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ブラック企業戦士、異世界で救国の勇者になる

海道 一人

違和感

 気まずい一瞬の沈黙が訪れ、俺は軽く咳ばらいをするとルノアリアに話しかけた。
 「で、今後の事なんだが…」
 お互いの思惑が分からない今、本来だったら相手の意思を確認してから対応していくのが本筋だが、とりあえず相手は自分に対して後ろめたさを感じているらしいのでまずは自分から切り出して主導権を握る事にした。


 「俺としては元の世界に帰りたい。これだけは譲れない。」
 その言葉にルノアリアは小さく頷いた。


 「だが、そちらは現状俺を帰す方法が無いという話だ。
  そして俺にはそれを確認する術がないから、当面はその言葉を信じるしかないと思う。
  つまり、今の俺には元の世界に戻る方法がないという事になる。
  これは受け入れざるを得ないが、そうなると今後のここでの生活を考えなくちゃいけない。
  はっきり言うと俺はこの世界の事を何も知らない。
  当然だけどどういう社会構造なのか、経済機構や風習、生活様式すら知らないんだ。  だからこの国を救ってくれと言われてもまず何をやっていいかすらわからない、と言うか俺にこの世界で何ができるかすらも分からないんだ。
  俺の言ってる事が分かるか?」


 俺の言葉にルノアリアは頷いた。
 「わかっております。
  異邦者様をこの世界に召喚したのは私の責任、異邦者様にはここでの生活で一切の苦労をおかけしないと約束いたします。」
 よし、まずは衣食住をゲット。


 「ありがとう。そう言ってもらえると助かる。」
 ここで恩を着せるのではなく、あえてお礼を言う。
 それが今後の交渉を滑らかに進めるコツだ。


 「あと……この国の置かれてる状況なんだが……」
 俺は言いよどんだ。
 ここが今回の交渉の要だ。
 「正直言うと俺に国が救えるとはとても思えない。
  俺は元いた世界ではただのサラリーマン、……つまり雇われて働く労働者に過ぎなかったんだ。
  だから政治も軍も全くの門外漢なんだ。
  だから……女王様の思いはよく分かるんだが……自分には無理だ。」


 まずははっきり断って自分にはできないという意思を示す。
 ここから話を進めて何とか当たり障りのない役割を振ってもらうしかない。
 でなきゃ知ったばかりの国の戦争に巻き込まれて、最前線に送られて何もわからないまま死ぬか無茶な責任を追わせられた挙句にその責任を取らされて死ぬか、いずれにせよ死が待ってるだろう。。
 この世界に召喚された時に身に付いた謎の力だって限界はあるだろうから戦場で生き残れるとはとても思えない。


 さあ女王様、どう返す?


 「わかりました。もちろん異邦者様のご意思通りにいたします。」
 あっさり決まっちゃったよ。


 「……いいのか?本当に?」
 「もちろんです。元々私が勝手にお呼びした事。
  これ以上異邦者様に我々の都合を押し付けるのは傲慢を通り越した許されざることです。
  父上母上、御先祖様もそれはお望みではないでしょう。
  異邦者様の帰還方法は私が責任をもって究明いたします。
  どうかそれまでは、御不便もありますでしょうがどうぞごゆるりと私の国でお過ごしくださいませ。
  この国ではどのような事をなさっても構いません。
  ミッドネア国王の名の下にあらゆる行動を特免いたします。」


 俺の願いはあっさり受諾されてしまった。
 こうなると、どう話を続けていいのかかえって分からなくなる。


 「えーと、じゃあ俺はこの城を自由に歩き回っても良い?」
 「もちろんです。」
 「城の外に出る事も?」
 「ご自由になさってください。」
 「欲しいものがあったら持っていっちゃってもいいの?」
 「王の名の下にこの国のものは全て異邦者様の自由にさせます。」
 「屋敷が欲しいと言ったら?」
 「手配させます。」
 「本当に?」
 「ミッドネア国王の名の下に宣誓いたします。」


 参った。


 正直言うと俺はただの小市民だ。
 いきなり何をしても自由で王侯貴族のような権力を与えると言われたらかえって何をしていいのか分からなくなる。


 「いや……別に贅沢三昧をしたいわけじゃないんだ。
  ただ、多少の自由が欲しいってだけで……この世界がどうなってるのかもわかってない訳だし。」
 「それもそうですね……
  それでは、まずおいおいこの世界の事を学んでもらうというのはどうでしょうか?
  私でもいいですし、この城には賢者や専門家もいますから、彼らに異邦者様がこの世界の事を学べるよう手配いたしましょう。」


