外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
12.虫老人
「虫老人?誰なんだその人は?」
「虫老人というのはあだ名でね、この近くの荒れ地に一人で住んでるお爺さんなんだよ」
イネスが言うにはその老人の名前はアディルといい、この辺りでは変わり者として名が知れた存在らしい。
「誰もいない荒野に住んで虫ばかりを育てている変わった人なんだけどさ、虫とか草木について何でも知っているからあたしも時々相談に乗ってもらってたんだ」
イネスは更に話を続けた。
「虫が増え始めてすぐだったかな、突然そのアディルがうちに来てこのままだと畑が大変なことになるからと言って虫の放し方とか対策の仕方を教えてくれたんだよ。おかげでこの辺は助かったというわけ」
つまりその老人はこの事態が起こることを知っていたという訳か?
「そのアディルという人を紹介してくれないかな?話を聞いてみたいんだ」
そう尋ねるとイネスは困ったような顔をした。
「そうしたいんだけど…」
俺たちはイネスに案内されながら荒野の中を歩いていた。
「アディルは変わった人でね。こんな荒れ果てた場所に一人暮らしているのさ」
やがて荒野の中にぽつんとついた染みのようなあばら家が見えてきた。
石とレンガ、そこらで拾ってきた廃材を組み合わせたような、廃墟といっても良いようなぼろ屋だったけど一人で暮らすには広すぎるくらいの大きさがある。
「ここがアディルの家だよ」
小さな窓しかない家の中は真っ暗でよく見えない。
「暗くてよく見えないな。ちょっと明かりをつけるか」
「ば、馬鹿…」
イネスが止めようとしたけど既に遅く、俺はライティングの呪文を唱えていた。
家の中に光が広がったと思った瞬間、凄まじい音が耳をつんざいた。
それは家の壁という壁、天井、床を覆いつくす虫たちが発する羽音だった。
「ぎいいええええええっ!!!!!」
およそ人が出すものとは思えない絶叫を上げてみんな外へ飛び出して行った。
「な、なんなんだ!あれは!地獄か!?」
空を飛んで逃げだしたソラノが声を限りに叫んだ。
「燃やせ、フラム、あんな家燃やしてしまうのだ!」
アマーリアも顔を真っ青にしていてリンネ姫に至ってはほぼ半泣きだった。
「あの家はなんなんだ?アディルって人は本当にあんな家に住んでいるのか?」
「正しくは住んでいた、だね」
イネスがため息をついた。
「アディルはあの家に住みながら虫たちを飼っていたんだ。でも数日前にふいと居なくなってしまってね。たぶんその時に飼っていた虫たちを放したんだと思うよ」
あんな大量の虫たちを飼っていたのか…てっきり中に死体でも転がっていてそれに群がってるのかと思ったぞ。
「どうする?中に入ってみるかい?」
みんなを見ると猛烈な勢いで首を振ってきた。
「仕方がないな…それでも確かめないわけにはいかないし」
俺はため息をつくと恐る恐る家の中へと入っていった。
虫が平気なキリとフラムが後をついてくる。
ライティングの呪文のお陰なのか大半の虫たちは物陰に隠れてしまっているらしく、先ほどのような虫の姿はなかった。
それでもどこかにあれだけの虫たちが潜んでいるのかと思うとぞっとしないな。
家の中はシンプルなつくりで家具らしい家具はベッドと台所用品くらい、あとは壁を覆いつくすような虫かごがあるばかりだった。
どうやら本当に虫中心の生活を送っていたらしい。
手紙や書きものといった類のものはほとんどなく、結局何の手掛かりも得ることなく俺たちは屋敷を後にした。
「すまないね、力になれなくて」
「いやいいんだよ。そういう人がいると知れただけでも収穫だったし。何かわかったら知らせてくれないか?」
アディルの家を後にしてから更に色々聞いてみたけど結局イネスにも虫が増えた原因はわからないらしかった。
「結局何の手掛かりもなしか」
火神教本部に用意してもらった客間で俺はため息を漏らした。
火の巫女として教団を取りまとめているエイラの計らいで今夜はここに泊めさせてもらっているのだ。
イネスに別れを告げた後もウルカンシアの人々や近隣の農民に聞き取り調査をしたけどはっきりしたことはわからなかった。
ただみな一様に突然虫が増えた、まるで地から湧いてきたようだ、と言っていたのが気がかりだった。
「信者の人たちも言っていました。この虫害はベルトラン帝国全域に広がっていて火神教信徒も困り果てていると」
エイラがお茶を注ぎながら呟くように言った。
やっぱりこれは国全体に広まっているのか。
「エイラはなにか知らないか?どんな些細なことでもいいから教えてほしいんだ」
「そうですね…」
エイラが手を止めて考えるように宙を仰いだ。
久しぶりに会ったエイラもイネスと同じようにずいぶんと明るくなっている。
それに最後に会った時よりもずいぶんと成長したように見える。
女子三日会わざれば刮目してみよ、だな。
「な、なんですか?」
まじまじと見ているとエイラが困ったように頬を染めた。
「いや、前に会った時よりもずいぶんと大人っぽくなったなと思ってさ。成長期だからかな」
「もうっ!からかわないでください!」
エイラが真っ赤になって頬を膨らませた。
俺たちのやり取りを見ているフラムとキリがこちらをジト目で睨んできた。
「私だって成長してる。テツヤが気付かないだけ」
「キリも大きくなってるのに」
「と、とにかくだ、なにか最近変わったことは聞かないか?特に虫関係のことでさ」
慌てて話を元に戻すとエイラが思い出したように目を見開いた。
「そういえば信者の人に聞いたことがあります。ウルカンシアはベルトラン帝国の中でも虫害がマシな方だけどもっと上手くやっているところがあると」
「虫老人というのはあだ名でね、この近くの荒れ地に一人で住んでるお爺さんなんだよ」
イネスが言うにはその老人の名前はアディルといい、この辺りでは変わり者として名が知れた存在らしい。
「誰もいない荒野に住んで虫ばかりを育てている変わった人なんだけどさ、虫とか草木について何でも知っているからあたしも時々相談に乗ってもらってたんだ」
イネスは更に話を続けた。
「虫が増え始めてすぐだったかな、突然そのアディルがうちに来てこのままだと畑が大変なことになるからと言って虫の放し方とか対策の仕方を教えてくれたんだよ。おかげでこの辺は助かったというわけ」
つまりその老人はこの事態が起こることを知っていたという訳か?
