テンプレバスター!ー異世界転生? 悪役令嬢? 聖女召喚? もう慣れた。クラス転移も俺(私)がどうにかして見せます!

たっさそ

第23話☆由依ー魔物を操る者の末路はだいたい同じ。



 リトルフェンリル、二郎三郎の咆哮でクモの子を散らすように散るクモたち。


 ………二郎三郎の咆哮で消滅したクモも多い。
 それに、このリトルフェンリルがほぼ一撃で確実にリザードマンたちの息の根を止めてくれるから、戦場に余裕ができる。


 勇者である光彦くんは、操者であるリビディアではなく、目覚めたオーガでもなく、リザードマンの対応に追われている。
 それは適材適所でもある。


 技、スキルの威力、範囲ともに優秀な光彦くんは、ボスと戦うよりも、大勢を相手取り殲滅していく方が向いている。
 さらには、なんだかんだで優しい彼に、ゴブリンとも違う、人の姿をして、人と言葉を交わせるリビディアを討つことは不可能だろう。


「グ、グギ、グギゴォオオオ!!!」


 五戒魔帝、邪淫のリビディアの能力アビリティ、<女王様の興奮作用リビドー
 彼女の血の匂い、音、視覚。味覚、触覚
 彼女の散布する魔力に触れると、魔獣が凶暴化して大興奮する。




 突如上から降ってきたこのツノの生えた赤い肌の巨大な鬼。オーガも。
 理性をなくし、凶暴化したも物なのだ。


「うぉおおお!! 四五六索シゴロッソー!!」


 そんなオーガに果敢にも挑まんとするのが、チンピラ赤信号。赤城雄大。
 背中に張り付いていた青信号はさっきどっかにぶん投げてたよ。あとはしらない。


 そんな彼は抜き手で素早くオーガの左右の脇腹を刺し、身長差のあるため、金的と鳩尾に抜き手をねじ込む。


「グギガァアア!!」


 振り払われた腕をバックステップでかわす赤信号。


四五六萬シゴローマン対子トイツ!!」


 そしてもう一度距離を詰める。今度は一撃一撃がすこし重い、左右掌打レバー打ちと両手突き。赤く光ったその掌打が、敵にクリティカルヒットを与えたのか


「ギゴォオオオ!!!」


 絶叫をあげながら赤信号に両の拳を振り下ろした!!


「がぁあああああ!!!!?」


 直撃! 腕をかち上げて潰されるのだけは防いだものの、オーガの膂力で振り下ろされる拳は物量の兵器だ。
 受けた腕はボロボロだし、爆心地の地面は完全に爆ぜている。


 ゴン、ゴロゴロ!! と転がる赤信号に私が駆け寄った


「平気!?」
「あぁ………邪魔すんな………!」


 頭から顔から腕から血を流しながら立ち上がるあんたにそんなこと言われても信じられるわけがないでしょうが




「【ヒール】。痛みは取れた?」


「………。あぁ、だいぶな。………助かる。」


 流石に傷つくクラスメイトを見ていられるわけがないので、聖女の回復魔法を唱えることに躊躇はない。
 素直にお礼を言われてことに面食らいつつ、完全に痛みが取れたわけじゃないことに、やはりかなりの重症だったかと息を漏らした。


「ちょっと雄大! 無事!?」


 私に少し遅れてギャルの内山ヒロミが寄ってきたので、私はリザードマンの殲滅に戻ることにした。
 内山ヒロミ。


 彼女のアビリティは<治療法士セラピスト
 ギャルでありながら、彼女の将来の夢は看護師さん。
 聖女である私の次に優秀な回復術師だ。まあ、つまり私がいなければ一番の治癒士だ。
 あとは彼女に任せておけば問題ないだろう。


 オーガは………。タエコちゃんが背中から手拭いで首を締めながら後ろに思い切り体重をかけている。
 足でオーガの背中を押し、全力で首を締めているのがわかる。
 オーガは苦しそうに手拭いを剥がそうと首に爪を立てているが………
 やることがえぐい。
 タエコちゃんって、本当にすごいな。


