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ブラック企業戦士、異世界で救国の勇者になる

海道 一人

覚悟

 起き上がり、窓を開ける。
 月明かりが部屋に差し込む。


 「来ると思ってたよ。」
 振り向いた先の部屋の角、月明かりの届かない影の中に音もなくブレンダンが立っていた。
 「肩の傷はもういいのかい?」
 俺は窓辺にもたれかかった。
 不思議と今までブレンダンと相対した時に感じていた緊張がない。
 まがりなりにも死線を潜り抜けたからだろうか。


 「あれしきの傷、大したことはない。」
 こともなげに言うブレンダン。


 「……」
 「そう言えば、ルノアを襲った兵達はどうなったんだ?」
 「全員殺した。」
 「……そうか。」
 そうじゃないかとは思っていた。
 おそらく操られていただけだろうが、あれだけの事をしたのならそれも当然なのか。
 つくづく自分が日本とは全く違う価値観の世界にいるのだという事を思い知らされる。
 そして命を取られると言えば……


 「……そう言えば、あんたの言っていた期日はそろそろだっけ。」
 「……覚悟は決まったのか?」


 「ああ。」
 ブレンダンの問いに俺は答える。


 「申し訳ないけど、俺はここを去るわけにはいかなくなった。」


 はっきりと否定したがブレンダンはピクリとも動かない。
 影に隠れた表情からは何も読み取れない。


 「それで?」


 「俺はルノアを守る。そのためにはルノアの側にいなくちゃいけない。だからだ。」
 「俺に殺されると分かっていてもか?」
 「それでもだ。」


 ブレンダンの言葉にははっきりと殺意が込められているが、今の俺に恐れはなかった。


 「……続けろ。」
 ブレンダンが促した。


 「あんたもこれでノーザストが諦めたとは思ってないはずだ。いずれ第二第三の手を使ってミッドネアに攻めてこようとするだろう。今回のように直接ルノアを狙ってくる事だって十分あり得る。」
 「それにあんただってわかってるはずだ。敵は外から来るだけじゃない、中にもいると。」
 「……」
 ブレンダンからの返事はなかったが俺はそれを肯定と受け取った。


 「正直言って今のミッドネアは問題が多すぎる。元首がルノアに変わった以上、指示系統を立て直さないといけないし、ノーザストとサウザンの圧力も凌がないといけない。」
 「それに王国内に潜り込んだスパイも洗い出す必要があるし、他国の情報も集める必要がある。それに並行して当然ルノアの身を守る必要もある。今のミッドネアには人手がいくらあっても足りないはずだ。それも完全に信頼できる人手が。」


 「ブレンダン、本当に信頼してルノアを任せられる人間は今何人いる?」


 答えはなかった。


 「俺にとってはブレンダン、あんた一人だけだ。」


 「まだこの国に来て数か月だからからかもしれない。だけど、今まで見てきた中で本当にルノアを守ろうとしていると感じたのはあんただけだ。あとはせいぜいあの二人のメイド位?」
 「それだけなんだ。あんだもそうなんじゃないか?信頼できる人間は十人もいないんじゃないか?だから、俺にもルノアを守らせてくれ。」
 「俺を信頼してくれとは言わない。だがほんの少しであっても手助けは出来ると思う。いや、やってみせる。というか、もうやると決めてるんだ。だから以前あんたの出した条件は反故にさせてもらう。」








 「……よく喋る奴だ……」


 長い沈黙の後でブレンダンが口を開いた。
 「昔の名残でね。喋るのが仕事だったんだ。」


 「喋るだけの奴に何ができる。」


 「今はもう喋るだけじゃなくなったさ。」


 俺の言葉が終るか終わらないかという時に剣が飛んできた。
 その柄を掴んで止める。
 その剣をブレンダンのすぐ横に向かって投げ返す。
 剣は石膏作りの壁に柄の根元まで突き刺さった。


 「俺がこの世界に来るにあたって得た力の事はあんたも知ってるだろ?俺を仲間に加えて損はないと思うけど?」


 「同時に貴様は危険な存在でもある。ここでその危険性を貴様の存在ごと消しておくというのも手だ。」


 「そうしてあんた一人でルノアを守り切れるのか?以前にソリナスに言われたよ。これでルノアを戦場に連れて行く事になるって。」
 「確かにその通りだったし、それでルノアを危険に晒す事になった。だけどもう自体は動き始めてしまったんだ。ミッドネアにはスパイがごまんといるし、今回の戦いで俺の存在をはっきりと知られた。おそらく次は俺という相手がいる事を想定して攻めてくるだろう。」
 「そうなった時、あんた一人でルノアを守り切れるか?危険だからと言って他の人間を排除していって、それで安全を維持できると言えるのか?」


 答えはない。
 だがブレンダンにもわかっているだろう。
 俺達は手を組むしかないのだと。


 「……その口と同じ位手を動かしてもらう事になるぞ……」


 交渉成立だ。


 「当然だ。」


 「女王に何かあれば即座に貴様を殺す。」
 「覚悟してるさ。」


 「貴様にも手を汚してもらう事になるぞ。」
 「それも承知の上だ。」


 事実、おそらく今回の戦いで俺は何人か殺していたとしてもおかしくなかった。
 何人かは全力で殴ったり蹴ったりしていたし、俺が起こした破壊に巻き込まれた人もいるだろう。
 それでも立ち止まるわけにはいかない。


 「……ならばもはや言う事はない。」


 ゆらりとブレンダンが動き、腕が舞った。
 いつの間に抜いていたのか、先ほどの剣が再び飛んできた。
 再びその柄を掴んで止める。


 「取っておけ。仁志、貴様にもそれが必要だろう。」


 そう言って影に滲むようにブレンダンの気配が消えた。


 「全く仰々しいったら。」


 俺は剣をテーブルに放り投げ、ベッドに寝転んだ。
 そう言えばブレンダンが俺の名前を読んだのは初めてだったような。


 少しは認められたってことなのかな?


 ともかく、これでブレンダンとの件はひとまず一件落着だ。
 いつの間にか夜が白々と明けようとしていた。



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