外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

40.作戦の終わり

「テツヤ!テツヤ!大丈夫なのか!」


 耳元に響くリンネ姫の声で意識を戻した。


 どうやら一瞬気を失っていたみたいだ。


「だ、大丈夫だ…」


 俺はなんとか声を振り絞った。


「反逆者たちは全員…行動不能にした…作戦を継続させるんだ…」


「…わかった。テツヤは今どこにいるのだ!?無事なのか?」


「お…俺は…大丈夫だ。それよりも早く術を…このままじゃドームが…破られちまう…」


 見上げる空はすっかり霧が晴れてているのに何故か暗い。


 蝗が日差しを遮っているのだろうか。


 いや、目の前が暗くなっているのは俺が力を使い果たしたからなのかもしれない。


 もう腕を上げることもできそうになかった。


 それでも俺は気力を振り絞って上体を起こした。


 蝗の動きだけでも止めないと。




「駄目ですよ~、無理をしては」


 その時、頭の上からおっとりとした声が響いてきた。


 その声は…?


「カーリンさん?」


「は~い」


 上空から箒に跨って舞い降りてきたのはカーリンだった。


「な、なんでここに?」


「それはもちろんあなたたちを手伝うためですよ~。これはこの大地にとっても一大事ですから~」


 カーリンはそう言うと杖を振り上げた。


 まるで滝が逆流するかのように周りの運河から水が迸った。


 上空に噴き上がった水は白い雲となり、やがて柔らかな霧雨となって辺りを包み込んだ。


「す、凄え…」


 呆気に取られてみているとカーリンが俺の肩を担いだ。


「凄いのはあなた方ですよ~。よくこんな方法を思いつきましたね」


 そう言いながら俺を抱えて歩こうとするものの、よろよろと数歩歩いただけで二人合わせて地面に倒れ込んでしまう。


「あいたたた、やっぱり少しは運動しないと駄目ですね。これはしかたありませんね~」


 カーリンは腰を押さえながら立ち上がると俺の頬に手を当て、唇を寄せてきた。


 カーリンの唇が触れると同時に俺の中に大量の魔力が注ぎ込まれてくる。




「はい、これでしばらくは大丈夫だと思いますよ」


 カーリンは唇を離すとにっこりと笑った。


「ありがとうございます!」


 俺は礼と共に勢いよく立ち上がった。


 さっきまで腕を動かすこともままならなかったのに完全に回復している。


「でも無理しちゃ駄目ですよ~先ほどは一気に力を使いすぎて動けなくなったようですけど、下手したらこの前みたいに暴走してしまいますよ~」


「う…気を付けます…」


「それでは私は引き続きみなさんの手伝いをしてますね~」


 そう言うとカーリンは箒に跨って宙に舞い上がり、別の場所へと飛び去って行った。




「相変わらず凄い人だな…でも俺だって!」


 カーリンを見送った俺も宙へと舞い上がった。


 これ以上連中の好き勝手にさせてやるわけにはいかない。




 その後はひたすら作戦実行範囲を飛び回って穴に嵌った反乱者を拘束していった。


 攻撃が止んで落ち着きを取り戻したドライアドたちはカビの散布を再開し、魔導士も魔法で霧を生み出し続けていった。


 こうして日没が終わるころに作戦の第一段階は終了した。


 ドライアドの作業は終わり、あとは魔導士たちが霧のドームを維持して蝗の行動をけん制することになる。


 この作業は何日かかるかわからないけど蝗が完全に脅威でなくなるまで続けられる予定だ。








 そして翌日、作戦は急に終わりを告げた。




 ドームに封じ込めていた蝗がほぼ全滅してしまったからだ。


 夜の間にカビは猛烈な勢いで蝗の群れに侵食していき、瞬く間にその命を奪っていったのだ。


 一夜明けたそこには大地を埋め尽くさんばかりの蝗の死骸が転がっていた。




「これは…まさか…これほどとは…」


 ゼファーもあまりの光景に言葉を失っている。


 正直立案者である俺にもこれは予想外だった。


「まさか一日で終わるなんてな…」


 足元で辛うじて生きている蝗もカビに覆われて力なく動くばかりだ。




「テツヤよ…」


 声がしたかと思うとゼファーが突然俺を抱きしめてきた。




「この恩はどんな褒賞も見合わぬだろう。お主はこの国を救ったのだ」


「大げさ…ってわけでもないか。実際今回はやばかったもんな。でも俺一人じゃ無理だったんだ、これはやっぱりみんなのお陰だよ」


 俺から身を離したゼファーが右手を差し出した。


「だがやはり礼を言わせてくれ。お主はこの国だけでなく余も救ってくれたのだからな」


「そう言えばそうだったな。これであんたの王としての地位もしばらくは安泰かな?」




 俺はにやりと笑ってその手を握り返した。


「ああ、まだしばらくはゆっくりさせてもらえそうにないな」


 ゼファーが手を強く握りながら笑みを返してきた。


「テツヤ殿」


 そこへベルトラン軍総大将ザファルがやってきた。


 髭面の偉丈夫で俺よりも頭一つは高い。




 そのザファルが突然手を地面についた。


「この度は我が兵士が其方の作戦に背いたこと、深くお詫びする」


「儂もじゃ」


 気が付くと魔導執政官のハキムもその横で地に膝を折っていた。


「儂の管理が及ばず、あやうくこの作戦を失敗させるところじゃった。どうか許してくれ」


「いいよ、そんなの。無事に終わったんだから。それにこれはベルトラン帝国の作戦だったんだし俺に謝られても」




「しかしそれでは我々の気が収まらぬ…」


 俺がどんなに言っても二人は尚も頭を下げ続けていた。


「テツヤよ、この二人にも部下を束ねる身として引けぬ矜持があるのだ。二人の謝罪を受け入れてやれ」


 ゼファーが俺の肩を叩いた。


「わかったよ、二人の謝罪は受け入れる。でも責任を取って辞めるなんて言わないでくれよな。二人にはこれからもゼファー、じゃなくてベルトラン十五世を手伝ってもらわなくちゃいけないんだ」


「寛大なお言葉、ありがとうございます!」


 二人は揃って立ち上がると再び頭を下げてきた。


「では陛下、こちらを」


 改まってザファルが通信用の水晶球をゼファーに差し出した。


「うむ」


 ゼファーが頷いて水晶球に手をかける。


「皆の者よ、ただいまを持って砂漠の雨作戦の終了を宣言する!これは我々だけの勝利ではない、ベルトラン帝国、フィルド王国、ワールフィア、ミネラシア大陸全ての者にとっての勝利である!」


 ゼファーの勝利宣言に喝采が響き渡った。



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