「【エクストラヒール】! これで大丈夫?」


 ヒロミの治療のおかげで完治した赤信号。


「おう。………すぐにいく。ありがとな、ヒロミ。」
「いいっていいって。行ってこい! 怪我したらまたアタシが直してやんよ。」


 バシッと背中を叩いて送り出す様は、まるで弟を見送る姉のよう。


 タエコちゃんとタメをはる面倒見の良さかもしれない。


「葉隠っち、この状況だ。セクハラとか言わないで欲しいっぜぃ!」
「言うわけがなかろう。佐之助! 全体重をかけるのじゃ!!」


 タエコちゃんがオーガに対して全体重をかけてオーガの体を後ろにそらそうとしていたところ、探知による空間把握で必要なところに現れたエロガッパの佐之助が、タエコちゃんの腰に飛びついて全体重をかける。






「御膳立てありがとよ。うぉおおお!!」


 赤信号は上体のそれたオーガの膝を踏み台にして拳を握り締めた




七筒チーピン対子トイツ!!」




 そして、渾身の左アッパーカットが炸裂。


 重心が後ろに傾いたオーガは、その勢いに抗いきれず、仰向けに倒れる。


 タエコちゃんと佐之助がすかさずその場から離れ、リザードマンの討伐とジュエルタランチュラの討伐に移る。


 赤信号はというと………


四五筒スーウーピン


 倒れたオーガの右脇腹と、顎と心臓を拳で撃ち抜く赤信号。


「はぁ、はぁ、まだ………こんなんじゃくたばんねえだろ。いーもんくれてやるよ………!」


 肩で息をした彼が、オーガから離れると、両の拳をガン! と打ち付け


立ーー直リーーーチ!!」




 と宣言すると、青いオーラを全身に纏った。スキだらけのその行動になんの意味があるのかはわからない。
 わからないが、今、あの赤信号に力が満ちているのはわかる。




「グギ、グギゴゴォオオオ!!」


 その隙だらけの行動の間に、オーガは今までの痛みなど、なかったかのように立ち上がる。
 あれだけやっても全然効いていない。


 だが、オーガが立ち上がっている間に赤信号も準備を整えていた。


 その立ち上る青いオーラに、先ほどまでの戦闘のダメージなどなかったかのように立ち上がったにもかかわらず、オーガが青いオーラに動揺しているのだ
 赤信号に対し、なんとも言えない恐怖を覚えたオーガが、身を翻して逃亡しようとする。


 矮小な人間に何故怯えているのかわからないオーガに、赤城が静かに告げる。


「ツモ。」


 踏み込んだ赤城の左の鉤突きがズドム! と突き刺さる たしか、左の鉤突きは六筒ローピンだったっけ。


「イッパァアアアアツ!!」




 その鉤突きを振り抜き、叫んだ。


「<立直メン断么中タン平和ピン三色同順サンショクー盃口イーペーコー一発イッパツ自摸ツモ> 赤ドラ一………9飜、倍満バイマンだ。喰らっとけ。」




 バムッ!! ともバチュッ!! ともつかない音を残し、オーガの身体が爆散した。


 いや、オーガだけではなく、周囲にいたリザードマンやジュエルタランチュラまでも粉々に粉砕されていくではないか


「おー、雄大のそれ、すげーな。ツモったら周囲の敵も爆散かよ」
「ああ………佐藤と葉隠、あとヒロミの助けがなかったら死んでただろうけどな」


 チンピラ信号機3人が集まり出した。カラフルで目がチカチカする。
 黄信号、黄島徹の質問に、こちらへの感謝を伝える赤信号。


「カウンターでロン。自らぶっ殺しに行きゃツモだっけ、ピーキーすぎんぜ。」
「くそしんどい。ってかてめよくも俺をクモの盾にしやがったな」
「ごめんって。マジで8本足無理なんだから!」


