東京PMC’s

青空鰹

紫音と腑に落ちない下谷

 応接室を出た僕達は出入口に向かって廊下を歩いていたが、後から走って来る足音が聞こえたので振り返えってみてみると、筒城先生がそこにいた。

 「筒城先生? 走って来てどうしたんですか?」

 「ハァ、ハァ・・・・・・どうしたも何も、さっきの意味が理解出来ないから追い掛けて来たの」

 「その時が来たら、心を強く保つ。って意味ですか?」

 その問いに首を縦に振った。

 「筒城先生には無関係な世界の話ですから、聞かなくてもいいと思いますよ」

 「そうですよ。ツツキ先生はコトバの意味を理解しなくても平気ですよ」

 立ち去ろうとしたのだが、肩を掴まれて止められてしまった。

 「先生は答えがわからないので、教えて欲しいです」

 「ダメです。筒城先生でも教えられません。って言うよりも、自分で気付かないと意味がないので答えられません」

 「それにツツキ先生はシってどうするんですか? まさかとは思うのですが、あの子達に教えるのですか?」

 コニーさんの言葉が図星だったのか、筒城先生はバツの悪そうな顔をさせた。

 「そのヨウスだと伝えるつもりだったんですね。ワタシ達は暇ではないので、行かせて頂きます」

 コニーさんはそう言うと、僕の手を取って歩き出した。

 「コニーさん、落ち着いて」

 「ワタシは落ち着いていますよ」

 いや、何か・・・・・・いや、気にしない方がよさそうな気がする。

 怒っているコニーさんと共に校舎を出て下校するのであった。

 「・・・・・・ねぇシオン」

 「何、コニーさん?」

 「紫音は、マイって子をどう思っているんですか?」

 「どうって・・・・・・どう言う意味ですか?」

 首を傾げていると、手を引っ張っていたコニーさんがこっちを向いて来た。

 「どうって、スキだったとかぁ〜・・・・・・色々ありませんか?」

 「う〜ん。舞ちゃんはもう付き合っている人がいるし、何よりも好き嫌いとか言う恋愛感情はないよ。幼い頃からずっと一緒に居たから、家族のように心配なだけ」

 本当はあの場で舞ちゃんのは実戦に出て欲しくないと言いたかった。だけど言ったら言ったでケンカになりそうだったから、グッと我慢をしていた。

 「そう、なのですね。ちょっと残念ですね」

 「何が残念なんですか?」

 「ワタシはその彼氏とシオンで、マンガのようなマイの取り合いをする姿を見れるとオモっていたのですが、そんな状況になりそうもないですねぇ〜」

 「要するに、コニーさんは修羅場を見たかったんですね」

 僕がそう言うと、コニーさんがコクリと頷いた。

 「コニーさんの性格が悪い気がする」

 「せ、セイカクが悪いとは失礼ですよシオン! ワタシだって少女マンガのような展開を一つや二つ、思い浮かべますよ」

 恥ずかしそうに言うコニーさんを見て、ちょっと面白いと感じてしまう。

 「シオン、何で笑顔なのですか?」

 「コニーさんが可愛いなぁ〜。って思ったんで」

 「ワタシを褒めても何にもデませんよぉ〜だ」

 「その通りだね」

 「アハハッ」

 「フフフッ」

 その後も他愛もない話をしていたら、バス停に着いた。

 「それじゃあシオン、また明日アいましょう」

 「うん、それじゃあね!」

 コニーさんの乗ったバスを見送った後、事務所へ向けて歩き出した。

 あ、下谷さんが高校に来た事を天野さんに報告しようかな? でも、報告をしたら、 アイツら、またお前に会いに来たのか。暇なヤツらだなぁ。 だけ言いそうな気がする。

 「とりあえず先ずは天野さんに報告する前に、リトアさんやリュークさんに話をしてからにしようか」

 「何が先ずは俺に報告する前になんだ?」

 「・・・・・・あ!」

 天野さんがガレージの中からヒョッコリ顔を出して、僕の方を見つめていた。どうやらガレージで作業をしていたみたいだ。

 「天野さん、そこにいたんですね」

 「ああ、まぁな。ところでお前、随分と遅い帰宅だったじゃないか。一体何をしていたんだ?」

 「えっとぉ〜・・・・・・手短に話すと下谷さんと生徒2名が僕の通っている高校に来て」

 「実戦に出るのは賛成か反対か聞かれたのか?」

 「はい、そうです。って言うか、何でわかったんですか?」

 そう聞いたら、天野さんはウンザリした顔になる。

 「その言葉を羽田空港で、嫌って程聞いたからな」

