なんと平和な(非)日常 ~せっかく異世界転生したのに何もやることがない件~
そう言えば、日常に刺激を求めてたっけ
「おい小林わかり切っていたことだがお前はバカか!? あの恐ろしい声が聞こえてないのか!? ここは逃げるに決まってんだろうが!」
怖い思いとかしたくないし絶対に先に進みたくない俺は小林を説得しようとするが、小林も負けじと言い返してくる。
「サンゴこそバカなの!? 行き止まりのはずの道が開かれ、その先に何かある……こうなったら確認せずにはいられないじゃない! 勇者として!」
「危険だと分かり切ってるのにそれを回避しようとしないのは勇者ではないだろ! 勇者はもっとパーティーの安全を考えて行動するものだ!」
「目の前の脅威から逃げるようじゃ、それこそ勇者とは言えないわよ! それに中をちょっと見るだけだから!」
「だからと言って今行くのは無謀にも程があるだろ! いったん戻って魔王様あたりを連れてまた来ればいいじゃんかよ!」
「その戻る道がわからないから私たちはこの洞窟にたどり着いたんでしょうが! それにサンゴだって、未知の存在に興味があるでしょ! サンゴが言ってた異世界っぽいものかもしれないじゃない!」
「――――っ!」
未知の……存在? 異世界……っぽいもの?
そうだ――言われてみればそうじゃないか。俺はこの世界に転生して、しかし平和すぎあまりやることがなく、三日目にして暇――もとい充実感にかける日常を過ごしていた。
異世界転生だなんてワクワクさせる展開は、蓋を開けてみれば周囲には元居た世界とほとんど変わらない平凡で溢れてしまっていた。
食事や身の回りの物、しまいには言語までもが元の世界と一緒だ。
そんな中、今まさに目の前に元の世界では絶対に遭遇できないであろう異世界ならではの未知の存在が現れているのだ!
『――刺激のある毎日になりますよーに!』
……転生する前、バカみたいに毎日参拝していたことを思い出した。
この先に進めば、俺が望んでいた『刺激』が待っているんじゃないか?
今こそ、俺の願いを叶える時なんじゃないか?
そうだ、そうだよ。しっかりしろサンゴ!
今こそ、転生者として、本当の一歩を踏み出す時だろ!
「ふっ、ああわかったよ小林。この先に進んでやろうじゃないか!」
「サンゴ! ようやくアンタも冒険の素晴らしさが理解できたのね!」
「あ、ごめん、それはわかんない」
俺は異世界っぽいものが見たいだけだし。
冒険は……うん、やっぱり俺以外の誰かと行ってくれ。神様とかおすすめだ。ぜひ盾としてこき使ってやれ。
「まあいいわ、それについては後でじっくり話し合いましょう」
「えぇ、めんどくさいなぁ」
「とにかく、今はあの先に何があるのかよ。この目で直接確認して見せるわ! 行くわよサンゴ!」
「お、おう! ……でもあれだからな? 陰からこっそり確認する程度な? 僅かでも危険がありそうだったらすぐ逃げるからな?」
「弱気! カッコつけて『この先に進んでやる』とか言ったばかりでしょ!?」
「それとこれとは別だ!」
俺は一目見て『あっ、異世界っぽいな』って思えればそれで満足なんだ。それ以上は絶対に危険が発生するから遠慮したい。
「ふん、そんなこと言ったって関係ないわ。どうせこの魔道具を使えばサンゴの意思なんて関係ないもの」
「血も涙もねぇ!」
「それじゃあ行くわよサンゴ! いざ出陣!」
「いやだぁああ! 体が勝手にぃいい!」
ソリモドキに飛び乗った小林は、バッとポーズを決めて魔道具を掲げる。もう何度目かもわからない強制命令に、俺の身体はなすすべもなく歩き出す。
洞窟の先へと一歩踏み出すたび、まるで身体を締め付けるような重圧がのしかかる。
実際に体が重くなっているわけではないのだろうが、しかしそうと錯覚させるほどの存在感を放つものが、この先にある。転生者とはいえ、その肩書以外はただの一般人と変わらない平平凡凡な俺にとっては、十分恐怖を感じるものだ。
さらに一歩。締め付ける感覚がより増していく。
それはこの先にいる『何か』からのプレッシャーか。
はたまたビビって俺の身体にしがみついている小林の拘束が強くなっているからか。
精神的にも物理的にも苦しみを感じながら、ついに俺と小林は、その『何か』がいる空間へと足を踏み入れた。
『ガルゥ……グオォォォォオオオオオオオオオオオオ!!』
その空間は、今まで俺と小林が通ってきた道とは違い、天井は高く、洞窟内にも関わらず開放感のある、大きく開けた場所であった。道ではなく、部屋といった方が妥当か。
そして、そこにいたのは、俺にとって空想上の生き物だった。
洗礼されたシルエット。
力強さを感じる美しい翼。
鋭利な牙と爪。
叡智にあふれる瞳。
全身を覆う純白の鱗。
男の子の憧れの存在。物語に出て来る有名な存在。伝説の存在。
そして、まさしく異世界っぽい存在。
ドラゴンだ。
怖い思いとかしたくないし絶対に先に進みたくない俺は小林を説得しようとするが、小林も負けじと言い返してくる。
「サンゴこそバカなの!? 行き止まりのはずの道が開かれ、その先に何かある……こうなったら確認せずにはいられないじゃない! 勇者として!」
「危険だと分かり切ってるのにそれを回避しようとしないのは勇者ではないだろ! 勇者はもっとパーティーの安全を考えて行動するものだ!」
「目の前の脅威から逃げるようじゃ、それこそ勇者とは言えないわよ! それに中をちょっと見るだけだから!」
「だからと言って今行くのは無謀にも程があるだろ! いったん戻って魔王様あたりを連れてまた来ればいいじゃんかよ!」
「その戻る道がわからないから私たちはこの洞窟にたどり着いたんでしょうが! それにサンゴだって、未知の存在に興味があるでしょ! サンゴが言ってた異世界っぽいものかもしれないじゃない!」
「――――っ!」
未知の……存在? 異世界……っぽいもの?
