追放チート魔道士、TS魔王と共に魔界で生活する

海道 一人

27.決戦!ダークロード

 ダークロードの言葉を合図に周囲に並んでいた衛兵たちが一斉に襲い掛かってきたがルーシーとテオにあっさりと倒された。


「何人かかってこようと無駄なことよ」
 倒れた衛兵を足蹴にしてルーシーが得意げにうそぶく。


「ふ、なかなかやるではないか」
 しかしダークロードは冷静そのものだ。


「ならばこれはどうかな?」
 ダークロードの詠唱と同時に玉座の間が光に包まれた。


 途端にテオの全身から力が抜けた。
 立つこともままならず、がくりと膝をつく。


 周りを見れば他のメンバーも同様だった。
 ルーシーもキツネも一様に膝を折っている。


「ぐ……ち、力が……貴様何をした?」
 アラムも憎々し気にダークロードを睨みつけているが床に倒れ込み、動けないでいる。


「ふ、ふははははは、先ほどの威勢はどうした?この私を殺すんじゃなかったのか?」
 テオたちとは対照的にダークロードは全身をのけぞらせて哄笑している。


「……これは、魔法陣ですか。しかも肉体と魔力両方を封じる魔法陣を同時に展開するとは」


「はははははは、それだけだと思うな!この玉座の間には耐魔、封魔、封力、気力減衰、状態異常、諸々六十四層の魔法陣を巡らしている!例え魔王であっても身動き一つできまい!この玉座の間に来た時点で貴様らの敗北は決していたのだ!」


 勝利を確信して高笑いを続けながらダークロードは抜き身の剣を手にテオたちに近寄ってきた。


「一思いには殺さんぞ。この私に逆らったらどうなるのか街中に知らしめるためにも死んだ方がましという苦しみを与えてやろう」
 美しい顔を下品な笑顔に歪ませながら剣を振り上げる。


「まずは腕の一本でも切っておくか!」
 そう叫んで剣を振り下ろした。


 乾いた音を立てて剣が床を切りつける。
 しかしそこにテオはいなかった。


「は?」
 何が起こったのか分からず、気の抜けた声を上げるダークロード。
 その顔面にテオの拳がめり込んだ。


「ふぐあああっ!」
 ダークロードは十メートルほど吹っ飛び、床を転がって壁に激突した。


「き、貴様……なにを……?」
 鼻血を流しながらダークロードはうめいた。
 何が起きたのかさっぱりわからないようだ。


 ダークエルフであるダークロードは魔力だけでなく剣技を含め肉体的にも人間とは比べ物にならない能力を持っている。
 先ほどのテオはそのダークロードの目でも追えないほどの動きだった。


「確かにこれだけの魔法陣を展開できるのは大したものです。ですが、多少粗が目立ちますね。多層に展開してるせいで効果を打ち消し合っていたり阻害している部分が多々見受けられますよ」
 テオはそう言って膝をパタパタとはたいた。
 何事もなかったかのように立ち上がっている。


「ば、馬鹿な……私の魔法陣が効かないだと?」


「効いていないわけじゃないですよ。その証拠にほら、通常雷撃コモンライトニング
 テオはそう言って詠唱したが何も起こらない。


「ほらね?あなたの魔法陣はしっかり効いていますよ」


「で、ではなぜ動ける?しかもその速度と力はなんだ?あり得ないだろ!」


「そこが問題なんですよ。あなたは多層に展開することであらゆる状況に対応したつもりだったのでしょうがやみくもに展開しすぎたせいで穴ができていたんです。ですのでその穴を利用して少し変更を加えました」
 そう言ってテオは一足飛びでダークロードの元へ飛び込み、パンチの雨を降らせた。


