ブラック企業戦士、異世界で救国の勇者になる
確認
食事をして午後からはずっと自由時間になる。
俺は午後はこの世界に来る時に身についた謎の力を調べる時間にあてることにした。
元々はルノアが午後に俺の体が起きた変化について調べたがっていたのだが流石にこの国の政をしなくてはいけないため泣く泣く諦めたという経緯があって、なんとなくその流れで自分なりに調べることにしたのだ。
どんな事が起きるか、どんな反応があるのか想像もつかないのでまずは部屋の中で色々試してみることにした。
とりあえず壁の隅に立ち、反対側(部屋の広さはおよそ十m四方、とんでもない広さだ)まで軽く走ってみる。
特に変化はない、普通の駆け足だ。
次にダッシュで走ってみることにした。
この前の加速(俺はあの現象を便宜上加速と呼ぶ事にした)を思い出しながら反対側の壁に一瞬で走る自分を意識しつつ後ろに伸ばした足を踏み込む。
音が消えた。
部屋の中だから景色は変わっていないが確かにこの前の加速と同じ感覚だ。
反対側の壁まで辿り着いて一息入れた途端、音が元に戻る。
加速が終わった瞬間、部屋の中の空気が巻き上がり、スタート地点の横にあった机の上の紙が煽られて宙に舞った。
それを見た俺は即座に元の場所に駆け戻るために加速を再度イメージしてみた。
宙に待った紙の動きが止まる。
正確にはゆっくり落ちているのだが俺の目にはほとんど止まってるようにしか見えない。
今度は歩いて戻ってみた。
どうやら走ったり興奮したりすることで加速が起こる訳ではなく、意識する事で加速状態に入れるらしい。
反対側まで戻って宙に浮かんだ紙を摘まみ、机の上に戻す。
ついでにベッドのシーツも翻っていたから戻してみたり。
いつまで加速が続くんだろうか?と思った瞬間に加速が終わった。
加速が始まるのは任意だが、終わるのは自分でコントロールできないのかもしれない。
あるいは意識がちょっとでも別の方向に向いたら止まってしまうのかも。
いずれにせよこれはもう少し調べる必要がありそうだ。
不思議な事に加速してる間に空気の抵抗は感じなかった。
例えば自転車に乗っていて速度が出ると空気の抵抗も大きくなるものだが、加速をしている間は歩いていようが走っていようがほとんど空気抵抗を感じない。
実験は部屋用の靴を履いて行ったのだが靴も傷んだ様子がないし服も破けたりしていなかった。
ひょっとすると魔力が関わっているのかもしれないがこの辺はルノアに聞いてみないと分からないだろう。
目を輝かせて質問しまくってくるだろうルノアを想像して俺は一人苦笑した。
人は見かけによらないもので、どうもあの娘は魔術の事になると人が変わるみたいだ。
朝食もルノアと一緒に取ったのだが最初から最後まで質問攻めで、講義の時間も半分はルノアの魔術についての講義と俺のいた世界の質問だった。
俺自身、ルノアの持つ魔術の知識はこの世界で生きていくために非常に有益だ。
明日もまた質問攻めになるだろうが、その前に自分の中でも色々試しておかなくてはいけない。
今度は力を調べてみることにした。
加速は言ってみれば全身の運動能力が強化されている事になるが、ならば持ち上げたり引っ張ったりする力はどうなのだろうか。
試しに机を持ち上げてみる。
天板の厚さが3センチはありそうな重厚そうな机だ。
ぐっと腰に力を入れて持ち上げた瞬間、俺はもんどりうってひっくり返った。
その瞬間、加速が発動して全ての動きがスローモーションになる。
俺の動きもスローモーションになり、ゆっくりと床に向かって落下していく。
慌てて腹に力を入れて後方宙返りの体勢を取ろうとした。
どうやら加速中に体に別の動きをさせることは可能だが加速前に体にかかった運動もそのままらしい。
