クラス転移したけど私(俺)だけFPSプレイヤーに転生

青空鰹

第4話

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」


 リズリナさんは目に涙を浮かべながら深呼吸をしている。


 「リズリナさん大丈夫?」


 「む、無理。はぁ、はぁ・・・・・・疲れ、ちゃ・・・・・・たよ」


 ヤバいぞ! 俺は恐ろしい罰則を決めてしまったかもしれない。


 「お前恐ろしい罰則を決めたな」


 グエルさんの方を見てみると、なぜか顔が引きつっていた。


 「私は絶対言わないわ。あんな風になるのは嫌よ」


 ミュリーナさんは嫌そうな顔をしながら俺に言う。


 「僕も言いませんよ」


 キースさんはミュリーナさんより、もっと嫌そうな顔をしながら言ってくる。


 「プッ!・・・・・・お、俺もだ。ククッ!?」


 エイドさんだけはリズリナさんの顔を見て笑い堪えてながら言ってくる。


 エイドさん。それはちょっとヒドいよぉ。


 「その、書いてなんだがぁ・・・・・・みんなすまない。こうなるとは思わなかったんだ」


 バルデック公爵様は、みんなに向かって頭を下げ始める。


 「そんな、バルデック公爵様のせいではありませんよ」


 キースさん。そう言わないでよ。罪悪感が出てくるからさ。


 「エルライナさんが決めた罰則を了承した僕達にも非があります」


 「う、うむ・・・・・・そうか。分かった」


 腑に落ちない顔をしながらもキースさんに向かって言う。


 「・・・・・・ゴメンなさい。私が考えもなしにこんな罰則を決めてしまったせいですね」


 俺も、もう少し考えて別の罰則にするべきだった。


 「気にするなエルライナ。誰もこうなるとは予想をしてなかっただけだ」


 「ラミュールさん・・・・・・」


 ラミュールさんがそう言ってくれるなんて、冷血な人だなと思っててゴメンなさい。


 「ただ、この罰則は使える事が分かったから今後は私の方で使わせて貰う」


 前言撤回! この人は酷い人だっ!! 俺も人の事を言えないけどさっ!!


 「とりあえずエルライナ」


 「はい、なんでしょうか?」


 「この前のオーク討伐の報酬を持って来たから受け取るんだ」


 ラミュールさんはそう言うと金貨三枚と銀貨八枚を渡して来るので受け取る。


 「ありがとうございます」


 「それと、お前が倒したオークは特殊個体と判明した」


 「特殊個体?」


 特殊個体、つまり偶然生まれた個体って事か、もしくは新種って意味なのかな?


 「しかし、確認されていない個体ではない。あのオークの種類は ブラックオーク と言うんだ」


 「ブラックオーク?」


 「そう、普通のオークより数倍強いのだが、通常の個体から500体に1体の確率で生まれるかどうかのオークだ。しかし・・・・・・」


 「しかし? ですか?」


 「流石に五体いるのは多いな。もしかしたらあの周辺に新しくダンジョンが出来ていて、そこからあのオークが出て来たのかもしれない。あの草原を調査した方がいいな。それとエイド」


 ラミュールさんは、視線を俺からエイド教官に移す。


 「はい!」


 「例の武器屋、道具屋、商会への荷物輸送のクエストは誰か受けたか?」


 「それが商業科、冒険科の方で出しているのですが誰もクエストを受けようとしません」


 「・・・・・・やっぱりか」


 エイド教官の話しを聞いたラミュールさんは、なぜか残念そうに肩を落とす。


 ここはちょっと聞いてみるかな?


 「ラミュールさん、肩を落としてどうしたんですか?」


 「ん? ああ、実はな。 バーブルス大陸 から荷物がここに届いたんだが、受け取り先に渡すクエストを誰も受けないんだ」


 冒険科と商業科に荷物の運送クエストはあり、距離と品物の種類それに道中の危険度によって金額が大きく変わる。


 「ランクが高い人しか受けられないからですか?」


 クエストを誰も受けない。となるとこの場合が多いらしい。


 「いや、Eランクでも受けられて王都内の配達だから危険は低い」


 Eランクでも受けられて、しかも届け先が近場。そうなると冒険科にとってはポイント稼ぎに持ってこいなんだけど、なんで誰も受けないんだ?


