テンプレバスター!ー異世界転生? 悪役令嬢? 聖女召喚? もう慣れた。クラス転移も俺(私)がどうにかして見せます!

たっさそ

第14話 由依ー遠征で『イレギュラー』が起きる確率は100%





「なんだか嫌な予感がする………」




 そう漏らしたのはユカリコちゃん。


 皆のアビリティの検証が済んで、ミシェルちゃんとお友達になって、早1ヶ月。


 あれから、現実の世界に戻る奇妙な夢は一度も見なかった。


 あの夢の記憶は今も鮮明に残っている。


 今、元の世界は何月何日なのだろうか。


 私も、生気の無い返事を繰り返す人形になっているのだろうか。


 そんな思いが、不安が、グルグルと私の中をかき乱す。


 この1ヶ月で見た夢は、沢山ある。


 夢を見なかった日もある。


 とはいえ、夢を見た日の方が圧倒的に多い。


 剣を携えた聖騎士を目指す夢。武道大会で優勝して目が覚めた。【剣士】のアビリティが生えた。


 錬金術で現代日本の便利用品を作る夢。冷蔵庫倉庫を完成させたら目が覚めた。【錬金術師アルケミスト】のアビリティが生えた。


 回復系聖女の夢を見た。闇市で買った部位欠損の獣人奴隷の結婚を見届けたら目が覚めた。アビリティは生えなかった。


 料理系ドヤの夢。肉ジャガで、じゃがいもが国全土で人気になったら目が覚めた。【料理番コック】のアビリティが生えた。


 どんどんと他のクラスメイトたちと性能がかけ離れていく。
 これは夢幻牢獄の効果なのだろう。


 夢で体験した異能をアビリティにして手に入れる。それが私の夢幻牢獄ドリームゲートの能力。


 みんなとはかかっている年数が違う。


 ずるはしていない。牢獄からの脱出ができないと、その能力は手に入らないし、研鑽を積まないと夢のシナリオをクリアできない。


軍師転生のシナリオでは、軍隊を操る才能が私にはなかったため、味方に甚大な被害を受けた。バッドエンドだったためか、アビリティは生えなかった。


 みんなが一日かけて修練を積んでも、私は夢の中で数日から数年。鍛錬を積める。


 隠し通すことはできないだろう。


 それはタツルも同じだ。


 タツルは私のようにステータスにアビリティが増える事こそなかったが、レベルは確実に上がっている。
 まだタツルの能力には秘密があったが、それはおいおい。といっても、私の能力とそう変わらないけど。


 正直、皆のレベルに合わせられる自信がなくなっていた。


 私たちと同じように能力がおかしいのはやはり田中ちゃん。


 能力の検証のためと王宮が用意できるあらゆる衣装を準備してもらい、怪盗の衣装を気に入り、怪盗衣装を着ているときに限り【大怪盗ファントムシーフ】のアビリティを生やした。


 大元が【転身願望】とはいえ、私の【夢幻牢獄】と同じく新たなアビリティを生やすことが出来るのだ。
 ミシェルちゃんが言っていた「アビリティを持つものは5人に一人」というのが何だったのかと言わんばかりの意味不明さ。
 まじで意味がわからない。


 で、みんなが魔法やアビリティのことを理解できるようになり、剣や槍を使った戦闘訓練、行軍訓練などを行った後に、遠征することになったの。


 それが今日。


「ついにきたね。」
「ああ。遠征イベントはハプニングが必ず起こるからな。」


 そう、なろうのクラス転移において、遠征イベントはほぼ間違いなくハプニングが起き、主人公が取り残される形になる。
 あろうことか、それは追放や裏切りのトリガーになるのだ。


 物語における、3つの INGは、くしくも恋のINGと一致する。


 フィーリング。事前に嫌な予感を感じること。


 タイミング。 奇跡的な巡り合わせで


 ハプニング。突発的な出来事が起きる。


 起きないわけがないのだ。突発的な、イレギュラーが。
 本来、予想のつかないことが。必ず起こる。
 それが、遠征イベント。
 物語において、イレギュラーはレギュラーなのだ。




 この一月の訓練で、みんなレベルが上昇している。
モンスターを倒さなくとも経験値自体は経験で稼ぐことができるのだ。
 夢幻牢獄も、そういった経験からレベルをあげているのかな。わかんないけど。




「みんな朝食は抜いて来たな? ………では、コレより森に入る! くれぐれもはぐれて行動しないしないこと! もし逸れたことに気づいたら動き回らず、その場で待機すること。わかったか!」


「「「 はいっ! 」」」


ルルディア王国の騎士団長、ダンさん
彼が監督として私たちの行軍を先導、指導してくれる。


当然、私とタツルはモブムーブで元気に返事を行う。


だが、ここから先は全く油断できない。




「クラスメイトが主人公と仮定した場合の、正解が分からない」


そう。もし、みんなとはぐれるようなことがあれば?


捜索するのが最善?