例えば落下中に加速を行った場合、体を動かす事は出来ても落下その物を消したり落下を早めたりすることはできないらしい。
とりあえず宙返りして床に足を付き(この時点で加速中に自由に移動はできるようになった)、見上げると高さ五メートルはあろうかという天井に机が激突した所だった。
そしてそのままゆっくりと落下してくる。
俺はその机を空中で掴んで、意図的に意識をそらして加速を止めてみた。
手に机の重量がかかる、という事もなく机は普通に俺に持たれたまま宙に浮いている。
なんだかダンボール箱を持ってる位の感覚だ。
机を元の位置に持っていって手を放してみると結構な音を立てて床に落下した。
音から判断するにやはり机は相当な重量らしい。
という事は俺の腕力は身体能力と同じように相当向上しているようだ。
物は試しと今度はベッドに手をかけてみた。
ベッドはキングサイズで足も架台も太い木で出来ている。
どう考えても数百キロはあるだろう。
持ち上げられるかどうか疑いつつ、それでも先ほどのような事が無いようにゆっくりと持ち上げてみたら…持ち上がった。
まるでバルサ材で出来てるみたいに馬鹿でかいベッドが俺の手によって床から浮いている。
試しに片手で持ってみたが、全然余裕で持てる。
重さの感覚としてはちょっと重めの木の棒を持ってる感じだ。
俺より数倍は重いだろうベッドを片手で持てているというのはちょっとシュールな光景だった。
物理の法則的にまずありえない。
これも魔力のなせる業なのだろうか。
しばらくベッドを持ち上げたり降ろしたりして試してみたが、どうやら肉体的な負担はほとんどないようだ。
そして重いものを持てる分軽いものを持つ時に力を持て余すという事もなく、軽いものや柔らかいものも普通に持てるらしい。
言うならば、力の上限だけが上がっている感じだ。
俊敏さと体力、この二つが前の世界ではありえないレベルで向上している。
というか人類の範疇を超えている。
今まで見てきた限り、この世界の人間も体力的には元の世界の人間と大差はないっぽい。
それを遥かに凌駕した力を身に付けているという事になるが、逆にこれは考え物だ。
人智を超えた力があるとどうしても目立ってしまうし、場合によっては畏怖の対象になりかねない。
それに凄い力と言っても不意打ちにあえば意味がない事は昨日兵士に後頭部を殴られて気絶した事やブレンダンの急襲で思い知らされた。
体力があると言っても薬物に対する耐性があるかどうかは不明だし、一服盛られればそれでおしまいという可能性は大いにあり得る。
この力はあまり人目に触れさせない方が良いだろう。
なにせ今は常に誰かに見られている気がしてならない。
ブレンダンが監視しているのかと思ったがどうやらそういう訳でもないようだ。
ブレンダンの口ぶりから察するにあの男はルノアの警護を第一にしているから常にルノアの側にいるはずだ。
だとするとあの夜部屋にいたブレンダンの仲間か。
とにかく起きてから度々誰かの視線を感じるのは確かだ。
この世界に来てその辺の感覚も鋭くなっているらしい。
俺は窓から身を乗り出し、遥か下に広がる城下町を眺めた。
目を凝らしてみるとそこを通る人々が認識できた。
人どころか表情などもぼんやりと分かる。
耳を澄ませば城で働く人々の会話が微かに聞こえてくる。
どうやら体力だけでなく視力や聴力も上がっているらしい。
味覚は…今まで食事をした感じだとあまり変わっていないようだけど、こちらの味付けには慣れているようだ。
この世界に召喚された際に時間の概念などと同じように味覚もこの世界向けに調整されたのかもしれない。
その時扉をノックする音がした。
開けるとそこにはルノアと亜麻色の髪の侍女が立っていた。
「そろそろ夕食は如何ですか?仁志様。」
気が付けば日は落ち、辺りには夕闇が迫っていた。