 ドゲシと青信号の尻に蹴りを入れる赤信号。怯えてただけだもんな。
 火力のある赤信号を主軸にヒットアンドアウェイできるように信号機共で調整しとけばいいのに。




「さて、あとはテメーだよ、素敵乙女くそやろう。お高く止まってんじゃねーぞ。」


 中指立てる赤信号の活躍により、敵が一掃された




 自分の周囲に侍らせたリザードマンやジュエルタランチュラを除く全ての魔物を一掃したのだ。




「すごいわねあなた。ほとんど一人で私が興奮させたオーガを倒しちゃうなんて! ハナマルあげるわ」


「あー? いらねーよ。自分の心配しやがれ」


「ふふっ、自分の心配? たかが新米勇者に遅れなんかとるわけがないじゃない。」


 不適に笑うリビディア。


「なにいって………っ! なんだ、胸が熱い………!」


「ふふっ、最初に言ったでしょ。私の能力は、魔獣や人間を、興奮させるって。心臓が痛いくらいに早く動くでしょう? 目の前が真っ赤になって、暴れ出したくなるでしょう? 女の子に、襲いかかりたくなっちゃうでしょう? いいのよ、素直になっても。人間の本能だもの。私の血の匂い。指笛の音。ずーっと浴び続けていたんだもの。戦闘の興奮とごちゃごちゃになってても、ちゃーんと効いてくるものよ」






 ドッ と膝をつく赤信号。心臓を抑えて苦しそうだ。
 同時に、複数で膝をつく音が聞こえる。


 騎士団長のダンさんまでも、胸を抑えて苦しんでいる。


 幹部の名に恥じない、その外道の能力。
 魔獣を興奮させ、下僕にして操るだけじゃない。
 敵である人間にもその作用はあり、同士討ちなどを誘う。


 本人の戦闘力はいまいちでも、その能力はやはり凄まじい。


「ヒロミ! ユカリコ! 浄化と聖域出して!!!」


 私は、リビディアが指笛と共に放つ魔力を己が纏う魔力で弾いていたため、その効果は受けていない。


「わかったわ! <精霊エレメント聖域サンクチュアリ>!」
「みんな………【浄化ピュリフィケーション】」




 比較的魔力やスキルに対する防御力の高いヒーラー系のアビリティであるヒロミに一帯を浄化してもらい、ユカリコの精霊の結界で守ってもらえればすぐに前線復帰できるはずだ。


 俊平ちゃんは………? よかった。ユカリコのそばにいる。問題なさそうだ


「新米じゃなければ、いいんだね。」


 私はそう言って、リビディアに距離を詰めた。


 もう、キョーコもタロウも燃料切れだ。
 言霊系の異能は力を多く使う。


 乱発はできない。100を超える魔物との連続戦闘に、みんなの疲弊も限界を超えている。


「なに? あなた。何もしてないくせに粋がるのはバツよ。」


「観察していたって言って欲しいかなー。ま、イキってるのは否定しないけどね。理由は説明しないけど。」


「………。」


「私はね。私じゃなくて、主人公が幸せになる物語を見るが好きなの。」


「何言っているの? 理解不能はバツよ。」


 近衛として残っていたリザードマンが爪を振り回してくるが、剣を抜いた私はリザードマンの首を刎ねる。


 これでも<剣士>のアビリティを持っているからね。リザードマン程度ならサクサクだよ。


「理解してもらおうなんて思っていないよ。ただ、みんなの幸せのためにはあなたみたいなのが邪魔なの。【ホーリーチェーンバインド】」




 リビディアの手を掴み、魔法を発動する。
 彼女の手足に聖なる鎖を絡ませる。


「な!? 早っ」




 レベルのゴリ押しなんて好みじゃないんだけどさ。茶番に付き合うのもうんざりなわけ。
 とはいえ、敵も魔王様直属の幹部。
 夢でレベルのドーピングをしている私と、同程度のステータスは保有しているのだろう。




「あなた、私の能力が効いてないの!?」


「デバフに対する対策はバッチリだよ。指笛と一緒に魔力を飛ばしているから、それを弾けばいいだけ。」


「なら直接触れれば問題ないわ。さっき私に触った時に」


「【浄化ピュリフィケーション】」


 私は全身を浄化する。


「なぁ!?」


 曲がりなりにも聖女だもの。
 夢幻牢獄で手に入れた聖女のアビリティ。
 そして、夢のパワーレベリングの効果もあって、大抵の攻撃は食らわない。


 相手がデバフ特化だからこそ、私には相性のいい相手なんだよね。


「指笛は吹かせないよ。魔物なんて呼ばれても困るし」


「くっ!」


 手足を鎖で縛ってあるので、指笛は吹かせられない。
 私は剣を彼女の首に添えて


「質問に答えて欲しいのだけど、あなたたち魔人は、どうしてこの地を侵略してくるの?」


「あ、あら。土地を奪うのに理由が必要かしら」
「そ。ならもういいよ。」




 土地を奪うのに理由があるのならそれを知りたいが、理由もなく暴れるのこ戦闘種族にはもはや意味がない。


「さよなら」


 剣を振りかぶり、リビディアの頸に剣を振り下ろす!


