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ブラック企業戦士、異世界で救国の勇者になる

海道 一人

回復

 どれほどそうしていたのだろうか、唇と唇が名残を惜しむように離れた時には俺の気力は満ち溢れ体力も完全に回復していた。
 回復したどころじゃない、今までで一番調子が良い。


 「凄い……本当に……本当に回復した!」
 ルノアの肩を掴み、俺は感動して叫んだ。
 ルノアは熱くうるんだ瞳で俺をぼうっと見ていたが、それを聞いてぱっと顔がほころびだ。
 「本当ですか!?」


 「ああ、もうすっかり元気だよ!
  見てくれよ、腹の傷も……跡すら残ってない!」
 「本当ですね!」」
 手を取り合ってベッドで体を弾ませて喜ぶ俺とルノア。




 待て、今思い出したが……ルノアは……全裸……だよな?


 首がきしむような音を立てて俺は横を向いた。


 そんな俺にルノアはしばらくきょとんとしていたが、やがて自分の状態に気付いたらしい。
 ばね仕掛けのようにベッドの端に飛び退り、毛布を体に巻き付けている。


 横目で見るルノアの顔はまるで朱を塗ったようだ。


 「見てない見てない!自分の体をチェックするのに夢中で全然見てないから!」
 俺は慌てて取り繕った。


 まあある意味でそれは本当だった、残念なことに。
 いや、瞬間的に見てはいるのだが色んな衝撃で脳がキャパオーバーしてしまい断片的にしか保存されていないというか。


 「ほ、本当ですか?……」
 「本当だって!誓ってもいい!何も見てない!これっぽっちも!」


 おへその横にほくろがあるのは覚えてるけど、と言いそうになるのをなんとか我慢する。
 「……良かった。もし見られてたら恥ずかしくて死んじゃいそうです。」


 いや、全然恥ずかしくなる必要なんかないよ。
 そう言いたかったけどこれも我慢する。


 「でも本当に凄いな。さっきまで起き上がるがやっとだったのに、今はもうすぐにフルマラソンでも出来そうなくらいだ。」
 「この一週間施していた治癒魔術で仁志様の体内には魔力が大量に流れ込んでいたのですが、仁志様の耐魔体質がそれを取り込む邪魔をしていたのです。私が同調して経路を開いた事でその治癒魔術の魔力が一気に流れ込んでいったのですね。」
 「そう言えば、ルノアの魔力を送り込むと言ってたけど、ルノアの方は大丈夫なのか?」
 俺の言葉に顔を赤らめるルノア。
 それを見て俺もルノアが魔力を送り込むために行った行為を思い出し、顔が熱くなる。


 「あ、あれは……仁志様の体内に留まっていた魔力を正しく作用させるためのきっかけのための魔力なので、私自身にはほとんど影響ありません。でもお気遣いありがとうございます。」
 「そうか……それはよかった。さっきも倒れるまで俺に治癒魔術をかけてくれたと言ってたから。」


 「あのくらい当然です。私が仁志様にできる事はあれくらいしかないですから。」
 「ありがとう、ルノア。でもこれ以上無理はしてほしくないんだ。もう十分にやってもらっているから。」
 俺はルノアの手を取り、握った。


 「仁志様……。」
 ルノアもその手を握り返す。


 「……それはそれとして……そろそろ服を着た方がいいんじゃ……?」


 「あああああああっちを向いててください!」


 視界の外でルノアがあたふたと服を着ている。


 「もう大丈夫です。」
 そう言われて振り向くとそこには先ほど部屋に入ってきた時のルノアがいた。
 多少髪が乱れて顔が紅潮してはいるけど。


 「では私はこれで失礼します。明朝に城の方に戻りますので、そのつもりでいてください。今日はゆっくりと休んでくださいね。」
 そう言って部屋を出ていった。


 静かになった部屋でまだかすかにルノアの残り香がするベッドにごろりと横になる。


 たった二日だというのに色んな事が起きた。


 これが俺がこの世界に来た意味なのだろうか。


 俺がこの世界に来た意味、ルノアにとってはミッドネアを守るためだが、俺にとっての意味は?
 何のためにこの世界に来たのか、ではなく、この世界で何をするのか、それが俺にとってのこの世界に来た意味になるのかもしれない。


 少なくとも俺はルノアの手助けをし、結果として俺自身の身も守ったことになる。
 ならばとりあえずはそれでいいのかもしれない。


 今はまだ俺がこの世界で何をしたいのかはわからない。
 それでもルノアを助けたいとは思う。
 ルノアを助ける事、当面はそれを俺のやりたい事に定めよう。


 そうすることで俺の居場所も守られるわけなのだから。
 何よりルノアの笑顔が見られる。


 俺自身の事より今はそれが一番得たいものだと思う。
 そうだ……ルノアの笑顔が見られるならそれで……




 いつの間にか眠っていたらしい。
 目を覚ました時、部屋は暗闇に包まれていた。



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