」


 銀髪のお姉さんと、銀髪のお兄さんが何かを話すけど、日本語じゃないから、よくわからないや




 銀髪の女の人が、僕をベビーベッドに寝かせると、さっきまで僕が浸かっていた産湯に、取り上げたばかりの赤ん坊を入れて身を清める


 しばらくすると、布に包まれて、僕の隣に寝かしつけられた




 僕は隣の赤ん坊に手を伸ばす。
 あはは、顔が皺くちゃだよ。って今の僕もそうなんだろうか


「アー! ニャー!」


「あうー!」


 僕が伸ばした手をぎゅっと握って元気な返事をしてくれた




 銀髪のお姉さんと、銀髪のお兄さん、それに金髪の美少女が僕たちの様子を見守った


 僕は眠気に誘われ、手を握ったまま、目を閉じた














                   ☆




 転生して半年がたった。


 どうやらここは地球ではないらしい




 なぜ、そんなことが言い切れるのか


 この世界には魔法があったからだ。




 そんなものを見るまでは僕はここがヨーロッパかどこかだと思い込んでいた


 どいういう魔法があるのかを見てみよう




 まずは元素魔法
 火水土風の4つだ。


 そして光魔法、闇魔法。無属性魔法というものがあるっぽい




 7つ。
 この7つだ。


 この世の人々は、なにかしらの魔法の属性を持っているらしい。
 なぜそんなことがわかるのかというのは、近くの魔法屋のおばあちゃんが教えてくれた。


 負け犬の人生を歩んできた僕は、あまり期待していなかった


 異世界に転生してテンションが上がった?
 いやまさか。


 僕はどこまでも卑屈になれるよ。
 異世界に転生してなお、負け犬の人生を送るに決まっている。
 だからおそらく、僕には何の魔法の才能もない




「やーう! きゃー!」
「だうー、うあー」


 生まれてから半年もすれば、首も据わる。一日中その土地の言語を浴びせられ続ければ、言葉だって理解できるようになった。
 それで、僕は動けない体で精一杯情報を集めることにしたんだ。


 転がってベッドから妹の所へと行くことができるようになった
 体力がついたんだ。


 妹。
 妹だよ。
 妹だったんだよ。


 そして、僕はお兄ちゃん。


 ひいき目なしに、僕の妹はかわいい。
 なんせ赤ちゃんだから。


 でも、すこし不思議なんだけど、この子、パパンともママンとも似ていない。


 髪の色が銀でも金でもなく、真っ白なんだ。
 最初は銀色なのかと思ったけど、輝きが無い。なにもない真っ白だった。


 対して僕の髪も、妹にすら似ていない。
 真っ黒だ。


 妹と対極に存在する。


 何もかも正反対。


 妹はまるで天使のような美しさ。
 パパもかわいがり、ママもかわいがり、パパのお姉さんもかわいがる。


 対して僕はどうだ。


 真っ黒い髪は忌子として扱われるらしい。
 僕の扱いは酷かった。


 夜泣きをしたら叩かれ、おもらしをすれば叩かれ、ぐずったら叩かれた。


 一度は左腕が折れた。


 赤ん坊だからよかったものの、ヘタしたら僕の腕に関節がもう一つ増えるところだったんだぞ。プンプンだよ。


 僕を叩くのはパパのお姉さん。
 名前は“ピクシー”。妖精? とんでもない。


 彼女は悪魔だよ。ストレス発散のために弱いもの、つまり生まれたばかりの僕をいじめて泣かせて笑っているんだ。
 黒い髪が忌子として扱われることを知って、僕は転生したこの世界にも絶望した。


 僕をよくしてくれるのはママしかいない。
 ママの名前はローラ。幸薄そうな顔立ちながらも、美しい金髪の女性だ。
 自分を生んだ張本人なんだ。
 優しく僕を抱っこしてくれる