 「ああ、なるほど」

 あの校長先生が鬼の形相で天野さん達に迫る姿が目に浮かんだ。

 「それはそうと、お前自身もあの高校の連中と実戦に行くのは反対なんだろう?」

 「はい」

 「だろうな。それよりも今日のアルバイトはどうしたんだ?」

 「真奈美さんから遅れて行きますと連絡して貰っています」

 「ふ〜ん、そうか」

 天野さんはそう言うと煙草を咥えた。

 「とにかく、早く私服に着替えて真理亜のところへ行けよ。あんまり待たせると怒られるからな」

 「わかりました」

 「それと車の調子を見るついでに送ってやるから、準備が出来たら声を掛けてくれ」

 えっ!? 天野さんが僕をスナックまで送ってくれるだって!

 「何か天変地異の前触れじゃなければいいんだけど・・・・・・」

 「何が天変地異の前触れだ。俺にだってそれぐらいの良心はある。さっさと着替えて来い」

 「あ、はい」

 天野さんに言われた通り、自室へと戻ると服を着替えから天野さんの元に戻って来る。

 「準備出来たか?」

 「はい!」

 「そんじゃあ車に乗ってくれ」

 「はい!」

 天野さんは僕が助手席に乗ったのを確認すると、エンジンを掛けて出発させた。

 「あれ? いつもとエンジン音が違う気がする」

 「エンジンオイルとバッテリー液の交換ついでに、マフラーとタイヤを新調をしたんだよ」

 「へぇ〜、そうなんですか。何か調子がよさそうですね」

 「いや、そうとも言えないな」

 「え?」

 どう言う事なんだろう? もしかして、失敗をしたのかな?

 「エンジンオイルとバッテリー液の方はどうでもいい。換えたところで走りに影響はないからな」

 「あ、そうなんですか」

 「ああ、マフラーを換えたおかげでエンジンの噴き上がりはよくなったが、タイヤに関しては、もう少し走って馴らしていかないとダメそうだな」

 「タイヤも新品の方がいいんじゃないんですか?」

 新しい方が、色々とよさげな気がする。

 「何を言っているんだ。新品のタイヤってのは微妙に高さが違って車体がほんの少し不安定な感じになる。
 それと、買いたてのタイヤはゴム部分が劣化したり傷付かないように表面を薄い膜があるんだ。その事を把握していないまま走るとスリップとかの事故を引き起こす可能性がある。
 だから走り続けてタイヤの表面を削って、その膜を取るのと同時に車体のバランスを取るんだ。スーパーGTに出ている車が蛇行運転をしているのは、そういう事なんだよ」

 「そ、そうなんですねぇ〜」

 知っても知らなくもいいような気がする。

 「一応言っておくが車を普通に走らせるだけだったら、そんな事を気にしなくていいが、早く走るヤツだったら気にしているな」

 「っと、もうすぐ着くから降りる準備をしておけ」

 「あ、はい!」

 マザー・ラブ♡ の前に降ろして貰い、店の中へと入って行く。

 「待っていたわよぉ、紫音ちゃぁん!」

 「すみません真理亜さん! 今仕事に取り掛かりますね!」

 そう言った後に慌てながら荷物の方へと向かい、ダンボールを開ける。

 「真奈美ちゃんから話は聞いているよぉ。紫音ちゃんも大変な人に目を付けられたわねぇ〜」

 「話はすぐに終わったので、真理亜さんが思っている程大変じゃなかったですよ」

 「そう? でも実戦が云々って言う話で来てたんでしょ?」

 「はい、担任の下谷さんは僕達と同じ気持ちらしいのですが、下谷先生といた生徒の日野谷さんは納得していない様子でした」

 それに、一回も実戦に行った事もない日野谷さんが、何であんなに自身満々に役に立てるような言い方をしているんだろう?

 「自分の能力が優れていて、本番でもその能力を活かせると思い込んでいる妙な子って、どの業界にもいるのよね」

 「・・・・・・え?」

 「大抵そういう子は現実を知って、落ちこぼれてしまうのよねぇ。まぁ必ずしも全員がそうって訳じゃないから、一概には言えないのよ」

 「そうなんですか?」

 中学にいた頃は正義感の強い人だとは思っていたけど、まさかそんな事はないよね。

 「紫音ちゃぁん、手が止まっているわよぉ」

 「あ、すみません!」

 真理亜さんに謝った後、仕事に勤しむのであった。

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