東京PMC’s

青空鰹

心配されるシオン

 ピックアップトラックに乗り込んだ僕は何も考えずにボーッと外の景色を見つめていた。


 「シオンくん」


 「あ、はい。何でしょうか?」


 返事をしながら隣にいるリトアさんの方に顔を向けると、目と鼻の先にいたのでビックリしてしまう。
 しかしリトアさん本人は、その様子を気にもせずに話し掛けてくる。


 「もしかして東京に行くのが不安なのかしら?」


 「えっ!? 」


 「その表情は図星だなぁ〜。このこのぉ〜!」


 リトアさんは白状しろと言わんばかりに指で頬をツンツンしてくるので、これ以上からかわれない様にする為に正直に答える事にした。


 「あ、ふぁい!」


 リトアさんに頬を突かれているせいで、変な返事になってしまった。なので、顔をツンツンしている指から離れて話し始める。


 「ニュースとか番組で閉鎖された東京の様子が流れてるのを観ると、入るのにちょっとぉ・・・・・・」


 そう閉鎖された東京のニュースや番組があって、その中で東京から出れなくて困っている人や、貧困に苦しんでいる姿が映つし出されていた。


 「ああ、それはガセネタが混じっているから心配しなくても良いわよ」


 「えっ!? ガセネタって、どういう事ですか?」


 テレビは嘘を交えて報道をしているって事になるよね?


 「ああ〜そうだな。テレビで報じられいる場所は、比較的に安全なスラムでやっているからな。変な輩に襲われる心配がないんだ。
 それにあそこに住んで仕事をしているヤツもいるから、大半のヤツらが充実した生活を過ごしいるちゃんといる」


 「それにね。テレビに出ればお金が貰えるから、わざと苦しい生活をしている様に演じているのよ」


 お金の為に演技をするって、犯罪行為じゃないの?


 「まぁ閉鎖区域だから、警察が出ようにも出れないんだよ」


 天野さんの言う通り、閉鎖区域では警官がほとんどと言っていいほど活動していない。
 ダニエル教官から聞いた話しだけど、閉鎖区域では日本の法律が主体ではなく、基本的に助け合いはするけど何かあった場合は自己責任という概念が大きい。例えるなら西部開拓時代みたいな状態が東京の閉鎖区域の現状である。
 日本の法律で取り締まったりしている警察は、閉鎖区域のスラムや集落などで生活している人達に毛嫌いしている傾向がある。


 「まぁ警察も閉鎖区域の実態を知る為に、潜入捜査官を送り込んでいるみたいだからな」


 「へぇー、そうなんですか」


 潜入捜査官を送り込んでいるのは知らなかった。


 「っと。もう検問所に着くから、スマートウォッチを出しておけよ」


 「あ、はい!」


 出しておけよ。って言われても、腕に付けているから大丈夫だよね。


 スマートウォッチを見つめながらそう思っていると車が止まった。 もう着いたんだぁ。と思いながら前を向いたら、何と目の前に有刺鉄線の巻かれた門があって、奥には見上げるほどの高い壁がそびえ立っていた。


 「ほえ〜・・・・・・」


 「ん? どうしたのシオン?」


 「隔離しているのは知っていたのですが、こうなっていたとは知らなかったです」


 「ああ、まぁここら辺の事はニュースで取り上げられてないから、知らなく当然よね」


 リトアさんはそう言って頭を撫でて来たが、目の前の光景に気を取られているので気にも止めない。


 「あれで85mぐらいの高さがあるみたいだぞ」


 「は、85m!?」


  ビルで例えると6〜7階ぐらいの高さだ。


 「何であんな高い壁を築き上げたんですか?」


 防衛戦ならを張るのだったら、こんなに高い壁ではなく有刺鉄線のフェンスを作れば良いのに・・・・・・。


 「ああ、それはな。大型モンスターが来てもここで食い止められる様にする為に、こんなに高く作っているんだ」


 「へぇ〜」


 大型モンスターをテレビの映像でしか観た事がない。もしかしたら、PMCとして活動している天野さん達なら見た事があるのかな?


 「それに、隔離区域からの密輸を食い止める為に作っているのよ」


 「隔離区域からの密輸入? それってどういう事ですか?」


 「麻薬はもちろん、武器やモンスターの密輸よ」


 「それなら、直接現場に行って捕まえれば良いのではないんでしょうか?」


 麻薬の製造現場の摘発や、密輸の現場を取り押さえるのは警察の役目なんだから。


 「それがそうもいかないんだよ」


 「えっ!? どういう事ですか?」


 「説明してやりたいところだが、ホラ」


 天野さんが右側に指をさすので、そっちの方に顔を向けて見ると窓越しに自衛官が立っていた。


 「すみません。こちらの読み取り機にスマートウォッチを掲げて下さい」


 「あ、はい!」


 慌てながら自衛官が持っている読み取り機にスマートウォッチを掲げると、 ピピッ!? と言うような音がすると自衛官は自身が持っているタブレットに目を移す。


 「えっとぉ〜・・・・・・問題ないですね。隔離区域へ通っても大丈夫です。
 ただわかっていると思いますが、隔離区域内はとても危険ですので気を付けて下さいね。下手をするとお亡くなりになりますから」