「リオ。あなたは悪魔なんかじゃないよ。ごめんね。」




 でも、泣きながらそういうから、僕は自分が忌子なのだとすぐに理解した。


 僕の名前は“リオル”。名字は無い。


 妹の名前は“ルスカ”。みんなはルー様って呼んでいる。


 妹の髪の色は白。白は天使の色なんだって。
 僕が黒で悪魔の色なんだと。


 髪の色が黒だとわかった時、村の人たちは僕を間引きしようとしたらしい。
 それをローラが必死で止めたんだってさ。


 なんてことをするんだと思った。


 死にたいよ。でも、自殺させてもくれないんだよ。
 舌を噛もうにも歯が生えていない。


 赤ん坊の身体だから体力が圧倒的に足りない。やだやだ。
 死なせてもくれないなんて、拷問だよ、まったく。


 痛いのには慣れてる。生前からそういう扱いを受けていたからね


 父さんからのDV。クラスメイトからのイジメ。
 痛みに対する耐性はつよいよ。ただ、赤ん坊の身体だからなんの抵抗もできないけどさ。


「やうー! きゃっきゃっ!」


 まだ自我のないルスカ。
 この子は僕の味方だ。
 理解していないんだ。この状況を。


 正直、妬ましいよ。
 なんで僕が冷遇されて、妹のルスカが優遇されるんだってね。


 生前からそういう理不尽には慣れてる。
 だから、僕は何も言わない。


 というか言葉を話せないから言えない。




 ルスカも僕もハイハイはできる。
 元気すぎていろんなところに行くんだ。




 ルスカがハイハイしていろんなところに行くと




「ルー様は元気でちゅねー♪」




 なんて言ってピクシーがルスカを抱っこする。


 そんで、僕がハイハイしてテコテコと歩いていたら




「ちっ、あんまり動き回るんじゃないよ!」


「ぎゃっ!」




 このピクシー、この僕を蹴りつけるんだ。
 おかげで僕はいまだにベビーベッドでしか生活できない。


 そんなだから、最近はルスカの方が体力腕力がある。


 僕の手を握り締めると、僕の指がミシミシと音を立てるんだ。
 不思議だね。赤ん坊って意外と握力が強くてすごく痛いんだよ。


 赤ん坊だから加減を知らないんだよね。
 でも、うれしそうに笑うから、僕は我慢する。
 痛みには、慣れているから。




 じゃあ、ベビーベッドで何をするのか。


 もちろん、ベッドの上でできる筋トレだ。
 生前のようにナヨナヨした体ではまたいじめられるのが関の山だ。
 すでに虐待を受けている僕は、辛い事にはもう慣れている。


 ハイハイができるが、足腰の筋力は弱い。
 自由に歩き回れるルスカよりも、僕の方が成長速度が遅い。


 手をグッパっと握ったり開けたり


 膝立ちで腕立て伏せをしようとしてみたり


 結局、自由に移動できるルスカには負けるんだけど、そうでもしないと、僕の身体は弱いままなんだから。




 一通り運動が終わると、僕は瞑想の時間に入る。
 これは最近の日課だ。


 魔法があるのなら、魔力っていうものが存在するはず。


 僕はルスカの手を離して、ベビーベッドで瞑想をする。
 たしかに、血液の流れに乗って、魔力が流れるのを感じる。


 魔力の流れを操作したり、魔力の塊を目の前に放出してみたり


 何も起きないけど、日々続けることによって、自分の魔力の量が爆発的に増加するのを感じた


 赤ん坊の成長速度に合わせて、魔力を消費すると回復する魔力の量も桁違いになる。


 魔力とは、筋肉みたいなもの。僕はそういう風に認識した。
 筋肉は、痛みつけるとより強くなる。


 爆発的に成長する今だからこそ、鍛えておかないと後悔する。
 僕はそれを魔力でしているだけだ。
 集中すると、魔力を目で見ることもできるようになった。


 ルスカの中にある魔力の量も、ローラやピクシーに比べると、とんでもない量を持っている。
 それでも、日々努力し続ける僕ほどではない。
 大人の人たちは魔力を目で見ることはできるだろう。
 僕は自分の魔力を練って体内に隠し、魔力を外に漏らさないようにした。


 ただ、僕は筋力が圧倒的に足りない。
 今だ、満足にハイハイもできない体なんだ。




 筋トレも続けよう
 せめてルスカに追いつけるように。



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