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ブラック企業戦士、異世界で救国の勇者になる

海道 一人

目覚め



 目を開けると白い天井と巨大な丸太を削りだした梁が見えた。


 あれ?俺って旅館がどこかに泊ってるんだっけ?
 社員旅行で行った熱海の旅館がこんな感じだったっけ?


 しばらくぼうっとしていたがやがて徐々に記憶が戻ってきた。
 「ああ、俺、生きてるのか。」
 最初に出てきた言葉がそれだった。


 ノーザスト兵がいなくなり、目の前が暗くなりながら地面が迫ってきた時、最初に思ったのはこれで死ぬんだ、という事だった。


 だが生きている。


 ひょっとしてまた別の世界に飛ばされたのかも?とぼんやりした頭で思う。


 脇腹に手をやると包帯が巻かれている。
 どうやらまだ同じ世界にいるらしい。


 上体を起こしてみようとするがまるで別人の体のように動かない。
 ヘッドボードに手をかけ、寝たきり老人のようにのろのろと上体を起こす。


 まるで重病人だ。
 そう思って自分がそれくらい重傷を負っていたことを思い出す。


 見回した部屋は簡素だがこざっぱりとしている。
 そこが以前泊ったメノラ領主ノッスンの屋敷の部屋だと気が付いた。
 どうやら誰かがここまで運んで手当てをしてくれたらしい。
 窓は開け放たれていて気持ちのいい青空が見える。


 「終わった……のか?」


 どの位寝ていたのだろうか?
 ノーザスト軍は無事撤退したのだろうか?


 ぼんやりと空を見ていると扉の開く音がした。
 桶と手ぬぐいを持ったメイドが入ってき、俺が起きていることに気づくと目を見開き桶を取り落として走り去っていった。


 しばらくして複数の走り音が近づいてき、ルノアが真っ先に飛び込んできた。
 ドラガルドとソリナスがそれに続いてくる。


 「仁志様!」
 そういうなり俺に抱きついてくる。


 「仁志様!仁志様!仁志様!仁志様!仁志様!仁志様!仁志様!仁志様!」
 ひたすら俺の名前を叫び続けながら俺の体を抱きしめる。


 俺の方はと言うと、抱きつかれた衝撃で剣を突き刺されたわき腹に激痛が走り悶絶していた。


 「良かった……やっと気が付かれたのですね。」
 しばらく経ってから涙をぬぐいながらルノアが俺から身を離した。
 それでもまるでもう決して離さないとでもいうかのように俺の手を握り続けている。


 「ああ、心配かけてごめんな。」
 俺の謝罪にルノアは頭を振った。


 「そんな、仁志様が謝る事なんて何も。むしろ私達の方が迷惑をかけっぱなしで……仁志様の身に何かあったら私は……私は……」
 そう言ってはらはらと涙を流すルノア。


 俺はその涙をそっと指で拭った。
 「でも、俺は生きてるし無事に終わった。そうなんだろ?」
 「はい!」
 涙をぬぐい、満面の笑みで答えるルノア。


 「あれからどうなったのか教えてくれないか?」
 俺は再びベッドに横になりながらルノアに尋ねた。


 ルノアの説明によると俺は一週間意識不明だったらしい。
 橋が壊れていたため対岸を越える事が出来ず、ルノアが飛翔魔術を使って俺を抱えて戻ってきたのだとか。
 それからルノアは倒れるまで三日間ぶっ通しで俺に治癒魔術をかけ続けたらしい。


 メノラ領に戻ってきた時点で俺の心臓はほぼ止まりかけで、並の人間なら既に死亡状態、ルノアの治癒魔術でも十中八九死んでいただろうとソリナスが補足してきた。


 結局あれからノーザスト軍は戻ってこず、放った斥候もヤラートはそのまま自分の領地に帰っていったと報告してきたそうだ。
 ひとまず危機は脱したらしい。


 「本当に良かった……」
 ルノアが安堵のため息を漏らす。
 「ああ、これでミッドネアもしばらくは安心できるな。」
 「そうじゃありませんっ」
 俺の言葉に口調を強めるルノア


 「仁志様が無事だった事です!絶対に生きて帰ると約束したのに、血まみれで倒れている仁志様を見た時はどれだけショックだったか……。」


 そう言って口を尖らせる姿は年相応の女の子にしか見えない。
 この娘のために身を投げ出してよかった、そう思えた。


 「悪かったよ。俺がもう少し上手くやれていればそんな心配かけなかったのにな。」
 「もうっ謝らないでください!
  謝るのはこっちなんですからっ。」


 「仁志殿。」
 俺とルノアの会話にドラガルドが割って入ってきた。


 胸に手を当て首を垂れる。
 「この度の貴殿の功績、誠に感謝している。ミッドネア軍総大将として御礼申し上げる。」
 「いや、そんな。むしろお礼を言いたいのはこっちの方で。あの時刺客の連中を押さえてくれなかったら俺もどうなってたか。」


 「いや、貴殿が我がノーザスト軍五千人の命を救ってくれたのは間違いない。貴殿は戦闘を起こさせないことで我が部下達の命を救ってくれたのだ。」
 「全くです。」とソリナス。


 「あの会議で作戦を聞いた時はどうなるかと思いましたが、全くもって感服いたしました。どうでしょうドラガルド様。彼を我が軍の参謀に迎え入れるというのは。仁志殿がいてくれればこれ以上ない位心強いと思うのですが。」
 「いや、俺は……」


 「まあ待て、ソリナス。」
 ドラガルドがソリナスの言葉をたしなめる。


 「仁志殿はまだ傷が癒え切っておらん。体力も戻っていないだろう。まずはゆっくり静養してもらわねば。後の事はそれからだ。であろ?」
 「はあ……まあ……」
 なし崩しに話が進みそうになる中、煮え切らない返事をする俺。


 「その通りです。」
 そこにルノアが割って入ってきた。


 「仁志様の意思なく話を進めるのは女王であるこの私がが許しません。私は仁志様にどんな望みも聞き入れると約束しました。そしてその言葉を覆すつもりもありません。仁志様の人生は仁志様のものです!」


 その言葉にソリナスとドラガルドが跪く。
 「「ははっ!」」
 臣下を従えるその姿は紛れもなく女王の気品をまとっていた。


 「しかし……立派になられましたな、姫様。」
 立ち上がりながらドラガルドが言った。


 「すっかり女王としての風格が身についておられる。小さかった頃はあんなに人見知りだったのが嘘のようでありますな。それも仁志殿が来てからの事。これはますます仁志殿に感謝せねばなるまいな?」


 「もうっドラガルド叔父様ったら!私だって成長してるんです!」
 茶目っ気を見せて軽口をたたくドラガルドにルノアが顔を赤らめて抗議する。
 今までの会話から察するにどうやら二人は古くからの知り合いらしい。



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