そうだ――言われてみればそうじゃないか。俺はこの世界に転生して、しかし平和すぎあまりやることがなく、三日目にして暇――もとい充実感にかける日常を過ごしていた。
異世界転生だなんてワクワクさせる展開は、蓋を開けてみれば周囲には元居た世界とほとんど変わらない平凡で溢れてしまっていた。
食事や身の回りの物、しまいには言語までもが元の世界と一緒だ。
そんな中、今まさに目の前に元の世界では絶対に遭遇できないであろう異世界ならではの未知の存在が現れているのだ!
『――刺激のある毎日になりますよーに!』
……転生する前、バカみたいに毎日参拝していたことを思い出した。
この先に進めば、俺が望んでいた『刺激』が待っているんじゃないか?
今こそ、俺の願いを叶える時なんじゃないか?
そうだ、そうだよ。しっかりしろサンゴ!
今こそ、転生者として、本当の一歩を踏み出す時だろ!
「ふっ、ああわかったよ小林。この先に進んでやろうじゃないか!」
「サンゴ! ようやくアンタも冒険の素晴らしさが理解できたのね!」
「あ、ごめん、それはわかんない」
俺は異世界っぽいものが見たいだけだし。
冒険は……うん、やっぱり俺以外の誰かと行ってくれ。神様とかおすすめだ。ぜひ盾としてこき使ってやれ。
「まあいいわ、それについては後でじっくり話し合いましょう」
「えぇ、めんどくさいなぁ」
「とにかく、今はあの先に何があるのかよ。この目で直接確認して見せるわ! 行くわよサンゴ!」
「お、おう! ……でもあれだからな? 陰からこっそり確認する程度な? 僅かでも危険がありそうだったらすぐ逃げるからな?」
「弱気! カッコつけて『この先に進んでやる』とか言ったばかりでしょ!?」
「それとこれとは別だ!」
俺は一目見て『あっ、異世界っぽいな』って思えればそれで満足なんだ。それ以上は絶対に危険が発生するから遠慮したい。
「ふん、そんなこと言ったって関係ないわ。どうせこの魔道具を使えばサンゴの意思なんて関係ないもの」
「血も涙もねぇ!」
「それじゃあ行くわよサンゴ! いざ出陣!」
「いやだぁああ! 体が勝手にぃいい!」
ソリモドキに飛び乗った小林は、バッとポーズを決めて魔道具を掲げる。もう何度目かもわからない強制命令に、俺の身体はなすすべもなく歩き出す。
洞窟の先へと一歩踏み出すたび、まるで身体を締め付けるような重圧がのしかかる。
実際に体が重くなっているわけではないのだろうが、しかしそうと錯覚させるほどの存在感を放つものが、この先にある。転生者とはいえ、その肩書以外はただの一般人と変わらない平平凡凡な俺にとっては、十分恐怖を感じるものだ。
さらに一歩。締め付ける感覚がより増していく。
それはこの先にいる『何か』からのプレッシャーか。
はたまたビビって俺の身体にしがみついている小林の拘束が強くなっているからか。
精神的にも物理的にも苦しみを感じながら、ついに俺と小林は、その『何か』がいる空間へと足を踏み入れた。
『ガルゥ……グオォォォォオオオオオオオオオオオオ!!』
その空間は、今まで俺と小林が通ってきた道とは違い、天井は高く、洞窟内にも関わらず開放感のある、大きく開けた場所であった。道ではなく、部屋といった方が妥当か。
そして、そこにいたのは、俺にとって空想上の生き物だった。
洗礼されたシルエット。
力強さを感じる美しい翼。
鋭利な牙と爪。
叡智にあふれる瞳。
全身を覆う純白の鱗。
男の子の憧れの存在。物語に出て来る有名な存在。伝説の存在。
そして、まさしく異世界っぽい存在。
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