「ぐああああっ!!」
 顔に腹に強烈なパンチを浴び、ダークロードはほうほうの体で距離をとった。


「具体的に言うと、魔法という形で魔力を放出するのは無理ですが、体内の魔素を使って肉体強化は可能にしたわけです」


「馬鹿な!たかが人間風情が私の魔法陣をどうやって変更できる!?」
 ダークロードが目をむいた。


 それも無理はない。


 魔法陣というのは魔道士が己の魔法知識を総動員して作り上げるものなのだ。
 一生の間にオリジナルの魔法陣を一つも作り上げない魔道士だってざらにいる。


 魔法陣は魔道士一人一人の個性が如実に表れるため、初見で完全に理解するのはほぼ不可能と言われている。
 壁の落書きをちょっと描き替えましたというのとはわけが違う。


 他者の作った魔法陣を変更するというのは言ってみれば小説の中に文を足して元の文章を損なうことなく全く別のストーリーを作り上げるようなものだ。


 そんなことをできる者なぞ魔界広しと言えどいるわけがない。
 ましてや普通の人間風情に。
 ダークロードはぎりぎりと歯ぎしりした。


 己の目で見たものが信じられなかった。


「ついでに言うとあなたの魔法陣は多層にかけたせいで効果が干渉しあってしまい、空白地帯エアポケットが生まれています」
 テオがそう言って床に手を置いた。


 さらさらと指先で紋章を描くとテオの指先の動きに合わせて床が発光していく。
 光は徐々に大きくなり、それに反応するようにダークロードの魔法陣が発光し、消えていく。


「ば、馬鹿な……私の魔法陣が……消えていくだとっ!?」


「崖から小石を落とせばばやがて大きな岩が落ちるようなものです。あなたの魔法陣の力を利用してあなたの魔法陣を消させてもらいます」


「あり得ん!たかが人間にそんな事が……そんな事ができてたまるか!」


「ただの人間ならば、な」
 その言葉にはっと振り返ったダークロードの顔面にルーシーの足がめり込んだ。


 再び床を転がるダークロード。


「な、何故貴様まで……?」
 鼻を押さえて呻くダークロード。
 その顔に先ほどの余裕は完全に消え失せている。


「ふん、これくらいの魔法陣で我をどうこうできると思ったか。かつてこやつが我に使った千魔封殺法バイサウザントと比べたら夏の夕刻に吹くそよ風のようなものよ」
 そう言って親指でテオを指差す。


「今の私は歴代全魔王の魔法知識を持っています。それを参照すればこの位の魔法陣を解除するのは造作もないことです」


「く、くぅぅぅぅぅ~」
 悔しそうに呻くダークロード。
 その背後でアラムたちが立ち上がった。
 どうやら魔法陣の効果が完全に切れたらしい。


「観念してください。あなたに直接的な恨みはありませんが、この場にはあなたの死を願う者が二人いますので」


「ふざけるな!この私がこの場で貴様らのような下賤の者の手にかかっていいわけがあるか!」
 叫んでダークロードは飛び退った。
 玉座まで一足飛びに飛び、その場にいたメリサの髪を掴み、喉元に剣を突き立てた。


「ひゃぁぁぁっ」
 メリサが情けない声をあげる。


「こいつも貴様らの仲間なのだろう!?真っ先に投降して命乞いをしてきた下種な女だが、貴様らにこいつを見殺しにできるか?」


 短剣を手に一歩前に出ようとするアラムをテオが手で制する。


「人質とはダークロードなどと大層な名前を名乗っている割にさもしい真似をするものですね」


「なんとでも言うがいい。今はこの場を退いてやるが、貴様らは必ず殺してやる。必ずだ!」


「テオ様!私にはどうか構わずこの男を打ち倒してください!愛する人のためなら私の命など、どうなっても!」
 はらはらと涙を流しながら哀願するメリサ。


「えーと」
 テオはリアクションに困っている。


「テオ様!あなたを愛した女がいると、どうか忘れないでください」


「どうした、愛する女を殺されたくなかったらさっさと下がれ!」
 形勢逆転と見るやダークロードの威勢が急に良くなる。


 その様子を見てテオとルーシーはため息をついた。


「おい、いつまで遊んでおる」


「え~、せっかく盛り上がってきたのに」
 その言葉にメリサが残念そうな声をあげた。
 ぎょっとしてメリサに振り返るダークロード。


「せっかく久しぶりのイケメンだったからゆっくり精を堪能したかったのに」
 そう言うなりメリサの瞳が赤く煌めいた。


 その光を見たダークロードは電撃にあてられたかのように体を硬直させる。
 メリサが口を開き、ゆっくりとダークロードの精気を吸っていく。


 それに従いダークロードの体から力が抜けていき、やがてメリサの喉元に突き立てていた剣も乾いた音を立てて床に落ちた。
 ダークロードが次第にやせ細りしわくちゃになっていく。


「ごちそうさま。やっぱりこういう下品な男の精気は駄目ね。甘ったるいだけで満足感がないったら」
 口元をぬぐいながらそう言い、足で軽く小突くとダークロードは枯れ枝のように床に倒れ込んだ。


「あ、あ、ああ……」
 何かを言おうとしているが、既に言葉を発することもできないようだ。


 そのダークロードの目の前に影が落ちた。
 見上げたダークロードの目が恐怖に染まる。
 そこに立っていたのは剣を持ったヨハンとアラムだった。


「正直言って今のお前を殺すのは複雑な心境だが、これも自業自得だと思え」


父様ととさま母様かかさまの仇、ここで討つ!」


「ひぃぃぃいいい~!!!」


 玉座の間にダークロードの悲鳴が響く。
 それが盗賊都市ロバリーの頭目となったダークエルフの最期だった。



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