外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
18.ヘルマの弱点
「うおおおおお!来るなああああ!!!」
俺たちは狭い坑道の中を全速力で走っていた。
後ろから追いかけてくるのは…巨大な球だ。
しかもただの球じゃない、地下に巣くう巨大トカゲやゴブリンなど様々な魔獣の肉と糞、土が混ざり合った悪夢のような大球だ。
それを後ろから押しているのは…小型トラックほどもある魔蟲、肉食スカラベだった。
押しつぶした生物をそのまま球に取り込んで幼虫の餌にするというとんでもない魔蟲だ。
「…この…いい加減にしやがれ!」
俺は振り向きざまに坑道の天井から床まで届く巨大な刃を作り出した。
肉食スカラベはラッセル車に取り付ける排雪板のようなその刃に衝突して文字通り真っ二つになった。
「と…とんでもないところだな、ここは」
息を切らしながら俺たちは地面にへたり込んだ。
あれから息つく間もなくモンスターが襲い掛かってきたのだ。
数百数千という数で襲ってきて一瞬で血を吸いつくす吸血ウジ、洞窟内一杯に巣を張って獲物を巻き取る巨大蜘蛛、麻痺作用のある鱗粉を振りまいて獲物を動けなくさせて共生相手の蟻の餌にする陶酔蛾と鋼鉄蟻、他にもありとあらゆるモンスターが俺たちを狙っていた。
しかもそのどれもが虫型のモンスター、魔蟲ばかりだ。
「うう、もうやだよう…帰りたい」
虫は平気なはずのキリも流石に半泣きになっている。
これだけ不気味な奴らに襲われっぱなしだったらそうなるのもわかる。
「テツヤ、今はどの辺なのだ」
リンネ姫が憔悴しきった顔で聞いてきた。
その眼が早く出たいと雄弁に語っている。
「そうだな…あと一つ開けた洞窟を通ったら出口に向かう通路があるみたいだ」
魔蟲たちを避けるためにずいぶん遠回りをしてしまったけどようやく出口が近づいてきた。
俺の言葉にみんなの間にも安堵の空気が広がる。
「しかし…ずいぶんと妙ではないか?」
安心したのかリンネ姫がいつもの落ち着きを取り戻して呟いた。
「いくら何でも魔蟲の数が多すぎる、そうは思わぬか?」
確かにそれは俺も感じていた。
閉鎖された鉱山がモンスターの巣になっているというのはわかるけどあまりに多すぎる。
「しかも全て魔蟲というのも気になるな…」
俺の言葉に全員が頷いた。
明らかにこの鉱山には何か秘密がある。
「ともかく、ここで悩んでいても仕方があるまい。さっさと出口を目指すぞ」
ヘルマが表情を変えずに立ち上がった。
あれだけ不気味な魔蟲に襲われてきたというのに全く冷静さを失っていない。
「あ…ヘルマ、ちょっと待った。首元に蜘蛛が…」
「ひゃんっ!」
その首筋に手を伸ばそうとした時、ヘルマが甲高い声をあげてのけぞった。
「ど、どこ?どこに蜘蛛が?取って、早く取って!」
完全に冷静さを失った声でもがくように鎧を脱ぎ始る。
「あ、いや…もうどっかに行ったみたいだけど…小さい蜘蛛だし…」
俺はそんなヘルマを呆気に取られて見ていた。
涙目で鎧どころか服まで脱ぎ掛けていたヘルマの動きが止まり、その顔が色でも塗ったように赤く染まっていく。
「…殺す」
地獄の底から響くような声と共に腰に差していた曲刀を抜き払った。
「ま、待て!誤解だ!俺はあくまで親切心から…」
「黙れ!貴様だけは許さん!」
洞窟内にヘルマの怒号が響き渡った。
◆
「まったく、ちょっと蜘蛛がいただけだってのに…」
「黙れ、そのことは二度と口にするな」
俺たちは次の開けた場所を目指して進んでいた。
「しかしヘルマは虫が苦手だったなんて意外だな」
俺の言葉にヘルマがキッと睨みつけてきた。
「苦手なのではない、嫌いなだけだ。そのことは口にするなと言ったはずだぞ」
「そ、そういや魔蟲は普通に斬ってたよな、あれは平気なのか」
「そういうものだと認識していれば問題ない」
そう言いつつもヘルマの手が小刻みに震えているのを見逃さなかった。
ひょっとして冷静に見えていたのは単に感情を殺していただけだったのか?
