外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

23.バグラヴスの野望

「大陸…全土だと…!?」


 バグラヴスの言葉にリンネ姫が喘ぐように言葉を漏らした。




「馬鹿な…そんなことが可能だと思っているのかっ!」


「普通はそう言うでしょうね、そのような大言壮語は狂人のたわごとだと」


 バグラヴスは同意するように軽く頷いた。


「しかし現実はどうです?虫たちに国土を食い荒らされたベルトラン帝国は既に青息吐息だ!このまま冬を迎えれば何百万、何千万という餓死者を出すでしょう!そうなった時に力を持つのは誰だと思いますか!?」


「クッ…」


 自信満々のバグラヴスにリンネ姫は言葉を詰まらせる。




「遠からずベルトラン十五世自らこの私にかしずくようになるでしょう。そうなればフィルド如き小国は手中に落ちたも同然。そして魔族と言えども食料がなくては戦うこともできぬのは道理!」


 バグラヴスは己の妄想に陶酔したように滔々としゃべり続けた。




「兵を派遣しようとしても無駄なことですよ。私の操る虫はどんな隙間からでも入り込むことができる。鎧だろうが魔法だろうが虫たちを阻めるものはないのです」


 ようやくそこで息をついてバグラヴスがこちらを向いた。


「だから無駄な抵抗は止めることですね。本来であればあなた方はこの場で死んでいただくところですが、我々の計画に気付いてここまでやってきたその聡明さと勇気に免じて殺すのは控えてもよいですよ。なにしろとびきり美しいご婦人方ばかりですからね」


 そう言って劣情に満ちた目でリンネ姫たちを見回した。




「どうですか?命乞いをして私に従うのであれば命は助けてあげましょう」






「断る」




「は?」


 俺の拒絶にバグラヴスが狐につままれたような顔をした。




「断る、と言ったんだ」


「…私はお前に言ったわけじゃない。黙っていてくれないかな」


 バグラヴスが苛々したように吐き捨てた。


 頭に血が上って朱に染まっている。






「ごめんだね。ここのみんなは俺にとって半身も同然の仲間なんだ。お前の薄汚い指一本触れさせる気はないね」




「…こ…この…」


 バグラヴスの額に再び血管が浮き出てきた。


 壮大な野望を抱いてる割に怒りっぽい奴だ。




「テツヤの言う通りだ」


 リンネ姫が凛とした声で告げた。


「お主の言うなりになる位なら死を選ぶよ」


「私も同じだ!」


 アマーリアが叫んだ。


「貴様のような下種に命乞いをするなど騎士の名折れだ!」


 ソラノがきっぱりと言い放った。


「お前は私が殺す」


 フラムが怒りのこもった声でつぶやく。


「キリはお前も虫も怖くない!」


 キリが牙を剥いて吠えた。






「…いいでしょう。それではみんな仲良く死ぬがいい!」


 バグラヴスが指を鳴らした。


 本当に指を鳴らすんだ。




 しかし何も起こらない。


「???」


 バグラヴスが怪訝な顔で二度三度と指を鳴らした。


 しかし倒れる者は一人もいなかった。




「話に夢中で気づいてなかったのかよ」


 俺は呆れたようにため息をついた。


「ご自慢の虫たちはみんなお陀仏してるぜ」


「なにっ!?」


 そこでようやく気付いたらしい。


 俺はバグラヴスが話に夢中になっている間にみんなの足の表皮の僅か下、虫が噛んでいる部分に鉄片を潜り込ませていたのだ。


 虫がこれ以上深く噛むことはできなくしたうえでその鉄片を変化させて虫たちを刺し殺した。






「な、何故だ?何故私の虫が…?」


「ご自慢の虫も俺たちには効かなかったみたいだな」


 バグラヴスが憎しみのこもった眼で睨んできた。


「こ、この…」


「無駄だ、貴様が幾ら虫を差し向けても近づけさせはしない」


 アマーリアが巨大な水球を生み出した。


 水が触手のように伸びて空中を飛び回る虫たちを捉えて水の中に閉じ込めていく。




「お前の虫は全て私が焼き殺す」


 フラムの言葉と共に虫たちが炎に包まれた。


「ぐ、ぐうう…」


 バグラヴスとシセロは冷や汗を流しながら壁際へと後ずさっていく。




「もはや打つ手はなくなったようだな。だが命だけは助けてやる。この虫害を収めてもらわねばならぬからな」


 ヘルマが曲刀を構えてにじり寄った。




「お、お待ちください!先ほどこ奴が言った通り今回の件は全てこの者の仕業なのです!私は騙されたのです!」


 シセロがバグラヴスの服を掴んで叫んだ。


「私は何も悪くない!全部こいつのせいだ!おい、この責任は取ってもらうからな!この…薄汚い虫使い風情が!」


 そう叫びながら顔を真っ赤にしてバグラヴスに詰め寄った。






「…うるさいな」




 突然バグラヴスがその腕を強引に払った。


 その勢いにシセロがよろよろと尻もちをつく。




「は?」


「もういいよ、お前はもういらない」


 虫けらでも見るような嫌悪のこもった表情でバグラヴスがシセロを見下ろした。


「表に立たせて面倒ごとは全部任せる代わりに少しは良い目を見させてやろうと思っていたのに、ここまで使えないなんて想定外ですよ」


「ななな…なにを…」


 バグラヴスの豹変にシセロは言葉すら出ないようだ。


「あなたの役目はもう終わりです。短い間でしたがご苦労様でした」


 一方的にそう告げるとバグラヴスは指を鳴らした。




「な…むぐっ!ぐ…ぐええええっ!」


 その途端シセロの顔が蒼白となり、苦しそうに喉をかきむしり始めた。


「なっ?」


「ぐううう、ぐ、ぐるじ…腹が…はらがああっ!」


 驚いて見守る中、シセロは全身を痙攣させて床をのたうち回っていた。


「ぐべええええっ!!!」


 絶叫と共にシセロの口から巨大な虫が躍り出た。


 いや、口だけじゃない、目や耳、鼻の穴からも無数の虫たちが這いだしてきた。




「ひいっ!」


「いやあっ!」


 流石の光景にリンネ姫やキリが悲鳴を上げた。


 他のみんなも青ざめた顔で見ている。




 全身を虫に食い破られながらシセロは絶命した。




「き、貴様…」


 ヘルマがおぞましいものでも見るようにバグラヴスを睨みつける。




「下種にはお似合いの最期でしょう」


 バグラヴスは平然とした顔で笑った。



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