 僕達の対応してくれた自衛官はそう言い残すとどこかへ行ってしまう。


 「・・・・・・おそらくお前の事を心配したんじゃないのか?」


 「えっ!? 僕ですか? どうして・・・・・・。」


 「あのタブレットはPMC協会と繋がっていて、俺達の個人情報がある程度まで記載されているんだ。
 だから今自衛官が確認したのは俺達が本当にPMCなのか、受けた任務が何なのかを確認する為にこっちに来たんだ」


 じゃあ僕がPMC協会に入った日も記載されてる感じなのかな?


 「それはそうとだ。そろそろ車を出すぞ」


 天野さんがそう言うので前を向いて見ると高い壁に作られた頑丈そうな扉が開いていて、その横で自衛官がこっちに来る様に手招きしていた。


 「ここから先は危険だから、気を引き締めておけよ」


 「あ、はい!」


 そう返事をすると背もたれに身体を付けた。天野さんはその様子をバックミラー越しに確認すると、アクセルを踏んで発進させた。
 壁を通ろうとする時にさっきの自衛官と目が合った。僕を見るその目は、何と言うか可哀想な人を見る目をしていたのが印象的だった。


 「あ・・・・・・」


 何であんなに、僕の事を心配してくれてるんだろう? あの人にとって僕は他人なのに・・・・・・。


 「シオンくん」


 「あ、はいっ!?」


 リトアさんに声を掛けられたので顔を向けると、真剣な表情で僕を見ていた。


 「いいシオンくん。あの人は自衛官なの。国民を守る為に銃を持って敵と戦うの。アナタは15歳の子供だから、あの人に思うところがあるのよ」


 「あっ!」


 自衛隊は国と国民を守る為に作られた組織。だから日本国民、ましてや15歳である僕が武器を持って戦うのは、自衛官であるあの人にとっては目に余るものだろう。


 「でもね。アナタはもうPMC。気にしちゃダメよ」


 ・・・・・・そうだ。僕はPMCを続けて行かない限り、天野さんのお家を追い出される上に生活費すらも失っちゃうのだ。


 「あ・・・・・・はい。わかりました」


 「よろしい。さぁ、周りを警戒して。比較的に安全な場所だけれども、ここは隔離区域だからいつ襲われもおかしくないわ」


 リトアさんの手を見てみると、AKMをしっかり握っていた。こうやって話していても警戒は怠っていない。


 僕もリトアさんを見習わなきゃ。


 そう思い、AKS74uを持って窓の外を見つめて警戒する。


 「うわぁ・・・・・・」


 窓ガラスが割れている上にスプレーでラクガキされた建物や、路肩で放置された車。さらに山積みになったゴミなどが目に写る。


 「無法地帯へようこそシオン。ここに来た感想は?」


 「感想・・・・・・ですか?」


 「ああ、テレビでも余り放映されないところに来たんだ。どう感じてるんだ?」


 天野さんは興味本位なのか、バックミラー越しにこっちをチラチラ見てくる。


 「そうですねぇ・・・・・・終末の世界に来た。って感じがしますね」


 「MAD◯AXや北◯の拳の世界なら未だしも、これじゃあ終末の世界とは程遠いっての」


 その作品って、砂漠とか荒れた街とかの世界観だった様な気がする。観た事ないからわからないけど。


 「ねぇ、リュークから連絡があったわ」


 リトアさんは自身のスマホを持ち、前の座席に身を乗り出していた。しかもシートベルトを取り外している。
 危険行為だから止めないといけないと思うけど、話しを聞きたいのでスルーする。


 「なんて?」


 「佐島達は梅屋敷駅のスラムで情報収集していたみたいだから、向かった方が良いかもしれない。って」


 「なるほど。もしかしたらアイツらは、そこで食料とかを買ってたんだろうな」


 「車で行き来するなら、ちょうど良い距離ね」


 「そうだな。少し寄ってから現場に向かうか。後、危ないから座席に戻ってシートベルトしろ」


 「ハァ〜イ」


 リトアさんはそう言うと、後部座席に戻ってシートベルトを締めた。


 「時間を掛けたくないから飛ばすぞ!」


 「えっ!? 安全運転を・・・・・・」


 「ここには法定速度はないから安心しろ」


 そう言った瞬間、けたたましいエンジン音と共にピックアップトラックは走り出す。


 「にょわぁぁぁああああああああああああっっっ!!!?」


 リトアさんから うるさい。 と言われるまで僕はずっと悲鳴を上げていたのであった。

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