第387話　とある報告

勇者召喚が行われたいきさつを、順平はただただ聞いていた。

そして今回もそうですが、アルノルトは一通り僕と話をして何かすっきりしたのか、いつも機嫌よく帰っていきます。

僕にとっては時に悩ましい出来事だったりするのですが。

そして今回の話題になった事柄、知ってどうなるものではないが、神聖帝国ロンドロッグが関わっており、これは妻の一人であるオイヴィにも深くかかわる事であり、聞き流す事は出来なかった。
そして順平は館に戻り、オイヴィと話をしようとオイヴィを探す。

しかし、どうした訳かタイミングがいいのか、オイヴィから声をかけてくる。

「少しよいか？」

いつもはこんな事はないので、何かあったとすぐに察して、
「何処かで話そうか。」

「よくわかるな。本当はじっくりと話したいのだ。感謝する。」

誰にも邪魔されないよう、書斎へ向かいます。

書斎といってもこの部屋だけで暮らせそうな大きさ。
ベッドがあるし、トイレまであるんです。
何で書斎にトイレ？と思うのですが、貴族なのだから、書斎や寝室にも設けておけ、とのアーダの助言で作らされたんだけどね。

何で書斎にトイレが！寝具も！と思うのだけど、貴族ってこんなの？

きっと違うよね、と思うんだけど。

まあ今はどうでもいいのですが。

書斎に入り、部屋の一角にあるテーブルとソファ。そこに腰を下ろし、オイヴィも対面で座ります。

「今まで避けてきたのだが、神聖帝国での勇者召喚、何か聞いた事があるだろうか？」

オイヴィは唐突にその話をしてきます。
ええと、さっき僕が聞いた事だと思うんだけど。

「確か５年前、僕が召喚に巻き込まれる前に行われたとされる、勇者召喚の事かな？」

オイヴィは目を見開き、驚いている。多分知らないと思ってたんだろう。

「よく知っているな。誰からか聞いたのか？」

「ああ、色々と。アルノルトとかさ。」

「そうか。」

ここでオイヴィは黙り込んでしまう。

そして僕はてっきり神聖騎士の生き残りがオイヴィに接触してきたのだと思い、その話だろうと思ったのですが、どうも違う様子。
それも想像の斜め上を行く話で驚いてしまいました。

「もともと勇者召喚は、ロンドロッグの皇女、ピートロネラ様が行ったのだが、何やら予期せぬ事柄が起こったようで、失敗したとされるのだ。」

この召喚が成功していれば、僕は今きっとこの場にいなかったんだろうと思うと、複雑な気持ちになります。

「失敗した、と聞いたけど？」

「うむ。我もそう聞いていたのだ。だが、我は思う所があって調べていたのだが、どうやらピートロネラ様の姉君が召喚を妨害したようで、その時恐らく順平殿のスキルのような、並行世界が発生してしまったようで、２人の勇者が召喚されたらしいのだ。」

「そんな事ってありえるのかな？」

僕はオイヴィが知っているとは思えないけれど、そう聞いてみた。

「あった、とでしか言えぬな。そしてどうやら同一人物が２人召喚されたようなのだが、一人は死亡してしまったのは間違いないようだ。」


やはり死んだんだ。

「しかし、もう一人は何か手違いがあったのか、ロンドロッグの兵が執拗にこの者を追い立てたらしくてな、その者は国外へ脱出したらしい。」

「何か行き違いがあったのかな？」

「もう５年以上時間が経過しているゆえ、詳細はもはやわからぬ。」