「…それよりも」
ヘルマが尚も鋭い目をこちらに向けてきた。
「このことを陛下に告げたら…殺す」
眼がその言葉が嘘でないと告げている。
「あ、当たり前だろ…俺とヘルマの仲じゃないか…ハハ、ハハハ」
「ならばいい。今の言葉をゆめゆめ忘れるなよ」
そう言ってヘルマはすたすたと歩いていった。
多分だけどゼファーは既に知っているんだろうな。
俺は軽くため息とつくとヘルマの後をついていった。
◆
「こ、これは……」
出口に続く最後の開けた空間へと辿り着いた俺たちはその光景を見て言葉を失った。
そこには…無数の木箱や麻袋、金貨や金塊が所狭しと積み上げられていたからだ。
「こ、こりゃあ…お宝じゃねえっすか…」
「待て!」
光に誘われる蛾のようにふらふらと前に出ようとしたキツネの頭をソラノが地面に押さえつけた。
「人の気配がするぞ」
その空間は無人だったが出口向かう扉の奥から人の気配がする。
おそらくこの部屋を守っている護衛だろう。
「こりゃあ一体何なんでさあ?」
キツネが押し殺しながらも興奮しきった声で聞いてきた。
「シセロめ、こういうことだったのか」
ヘルマが苛立たし気に呟いた。
これはおそらくシセロの隠し財産なのだろう。
俺たちは音を立てないように横穴から抜け出した。
「ソラノ、音が漏れないように風の結界を張っておいてくれないか?」
ソラノが頷いて詠唱を開始した。
これで幾ら音を立てても出口には響かず、逆に向こうから来る足音は事前にわかるようになった。
念のために出口へと続くドアにも封印を施しておく。
これで誰かが来たとしても時間が稼げるはずだ。
安全が確認できたところで俺たちは部屋の中の探索を開始することにした。
「これは小麦だよ。豆とか粉もある!」
キリが積み上げられた麻袋を開けて小さく叫んだ。
俺たちは狭い坑道の中を全速力で走っていた。
後ろから追いかけてくるのは…巨大な球だ。
しかもただの球じゃない、地下に巣くう巨大トカゲやゴブリンなど様々な魔獣の肉と糞、土が混ざり合った悪夢のような大球だ。
それを後ろから押しているのは…小型トラックほどもある魔蟲、肉食スカラベだった。
押しつぶした生物をそのまま球に取り込んで幼虫の餌にするというとんでもない魔蟲だ。
「…この…いい加減にしやがれ!」
俺は振り向きざまに坑道の天井から床まで届く巨大な刃を作り出した。
肉食スカラベはラッセル車に取り付ける排雪板のようなその刃に衝突して文字通り真っ二つになった。
「と…とんでもないところだな、ここは」
息を切らしながら俺たちは地面にへたり込んだ。
あれから息つく間もなくモンスターが襲い掛かってきたのだ。
数百数千という数で襲ってきて一瞬で血を吸いつくす吸血ウジ、洞窟内一杯に巣を張って獲物を巻き取る巨大蜘蛛、麻痺作用のある鱗粉を振りまいて獲物を動けなくさせて共生相手の蟻の餌にする陶酔蛾と鋼鉄蟻、他にもありとあらゆるモンスターが俺たちを狙っていた。
しかもそのどれもが虫型のモンスター、魔蟲ばかりだ。
「うう、もうやだよう…帰りたい」
虫は平気なはずのキリも流石に半泣きになっている。
これだけ不気味な奴らに襲われっぱなしだったらそうなるのもわかる。
「テツヤ、今はどの辺なのだ」
リンネ姫が憔悴しきった顔で聞いてきた。
その眼が早く出たいと雄弁に語っている。
「そうだな…あと一つ開けた洞窟を通ったら出口に向かう通路があるみたいだ」
魔蟲たちを避けるためにずいぶん遠回りをしてしまったけどようやく出口が近づいてきた。
俺の言葉にみんなの間にも安堵の空気が広がる。
「しかし…ずいぶんと妙ではないか?」
安心したのかリンネ姫がいつもの落ち着きを取り戻して呟いた。
「いくら何でも魔蟲の数が多すぎる、そうは思わぬか?」
確かにそれは俺も感じていた。
