クラス転移したけど私(俺)だけFPSプレイヤーに転生

青空鰹

第23話

 「彼女も方針も固めた事だし、良かったよ」


 あまりにも時間が経っちゃうと、生活面で厳しくなっちゃうからねぇ。


 「あの、お姉様・・・・・・」


 「ん、どうしたの。ネネちゃん?」


 「良かったのですか。彼女を連れて行くなんて言ってしまって」


 「良いんじゃないかな? 最終的に決断するのは彼女だし」


 俺は彼女の夢の後押しをしただけだ。


 「それに、お姉様はキオリ商会に所属してませんよね?」


 「うん、そうだね。それが?」


 「キオリ商会の人がケイティさんを雇えないと言ったら、お姉様はどうするんですか?」


 「・・・・・・あっ!?」


 しまった! そこを考えていなかったぁっ!?


 「ま、まぁキオリさんは私に借りがあるから大丈夫だよ・・・・・・多分、いやきっと!」


 「自信のない答え方をしないでください」


 いやそんな事を言われてもねぇ。100%の自信がないからさ。


 「念の為に総合ギルド通達で手紙を出しておこう」


 それがダメなら私のところで家政婦兼服の仕立て屋として働いて貰おう。うん、きっとそれが良い!


 「そうした方が良いと私も思います」


 早い方が良い。と思ったので、紙とペンと封筒を取り出して手紙を書き始める。


 「そういえば、エルライナさんでしたっけ?」


 「あ、はい。そうですが?」


 「ワイの宿になにをしに来たのですか?」


 「あっ!」


 そうだ! 先にこの宿に泊まりたいと言わないといけなかった。


 イスから立ち上がり、マルコさんがいるカウンターの前まで行く。


「ここの宿に泊まりに来ました。それでこれなんですけど、お弁当屋さんからの紹介状です」


 「ほぉ〜、どれどれぇ〜・・・・・・」


 マルコさんはそう言って差し出した紹介状を受け取ると、広げて読み始めた。


 「ふむふむ、なるほど・・・・・・あい分かった」


 なにが分かったんだろう?


 「この宿に泊まっている間は、ワイらが得た勇者の情報をあんさんに伝えたるさかい。安心してやぁ〜」


 ああ、やっぱり。この人も影の者のメンバーだったんだ。


 「ありがとうございます。マルコさん」


 「礼には及びまへんが、一つだけ問題があるんですぅ」


 「はぁ、一体どんな問題ですか?」


 「今の空いている部屋がダブルベッドしかあらへん。だからその嬢ちゃんと一緒に同じベッドで寝て貰うしかないねん」


 なん・・・・・・・・・・・・だとぉ!?


 「シングル二つの部屋は本当に空いていないのですか?」


 「すまへん。シングルベッドは全てワイらの仲間が使っているんよ。堪忍してなぁ」


 堪忍もクソもあるか!


 「さすがにネネちゃんと一緒のベッドに入るのはモラル的に問題があると思うので、どうしたものかぁ〜・・・・・・」


 「私は構いませんよ」


 「え?」


 「むしろウェルカムです! その部屋に予約してください!」


 屈託のない笑みを浮かべながら、マルコさんにそう言い放った。


 「それならその部屋に決まりやな。料金の方は魔国から貰ってるから気にせんでおいてなぁ〜」


 「イヤイヤイヤイヤ! 勝手に話を進めないでくださいよ!」


 「私とじゃ、ダメですかぁ〜?」


 「ダメって、言う訳じゃないけどさ」


 俺の心の中にある男心が、反応してしまうかもしれないし。


 「やはりお姉様は私の様な年頃の娘ではなく、小さい子供が好みなのですね。メモメモ」


 「ネネちゃん違うから! 全く持って違うからメモらないで!」


 っていうかさぁ、一体どこで手に入れたんだその情報は!? ババアか? あのクソババアからか?


 「他のところに行っちまったら、情報を渡すのが困難になりやすから諦めるの一つしかないですよ」


 マルコさんまでそう言うか。


 「ああ〜もう! 分かりましたよ! そのダブルベッドの部屋に泊まります!」


 俺がそう言うと、ネネちゃんは笑顔で俺に抱きついて来た。


 「お姉様大好きぃ〜!!」


 「よしよし」


 そう言いながらネネちゃんの頭をなでてあげる。


 「そんじゃこれ、その部屋の鍵」


 マルコさんはそう言ってカウンターの上に鍵を置いた。


 「出かける際はカウンターに戻す様になぁ」


 「分かりました」


 その鍵を取ろうと手を伸ばした時だった。甲冑を着た人達が、 失礼する! と言って入り込んで来た。


 「エルライナ様、こちらに居ましたか」


 「私になにかご用意があるのですか?」


 「はい、先ほどご無礼な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした。我々もアナタ様への配慮を考えず、来てくれなどと申してしまいまして」