俺は午後はこの世界に来る時に身についた謎の力を調べる時間にあてることにした。
元々はルノアが午後に俺の体が起きた変化について調べたがっていたのだが流石にこの国の政をしなくてはいけないため泣く泣く諦めたという経緯があって、なんとなくその流れで自分なりに調べることにしたのだ。
どんな事が起きるか、どんな反応があるのか想像もつかないのでまずは部屋の中で色々試してみることにした。
とりあえず壁の隅に立ち、反対側(部屋の広さはおよそ十m四方、とんでもない広さだ)まで軽く走ってみる。
特に変化はない、普通の駆け足だ。
次にダッシュで走ってみることにした。
この前の加速(俺はあの現象を便宜上加速と呼ぶ事にした)を思い出しながら反対側の壁に一瞬で走る自分を意識しつつ後ろに伸ばした足を踏み込む。
音が消えた。
部屋の中だから景色は変わっていないが確かにこの前の加速と同じ感覚だ。
反対側の壁まで辿り着いて一息入れた途端、音が元に戻る。
加速が終わった瞬間、部屋の中の空気が巻き上がり、スタート地点の横にあった机の上の紙が煽られて宙に舞った。
それを見た俺は即座に元の場所に駆け戻るために加速を再度イメージしてみた。
宙に待った紙の動きが止まる。
正確にはゆっくり落ちているのだが俺の目にはほとんど止まってるようにしか見えない。
今度は歩いて戻ってみた。
どうやら走ったり興奮したりすることで加速が起こる訳ではなく、意識する事で加速状態に入れるらしい。
反対側まで戻って宙に浮かんだ紙を摘まみ、机の上に戻す。
ついでにベッドのシーツも翻っていたから戻してみたり。
いつまで加速が続くんだろうか?と思った瞬間に加速が終わった。
加速が始まるのは任意だが、終わるのは自分でコントロールできないのかもしれない。
あるいは意識がちょっとでも別の方向に向いたら止まってしまうのかも。
いずれにせよこれはもう少し調べる必要がありそうだ。
不思議な事に加速してる間に空気の抵抗は感じなかった。
例えば自転車に乗っていて速度が出ると空気の抵抗も大きくなるものだが、加速をしている間は歩いていようが走っていようがほとんど空気抵抗を感じない。
実験は部屋用の靴を履いて行ったのだが靴も傷んだ様子がないし服も破けたりしていなかった。
ひょっとすると魔力が関わっているのかもしれないがこの辺はルノアに聞いてみないと分からないだろう。
目を輝かせて質問しまくってくるだろうルノアを想像して俺は一人苦笑した。
人は見かけによらないもので、どうもあの娘は魔術の事になると人が変わるみたいだ。
朝食もルノアと一緒に取ったのだが最初から最後まで質問攻めで、講義の時間も半分はルノアの魔術についての講義と俺のいた世界の質問だった。
俺自身、ルノアの持つ魔術の知識はこの世界で生きていくために非常に有益だ。
明日もまた質問攻めになるだろうが、その前に自分の中でも色々試しておかなくてはいけない。
今度は力を調べてみることにした。
加速は言ってみれば全身の運動能力が強化されている事になるが、ならば持ち上げたり引っ張ったりする力はどうなのだろうか。
試しに机を持ち上げてみる。
天板の厚さが3センチはありそうな重厚そうな机だ。
ぐっと腰に力を入れて持ち上げた瞬間、俺はもんどりうってひっくり返った。
その瞬間、加速が発動して全ての動きがスローモーションになる。
俺の動きもスローモーションになり、ゆっくりと床に向かって落下していく。
慌てて腹に力を入れて後方宙返りの体勢を取ろうとした。
どうやら加速中に体に別の動きをさせることは可能だが加速前に体にかかった運動もそのままらしい。
例えば落下中に加速を行った場合、体を動かす事は出来ても落下その物を消したり落下を早めたりすることはできないらしい。
