なんと平和な(非)日常 ~せっかく異世界転生したのに何もやることがない件~
企てる悪魔
食事会の部屋を後にした俺、小林、白サリエルちゃんと黒サリエルちゃんの計四人は、現在魔王城の最上階、薬のある宝物庫へと向かっていた。
『宝物庫なら、確か一番上の階にあったと思うのですけど……』
『ボクも宝物庫に行ったことはないので詳しい場所はわからなくて……』
『『すみません……』』
というのがサリエルちゃん談。申し訳なさそうに謝らせてしまって、逆に申し訳ない。
「さて、その一番上の階まで来たわけだけど……正直、魔王城の広さを甘く見てたな」
「これだけの数、全部の部屋を見て回るのも骨が折れますね……」
本当にすみません、とげんなりした顔で再び謝る白サリエルちゃん。
少し先の未来を予想したサリエルちゃんのくたびれた顔というわりとレアなものを見ることが出来たが、その気持ちはよくわかる。俺も似たような顔になってしまうくらいだ。
広く、広く、どこまでも続いているのではないかとも思えてしまうほど長い廊下。それが左右に分かれており、部屋の数は両手両足の指の数を合わせたとて足りないだろう。
「二手に分かれて宝物庫を探すのはどうでしょうか?」
途方に暮れる俺に、黒サリエルちゃんがそんな頭のいい提案をしてきた。
「ボクも同じ意見なのです。どうでしょうサンゴさん?」
「いいわねそれ。それで行きましょう!」
なぜか俺の代わりに小林が答えているが、まあいい、白サリエルちゃんも賛成していることだし、その案で行こう。
「じゃあその分け方だけど」
そう言うや否や、小林は元気に手を挙げる。
「はいはいっ! もちろん、私とサンゴのペアで――」
「ボクとサンゴさんのペアと、白いの(ボク)とエリさんのペアでどうでしょう?」
「って……サリエル?」
言葉をさえぎられ、黒サリエルちゃんに怪訝な目を向ける小林。そんな視線を気にした様子はなく、黒サリエルちゃんは続けて説明し始める。
「勝手知ったる、とまでは言えませんが、それでも魔王城についてはサンゴさんとエリさんよりは知っています。だから何かあった時の為に、僕たち二人は別れてペアを組んだ方がいいと思いまして」
「なるほど、言われてみれば確かに。サリエルちゃんの言う通りだ」
それにその分け方なら俺はサリエルちゃんと二人になれるということじゃないか。なんて素晴らしい分け方だろう。考えれば考えるほどその分け方以外にはないように思えてくる。
白黒サリエルちゃん両方共と一緒になれないのは残念だが、二兎を追う者は一兎をも得ずっていうし、欲張らないでおこう。
「うぅ~……あなたぁ」
「あ、あはは……まあまあエリさん、一緒に頑張りましょう?」
不満げにこちらに視線をよこす小林とそれを宥める白サリエルちゃん。小林が何か余計なことをやらかさないかが不安だったが、あの様子を見るにサリエルちゃんに任せれば大丈夫そうだ。案外あちらもいい組み合わせかもしれない。
「んじゃ、早いとこ薬のために宝物庫探しと行くか」
「はい! 行きましょうサンゴさん!」
「あぁーん、あなたぁ」
「わがまま言ってんな小林。サリエルちゃん、大変だと思うけどそっちお願いね」
「はい、お任せ下さい!」
やる気十分なサリエルちゃんが見れたところで、それでは早く行きましょうと黒サリエルちゃんに手を引かれた。俺と黒サリエルちゃんは左へ、小林と白サリエルちゃんは右へと足を進める。
さぁって、簡単に見つかってくれればいいのだが。
○
「またハズレ……と。次だ次。次行こう」
願いもむなしく、宝物庫探しは難航していた。いかんせん部屋の数が多すぎてなかなか先へと進めない。ドアを開け、中を見て、ドアを閉める。この簡単な流れ作業も、こう何度も繰り返しやっていればさすがに嫌気がさしてくる。
魔王城をこんなに広くする必要は本当にありましたか魔王様? さっきから使われてない部屋ばかりですよ?
「せめて地図くらいあってくれたら楽なんだけどなぁ。これだけ広ければ見取り図の一つや二つあってもいいだろうに」
口から零れる愚痴を拾うものはおらず、ただむなしく廊下に響く。
そうしてまた別の部屋のドアを開き、そこが宝物庫でないことにため息しながらドアを閉めていると、俺より少し先で行動していた黒サリエルちゃんから声が上がった。
「サンゴさーん! 来てください! こっちです!」
俺のこぼした愚痴とは違った、弾んだ声。その声を聴いて、まさかと俺の心で期待が膨れ上がる。まさか、まさかやっとか!
「サリエルちゃん! 見つかったのか!」
「はい! ここが目的の部屋ですサンゴさん!」
黒サリエルちゃんが指さすのは、他の部屋と変わらない、何の変哲もない普通のドア。しかしドアは普通でも、この中は探し求めていた宝物庫だ。いやぁよかった! やっと見つかったぜこんにゃろう!
「さすがサリエルちゃん! 頼りになるなぁ!」
「えへへ、そんなことないですよぉ。それよりサンゴさん。早速中にどうぞ!」
「はっはっは! 謙遜するサリエルちゃんも可愛いなぁ! ご褒美として頭をなでなでしてやろう! いやむしろなでなでさせてください!」
なでなでぐりぐりと頭を撫でると、黒サリエルちゃんはキャーと楽しげな声をあげながら心地よさそうに目を細める。
俺の心ゆくまでご褒美をあげ、十分に堪能したところで手を離す。正直名残り惜しいがいつまでもこうしているわけにもいかないからな。時には自分を厳しく律することもできるとは、さすが俺だ。
「さてさて、それじゃさっさとお目当ての品をいただくとしようか。あ、でも小林と白サリエルちゃんも呼んできた方がいいかな」
「いえ、エリさんと白いのを呼ぶ必要はないと思いますぅ。目的を達成してから合流したほうが手間も少ないですよぉ?」
「ん、そう? そうだな、そうしよっか」
「はい!」
あれ、でも手間かなぁ、どうせ合流するなら、後でも先でも変わらないと思うんだけど……まあサリエルちゃんが間違ったことを言うわけがないからそれで正しいのだろう。
僅かに抱いた疑問を頭から追い出し、ドアノブに手をかける。
そのまま力を込めて勢いよくドアを開けば、そこには魔王様が集めたであろう、山のような金銀財宝、目もくらむような宝の山が――――なかった。
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