 ーーガギン! と、宝石のような体から8本の手足が生えているクモの魔物、ジュエルタランチュラ。
 彼がその宝石のような腹で私の剣を受け止めた。


 50cmはある大物のタランチュラだ。


 クモの中でも、タランチュラはたしか、糸を張って罠を作るのではなく、待ち伏せを得意とする虫の世界のハンターだ。


 その宝石のような見た目から、勘違いをした人間を捕食するための擬態なのだろう。


 そして、いわゆるスパイダーとの違いとして、タランチュラ系はお尻からではなく、足の先から糸を出す。


 待ちのハンターであることから、糸を伝った振動で獲物を感知して、瞬発力で獲物を捕らえにくる。
 つまり、クモというのは、素早いんだよ。


「ふっふふ、私は五戒魔帝。そんな簡単に死んでやるものですか! そんなの美しくない、バッテンよ! ガァアアアアアアアアア!!!!!」




 やはり魔王直属の幹部というのは伊達ではなく、私でも倒すのに苦労するレベル。
 大量の魔物には足を止められるし、本人の魔物を使役する能力も高い。


「自らに興奮作用を!? よくやるなぁ………。そして、まあよくあるなぁ!」


 私の聖なる鎖を引きちぎって大絶叫するリビディア




 その絶叫にも、当然魔物を興奮させる効果もあるわけで………




「第三階層、クリスタルモンキー。第五階層、リトルドラゴン、第十階層守護者、漆黒竜ブラック・ドラゴン


ーーードドドドド!!!


 と、地響きが続いてくる




「ねえ、魔族領土出身の私たちが、どうしてこの国にきたと思う? どうして、迷宮に誘ったと思う? どうして、この迷宮の名前がジラトール大迷宮なんだと思う?」


 迷宮の名前?


 人間の住う、ジラーダ大陸、そして魔人の住うトール大陸。そういうことね。


「この迷宮は通り道。あなたたち人間族の住うこの地を魔人の領土に変えるためのね! ここにくる間、ずいぶんと手懐けてきたわ。」




 つまり、もう魔人の侵攻は始まっているってことね。




 バゴォオオオオン!!! と、地面が爆ぜる。
 巻き込まれたクラスメイトたちはいないみたいだが、その穴は深く、その穴からジュエルタランチュラやリザードマンが蠢いているのがわかる。


 それだけではない。ムカデのような魔物や蜥蜴のような魔物。バッタのような魔物もいる。


 バサバサとその穴から翼を広げて現れたのが、漆黒の体を持つ竜。
 それが興奮した紅い瞳でこちらを睨み付けていた。


「うふふ、階層をぶち抜くブレス。漆黒竜ブラックドラゴンのおでましよ。満身創痍の勇者たちに、相手ができるかしら?」


 なんて、余裕ぶっていたリビディアだが




 漆黒竜ブラックドラゴンがリビディアを視認した瞬間、漆黒竜ブラックドラゴンがブレスを放った。


「っ!? <聖域サンクチュアリ>」
「っ!! 魔力障壁!」


 突然の攻撃に晒され、私はスキルで自分の身を守る聖域を展開するも、あまりの威力に私の聖域はあっさりと弾け飛び、後方の壁に激突する。
 ガラガラと崩れ落ちる瓦礫に埋もれてしまった


「佐藤!!」
「由依にゃん!!」


 みんなの叫ぶ声が聞こえる。
 マジかぁ、この竜、今の私より強い………。
 みんな、逃げて………


 かすれる意識で瓦礫の隙間から見える景色には
 私のような結界を展開しきれなかったリビディアが、そのブレスに巻き込まれ、焼け焦げながら吹き飛ばされる姿が映る


 身の丈に合わない魔物を操ろうとした奴の末路だった。


 興奮作用の能力で、漆黒竜ブラックドラゴンの怒りを買っていたのだろう。
 魔物全てを操れるわけではないらしい。


「ぐ、ぅ………【継続回復リジェネレーション】………」




 せめてもの抵抗で、私は意識を失う寸前に、自分に継続回復魔法をかけたーーー













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