 「原因はあれだ。草原にブラックオークと報告とゾンビの群贅が出たせいで、商業科の方で護衛の依頼が殺到し、その影響で護衛料金が通常の三から五倍に膨れ上がってしまっている。
 それに伴ってほとんどの冒険科の人間が金目当てに護衛依頼を受けに行ってるんだ」


 なるほどぉ、商業科の人達は腕の良い冒険科の人を雇うか、もしくは多くの人数を集めて草原を行くか。その二卓の方法でまだ危険かもしれない王都周辺の草原を安全に通ろうしているんだろう。
 自分の安全を守る為に他の商人よりも少し高めのお金を出しておけば依頼を受けてくれるんじゃないか? って言う形で人材集確保のやり合いをしていたら、こうなったってわけかな?


 「ああ~、王都周辺の護衛任務の料金が普段より高かったのは、そのせいだったのか」


 「その通りです。バルデック会長」


 その事を聞いたバルデック公爵様は眉間シワを作り頭に手を当てて悩み始める。


 「仕方ない。職員の方で配達するしかないな。誰かに馬車を用意させて向か・・・・・・」


 「バルデック会長」


 「ん? どうした?」


 「ギルドにあるレンタル馬車が全部出払ってしまっていて、用意出来ません」


 なんとっ!? レンタル馬車が全部出払っているだと? ゴーゼスにあったレンタル馬車だって十台のある内、二台ぐらいしかレンタルされないような物が全部出払ってしまっているのか!


 「・・・・・・やっぱりか」


 「やっぱり。って馬車が出払っているのを予想してたんですか?」


 バルデック公爵様がそう言うのなら思い当たる節があるのかな?


 「ああ、そうだよエルライナ。これもさっき言った護衛依頼も原因に含まれている」


 「そう・・・・・・なんですか?」


 レンタル馬車と護衛任務、う~ん・・・・・・なんか結び付かないなぁ。


 そう思っていると、ラミュールさんが話してくる。


 「ゾンビの死体処理の為にレンタル馬車を三台草原に向かわせて。残りの十二台はギルドに置いておいたのだが・・・・・・やはり商業科が使って行ったのか?」


 「はい、ラミュールギルド長。商業科の者達がゾンビから取れる魔石の運送の為と護衛の冒険に使わせる為に、残っていたレンタル馬車を全部借りて行ってしまって馬車が残っておりません」


 「職員の手で持って行くとなると時間が掛かる。いや、その前に荷物を送り届ける為の人材を総合ギルドから出せないなぁ。はぁー・・・・・・八方塞がりだな」


 「本当にそうですね・・・・・・この三件は依頼者からは 今日までに。と言われているので悩んでいます」


 バルデック公爵様はひげを擦りながら上を向き、ラミュールさんは腕を組んだまま肩を落として、エイド教官はこめかみを摘まんで悩み始める。


 「公爵様、俺達がその荷物を送り届けるのはダメですか?」


 グエルの提案を聞いたバルデック公爵様は首を横に振ると、エイド教官が理由を語り始める。


 「グエル隊長、そうしてもらいたいのは山々なんですが、それだと総合ギルドの規律が乱れてしまう可能性があるのでグエル隊長の気持ちだけ受け取っておきます」


 「そうか・・・・・・力に成れなくてすまないな」


 グエルさんとエイドさんが会話している中に、キースさんが軽く手を上げながらエイド教官に向かって声をかける。


 「あの、僕から提案が一つあるのですが、聞いて貰っていいですか?」


 「提案? キース、話してくれ」


 「はい、まずは確認を取らないといけませんね。エルライナさん」


 「え? あ、はい」


 キースさんは一体俺になにを聞くんだろう?


 「キミはこの後どうされるんですか?」


 「え!? えっとぉ・・・・・・とりあえず昇格試験が延期になったので、王都周辺で出来るクエストを受けようかなぁ? と考えてますがぁ・・・・・・」


 「うん、なるほど・・・・・・ラミュールさん。エイドくん。彼女にその輸送クエストを任せましょう」


 なぬっ!? 俺に任せるだとっ!!


 「あ、なるほどっ!! エルちゃんならたくさん入るアイテムボックスを持ってるから、輸送クエストが出来ますね!」


 おっと!? ここでいつの間にか復活していたリズリナさんが話しに割って入ってくるっ!!