 「そうしてくれると助かる。あと、俺の体に宿った不思議な力なんだけど……」
 俺のこの言葉にルノアリアの眼が光った、気がした。
 「それ事ですが、私としても異邦者様のその力には非常に興味があります。
  できれば何ができて何ができないのか、詳しく知りたいのですがご協力をお願いできないでしょうか?
  おそらくこの世界に来る時に体が魔的な再構成をする際に肉体がより魔に近い存在になったのではないかと思われます。
  つまり、肉体的にも感覚的にも我々とは異なる構成となっていて、それ故に異邦者様の時間に対する在り様もまた変わったのではないかと。
  先ほど見せた動きは常人には不可能どころか動きに付いていけず肉体が破壊されるのが確実な速さと力だったにもかかわらず、異邦者様の肉体は何の障害も負っていませんでした。
  人間の肉体はどんなに鍛えてもその肉体の耐久度を超えた動きにはついていけません。
  これは単に肉体的な強化というよりも魔力を用いた加速に近いと思われます。
  この仕組みを解明する事は異邦者様にとっても必ずや有益な事になると思います。
  まずは肉体がどれだけ強化されているかを調べて……」


 ルノアリアの口調が突然早くなり、俺の方に身を乗り出しながら話しかけてきた。
 近い近い近い。
 俺を見つめる菫色の瞳がキラキラと輝いている。


 「待て待て待て、分かった、落ち着け。」


 急にまくし立ててきたルノアリアを俺は慌てて制した。
 こんな美人に見つめられた経験がない俺には刺激が強すぎる。
 しかしどうもこの女王様は魔が絡むと自制が効かないらしい。
 趣味なのか?


 「……すみません。」
 ルノアリアは顔を赤らめてうつむいた。


 「私、即位するまでは学院で魔術の研究を専攻していたもので、今でも魔術の事になると
止めが利かなくなってしまって。」


 そうだったのか。
 しかし女王様、いや当時は姫様か、がそんな専門的な事が好きだとは意外だ。
 待て、今学院と言ったか?


 「そう言えば、女王様は今何歳なんだ?」
 「はい、今年で十九歳になります。」
 マジか。


 若いとは思っていたが、まさかまだ十代だったとは。
 十代で一国を背負う事がどれ程重大な事か、俺には想像もつかない。
 同時に、十代の女の子に突き放した態度を取ってしまった事や自分の都合ばかり押し付けてしまった感じがして心苦しくもなってきた。
 正直、年は聞かない方が良かった。


 「……あの…何て言うか、ごめんな。」
 「え?何のことですか?」


 俺の謝罪にルノアリアは不思議そうな顔をした。
 「いや……その……、俺、さっき女王様が部屋に来た時とか態度悪かったし、まだ十代なのに国を背負って頑張ってる女の子に自分の都合ばかり押し付けちゃって……ほんとごめん。」


 俺は本心から申し訳なく思って謝った。
 できる事なら何か手助けをしたいとも。
 だが、今の俺には何もできない、出来る事が分からない。
 だから安請け合いだけはできない、下手に期待を持たせる事になってしまうからだ。


 「ああ、その事でしたか。
  別にいいのです。」


 ルノアリアは俺の言葉に笑って返した。
 心なしか口調も過ごし砕けてきた気がする。


 「そのくらい言われて当然のことをしたわけですし、むしろいくら謝っても足りないのはこちらの方ですから。」
 そう言ってはくれたが、やはり俺にはどこか後ろめたさが残っていた。
 本当に俺には何もできないのだろうか?


 「ま、まあ、そう言ってくれるなら助かるよ。
  そう言えば、俺以外の人間を新たに召喚する事は出来ないのか?」
 俺の問いにルノアリアは首を横に振った。
 この世界でも否定は首を横に振るのか。


 「残念ながら、星の正位置と地の魔脈は既に変わってしまいました。
  次に異邦者を召喚できるのは七十八年後になります。」


 「そ、そうなのか……」
 まずい。
 この答えは聞かなかった方が良かった。


 国難に対してギリギリの状況で呼び寄せた本人が国を救う意思なしとなったら、例え女王が納得しても他の重臣達が納得するかどうか。
 これはまだまだ解決とは程遠い事になりそうだ。


 ルノアリアの言葉に感じたうしろめたさをごまかすように俺は立ち上がり、この食事を切り上げようとした。
 が、どうしても確かめたい事が一つある事に気が付いた。
 それは部屋を出てからずっと感じていた違和感だ。


 「ところでさ、なんかさっきから見られてるような気がするんだけど……心当たりある?」
 そう、廊下を歩いている時も食事をしている時も俺はずっと誰かの視線を感じていた。 辺りを見回しても怪しい人影はいない、が、かすかに首筋がうずくような不思議な感覚がずっと付きまとっている。


 例えるなら後ろで上司に見られながら書類を作ってる時のような(特に客先に納期を延ばしてもらうようにお願いする書類だ)。
 俺の言葉にルノアリアは驚愕の顔を見せて立ち上がった。


 「ほ、本当ですか?」
 「あ、ああ……ずっと誰かが俺の事を観察してるような感じがするんだけど……」


 その言葉にルノアリアはがっくりと肩を落とし、手のひらで顔を覆って椅子にへたり込んだ。
 なんだ、何が起きてるんだ?

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