東京PMC’s

青空鰹

天野に怒る紫音

  事務所に帰って早々に天野の目の前に立つ。


 「どういう事何ですか、天野さん」


 「ん、何がどういう事だ?」


 ボケーっとした顔でそう言ってくる姿に怒りを感じたのだけれども、怒りたい気持ちを抑えて話し出す。


 「惚けないで下さい。僕をオトリにしましたよね?」


 「ああ、オトリにしたな」


 「何で僕に言わなかったんですか?」


 「そりゃまぁ、 殺し屋達が俺達を狙っているから、お前オトリになってくれ。 って言ったら拒否するだろう?」


 「はい」


 誰だってそんな危険な事を、引き受けたくないに決まっている。


 「だからお前に黙っていたんだよ。失敗しちまったがな」


 「失敗しちまったがな。じゃないですよっ!!」


 しれっと言う姿に、我慢の限界が来てしまいキレてしまった。


 「僕が咄嗟とっさに避けてなければ死んでいたんですよ! しかも車越しに、容赦なくフルオートでバンバン撃って来て、何で僕があんな恐い思いをしなきゃいけないんですか!
 もうやだぁ〜、死にたくないよぉ〜」


 紫音はそう言うと、その場に座り込んで泣いてしまった。


 「シオン」


リトアさんは泣いている僕に近づき、背中をさすって慰めてくれる。


 「ハァ〜・・・・・・」


 天野さんは深いため息を吐くと、何故か僕に近づき膝を着いた。


 「・・・・・・なぁ紫音。お前、何か大事な事を忘れてないか?」


 「・・・・・・え?」


 大事な事?


 そう思っていると、アゴをクイっと持ち上げて来た。


 「お前はもう一般市民じゃなく、民間軍事企業PMCであり1人の兵士だ。命を掛けて戦いに赴くのだから、死ぬ思いをするのは当たり前だ」


 「アマノくん、ちょっと言い過ぎじゃ・・・・・・」


 「いいか、この先も今日のような死ぬ思いをこの先もするぞ」


 さっきまで間の抜けていた顔だったのに、今はゾッとするような目付きで僕を見つめていた。そう、まるで今すぐに僕を殺しに来るような雰囲気を出していた。


 「この世界で生き残りたかったら、俺が言う事を覚えておけ。自分が相手に殺されるか、自分が相手を殺すかの2つだ。
それが無理だとか言うのなら・・・・・・わかっているよな?」