放置が最善?


阻止が最善?




物語の二次創作なら、阻止しただろう。


主人公が強くなるためのイベントなら放置が安定だ。


無難に済まそうとするならば、逸れた後に捜索すればいい。


でも、コレはオリジナルだ。


何が起こったとしても、誰かが怪我をするのなら………


「未然に防いでみせる」
「付き合うよ。」
「田中もいるにゃ!」




 私の呟きに、タツル、タナカちゃんが追従してくれた。


「シナリオを確認するぞ。この遠征、イレギュラーが起こる可能性は100%だ。必ず起こる。それがスタンピードなのか激強魔物かダンジョントラップかはわからん。俊平の警護を優先しつつ、周囲の警戒に当たる」


「「 了解(にゃ) 」」


「誰かがはぐれたとおもったら、佐之助の探知の力を借りる。」


あのエロガッパに頼るのは癪だけど、能力は間違いなく優秀だ。
頼れる手札、切るカードは選ばないといけない。
生存への選択肢を増やすために。




「わかってるにゃ。序盤に誰かを殺すことで現実を認識させるなろうはたくさん存在するにゃ。リスクはなるべく早く減らさないとにゃ。」
「ああ。だからこそ、誰も死なない未来を作るんだ」
「うん。テンプレだからこそ、イレギュラーに対応できるようにしないとね!」




気合を入れ直して、ダン騎士団長に続いて森に足を踏み入れた。




……………
………





森の中の、じめっとしたエリア。




「ここはスライムの温床だ。上からボットリとやられると窒息する恐れがある。頭上と足元に注意するように。」




ダンさんの助言に、上を見上げるクラスメイトたち。
何人かの生徒はヌメる足元にズルっとなっていた。


「ほら、出たぞ。スライムだ。誰が最初にやるか?」


ダンの指さした先には、透明なゼリー。中心に核がある典型的な弱点曝け出し型のスライムだった。
人の頭くらいの大きさで、あまり大きくはない。


スライムの扱いは作品によってのばらつきがあるものの、核があるタイプは比較的容易に退治できる。


核がないタイプはマジでやばい。分裂したり大きくなったりアイテムボックスの代わりにしたりとやりたい放題だ。
かくいう私も、夢のテンプレの世界ではスライムをテイムして世話になったものだ。


「じゃあ俺がやってやるぜ!」


と、名乗りを上げたのは、生徒会超人メンバーの最速の韋駄天、ドヤマシーン早風瞬。


「スライムの弱点は核だ。あの透明なタイプは毒や酸や魔法も持たない。核を潰せばスライムの活動は停止する」


ダンさんの助言を受けて二本のナイフを構える
早風瞬の戦闘スタイルは、軽装で速度を生かしたヒットアンドアウェイ。




「〈俊足〉! 〈縮地〉! 〈十文字斬り〉!」




明らかにオーバーアクション。


スキルを3つも使ってスライムを攻撃し、核を破壊した瞬くんだけど、そんなにスキルは必要ない。


ちなみに、〈俊足バフ〉〈縮地アクション〉〈十文字斬りこうげき〉だよ。




「へっ、余裕だぜ!」


そうでしょうよ。感動もないわ。ドヤドヤすんな。




樹の場合。


近くにやってきた、膝くらいまである大きめのスライムだ。


タツルはしゃがんで手をこまねいてスライムを呼び寄せている。
俊平ちゃんはタツルの後ろで立ったまま膝に手をついて様子を見守っていた。


「るーるるるる、るーるるるる」
「樹くん、なにやってるの?」
「スライムに餌やろうとしてる」
「餌って?」
「ああ!」




 なんか会話のドッジボールみたいなことを俊平ちゃんとしながらタツルが取り出したのは、両手サイズの袋。


「じゃーん。お塩!」
「お塩?」
「スライムって単細胞生物っぽいナメクジだと思えば、塩って効きそうじゃないか? ここに出る魔物調べて、準備しといたんだよね。」
「あー、浸透圧、だっけ。樹くん好きそう」
「あパラパラ〜っとね」
「袋の中全部!? あぁ………スライムがどんどん濁って縮んで………」
「ほい。核だけ抜き出してみた。」
「遊んでるよね」
「なんかぬちゃぬちゃする」
「でしょうね。」
「おーい、稔。これ食ってみろよ。いい塩加減かも知れないぞ」


 なんて言いながら団体一名様、ミノルくんに採れたてホヤホヤぬちゃぬちゃ拳大のスライム核を差し出すと


「俺を実験台にするな樹! せめて清水で洗ってニンニクと酒と醤油と香草に漬けて一晩冷蔵庫で冷やした後に焼くか揚げるかしてからにしてくれ!」


「「 贅沢に食うんかい! 」」


タツルと俊平ちゃんのツッコミが響いた。


なんか調理法聞くとスライムの核でも美味しそうに聞こえるから不思議。
同じこと思ってたクラスメイトみんな吹き出してたよ。













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