 「なるほど。しかし、量が多いからアイテムボックスに入り切らないかもしれないぞ?」


 「そうですか? その書類をちょっと見せて下さい」


 「ん、ほら」


 ラミュールさんがそう返信すると持っている書類をキースさんに渡す。


 「・・・・・・なるほど、お店を三軒を回るだけなのか。クエストを一つずつこなして行けばお昼には終わりそうですね」


 「あ、そうだ! エルちゃんのアイテムボックス入り切らなった分は、あれに乗せれば良いからね!」


 「リズリナさん。あれってなんでしたっけ?」


 「ほらあれ! 王都に来る時乗って来た。早い鉄馬車!」


 あ~、リズリナさんはハンヴィーの事を言ってるのかぁ。


 「確かに荷物を乗せる事は出来るけど・・・・・・う~ん」


 街でハンヴィーを使って走ってると変な輩が俺のところに来て奪おうとする可能性があるから、なるべく町の中で使いたくないなぁ。


 「彼女に書類の内容を読んで貰ってから判断していただきましょう。はい、エルライナさん」


 「あ、はい」


 キースさんはそう言うと書類を差し出して来るので俺は受け取り読み始める。


 えっと。茶葉50kg を道具屋に届けるクエストと、鉄鉱石50kgを武器屋に届けるクエストと、最後に魔法の道具六つと普通の家具が四つ、その二つ合わせて十品を商会に届けるクエストで計三軒を回る仕事だ。
 普通の人が受けたらかなりの重労働を強いられる輸送クエストなりそうだけど、俺ならなんとかなりそうだな。


 「うん、なんとかなりそうですね」


 「なに? それは本当なのかっ!?」


 ラミュールさんは目を見開きながら言う。


 「はい、出来るのでこの三つのクエストを受けますね」


 「・・・・・・分かった。とりあえずここで手続きをしよう」


 ラミュールさんはそう言うと三枚の契約書を机の上に置き、羽ペンとインクの入ったビンを俺の前に寄せる。


 「一応、内容を確認します」


 「構わない」


 俺は念のために契約書に目を通して確認をする。


 ・・・・・・うん、不備やなんかはなさそうだね。


 確認が終わったので羽ペンを手に持ち三枚の契約書に自分の名前を書く。


 「はい、書けました」


 俺がそう言いながらラミュールさんに書類を手渡しすると、受け取ったラミュールさんは俺のサインを確認するとこっちを向く。


 「よし、依頼品が置いてある場所に案内するから付いて来てくれ」


 「はい、分かりました」


 「ちょっと待ってくれ!」


 立ち上がった所を、バルデック公爵様がなぜか止めてくる。


「ん?」


 そう言いながらバルデック公爵様の顔を見ると真剣な眼差しで俺を見つめていた。


 「な、なんでしょうか?」


 「エルライナ。キミのおかげで王都が救われた」


 「・・・・・・は、はい」


 「この場に居る者達を代表して礼を言う。ありがとうエルライナ」


 お、お礼を・・・・・・お礼を言われちゃったよぉ~っ!? しかも、この場にいるみんなを代表してって・・・・・・。


 「はわわわ・・・・・・はわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわっ!!」


 「さぁ、エルライナ。照れてないでクエストに(バタンッ!?)・・・・・・はぁ?」


 「きゅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜~!?」


 彼女は目を回し顔を真っ赤にさせながら、その場に倒れてしまった。


 「エ、エルちゃん? しっかりしてエルちゃん!? 起きてぇぇぇええええええっ!!」


 リズリナは慌てた様子を見せながらエルライナの身体を揺さぶり起こそうとするが、本人は目を回したまま全く起きる気配がない。


 「・・・・・・バルデック会長。流石にさっきのは言い過ぎです」


 「・・・・・・え?」


 バルデック公爵はエイドに顔を向けるとジト目になって見つめていた。


 「ただありがとうの一言だけ言えば、こうならなかったはずです」


 「うっ!? 確かにそうかもしれないな。しかし・・・・・・」


 「しかし?」


 「本当にエルライナは照れ性だな」


 「確かにその通りですね。どうにかならないんですかね?」


 「う~ん・・・・・・そもそも、なぜこんなにも重度の照れ性なんだ?」


 「そうですね。育った環境が原因だと思いますがぁ・・・・・・」


 「お二人共そんな事はいいので、エルちゃんを起こすのを手伝ってくださいっ!!」


 リズリナさんの言葉を聞いた二人は考えるのを止める。


 「それもそうだな。先ずはエルライナをソファーに寝かせた方が良いんじゃないのか?」


 「エイドの言う通りだな。エイドとグエルで持ち上げてソファーに寝かしてあげるんだ」


 「分かりました」


 「了解です会長」


 「フフッ、僕も手伝いますよ」


 バルデック公爵様達がエルライナの懐抱をしている中、一人だけドアの前で全員のようすを見ている人がこう言う。


 「・・・・・・これも使えるな。覚えておこう」


 ラミュールさんの今の言葉を聞いた人達は心の中でこう思った。


 この人は悪魔じゃないか? と。

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