なんと平和な(非)日常 ~せっかく異世界転生したのに何もやることがない件~

からぶり

こんな出会いでもなければ親友になってたかもしれない


「本物そっくりだけどッ、偽物を二人も用意するなんて間抜けだなッ!」

「おいおいおいおいおいてめぇこの腐れ爬虫類野郎、いまなんて言いやがったこら。サリエルちゃんを偽物扱いだぁ? どうやらその節穴えぐり取ってほしいみたいだな」

「図星か侵入者ッ! いや、サリエル様の偽物まで用意していたことを考えると、ただの侵入者とは考えにくいなッ! さては君たちッ、とんでもなく悪い奴らだなッ? ようっしッ! おらぁの本気見せてやるッ!」

「言ってろバカが! それがお前の遺言だ!」

「バカは君だよッ! 喰らえッ!」

 そう言うと、ヨルムンは口から勢いよく紫の煙を吐き出した。

「うぉおおおっ!? な、何だぁ!?」

 煙はそのまま部屋全体を包むように広がり、あたりに漂い始めた。直撃を喰らいはしたものの、しかし身体に異常は見られない。何だ? 驚いた割には何もないのか?

「おいエリ、そっちに異常は――」

「キャァァアア!」

「ど、どうした!?」

 返事の代わりに悲鳴が返って来る。
 まさか俺に効果がなかっただけで、やはりこの煙には毒か何かが!?

「あ、あなた――――ふ、ふふふ服がぁ!」

「ふ……服?」

 なぜかしゃがみこんでいる小林が、涙目でこちらに助けを求めている姿があった。

「おいどうしたんだよ。座ってる場合じゃないぞ」

「だ、だから、その……服が」

「だから服がどうしたんだよ」

 仕方ないので小林を立ち上がらせるためにそばまで行く。小林は隠すように自分の腕で自分を抱いており、しかし隠しきれない部分からはボロボロの布と、やたら面積を占める肌色が見えて……、

「あなたぁ……服が、溶けて……」

「サリエルちゃん大丈夫かぁぁああっ!!」

「私の心配は!?」

 音を置き去りにする勢いでサリエルちゃんを保護せんと動く。

「さ、サンゴさんっ、だ、ダメなのです! こ、こっちを見ないでください!」

「さ、さすがに恥ずかしいのです! サンゴさんすみません!」

 小林同様に、涙目でしゃがみこんでいる白黒サリエルちゃんの姿。
 なんてこった、あの煙には服を溶かす効果があったのか! なんてすばら――卑怯な手を使うんだ!

「はっはっはッ! どうだ侵入者ッ! これがおらぁの能力ッ! 服を溶かすことで恥ずかしさにより動けなくするッ! ロープッ? 手錠ッ? そんなものよりもおらぁの煙の方が確実に相手の動きを止められるのさッ!」

「こいつ……ただのバカかと思ってたが、意外と頭脳派……!」

 違う出会い方をしていればきっと俺とヨルムンは親友になっていただろ。それほどこいつの能力はすばら――強力で素晴らしい。

「だが何で俺の服は溶けてないんだ? 別に特別性ってわけでもないんだが」

「バカめッ、そんなの決まっているだろうッ。男の服も解けるようにしてしまったら、おらぁまで裸になっちゃうじゃないかッ!」

「さっきの発言は訂正しよう。お前はバカだ。それかなり致命的な欠陥だろ!」

 つまり男の犯罪者には効果がない能力ということだ。これで服が解けるのは女だけ……ますますすばらし――素晴らしい。

「おらぁのことを何回もバカバカと……君を捕まえるのに煙は必要ないのさッ! 観念して捕まりなッ!」

 言い返したいところだが、ヨルムンの言う通り、こいつがその気になれば動きを封じずとも俺なんて簡単に捕まえられるだろう。

 絶体絶命……だが一つだけこいつを倒す方法がある。本当は使いたくない手なのだが、背に腹は代えられないだろう。でもなぁ……痛そうだなぁ。

「おいヨルムン。お前はもう勝ったつもりみたいだが、それは甘いぞ」

「負け惜しみかね凶悪犯ッ? ただの人間がおらぁに勝てるわけないだろうッ! 種族の差という物を教えてあげようではないかッ!」

 俺目掛けて走って来るヨルムン。それに対し、背を向け俺も走り出す。

「逃げる気かッ? 逃げ切れると思うのかッ!」

「逃げる? 違うね。おびき寄せたんだよ!」

 目指すはドア、部屋の外……ではなく。
 部屋の隅、そこで恥ずかしそうにしゃがみこんでいる――

「ごめんサリエルちゃん! 許して!」

「「ふぇ? え、ええっ!? さ、サンゴさぁん!?」」

 白サリエルちゃんと黒サリエルちゃんを左腕で抱きかかえる。そしてすぐ近くまで迫っていたヨルムンを、空いてる右腕でつかんだ。

「き、君ッ!?」

「経験者からのアドバイスをやろう、ヨルムン。力の限り歯を食いしばっとけ」

「何をするつもり――ッ!」

 さぁサリエルちゃん! 盛大にお願いします!


「「さ、サンゴさんっ、は、恥ずかしいですぅぅっ!!」」【羞恥―既定値超過―×2】

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