外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

17.マッシナ鉱山地下迷宮

 何かがこちらに向かってくる。


 それも一体や二体じゃない、凄い数だ。


「な、何が起こってるんすか?」


 キツネが怯えたような声をあげた。


「しっ、静かにしろ!」


 俺はキツネの口を塞ぐと土壁に開けた覗き穴から外をうかがった。


 しばらくして横穴の一つからゴブリンの群れが飛び出してきた。


 十数体はいるだろうか、全員棍棒や短剣で武装している。


「あいつらが冒険者を殺したのか?」


 それにしては何かが変だ。


 ゴブリンたちはまるで何かに追われているように怯えている。


 洞窟の中がライティングの呪文で照らされていることにも気づいていないみたいだ。


「ギィィィッ!!」


「ギャッ!ギャッ!」


 ゴブリンたちは獣のような叫び声をあげながら更に奥へと逃げようとしている。


 やがてそのゴブリンたちを追うように巨大な影が穴から飛び出してきた。




「な、なんだあっ!?」


「きゃああっ!」




 その姿を見た俺たちは驚愕のあまり隠れていることも忘れて叫び声を上げた。




 それは巨大なムカデだった。




 全長は何メートルあるのだろうか、洞窟から全身が出ていないから判然としないがとんでもない長さだ。


 巨大ムカデは無数の足をうごめかしながらゴブリンを追いかけては巨大な顎で両断していた。




「ギョエエエッ!!!」


「ギャアアァッ!!」


 洞窟の中にゴブリンたちの悲鳴が響き渡る。


 俺たちは声もなくその凄惨な光景を見守っていた。




暴食顎おおむかでだ」


 リンネ姫が呟いた。


「オーガの群れですら逃げ出すと言われている魔蟲まちゅうが何故こんな所に…」


 やがて暴食顎おおむかでは全てのゴブリンを殺し尽くすとゆっくりと食事を始めた。


 ペチャペチャと不気味な音が聞こえてくる。


 みんなが青ざめた顔で見守るなか、瞬く間にゴブリンたちは白骨となってしまった。


「ああやって溶解液で溶かしてから飲み込んでいるのか」


 つまりは冒険者たちもゴブリンではなくこいつに殺されたというわけか。


 食事を終えた暴食顎おおむかでは洞窟の中で丸まると動かなくなった。




「今のうちにここから抜け出そう」


 俺は暴食顎おおむかでとの間に静かに土壁を広げると洞窟の壁沿いを音を立てないように進みだした。




 しかし数歩歩いたところで暴食顎おおむかでの触角がピクリと動き、巨大な頭がこちらに狙いを定めてきた。


 やべえ、触覚で振動を検知したのか?


 暴食顎おおむかでがこちらに突っ込んできた。


 土壁がウェハースのように簡単に砕け散る。




「クソ!」


 暴食顎おおむかでが再び襲い掛かってきたのと同時に俺が作り上げた石錐がその巨大な頭を真下から刺し貫いた。


「どうだ!」


 仕留めた、と思ったのも束の間で地面に磔になった暴食顎おおむかではその巨大な胴体を大蛇のようにくねらせて脱出を試みようとしはじめた。


 丸太のように巨大な胴体が所かまわず暴れまわる。


 まるで杭を生やしたドラム缶がのたうってるみたいだ。


「危ねえっ!」


 俺はなんとかそれをかわしながら次々と石錐を生み出して暴食顎おおむかでを貫いていった。


 標本のように串刺しになって暴食顎おおむかではようやくおとなしくなった。


「なんとかなったか?」


 一安心しかけた時、暴食顎おおむかでの頭がこちらを向いてその口から猛烈な勢いで溶解液が発射された。


「危ないっ!」


 すんでのところでアマーリアが水の盾を作り出して防いでくれた。


 弾かれた溶解液は食べ残されていたゴブリンの死骸を射抜き、骨も残さず溶かし尽くす。




「劫火鎧通し!」


 動きを封じられたところでフラムが暴食顎おおむかでに飛び乗り、その体内に高熱魔法を叩き込んだ。


 内側から焼かれては流石の暴食顎おおむかでも堪らないらしくようやくその動きを止めた。


 洞窟内にエビやカニを焼いたような匂いが立ち込める。


 うげ、しばらく甲殻類は食べられそうにないな。




「終わった?」


「ああ、なんとかな。助かったよ」


 俺は近寄ってきたフラムの頭をぐりぐり撫でた。


 フラムは猫のように目を閉じてふにゃふにゃとなっている。


「む~、私には?」


 アマーリアが頬を膨らませながら頭をすり寄せてきた。


「わかったわかった。アマーリアもありがとうな」


 目の前に差し出されてたアマーリアの頭もわしゃわしゃと撫でる。




「しかし何故こんなところに暴食顎おおむかでが?本来ならば軍に討伐依頼が来てもおかしくない魔蟲まちゅうだぞ」


 ヘルマが暴食顎おおむかでの死骸を見上げながら訝しげにつぶやいた。


「ともかくここはさっさと移動しよう。かなり大きな音を立ててしまったし他のモンスターに見つかると厄介だ」


 俺はそう言って洞窟から延びる横穴を振りむいた。


 今やその奥の深淵は無数の気配がひしめいている。




「ひいいん…とんでもないことになっちまった。やっぱり来るんじゃなかった」


 泣き言を漏らすキツネを引っ張るように俺たちは再び横穴へと入っていった。



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