東京PMC’s

青空鰹

紫音の危機

 〜〜〜 天野 side 〜〜〜


 脇道のT字路の左側の縁石から赤黒い血溜まりが見える。


 ・・・・・・恐らくあそこにいるな。


 俺はスッと左手を上げて 止まれ。とリトアに指示を出す。


 俺は振り返りリトアの顔を見てみると、コクン。 と首を縦に振った。いつでも行けるという合図だ。
 その合図を受け取った俺は道路の右端の壁から少し距離を取りながら、左側へと少しづつ移動しながら確認していく。これがいわゆるカットパイだ。


 「・・・・・・・・・・・・クリア」


 敵がいなくてよかった。しかし、いつ襲って来るのかまだわからないので安全とは言い難い状況だ。


 「やっぱり、やられていたのね。山岸も」


 「この場所を報告してくれ、俺はスマートウォッチ回収するから」


 「わかったわ」


 山岸の腕に付けているスマートウォッチを取り外す。そしてビニールの中に入れてから自分のズボンのポケットへと入れる。
 何故スマートウォッチをビニールの中に入れるのか? そうすれば自分のズボンを汚さずに済ませるからだ。


 「報告完了。シオンのところへ戻りましょう」


 「ああ」


 「・・・・・・ねぇ、アマノ」


 自分自身の銃を握り締めて歩き出そうとした瞬間だった。リトアが話し掛けて来たのだ。


 「ん? どうした?」


 「どうして、あの子を受け入れたの? 面倒くさい事が嫌いなアナタが、子供を受け入れるなんておかしいわ。
 何か理由があったんでしょう? 違うの?」


 「・・・・・・それは」


 まぁ、理由はない訳ではない。ただな。


 「ちゃんと答えて。また今度な。って言って逃げるのは、今回ばかりはダメよ」


 どうやら今回は言い逃れさせる気がないようだ。


 「ハァ〜〜〜・・・・・・・アイツの親父さんに借りを作っちまったからだ」


 「借り?」


 「ああ、前に命を助けられてな。だから住まわせる事ぐらいなら構わないだろう。って思ったからな」


 「そうなの。ねぇもしかして、その助けられた日って・・・・・・」


 「うわああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?」


 今の叫び声はっ!!


 「シオンくんっ!? アマノ、ピックアップトラックに戻るわよっ!!」


 「あ、ちょっ!? おい待てっ!! おいっ!!!?」


 クッソ!! アイツ先走りやがって!


 慌ててリトアの背中を追いかける天野。しかし、リトアと同じように焦り表情が見えていた。




 ーーー 紫音 side ーーー


 「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ!?」


 どうして? 何でっ!?


 一匹のウルフから必死に走って逃げるシオン。何故こんな状況になっているのかと言うと、シオンは向かって来るウルフにAK74uを狙って撃ったのだがハンマーが落ちる音しかしなかった。空撃ち状態で撃てないのだ。
 そして、殺される。 という恐怖心から反射的に逃げ出したので、今の状況に至る。


 もしかしたら、不発だったのかも! は、早く撃たないとっ!!


 走りながら、もう一度コッキングレバーを引いてと撃てなかった薬莢が出す。そして、そのままウルフに狙いを定めてトリガーを引くが、 パチンッ という様な音しか聴こえない。


 「なんでぇっ!?」


 「バウッ!? バウッ!?」


 シオンが走りながら撃てない事を疑問に思っている中、だんだんと距離を詰められているのだ。


 さっきよりも近づいて来てるっ!?  このままじゃマズイよぉ〜・・・・・・そ、そうだぁっ!!


 AK74uを地面に捨てると、ホルスターから S&W M327 R8 を引き抜きウルフ狙いを定めて構える。そして照準が合った瞬間にトリガーを2回引き2発の弾頭を撃ち放つ。


 「ギャンッ!?」


 短い悲鳴を上げた瞬間、ウルフは地面に向かって頭から突っ込む様にして倒れて行く。


 「ハァーーー・・・・・・ハァーーー・・・・・・・・・・・・」


 倒したの?


 恐い。 近づきたくない。 と思う感情を押し殺して、横たわっているウルフに S&W M327 R8 を構えつつ近づいて行く。そして足元まで近づいたら、後ろを踏んで生きているか確かめてみる。
 もしも目の前のウルフが生きていたら、痛みに反応して飛び起きる筈だから。


 ・・・・・・起きて来ない。よかったぁ〜。


 安堵の表情を浮かべた後に辺りを見回して周囲の状況を確認するが、シオンは泣きそうな表情になってしまう。
 それもその筈。シオンはウルフから逃げる事で精一杯だったので、どっちの方向へ向かって走っているのか気にもしなかったのだ。


 「どうしよう・・・・・・天野さん達と合流しないといけないのに」


 ヴゥ”ゥ”ゥ”〜〜〜ッ!! ヴゥ”ゥ”ゥ”〜〜〜ッ!!


