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ブラック企業戦士、異世界で救国の勇者になる

海道 一人

帰路

 翌日、朝食を食べた後で俺達はミッドネア城に戻るために再びグリフォンの引く輿に乗り込んだ。
 今回は町の手前ではなく、堂々と領主の館の前で乗り込む。
 町人や兵士達全員が駆けつけ、口々に歓声を上げていた。


 「ルノアリア女王!町を守っていただきありがとうございます!」
 「女王陛下に栄光あれ!ミッドネアに栄光あれ!」
 「ドラガルド将軍万歳!」
 「ミッドネア万歳!」


 町人達の笑顔を見ると自分のやった事が間違ってはいなかったと確信する。
 危険な賭けだったけど勝つことができた。
 ルノアも町人達の歓声に涙を浮かべて手を振り返している。
 心の底から喜んでいる。
 頑張って良かった、つくづくそう思えた。


 見つめている俺に気づき、ルノアの頬が赤く染まる。
 俺も昨日の事を思い出して顔が熱くなる。
 あれ以来ルノアとはなかなか上手く喋れない。
 どうやって以前のように話せるようになるだろうか。


 そうこうしているうちにグリフォンは宙に舞い、歓声を上げる町人や兵士を後に一路ミッドネアへと向かっていった。
 輿の中はぎこちない静寂に包まれていた。
 ドラガルド将軍はさっさといびきをかきだし、ブレンダンは気配を完全に消し去っている。
 ソリナスはと行きから持ってきていたのか分厚い本を開いている。


 「……あんな笑顔の国民は初めて見ました。」


 しばらく経ってぽつりとルノアが口を開いた。


 「即位してから何度か国内を回ったことはあるのですが、いつもぎこちなさを感じていました。私が至らないから国民に不信感を抱かせてしまっている、そう思っていました……」
 誰に言うとでもなく言葉を続けている。


 「でもそれは私に自信がなかったからなのですね。メラノの人達は以前私が来た時も同じように迎えてくれていたはず。私の方がそれを受け取れていなかったのですね。」


 「それだけじゃないと思うぞ。」


 俺は口を挟んだ。


 「……それはどういう……?」
 「その以前の様子は知らないけど、今回メラノは間違いなく危機に陥っていた。ノーザスト軍は通過するだけど言っていたみたいだが、メノラの人達は不安だったはずだ。」
 「ルノアの毅然とした態度で町の人達も分かったんだよ。ルノアが本気でこの町を守ろうとしていることに。だからあの喜びは単に女王が来ただけの喜びじゃない、自分達の女王が本当に自分達を守ってくれた、そういう喜びだったと思う。」


 「……そう……でしょうか……」


 「そうだよ。ルノアを自分達の本当の王だと認めてくれたんだ。」


 「仁志殿の言う通りですな。」


 寝ていたはずのドラガルドが会話に加わってきた。


 「姫様の態度は実に見事だった。二万の軍勢に対し一切引かないあの演説、あれはメラノ一体で語り草となるでしょう。いずれ子供達に聞かせる夜語りとなるかもしれませぬぞ。」
 そう言って豪快に笑う。


 「……そんな……私は何も……していないのに。全て仁志様のおかげなのに……。……私なんか……」
 ドラガルドの言葉に恐縮するルノア。
 しまった、ここでルノアを持ち上げるのは逆効果だったか。




 「……そう言われてみれば確かにそうであるな。」
 そんなことはない、そう言おうとした時にドラガルドがそう言って髭を捻った。


 「考えてみれば、姫様は我々が考えた題目を唱えていただけであったか。しかもよくよく思い返してみると若干とちっていた部分もあったような……」
 そう言って俺に目配せする。


 そういう事か。
 「いやいや、ドラガルド将軍、ルノアはよくやっていたと思いますよ。多少噛んだ部分はありましたが良い演説でした。声も震えていて棒読みでしたが、魔術で増幅されてしまえばわからないですからね。それにかなりのプレッシャーだったと思いますよ。なんせ朝も五人前しか食べてなかったですから。」


 「る、仁志様?」
 急な展開に素っ頓狂な声を上げるルノア。


 「なんと、それは天変地異の前触れかもしれんな。姫様ときたら、魔術学校の入学試験の時ですら十人前は食べていたのだから。いやはや、ノーザスト軍にその事を知られる前に退却させられたのは僥倖ですな。
 「お、叔父様っ!」


 「いやいや、本当に今回は敵が近くにいなくて助かりましたよ。輿に乗る時にスカートの裾を踏んで転びかけたところを見られてたらどんな演説も台無しでしたからね。」
 ソリナスも乗っかってきた。




 「……もうっ、分かりました!分かりましたから!」
 遂にルノアが根負けして叫んだ。


 「みなさん意地悪です!」
 顔を真っ赤にして怒っている。
 でもようやく年相応の表情に戻ってくれた。


 「……私だって……したくてしてるわけじゃないのに……」
 そう言いかけて慌てて口をつぐむルノア。
 言ってはいけないことを言ってしまった、というように恐る恐る俺達を見回している。
 でもその事を咎める人間は誰もいない。
 みんなわかっていたのだ。


 「わかっているよ、ルノアが女王をやりたがってない事は。それでも、やっぱりルノアは女王に相応しいと思うんだ。」
 俺は言った。



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