閉鎖された鉱山がモンスターの巣になっているというのはわかるけどあまりに多すぎる。
「しかも全て魔蟲というのも気になるな…」
俺の言葉に全員が頷いた。
明らかにこの鉱山には何か秘密がある。
「ともかく、ここで悩んでいても仕方があるまい。さっさと出口を目指すぞ」
ヘルマが表情を変えずに立ち上がった。
あれだけ不気味な魔蟲に襲われてきたというのに全く冷静さを失っていない。
「あ…ヘルマ、ちょっと待った。首元に蜘蛛が…」
「ひゃんっ!」
その首筋に手を伸ばそうとした時、ヘルマが甲高い声をあげてのけぞった。
「ど、どこ?どこに蜘蛛が?取って、早く取って!」
完全に冷静さを失った声でもがくように鎧を脱ぎ始る。
「あ、いや…もうどっかに行ったみたいだけど…小さい蜘蛛だし…」
俺はそんなヘルマを呆気に取られて見ていた。
涙目で鎧どころか服まで脱ぎ掛けていたヘルマの動きが止まり、その顔が色でも塗ったように赤く染まっていく。
「…殺す」
地獄の底から響くような声と共に腰に差していた曲刀を抜き払った。
「ま、待て!誤解だ!俺はあくまで親切心から…」
「黙れ!貴様だけは許さん!」
洞窟内にヘルマの怒号が響き渡った。
◆
「まったく、ちょっと蜘蛛がいただけだってのに…」
「黙れ、そのことは二度と口にするな」
俺たちは次の開けた場所を目指して進んでいた。
「しかしヘルマは虫が苦手だったなんて意外だな」
俺の言葉にヘルマがキッと睨みつけてきた。
「苦手なのではない、嫌いなだけだ。そのことは口にするなと言ったはずだぞ」
「そ、そういや魔蟲は普通に斬ってたよな、あれは平気なのか」
「そういうものだと認識していれば問題ない」
そう言いつつもヘルマの手が小刻みに震えているのを見逃さなかった。
ひょっとして冷静に見えていたのは単に感情を殺していただけだったのか?
「…それよりも」
ヘルマが尚も鋭い目をこちらに向けてきた。
「このことを陛下に告げたら…殺す」
眼がその言葉が嘘でないと告げている。
「あ、当たり前だろ…俺とヘルマの仲じゃないか…ハハ、ハハハ」
「ならばいい。今の言葉をゆめゆめ忘れるなよ」
そう言ってヘルマはすたすたと歩いていった。
多分だけどゼファーは既に知っているんだろうな。
俺は軽くため息とつくとヘルマの後をついていった。
◆
「こ、これは……」
出口に続く最後の開けた空間へと辿り着いた俺たちはその光景を見て言葉を失った。
そこには…無数の木箱や麻袋、金貨や金塊が所狭しと積み上げられていたからだ。
「こ、こりゃあ…お宝じゃねえっすか…」
「待て!」
光に誘われる蛾のようにふらふらと前に出ようとしたキツネの頭をソラノが地面に押さえつけた。
「人の気配がするぞ」
その空間は無人だったが出口向かう扉の奥から人の気配がする。
おそらくこの部屋を守っている護衛だろう。
「こりゃあ一体何なんでさあ?」
キツネが押し殺しながらも興奮しきった声で聞いてきた。
「シセロめ、こういうことだったのか」
ヘルマが苛立たし気に呟いた。
これはおそらくシセロの隠し財産なのだろう。
俺たちは音を立てないように横穴から抜け出した。
「ソラノ、音が漏れないように風の結界を張っておいてくれないか?」
ソラノが頷いて詠唱を開始した。
これで幾ら音を立てても出口には響かず、逆に向こうから来る足音は事前にわかるようになった。
念のために出口へと続くドアにも封印を施しておく。
これで誰かが来たとしても時間が稼げるはずだ。
安全が確認できたところで俺たちは部屋の中の探索を開始することにした。
「これは小麦だよ。豆とか粉もある!」
キリが積み上げられた麻袋を開けて小さく叫んだ。
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