とりあえず宙返りして床に足を付き(この時点で加速中に自由に移動はできるようになった)、見上げると高さ五メートルはあろうかという天井に机が激突した所だった。
そしてそのままゆっくりと落下してくる。
俺はその机を空中で掴んで、意図的に意識をそらして加速を止めてみた。
手に机の重量がかかる、という事もなく机は普通に俺に持たれたまま宙に浮いている。
なんだかダンボール箱を持ってる位の感覚だ。
机を元の位置に持っていって手を放してみると結構な音を立てて床に落下した。
音から判断するにやはり机は相当な重量らしい。
という事は俺の腕力は身体能力と同じように相当向上しているようだ。
物は試しと今度はベッドに手をかけてみた。
ベッドはキングサイズで足も架台も太い木で出来ている。
どう考えても数百キロはあるだろう。
持ち上げられるかどうか疑いつつ、それでも先ほどのような事が無いようにゆっくりと持ち上げてみたら…持ち上がった。
まるでバルサ材で出来てるみたいに馬鹿でかいベッドが俺の手によって床から浮いている。
試しに片手で持ってみたが、全然余裕で持てる。
重さの感覚としてはちょっと重めの木の棒を持ってる感じだ。
俺より数倍は重いだろうベッドを片手で持てているというのはちょっとシュールな光景だった。
物理の法則的にまずありえない。
これも魔力のなせる業なのだろうか。
しばらくベッドを持ち上げたり降ろしたりして試してみたが、どうやら肉体的な負担はほとんどないようだ。
そして重いものを持てる分軽いものを持つ時に力を持て余すという事もなく、軽いものや柔らかいものも普通に持てるらしい。
言うならば、力の上限だけが上がっている感じだ。
俊敏さと体力、この二つが前の世界ではありえないレベルで向上している。
というか人類の範疇を超えている。
今まで見てきた限り、この世界の人間も体力的には元の世界の人間と大差はないっぽい。
それを遥かに凌駕した力を身に付けているという事になるが、逆にこれは考え物だ。
人智を超えた力があるとどうしても目立ってしまうし、場合によっては畏怖の対象になりかねない。
それに凄い力と言っても不意打ちにあえば意味がない事は昨日兵士に後頭部を殴られて気絶した事やブレンダンの急襲で思い知らされた。
体力があると言っても薬物に対する耐性があるかどうかは不明だし、一服盛られればそれでおしまいという可能性は大いにあり得る。
この力はあまり人目に触れさせない方が良いだろう。
なにせ今は常に誰かに見られている気がしてならない。
ブレンダンが監視しているのかと思ったがどうやらそういう訳でもないようだ。
ブレンダンの口ぶりから察するにあの男はルノアの警護を第一にしているから常にルノアの側にいるはずだ。
だとするとあの夜部屋にいたブレンダンの仲間か。
とにかく起きてから度々誰かの視線を感じるのは確かだ。
この世界に来てその辺の感覚も鋭くなっているらしい。
俺は窓から身を乗り出し、遥か下に広がる城下町を眺めた。
目を凝らしてみるとそこを通る人々が認識できた。
人どころか表情などもぼんやりと分かる。
耳を澄ませば城で働く人々の会話が微かに聞こえてくる。
どうやら体力だけでなく視力や聴力も上がっているらしい。
味覚は…今まで食事をした感じだとあまり変わっていないようだけど、こちらの味付けには慣れているようだ。
この世界に召喚された際に時間の概念などと同じように味覚もこの世界向けに調整されたのかもしれない。
その時扉をノックする音がした。
開けるとそこにはルノアと亜麻色の髪の侍女が立っていた。
「そろそろ夕食は如何ですか?仁志様。」
気が付けば日は落ち、辺りには夕闇が迫っていた。
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