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ブラック企業戦士、異世界で救国の勇者になる

海道 一人

尋問

 それから数日、特に何事もなく日は過ぎていった。
 あの日以来ルノアには会っていない。
 なんでも国政の方が忙しいのだとか。


 講義はルノアではない城の学者が付いてくれ、森であんな事件に遭遇したせいか外に出る気にもなれなかった俺は午後も講義をしてもらい、なんとなく一人になりたい気分だったから食事も自室に運んでもらっていた。


 森での襲撃事件があってから三日後の午後、講義も終わって部屋でゴロゴロしていると扉をノックする音がした。


 開けるとそこにはルノアと、その背後にはブレンダンがいた。
 ルノアの手には小さな木でできた箱があった。
 瞬時に身を固くした俺にルノアが話しかけてきた。
 「今から少しお見せしたいものがあるのですが、付いてきていただけますか?」
 その表情はどことなく固く見えた。


 どうするか一瞬逡巡したものの、結局俺は付いていく事にした。
 というか選択肢はあってないようなものだ。
 しかし、ブレンダンが表立って姿を見せるというのがわからない。


 二人の後をついて城の廊下を歩いていったが、この男の顔からは何も伺えない。
 二人は今まで通った事のない廊下を通り、階段を下り、地下へと降りていった。


 何が起こるのか全く分からず、俺の頭には徐々に恐怖が頭をもたげてきた。
 ひょっとしたらルノアが俺を最早用無しと見なし、処分する事に決めたのか?


 ブレンダンがいるのは俺を始末させるためなのか?
 正直言って帰りたい。


 しかし帰った所で結局何だったのか悶々とするのは確実だ。
 俺達は城の地下深くへと降りていき、やがて小さな木の扉の前に辿り着いた。


 その扉はごつい金属の鍵が付いており、護衛が二人立っていた。
 はっきり言って相当に不穏だ。


 衛兵が俺達の姿を確認して扉の鍵を開ける。
 ルノアとブレンダンがその扉の中に入っていき、俺も迷った末に入る事にした。
 ここまで来たら毒を喰らわば、だ。


 中は天井の低い、小さな部屋になっていた。
 部屋は他の部屋と同じ光源でほの明るく照らされており、その部屋の隅に人影が見えた。
 それは一人の女性で、手足を金属製の金具で拘束されていた。
 女性の座り込んでいる床が微かに発光して魔法陣を描いている。


 俺達の足音を聞きつけ、女性が顔を上げて睨みつけてきた。
 その女性には見覚えがあった。
 城で侍女として働いていた女性で、廊下で度々すれ違った事がある。


 「先日、ブレンダンから報告がありました。」
 ルノアが静かに告げた。
 「仁志様が命を狙われた、と。
  城の中に内通者がいる可能性があり、調査した結果この者が内通者であると判明しました。」


 ルノアはそう言い、手に持っていた箱を開け、中から小さな宝石を取り出した。
 「お見せしたいのはこれです。」
 そう言って宝石を手に取り、低く呟き始めた。
 「右手は遍く万象に届き
  左手は事象の端を掴む
  足は死の深淵を踏みしめ
  体は虚無において実体を持ち
  実体の中に虚無を流す
  頭は生の瞬きを発し
  眼は生と死の変遷を見る
  鼻腔は宇宙を嗅ぎ
  耳は善と悪を聞く
  口が語るは万物の営み
  真実のさざ波
  虚構の閃き
  移ろう時空の突端
  虚空の中心
  孤高たる山脈の深奥
  其の魂に命ずる
  共鳴せよ
  反応せよ
  応対せよ
  充足せよ
  縁とせよ」


 ルノアの呪文?と共に手に持った宝石がまばゆく輝き始めた。
 その輝きは見覚えがあった。
 俺がこの世界に召喚された時、ルノアが俺に放った魔晶魂縛法という呪文だ。
 宝石の輝きで女の目に恐怖が宿る。


 「…や、止め…」
 「其の魔晶をもって汝の魂を魂縛するもの也!」
 輝きが最高潮に達した時、魔晶は女の胸に向かって飛び込んで行った。


 「あっああああああっ!!!!」
 女が絶叫し、一瞬虚空を睨んだかと思うとガックリと首を垂れた。
 ルノアはそれを見て女の元へと歩みより、しゃがみこんだ。


 「お、おい…」
 近寄ろうとする俺をブレンダンが制した。
 見ていると、女の肩が震えだした。


 「す、すいません……すいません……すいません……女王様……」
 女は泣いていた。


 「いいのです……さあ、顔を上げて。」
 ルノアは女にに優しく語り掛け、肩に手を置いた。
 見上げた女の顔は涙にまみれ、後悔の念に溢れていた。


 「これはもう必要ありませんね。」
 ルノアがそう言うとブレンダンが鍵を取り出し、女を戒めていた手足の金具を取り外した。
 自由になっても女は動こうとはせず、地面に手をついてルノアに許しを乞うていた。
 「申し訳ありません、女王様。
  私は……私は……何という事を……。」
 女の目から溢れた涙が床を濡らしている。
 「さあ、もう泣くのは止めましょう。  そしてあなたの知っている事、やってきた事を全て話してください。」
 「はい…」
 ルノアに促され、女は自分が何をしてきたのかを話し始めた。


 俺はそれを聞きながら、ゾッとしていた。
 これがこの魔術の力だったのか。
 この魔術は相手の意思は関係なく、いや意志そのものを捻じ曲げてしまう。


 あれがもし俺にかかっていたら、おそらく俺はルノアに絶対的な忠誠を誓うようになっていたのだろう。


 ルノアがそんな俺を見て寂しげにほほ笑んだ。
 彼女が見せたかったのはこれなのか。
 しかし何故だ?
 女によると、自分は監視をしていたが女が接触していたのはブレンダンが森で倒したあの男だけだったらしい。
 そしてあの男がどこと繋がっていたのかは知らないのだとか。


 ルノアとブレンダンの態度を見るに女の言っている事を疑ってはいないようだった。
 おそらくそれ程までにこの術を信用しているのだろう。
 結局考えられるのは女が俺の能力をあの男に告げ、男は危機感を持ったのか功名焦ったのか、それはわからないが俺を始末しようとしたという所か。
 とりあえず俺の能力が外に漏れたかどうかはわからないが、その可能性は低いようだ。
 その後、洗いざらい話した女はそのまま解放された。
 あの女はもう危険ではない、ルノアはそう言っていた。



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