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ブラック企業戦士、異世界で救国の勇者になる

海道 一人

メノラ

 輿の揺れで目を覚ました時、俺達はメノラに到着していた。
 いや、正しくはメノラより少し手前の森の中に到着していた。
 「ノーザスト軍に見つからないように手前で降りてここから先は陸路を行きます。」
 ソリナスがそう説明した。


 日は傾き、あたりはゆっくりと朱色に染まろうとしている。
 「おそらく日没までにはメノラに着けるでしょう。」


 その言葉通り、日没の少し前に俺達はメノラの領主邸に到着した。
 口髭を蓄えたノッスンという領主が俺達を迎え、食事もそこそこにルノアとドラガルドはメノラに駐留している軍の指揮官と会議へ、俺とソリナスは明日の準備のために駐屯地へと向かった。


 駐屯地では既にあらかた準備が終わっていて、注文通り全身を黒くした鎧装備が百人分揃っていた。
 「なるべく恐怖心を抱かせるって注文だったから、多少化粧もしときやしたぜ!」
 急遽呼ばれてきたというメノラで看板屋をしている親父がそう言った通り、鎧は所々赤く縁どられており、それがかえって威圧感を与えている。
 「こういうのは蜂や野獣と一緒でさ、単純に一色にするよりもぱっと一目でわかる部分があった方が見る方も警戒するんでさ!」


 このオヤジ、田舎町の看板屋にするにはもったいない位の才能があるのやもしれん。
 「これは良いな、俺の鎧も同じように塗ってくれるか?それから全員同じ模様にした方が画一的で不気味さも増すからそうしてもらえるかな?」
 「お安い御用でさ!」
 俺は看板屋のオヤジに鎧を預けて更に駐屯地を歩いた。


 「何を探してるのですか?」
 歩き回る俺にソリナスが尋ねた。
 「なるべくでかい武器が欲しいんだ。見ただけでこいつには手を出さない方が良い、そう思わせるような奴を。」
 「でしたらこちらにどうぞ。」
 ソリナスはそう言って俺を武器庫へと案内した。


 なんですぐに武器庫の位置が分かったのか聞くと、駐屯地はどこに行っても迷わないように武器庫や営舎など一般的な施設の位置関係は統一しているらしい。
 さすがに司令部は各地で場所を変えているらしいが。


 小さな町だが国境沿いという事もあって駐屯地はそれなりの規模であり、武器庫もかなり広かった。
 「うちにある武器で一番でかいのはこれです。」
 武器庫の管理兵がそう言って示したのは柄の太さが成人男性の腕程もある槍だった。


 「兵達が遊びで作ったものなのですが、当然ながら誰にも扱えなくて放置してたんです……。」
 俺は管理兵の言葉を待たずにその槍を掴んだ。
 両手で握り、胸元に引き寄せると槍は真っ二つにへし折れた。


 「これじゃ駄目だな。もっとでかくて重いのが必要だ。」
 口をあんぐりと開け、宇宙人を見るかのような目つきの管理兵をよそに俺は兵器庫を奥へと進んだ。
 壁や棚に大小さまざまな武器防具が積まれているが、どれも俺にとっては貧弱過ぎた。
 いや、武器としては全然使えるのかもしれないが、今必要なのは一目で相手がびびって尻込みするようなものでなくてはいけないのだ。
 ぶっちゃけはったりが効くなら兵器としての性能はなくてもいい。


 その時、兵器庫の隅に巨大な塊が置かれているのに気付いた。
 埃を被り、形も判然としないが何か巨大で重厚な雰囲気を見せている。
 「あれはなんだ?」
 「あれですか?あれは武器ではなくこの基地を設営する時に使った整地するための石のローラーですね。馬に引かせていたのですが、他に使いようもなくてあそこにずっと置かれてたんです。」


 そのローラーはドラム缶を少し太くした位の円筒状の石の塊で、背丈は俺よりも高く二メートル以上はあるだろう。
 両側に鉄の輪が嵌められている。
 中央には棒を差し込むためだろう丸い穴が貫通している。


 「これならいけそうだな……後は柄だけど……」
 周りを見渡すと壁に鉄棒が何本もたてかけらていた。
 太さは直径二センチほどで長さは二メートル半くらいある。


 「あれは何だ?」
 「あれは……バリケード用の柵材ですね。組み合わせて柵を作るのに使うんです。現在も川沿いに設営中です。」
 あれなら何とかなるかもしれない。


 「あれを五、六本通せるくらいの穴をあのローラーに開けて、鉄棒をそこに固定できないか?」
 「は?」


 管理兵が何を言ってるんだ、こいつは?という目で見てきた。
 その気持ちはわかる。
 「君、気持ちはわかるが彼の言うとおりに手配してくれないか。」
 ソリナスが改めて管理兵に言った。


 「しょ、少々お待ちください。ただいま武器の整備兵を呼んできます。」
 駅でいきなり外国人に話しかけられた時の俺の様に管理兵は走り去り、ほどなくして油まみれのシャツを着て髭面の整備兵を連れてきた。


 「君、このローラーにあそこの鉄棒が五、六本通せる穴をあけてから鉄棒をローラーに固定してくれないか。明日の朝、六時までに頼む。」
 「は、承知しました!」


 整備兵は敬礼してそう言うと、失礼しますと一礼して仲間を呼びに走っていった。
 「誰も疑問に思わないんだな……」
 「軍隊ですからね。上官が烏は白いと言えば白くなるのがこの組織ですよ。」
 そういう部分は日本の会社と変わらないのか。
 組織の本質はどこも同じらしい。


 あらかた指示を出した後、俺はソリナスと別れて食事もそこそこに領主の用意してくれた寝室へと引っ込んだ。
 明日の朝は早い、今のうちに寝ておかないと。
 「明日、か……」


 果たしてうまくいくのか、正直言って全く自信はなかった。
 しかし、今のところ戦闘なしで相手を撤退させるという目的を達成する方法はこれしかない。
 何度も寝返りを打っていると扉をノックする音がした。
 扉を開けると、そこにはルノアがいた。



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