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ブラック企業戦士、異世界で救国の勇者になる

海道 一人

決戦

 どうやら紛れ込んでいた刺客は全て拘束されたらしい。
 ソリナスが剣を構えたまま待ち構えていた。
 「姫はっ!?」
 「無事だ。
  ブレンダンが守っている。」
 俺はそういうとなかば強引にソリナスの剣を取り上げ川に向かっていった。


 「仁志殿、一体どちらへ?」
 俺に随走しながらソリナスが訪ねてくる。
 「決まっているだろ。」
 「俺の戦場だ!」
 そういって一気にソリナスを突き放す。


 行き先は、ノーザスト軍中枢!


 川に駆け寄りながら対岸に視線を集中する。
 中枢はおそらく先ほど刺客に指令を送っていた魔術師のいるあたりだ。
 しかしその時対岸に動く影があるのが見えた。


 何か巨大なものが動いている。
 魔力がそこに集まっている。
 魔力の大きな流れが三つ。
 その中に一つ、ひときわ大きく集まっているものがある。


 まだ何かやるつもりなのか!
 これ以上好き勝手させてたまるか!


 俺は目標を変え、その魔力が集中している巨大なものに向かってジャンプした。
 上空高く舞い上がりその物体を視認する。
 それはまるでローマ時代を舞台にした映画に登場するような巨大な投石器だった。
 地面には投石器を中心に魔方陣が描かれ、そばで数人の魔術師が呪文を詠唱している。
 岩自体にも何らかの術式が組み込まれているのかほのかに明滅している。
 あれを撃ち込まれるのは不味い!


 俺が突っ込むのと岩が射出されたのはほぼ同時だった。


 凄まじい衝撃と共に岩が俺に激突した。
 とっさに腕をクロスしてガードしたものの、全身がちぎれそうな衝撃だ。


 「うおおおおおおおおおおっっっ!!!!!」
 全身の力を振り絞り絶叫と共に岩を弾き飛ばす。
 質量差で言ったら絶対に不可能なのだが俺の全身を流れる魔力の影響なのだろうか、岩は弾かれて別の投石器に激突し、それを破壊した。


 「引け、引け―っ!」
 ノーザストの兵士が蜘蛛の子を散らすように退散していく。


 俺はなかば衝突するように転がりながら着地した。
 目の前には先ほど岩を射出した投石器がある。


 こいつは破壊しなくては!


 投石器の足場に手をかけ、力任せに引っこ抜く。
 地面深く打ち込まれた杭ごと足場を引き抜き、もう一台残った投石器に投げつける。


 轟音と共に二基の投石器が破壊され、その直後に先ほど吹き飛ばした岩が投石器を巻き込んで爆散する。
 爆音と逃げ惑うノーザスト兵達の絶叫と怒号の中、ソリナスから奪った剣と腰に差していた剣を両手で持ち、俺は更に跳躍した。


 目指すのはノーザスト軍の最奥部。


 着地と同時にそこにいた二人の喉元に剣を突き立てる。
 何の変哲もない鎧姿の二人だ。
 だが俺は先ほどの騒動の中でこのうちの一人がもう一人に「今のうちにお下がりください。」と言うのをはっきり聞いていた。
 その声は魔術師に合図を送れと言っていた声だ。
 ならばこの二人がこの軍の重要人物である可能性は高い。
 はっきり言って分の悪い賭けだが今はそれに賭ける。


 突然空から降ってきた俺に周囲の兵はぎょっとして後ずさったが、すぐに気を取り直して俺に剣を突き出してきた。
 まさに剣の壁だ。


 「動くなっ!!!」
 ノーザスト兵達をけん制するように俺は叫ぶ。


 「動くとこの二人の首を掻っ切るぞ!」
 その言葉に剣を構えたまま動揺を隠せないノーザスト兵達。
 俺が剣を首に押し当てている二人は、一人は口髭をと山羊髭を生やした中年男でもう一人はまだ若い美男子だった。
 年は俺と同じくらいだろうか。


 「貴様!今すぐヤラート様とカーリー殿から離れろ!」
 「逃げられるなどと思うな!」
 「さっさとその剣を降ろせ!」


 周囲の兵が口々に叫んでいるが俺の耳には届かない。
 「ヤラートとカーリーとやら、今すぐ全兵士に撤退命令を出せ。兵を引くなら一切追撃しないことを約束する。できないのならこの場で殺す。」
 周りの兵士は一切無視して二人にそう告げた。


 「何故我々にそれをできると?それができるのは司令官だけですぜ?」
 山羊髭の男が口を開いた。
 首元に剣を突き付けられているとは思えないような、まうで会社でコピーを頼まれたけどコピー機が壊れてるからできませんと答えてきた後輩のような口振りだった。


 「お為ごかしは止せ。」
 俺は山羊髭男の釈明を一言で切り捨てた。
 先ほどの兵士達の反応を見てもこの二人が重要人物であるのは間違いない。


 「今すぐ兵を引かせるか、ここで死ぬかのどちらかだ。言っておくが貴様らが潜り込ませた刺客は既に全滅している。本来ならばその卑劣な行為は死をもって償わせるところだが、我が女王殿下は戦争を望んでおられない。」
 「この場で全軍即撤退するなら先ほどの罪は問わないと女王殿下はおっしゃっている。今この場で決断しろ。できないのなら貴様ら二人を殺した後にノーザスト軍を一人残らず蹂躙する。」
 はったりだが本気だった。


 今まで人を殺すどころかケンカだって中学生の時に同級生と殴り合いをした時以来した事がない。
 パワハラ紛いの上司や役に立たない同僚、無茶な要求をしてくる取引先をぶん殴ってやろうと思った事は何度もあったが、そういう時は酒を飲むかチョコを食べまくって眠り、翌朝に怒りが引くまで我慢していた。


 だが今は違う。


 この場だけは何としても俺の要求を通す。
 そのためにはどんな事でもする。



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