「そのアディルという人を紹介してくれないかな?話を聞いてみたいんだ」
そう尋ねるとイネスは困ったような顔をした。
「そうしたいんだけど…」
俺たちはイネスに案内されながら荒野の中を歩いていた。
「アディルは変わった人でね。こんな荒れ果てた場所に一人暮らしているのさ」
やがて荒野の中にぽつんとついた染みのようなあばら家が見えてきた。
石とレンガ、そこらで拾ってきた廃材を組み合わせたような、廃墟といっても良いようなぼろ屋だったけど一人で暮らすには広すぎるくらいの大きさがある。
「ここがアディルの家だよ」
小さな窓しかない家の中は真っ暗でよく見えない。
「暗くてよく見えないな。ちょっと明かりをつけるか」
「ば、馬鹿…」
イネスが止めようとしたけど既に遅く、俺はライティングの呪文を唱えていた。
家の中に光が広がったと思った瞬間、凄まじい音が耳をつんざいた。
それは家の壁という壁、天井、床を覆いつくす虫たちが発する羽音だった。
「ぎいいええええええっ!!!!!」
およそ人が出すものとは思えない絶叫を上げてみんな外へ飛び出して行った。
「な、なんなんだ!あれは!地獄か!?」
空を飛んで逃げだしたソラノが声を限りに叫んだ。
「燃やせ、フラム、あんな家燃やしてしまうのだ!」
アマーリアも顔を真っ青にしていてリンネ姫に至ってはほぼ半泣きだった。
「あの家はなんなんだ?アディルって人は本当にあんな家に住んでいるのか?」
「正しくは住んでいた、だね」
イネスがため息をついた。
「アディルはあの家に住みながら虫たちを飼っていたんだ。でも数日前にふいと居なくなってしまってね。たぶんその時に飼っていた虫たちを放したんだと思うよ」
あんな大量の虫たちを飼っていたのか…てっきり中に死体でも転がっていてそれに群がってるのかと思ったぞ。
「どうする?中に入ってみるかい?」
みんなを見ると猛烈な勢いで首を振ってきた。
「仕方がないな…それでも確かめないわけにはいかないし」
俺はため息をつくと恐る恐る家の中へと入っていった。
虫が平気なキリとフラムが後をついてくる。
ライティングの呪文のお陰なのか大半の虫たちは物陰に隠れてしまっているらしく、先ほどのような虫の姿はなかった。
それでもどこかにあれだけの虫たちが潜んでいるのかと思うとぞっとしないな。
家の中はシンプルなつくりで家具らしい家具はベッドと台所用品くらい、あとは壁を覆いつくすような虫かごがあるばかりだった。
どうやら本当に虫中心の生活を送っていたらしい。
手紙や書きものといった類のものはほとんどなく、結局何の手掛かりも得ることなく俺たちは屋敷を後にした。
「すまないね、力になれなくて」
「いやいいんだよ。そういう人がいると知れただけでも収穫だったし。何かわかったら知らせてくれないか?」
アディルの家を後にしてから更に色々聞いてみたけど結局イネスにも虫が増えた原因はわからないらしかった。
「結局何の手掛かりもなしか」
火神教本部に用意してもらった客間で俺はため息を漏らした。
火の巫女として教団を取りまとめているエイラの計らいで今夜はここに泊めさせてもらっているのだ。
イネスに別れを告げた後もウルカンシアの人々や近隣の農民に聞き取り調査をしたけどはっきりしたことはわからなかった。
ただみな一様に突然虫が増えた、まるで地から湧いてきたようだ、と言っていたのが気がかりだった。
「信者の人たちも言っていました。この虫害はベルトラン帝国全域に広がっていて火神教信徒も困り果てていると」
エイラがお茶を注ぎながら呟くように言った。
やっぱりこれは国全体に広まっているのか。
「エイラはなにか知らないか?どんな些細なことでもいいから教えてほしいんだ」
「そうですね…」
エイラが手を止めて考えるように宙を仰いだ。
久しぶりに会ったエイラもイネスと同じようにずいぶんと明るくなっている。
それに最後に会った時よりもずいぶんと成長したように見える。
女子三日会わざれば刮目してみよ、だな。
「な、なんですか?」
まじまじと見ているとエイラが困ったように頬を染めた。
「いや、前に会った時よりもずいぶんと大人っぽくなったなと思ってさ。成長期だからかな」
「もうっ!からかわないでください!」
エイラが真っ赤になって頬を膨らませた。
俺たちのやり取りを見ているフラムとキリがこちらをジト目で睨んできた。
「私だって成長してる。テツヤが気付かないだけ」
「キリも大きくなってるのに」
「と、とにかくだ、なにか最近変わったことは聞かないか?特に虫関係のことでさ」
慌てて話を元に戻すとエイラが思い出したように目を見開いた。
「そういえば信者の人に聞いたことがあります。ウルカンシアはベルトラン帝国の中でも虫害がマシな方だけどもっと上手くやっているところがあると」
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