 「わひゃぁっ!?」


 恐怖と緊張感中、突然スマホのバイブ音がポケットを揺さぶり耳に届いたので驚いてしまい、こんな声を出してしまった。


 「あ、あわわわわっ!!?」


 慌ててスマホを取り出すと、画面に映るコールボタンを押して電話に出る。その際に耳にイヤフォンを付ける。人と違ってこうしないと電話が出来ないのだ。


 『もしもしシオンくん、大丈夫?』


 「あ、リュークさん。ってあれ?」


 確か、天野さんのお家に一緒に住むからスマホの番号を教えたのは覚えている。けれども、リュークさん達には教えてなかった気がする。


 「何で、僕の番号を知っているんですか?」


 『アマノくんから教えて貰ったんだよ。それよりも、シオンくんケガをしてない? 大丈夫?』


 「え? あ、はい! 大丈夫です! 僕の事を追いかけて来たウルフもリボルバーで倒しました!」


 『そう、無事でよかった。でも何でリボルバーで倒したのさ? アマノくんから貰ったAK74uの方なら、連射が出来るから当たりやすいでしょ?』


 「それが、天野さんから貸して貰ったAK74uが撃てなかったんです」


 『いや・・・・・・あげたって言ったんだけどなぁ〜。
 でも、撃てなかったのは何でだろう? 天野くん渡す前に確認しなかったのかな? いや、いくら面倒くさがりな彼でも、そんな事はない筈なんだけどぉ〜・・・・・・』


 何やら独り言を言い始めた。


 『仕方ない。そこら辺の事は本人に聞いてみるしかないね。
 とにかくシオンくんはウルフの死体処理を気にせずに、そのまま真っ直ぐ進んで最後のメンバーの発信元へ行ってね』


 「エエエエエエエエエエエエッッッ!!!?」


 『エエエエエエエエッ!? じゃないよ。今の位置から最後のスマートウォッチの場所に近いから、そう指示しているの。
 それにその場所だと車が入れないから、天野くん達がキミを回収するのに困るよ』


 さっき恐い思いをしたのに、リュークさんが理不尽な指示を出して来るよぉ〜・・・・・・。


 『周囲を警戒しつつ進んで、進む方向がわからなくなったらPMCアプリの地図確認してね。じゃあね!』


 リュークはそう言い残すと、一方的に通話を切られてしまう。


 「グスッ・・・・・・進もう」


 目に涙を溜めながら、手にしているスマホのPMC専用アプリを開くと、現在地と目的地を知る為に地図を見る。


 「あっ! 本当にリュークさんの言う通り目的地と近い」


 偶然なのか地図情報で今いる場所から50m先に目的地があった。リュークさんが僕に目的地へ行くように指示する理由がわかる。
 それとこれとは別問題である。


 「うぅ〜〜〜・・・・・・恐いよぉ〜〜〜・・・・・・でも目的地に行かないといけないしぃ〜・・・・・・・・・・・・」


 右を見れば誰も入って居なそうなビル、左を見ても人の気配どころか匂いもしないビルである。しかもウルフの死体が側にあるので、臭いを嗅ぎつけた魔物がいつ来て襲われてもおかしくない状況。
 なので今すぐにでも離れた方が身の為である。


 「い、行こう!」


 自分に言い聞かせる様にしてAK74uを拾い、歩き出したのだが カンッ!? という様な音が背後から聴こえたので、ふり返り確かめる。


 「だ、誰っ!?」


 「カァー、カァー」


 「・・・・・・カラス?」


 そう、空きカンの側にカラスがいたのだった。多分空きカンをくちばしで突いて遊んでいたんだろう。


 「ビックリさせないでよぉ〜・・・・・・」


 シオンはそう言うと目的地に向けて再び歩き出したのだったのだが、物陰からシオンの様子を確認する様にフードを被った男が顔を出したのだ。


 「・・・・・・危なかったなぁ〜。カァ〜コウのお陰だな」


 その男はシオンがこちらを気にしていないのを確認すると、物陰から出てウルフの死体へ近づく。


 「ホォ〜〜〜ウ。これは中々の品質だなぁ〜。しかし脳天に2発弾丸も当てるとはぁ〜」


 動いていないウルフに当てたのか、はたまた闇雲にぶっ放したのが偶然こうなったのかは知らないが、ウチらにとっては剥ぎ取れる面積が広いほど良いのだ。
 何故かって? 皮の面積が広いほど色んな用途に使えるからだ。


 「しかし、あの子自身も気になるが、話の内容も気になるな」


 目的地? 行かなきゃいけない? しかもその目的地が近い?


 「確かあの方向は確かぁ〜・・・・・・まさか?」


 フードを被った男はそう言うと、何かを察したのか目元が笑う。


 「これは金の匂いがして来たぞ。早く追い掛けるとするか」


 自分の上着の内側から怪しい色の液体が入ったペットボトルを取り出すとウルフに振り掛ける。


 「魔物避けの液体を掛けておけば、ほっといても大丈夫だろう」


 そう言うとペットボトル上着の内側にしまいシオンを追い掛ける。今度こそバレてしまわないよう慎重に・・・・・・。

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