 うん、さっきとは態度が違うから、効果的面だったみたいだね。しかし、ここで気を許してしまう訳にはいかない。


 「謝罪は受け取ります。ご用件はなんでしょうか?」


 「ハッ、ご用と言うのは先ほど申し上げた通り、城へ来て頂きたいのですがぁ・・・・・・」


 「アナタ達はまだ懲りてないのですか?」


 兵士に向かってそう言うと、慌てた様子で首を横に振った。


 「い、いえ! 今すぐに向かって貰いたいと言う訳ではなく、明日の午後に馬車でこちらにお向かいするので、お城へと来て頂けないでしょうか?」


 明日の午後からか。


 「・・・・・・分かりました。お城へ行きましょう」


 俺がそう言った瞬間、 後ろで控えていた兵士達から オオ〜ッ! と言う様な喜びの声が聞こえて来た。


 「ただし、城に向かうに当たって条件があります」


 「じょ、条件ですか?」


 「ええ、城に向かう際は私の連れである彼女を連れて行きます」


 そう言いながら、隣にいるネネちゃんの方に手を差し伸べると、兵士達はキョトンとした顔をしていた。


 「はぁ、彼女をですか?」


 「ええ、その条件が呑めないのでしたら、城へ向かいません」


 彼らはお互いの顔を見つめて、なにかを確かめている。恐らくは連れて行っても問題ないか判断を煽っている感じだ。


 「・・・・・・彼女を同行させても構いません」


 「そうですか。でしたら明日の午後にお城へとお向かい致します」


 「ありがとうございます、エルライナ様!」


 そう言って俺と話している兵士が頭を下げると、後ろに控えている兵士も頭を下げた。


 「このまま居たら宿にご迷惑がかかるので、早く王の元へと行ってください」


 「ハハッ、わかりました。それではエルライナ様。明日の午後に馬車でお迎えしに来ますので、お忘れなく」


 「分かりました。覚えておきます」


 俺の言葉を聞いた兵士達は、ゾロゾロと宿から出て行った。


 「フゥ〜・・・・・・緊張したぁ〜」


 「本当そうですね。最初来た時はマズいと思いましたよぉ〜」


 「恐い思いをさせてゴメンね、ネネちゃん」


 「いいえ、お姉様」


 なにはともあれこの国の城へ迎えるのだから、当然勇者達と会うチャンスがあるって事だ。


 「とにかく岡野と猪瀬と接触してみないとね」


 ゲスい事を平気でやっている主犯格なのは分かっているが、会ってみないと判断出来ない部分もあるからな。


 「っと、その前に手紙を書かないと! ネネちゃん。先に部屋に行ってて良いよ」


 「お姉様がここにいらっしゃるのでしたら、私もここにいます」


 「そう、なら自由にしてて良いよ」


 「はい、お姉様」


 ネネちゃんが隣で座ってニコニコ顔で見つめている中、俺はキオリさん宛てに手紙の手紙を作成する。


 「・・・・・・っと。後はこれを封筒に入れて、封をして終わりっと!」


 出来た手紙をなくさない様に、ペンと共にストレージの中へと入れる。


 「手紙を出しに総合ギルドの方に行ってくるよ」


 「私も行きます!」


 「え、でも、退屈だと思うよ」


 「お姉様の隣にいるだけで、楽しいですから」


 ネネちゃんはそう言いながら、左腕に抱きついて来た。


 まぁ別について来ても問題ないからなぁ。


 「分かった。ついて来ても良いよ」


 「やったぁ!」


 嬉しそうなネネちゃんを余所に、マルコさんに顔を向ける。


 「それじゃあ、マルコさん。総合ギルドへ行って来ます!」


 「総合ギルドの場所分かるのかい?」


 「ここにくる時に見かけたので、大丈夫ですよ」


 そう言った後に宿の外へと出たのであった。


 「ルンルンル〜ン♪」


 ネネちゃんが楽しそうに、俺の隣を歩いている。


 俺といるだけで、そんなに楽しいものなのかなぁ?


 「あの、もし?」


 「ん?」


 誰だろう? と思いながら後ろを振り向くと、全身を布で隠した人がいた。


 もしかして、ネネちゃんの仲間なのか?


 「私になにかご用ですか?」


 「はい。アナタがエルライナ様であってますか?」


 「あ、はい。そうですが」


 「そうですかぁ、アナタがエルライナですかぁ・・・・・・フフッ、フフフフッ」


 なんか、様子がおかしくないか?


 「お姉様、この人変です」


 「私もそう思ってる」


 俺は目の前で立っている人からただならぬ雰囲気を感じたので、 JERICHO941PSL をホルスターから抜けるようにグリップを握りながらネネちゃんと共に距離を取る。


 「察しが良いですねぇ。もうバレちゃったんですかぁ?」


 「バレた?」


 「私がアナタ達とって最悪の敵だって事を」


 「「ッ!?」」


 俺達はこの時に気づいた。目の前にいるのが魔人だという事を。

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