なんと平和な(非)日常 ~せっかく異世界転生したのに何もやることがない件~

からぶり

天使サリエル


 サリエルちゃんの正体は、死を司る悪魔だったらしい。

 な、なんて強そうでかっこいい……いやそんなこと言ってる場合じゃなかった。
 しかしスケールの大きさが予想よりもはるか上だ。俺の理解力が追い付くだろうか。

「死を司る悪魔であるサリエルちゃんに触れると、生命力を吸いつくされて死にます。あれが効かないのはオーダさんくらいでしょうか」

 うわぁさすが魔王様。

「い、いやいやいや! でも今までサリエルちゃんと接してきて、そんなことは……」

「接して来たとは言いますが、サンゴ。なら『触れてきた』ことは今までありますか?」

「それはっ――ない、ですけど」

 それこそ今回の、肩もみとパフパフくらいか。

 頭に思い浮かぶのは、サリエルちゃんを撫でようとしたときに慌てた様子で避けられた苦い記憶。……言われてみれば確かに。

「もっとも、それが発動するのは『感情の波が既定値を超えた時』……わかりやすく言えば『感情が不安定になった時』という条件がありますが。ああ思いだしました。これに関してはサンゴにも心当たりがあるはずです」

 おそらく、初めてサリエルちゃんと会った、魔王城でのことだろう。なるほど、あの時は怖いという感情が、今回は恥ずかしいという感情がサリエルちゃんの力を開放するトリガーになったのか。

 ……ん? 待てよ。ここまでの話を統括して考えると……。

「ということはあの時なでなでを避けられたのも、好感度が足りなかったからっていうわけじゃないのか……うわぁなんかすっげぇ安心した」

「話を聞いたうえでの感想がそれなのはさすがと言いますか。ああ褒めてませんからね。どちらかというと引いてます」

「いやだって神様。感想も何も『サリエルちゃんは悪くない』っていうのは、話をする前からわかりきってたことじゃないですか。むしろサリエルちゃんは悪くないのに、体質を気にしてほかの人を思いやる優しさや、俺に対する愛が伝わって来てですね、はい、心が満たされるというか、はい」

「愛とかさりげなく捏造しないでくださいサリエルちゃんがかわいそうなので」

 バカな、そんな体質を持ちながらパフパフをしてくれたということは、身も心も俺を受け入れてくれたということじゃないのか。

「ふむ……とりあえず生き返らせるのは、やめておいたほうがよさそうですね」

「スタァッップ! ストップ神様! 誤解です! これは父性というか兄弟愛的なものであって、決していやらしい意味ではないのです!」

 く、下手なことを言えないどころか、思えないっていうのはやりにくい。心を読むのやめてくれないかな。プライバシーだよ。

「まあ今回は見逃してあげましょう。ですが、次はないですよ? その時はオーダさんに言って、『めっ』てしてもらいますからね」

 その場合、そんな子供を叱るような程度では済まないことは補足しておこう。
 多分『めっ』じゃなくて『滅(め)ッ』。

「あっ、そうだ。神様、今から俺は生き返るんですよね?」

「ええそうですね。ひれ伏して私に最大の感謝を捧げなさい」

 落ち着け俺。いまさらこんな些細なことでイラッとしてもしょうがない。
 それに今から神様にお願いすることを考えたら、これくらい大目に見てやるべきだ。

「神様はさっき生き返らせると言ってましたけど、それは言い換えれば『同じ世界への転生』とも言えますよね?」

「却下します」

「まだ何も言ってないだろ!」

 これだから心を読むニュータイプは嫌なんだ!

「いいじゃないですか! くださいよ転生特典! 俺、転生者なのに全然『っぽく』無いじゃないですか!」

「何度も死を経験しているという点では他の追随を許してませんからそれでいいじゃありませんか」

「そんな不名誉なオリジナリティーはいらない!」

 そもそも何度も死んでるうち、半分の原因、いや犯人は神様だということを忘れているのだろうか。たぶんこの後、生き返りの転生をするときにもまた神様にハンマーでぶっ叩かれるだろうから、それを入れれば神様に殺されるのは三回目だぞ。

「はいはい、わがままを言ってないで早くしますよ。ほらサンゴ、おとなしくしなさい」

「待って待って! 行動に移すのが速いよ! 俺を殺すのに躊躇がなさすぎるよ! あのほんとに、神様も『それなら』って思うだろう特典を思いついたんでそれを聞いてからにしてください! だからその振り上げたハンマーを下ろして!」

「まったく、神を相手にここまで図々しい人間はあなたが初めてですよ。仕方ないので聞くだけ聞いてあげましょう。その思いついた特典とやらを」

「えっとですね、こんな感じなんですけど――――――――」

 俺が話し出した説明を、意外にも茶化すことなく神様は興味深そうに聞くのであった。

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