テンプレバスター!ー異世界転生? 悪役令嬢? 聖女召喚? もう慣れた。クラス転移も俺(私)がどうにかして見せます!
第30話 樹ー夢現回廊1 後編
「ね、ねえ? 学校を抜け出したけど、どこに行くの?」
響子が問う。
学校を抜け出した俺たちが向かう場所は、もし、この世界に来た時に行くべきだと妙子に言われた場所。
「妙子のアパートだ。」
「妙子の?」
妙子は化け狸だ。
前々から狸だろうと思っていたが、転移初日に由依がこの世界に来る夢を見たとき、妙子が慰めてくれたと言っていた。
その時、妙子はしっぽと耳を生やしていたんだと。
直接は見ていないからしらんが、わざわざ由依が嘘をつく理由もないし、むしろ妙子が狸だってことに納得をしたくらいだ。
そんな妙子だが、当然、住所や戸籍がないと生活ができない。
だからこそ、妙子に与えられたアパートに突撃するのだ。
妙子にもしこの世界に来るとするならば、様子を見てきてほしいと頼まれているからな。
「たしかここを曲がって………あれだ」
そこにあったのは、ボロアパート。
「ここが妙子の家?」
「そうみたいだねー。」
「ポストの中にダイヤル式バンカーが入ってる。番号は………」
妙子に教えてもらった4桁の暗証番号をクルクルすると、バンカーが開いて、中からアパートの鍵が出て………こないな。
「ないぞ。妙子のヤツ嘘ついてんじゃねーだろーな」
「まってタツル! 家の中にタエコちゃんがいるとしたら、鍵は使った後だよ。家の中じゃないかな」
「………たしかに。」
葉隠苑の201号室。ここが妙子の家だ。
葉隠苑って………ここのアパートタエコの持ち家か? すげーな。
情報使って金儲けって、不動産もやってるのかよ。
「妙子、邪魔するぞ」
ノブを捻ってみれば、かぎはかかっておらず、簡単に侵入することが出来た。
「うわ、すごいなこの部屋………」
壁には神隠しやら怪死事件やら、不可思議な事件を見出しにした新聞の切り抜きが貼られている。
これらは、俺らにはわからない妙子の物語だ。深くは掘り下げないほうがいいな。
「妙子!」
部屋の隅に丸まっているこげ茶色の毛玉を見つけた。妙子の髪の色にそっくりだ。
化け狸のことはわからんが、妙子の精神があの異世界に行っている状態では狸である妙子はまともに生活ができないのであろう。
妙子を保護しておかないと、もしみんなが元の世界に戻っても、妙子だけ戻れない可能性がある。
それはつぶしておかないといけない。
「それが、妙子なの?」
「ああ。おそらく間違いないだろう」
「あの世界の夢を見た後だと、妙子ちゃんが狸だと知っても驚きは全くないね」
「あれが特殊なんだろ」
俺が抱き上げたこげ茶色の狸は、浅く呼吸をしている。生きている。
だが、必要以上に動かない。
「たぶん、家に帰ってから外に出られず、何も食べてないよ。」
「狸が食うもんなんて俺知らねえぞ」
「あ、見て見て! 妙子ちゃんの連絡手帳発見! 今時手帳に連絡先って珍しいねー」
若干衰弱しているタエコをどうしたものかと考えていたら、響子が部屋の中を物色して妙子の手帳を発見していた。
妙子の手帳とか、脅迫手帳とか弱み手帳とかそんなことが書いてありそうでめっちゃ怖いんだけど
「とりあえず、一番最初の欄に書いてある分福さんって電話番号に連絡してみる? 市外局番的にも近所みたいだし」
「………かけてみるか。分福って苗字がいかにも狸の親戚っぽいし。」
俺はスマホを取り出して、手帳に書いてある番号にかけてスピーカーにしてちゃぶ台に置いた。
『はい、分福です。』
3コールで電話に出たのは若い女性? だった。
「あ、お世話になっております。わたくし、鈴木と申しますが」
「ぶっ!!」
笑うな由依。
『はい、鈴木さん? どういったご用件でしょうか?』
「葉隠妙子さんについてお伺いしたいことがございまして」
『妙子おばーちゃんのこと、ですか? 』
おばあちゃん! やはり化け狸としての年齢は俺たちよりも相当上か。
「ええ。単刀直入に聞きますと、分福さんは狸ですよね?」
『ああ、まあそうですけど………』
そこまでわかられていたら否定の仕様がないのか。
「葉隠妙子さんが諸事情により人化できない状態でして、意識も混濁しており、まともに行動できる状態ではございません。わたくしはそういった件では少々不慣れでして、妙子さんの手帳に書かれていたお電話番号を頼りにご連絡させて頂きました。」
『あー、そういうことですか。でしたらウチで引き取りますよ。今どこですか?』
「妙子さんのアパートです。住所は………」
『ああ、そこですね。すぐ向かいます。』
そういって電話を切られた。
「………。妙子のことはなんとかなりそうだな」
「タエコちゃんがその人と絶縁とかしてたらものすごく余計な事しているかもしれないけれど」
「四の五の言っている時間がないもんね。」
家に帰りついたはいいが、そのあとに人化が解けて家の中に閉じ込められてしまったんだろうな。
妙子が早めに気付いて想定してくれて本当によかった。
しばらくすると、ドルンドルンとスクーターの爆音が近づいて来た。
スクーターを止めてヘルメットを外すと、妙子とよく似たこげ茶色の髪。妙子と違って腰まで伸びている。
ライダースースを来た女の人だけど、体型は妙子よりもナイスバディ。
大学生か?
「いやー、おまたせしました。これが妙子おばーちゃん? めっちゃ衰弱してんじゃないですか。あなたたちが連絡してくれたのですね?」
そんで、頭の上にはクヌギの葉っぱが乗ってた。
葉っぱ乗せてないといけないの?
「はい。妙子のクラスメイトの鈴木樹と申します。」
「佐藤由依です。」
「白石響子です………。」
と自己紹介。
「私は分福ヱリカです。大学2年生。妙子おばーちゃんのクラスメイトってことは中学生ですか? 今授業中ですよね。何があったのですか? 狸であることも知ってるみたいですし。」
「会う人会う人に同じ説明するのは面倒ですが、かくかくしかじか………。」
………
……
…
「………なるほど。おとといからそんなことに巻き込まれていたんですね。まさかクラスメイト全員が異世界召喚に巻き込まれるとは………。それなんてラノベですか?」
どうやら妙子とは違ってアニメ文化には詳しい狸さんらしい。
「ヱリカさんは信じてくれるのですか?」
「ええ。妙子おばーちゃんが死ぬところなんて想像できないですし、こんな風になってるのはその異世界召喚のせいってことでしょ。信じますよ。そんな緊急事態だからこそ、おばーちゃんも狸であることや住所を教えてあげたんだと思いますから。」
「なるほど………?」
「樹さんと由依さんの推察だと、いま、皆が夢を見ている状態なんですよね?」
「はい………」
「ちょっとおばーちゃんが今、どんな夢を見ているのか、見て見よっか。」
「「「 ………え? 」」」
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
267
-
-
2
-
-
127
-
-
4
-
-
29
-
-
63
-
-
39
-
-
1
-
-
37
コメント