 天野はそう言うと、リビングから出てってしまう。


 ・・・・・・そうだ、僕は天野さんと約束したんだ。ここに居させて貰う代わりに、PMCとして活動するって。


 さっきまで泣いていたのが嘘のように泣き止んだが、今度は沈んだ顔をして俯いてしまった。


 「あの・・・・・・シオンくん。アマノくんがさっき言ってた事は、気にしなくてもいいよ」


 「そ、そうよ。ほら、元気出して」


 2人は頭や背中をさすりながら、紫音を励ますが本人は聞こえてないのか無表情のままでいる。


 「あの・・・・・・」


 「何?」


 「1人にさせて貰ってもいいですか?」


 「え? ええ、いいわよ」


 その言葉を聞くと彼はゆっくりと立ち上がり、おぼつかない足取りで部屋を出て行ってしまった。


 「ハァ〜・・・・・・重症だね」


 「ええ、早く立ち直ってくれればいいんだけど。それに、あの言い方はいくら何でも酷すぎないかしら?」


  「アマノくんの事?」


 「まぁ、確かにそう思うけど、アマノくんの言っている事も一理あるとボクは思う」


 そう言った途端に、アマノの味方なの? と言わんばかりに睨む。


 「人と人とが命を掛けて戦う職業だというのを、近い内に自覚するだろうと思っていたさ。それが今日だとは、思ってはいなかったけどさ」


 正論と言えば正論だ。この職業をやっていれば、いずれは生と死の両方に向き合わなければならない。


 「ねぇ、私はシオンとアマノの約束を知らないの。リュークは知っている?」


 「うん、知っているよ。ここに住まわせて貰う代わりに、PMCになって一緒に戦って貰うのが条件って。アマノくんから、リトアくんには黙っているように言われたけどね」


 「ちょっ、それって!」


 「ただ引き取るだけなら、ボクだって尺に触るよ。親になるわけじゃないんだからさ。なら、働いて貰えば文句はないよね?」


 「だからって PMCじゃなくても!」


 「アルバイトで稼いだお金を、いくらか貰うの? 悪くない提案だけど、アマノくんはそれで納得しないし、それなら他の家で養って貰え。って言って断っているよ、きっと」


 確かにそうだ。だけど、もっと違う形でうけいれられないの? とリトアは言おうとしたが、リュークに遮られてしまった。


 「第一に他人の子を引き取りたいって思う人がいるのかい? キミだって聞かれたら、無理って思うでしょ?」


 彼がリトアは黙り込んでしまった。そう、彼が言っている事は合っているし、正論だから何も言えない。


 「・・・・・・せめて、彼の祖父か親戚に預けられれば、いいのだけれども」


 「シオンくんは親戚がいないよ」


 「えっ!? 曽祖父とかはいないの?」


 「いないみたいだよ。一応先に言っておくけど、オズマくんは彼の父親の友人で彼の都合上引き取るのは無理だそうだよ」


 「母親は?」


 彼女はシオンくんをどうにかして助けられないか、自分なりに考えているみたいだ。


 「彼が生まれてすぐに亡くなってしまったらしいよ」


 「そう、だったの」


 彼が天涯孤独の身だと知った彼女は、悲しそうな顔をする。


 「手っ取り早く職にありつけるのが、土木工事かPMCの二択の選択肢しかない。彼はボク達側を選んだんだよ」


 そう、世の中はそんなに甘くない。孤児とわかれば、気にしないと言いながらも、手のひらを返して来る人が多いのだ。


 「ゴメンなさい。熱くなり過ぎたわ」


 「別に構わないさ。キミが元教師だったから、そうなるのは仕方ないよ。そうそう、お風呂がもう湧いていると思うけど、入る?」


 「・・・・・・お風呂に入って、頭を冷やしてくるわ」


 彼女はそう言うと、足早に部屋を出て行ってしまった。


 「フゥ〜、ヤレヤレ。やっと1人になったから、ゲームでもしよう」


 リュークはそう言うと、リビングに置いてあるゲーム機を起動させるのであった。




 〜〜〜 ? side 〜〜〜


 「クッソ!? あのガキをるつもりがこうなっちまうなんて!」


 胸に包帯を巻いている男は、テーブルに頬杖を着きながら貧乏揺すりしている。


 「落ち着けって、ひび割れた肋骨に響くぞ」


 もう1人の男がビール缶を片手に持ち、テーブルにやって来た。


 「何が落ち着けだ! チクショウ! おい、俺の分は?」


 「怪我しているのに、ビールを飲むのはよくないだろ?」


 「飲まねぇとやってられるかってんだよ!」


 彼はそう言うと、ビール缶をぶん取り飲み出した。取られた方の男は、ぶん取って来たのに怒りを感じたのか、 チッ! と舌打ちをする。


 「あーあ、弾を頂戴した使えない誰かさんを、置いてくりゃよかったなぁ〜」


 「んだとテメェ!」


 「やんのか、この足でまといさんよぉ!」


 「お前ら止めろ!」


 一触即発のところにコンビニの袋を持った男性が入って来くると、2人は我に返ったかのか離れる。


 「・・・・・・追っては?」


 「大丈夫だ。今のところはな」


 その男の人はイスに座ると、コンビニ袋に入っている弁当をテーブルに並べる。


 「今回の失態は、俺達がPMC協会を甘く見ていたせいだ」


 「今回の失態ねぇ〜、あの時に仕掛けたTNTを爆破させりゃ、こんな事にならなかったんじゃねぇのか?」


 包帯を巻いている彼の言うあの時とは、焼肉屋で車の裏にTNT爆薬を付けたときだ。その前にも、JOKERの事務所の前に車が停まっているときにTNT爆薬を付けようとしたが、誰かが来たので断念した。そう、その人物こそライカンスロープの少年、シオンだ。
 彼と鉢合わせしてしまった後に出直そうと思っていたら、すぐにチャンスが来た。ターゲットのJOKERは彼と共に焼肉屋へと行こうとしていた。なので、駐車場に置いていなくなった後に素早くTNT爆薬を付けてから、隠れながらチャンスを窺っていた。一般市民だと思っていたシオンを巻き込まないように。


 「ダメだ。無関係な人も巻き込む可能性がある。それにもうTNT爆薬を取られている可能性がある」


 「だろうな。JOKERの事務所から、頑丈そうな箱を持った人が出て行くのを見かけたからな」


 結局見破られてしまっていたらしい。


 「どうすんだよ! これじゃあクライアントにどやされるぞっ!!」


 「まぁ待て。期限はまだあるんだから、そんなに焦る必要はないだろう。チャンスはまたあるさ」


 「そうそう、怒鳴っているとヒビが入っているアバラ骨がポッキリ折れる可能性があるから、落ち着くんだな」


 「・・・・・・チッ!」


 2人はコンビニ弁当を黙々と食べ始めるが、1人だけ手を付けないまま、天井を見上げる。


 そう、チャンスはまだある。しかし、あの子だけは・・・・・・せめて。


 2人は彼のようすに、全く気づいていなかったのだった。

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