外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

16.潜入!マッシナ

 その二日後、諸々の準備を終えた俺たちはマッシナへと向かった。


 途中までは空を行き、気付かれないようにマッシナの少し手前からは陸路へ切り替えた。




 マッシナは山裾に広がる豊かな平野を蓄えた土地だ。




「当然すけどマッシナに向かう道は全て封鎖されていて厳重な警備がしかれてます。普通にいったってまず通るのは無理っす」


 俺たちは平野を迂回して山へと分け入り、今は見晴らしのいい高台から平野を見下ろしていた。


 眼下に大きな街道が見える。


 そこには即席の関所が作られ、十数名の兵士が詰めていた。




「軍隊まで協力してるのか?」


「あれはシセロの私兵だ。地区総督は私兵を持つことを許されているからな」


「冒険者の中には私兵に加わってるのもいやすぜ。というか今一番報酬が良いのが有力者の私兵になることなんで腕に覚えのある冒険者はこぞって私兵になってますよ」


 キツネが付け加えた。




「見ろ、荷物が来たぞ」


 ヘルマが街道を指差した。


「あれは国が各属州国に配給している支援物資だ」


 即席で作った望遠鏡を向けるとマッシナに向かう荷馬車が関所で止められているところだった。


 兵士が積んでいる荷物を全て下ろして中を確かめている。


「支援物資まで中をあらためられているのかよ」


「よっぽど誰も入れたくないようだな」


 横で見ていたアマーリアも呆れたようにため息をついている。


 見ていると荷物だけ関所を通されて荷馬車はそのまま帰されていた。


 そこまでするのか!


「積み荷に紛れて侵入するという案を採用しなくて良かったな」


 ソラノの言葉に俺も胸をなでおろした。


 最初は支援物資だったら調べられることもないだろうからその中に隠れて入ろうと考えていたのだ。


「ともかく普通の道から行くのは無理と分かったのだ、この者の力を借りるより他はあるまい」


 リンネ姫がキツネの方を見た。


「やっぱ駄目っすかねえ~」


 キツネが盛大なため息をついた。


「いいからさっさと案内しろ。駄目かどうかはこちらで判断する」


 ヘルマは相変わらず取り付く島もない。


「へいへい」


 重たい腰を上げるキツネと共に俺たちは更に山の中へと入っていった。


 長年使われていない山道の後を更に奥へ奥へと進んでいく。


「山を越えていくルートもあるっちゃあるんすけどこの山はやたら険しいうえに魔獣の巣になってるんすよ。それに魔法を使ったら探知されちまう危険があるんで山越えは無理なんす」


 しばらく歩いているとやがてトンネルの入り口が見えてきた。


 レンガと木枠で作られた人工の建造物だ。


「この山は元亜晶鉱山なんす。今は使われてないんすけど、この中の坑道が反対側にあるマッシナの町まで伸びてるんす。俺も大昔に一度使ったきりなんで今はどうなってるかわかんないんすけどね」


「どれどれ」


 俺はトンネルの入り口に手を当てて山の中をスキャンした。


 確かに山の中を網の目のように坑道が走っている。


 至る所で落盤が起きていて洞窟のように広がっているところや別の坑道に短絡しているところもあってまるでダンジョンだ。


 それでもその中の何本かは反対側に繋がっているらしい。


「大丈夫だ。それにこの中を通っていけばかなり近道になるみたいだ」


「大丈夫なんですかねえ。自分で案内しておいて何なんすけど、このトンネルこそ中に入った冒険者が誰一人帰ってきてないところなんすよ」


「テツヤ、魔獣の気配はどうなのだ?」


 リンネ姫が心配そうに尋ねてきた。


「ん~、することはするんだけど、詳しいことはわからないな。元亜晶鉱山だからなのか魔力の探知が上手く働かないみたいなんだ」


「…入ってみるしかないということか」


 ため息とともにリンネ姫は立ち上がった。


 確かにここを抜けないことには話が始まらない。


 俺たちはトンネルの中へと進んでいった。








    ◆








 身をかがめないとつかえてしまいそうな狭い坑道を下へ下へと降りていく。


 ライティングの呪文で坑道内は照らされているけど数メートル先は完全な闇だ。


「ソラノ、空気の方は大丈夫か?」


「問題ない。有毒ガスなどは溜まっていない」


 ソラノが頷いた。


 こういう坑道では地下に行くほどガスの危険が高くなる。


 空気の探知を行えるソラノを先頭に、ヘルマを殿にして俺たちは慎重に足を進め、やがて大きく開けた洞窟のような場所に辿り着いた。




「どうやらここは元々あった天然の洞窟を利用した中継基地のようだな」


 横穴から周囲をうかがいながらヘルマが呟いた。


 洞窟の中にはつるはしや籠など様々な採掘道具が放置されていて壁にはいくつものトンネルが開いている。


「しかしこの匂いは…」


 そう言いながら顔をしかめる。


 俺も、というかみんなそこに充満する匂いには気付いていた。


 獣臭だ、それもとんでもなく強い。




「魔獣か、もしくはゴブリンあたりが巣穴に使っているようだな」




 みんなの間に張り詰めた空気が漂う。




「じゃ、じゃあ冒険者たちはこいつらに…」


 キツネが怯えたような声をあげた。


「静かにしろ。見つかるぞ」


 俺たちは武器を構えながらゆっくりと洞窟の中に入っていった。


 しかし何かがおかしい。


 匂いはするのに魔獣の気配は全くしないのだ。


 洞窟の中はまるで死に絶えたように静かだった。




「見ろ!」


 先頭に立っていたヘルマが洞窟の片隅を指差した。


「ひいぃっ!」


 それを見てキツネが小さな悲鳴を上げる。


 そこにはいくつもの白骨が転がっていた。


 あたりには服の切れ端のようなものや折れた武器も散らばっている。


「どうやらこれはキツネの言っていた冒険者のなれの果てらしいな」


 白骨の側にしゃがみこんで冷静に観察していたヘルマが呟いた。




「こ、こんなになってるってことは、ここにいる奴らに食われちまったってことなんすかね?」


 キツネが震える声で呟いた。




「しっ、何かが来るぞ!」


 足元に振動を感じた俺は即座に土の壁で全員を包んで壁に偽装した。


 何かがこっちに向かってくる!



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