外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

34.暴走

「それは良かった」


 巴蛇はだの機嫌がよくなったようで俺はほっと一息ついた。


 これなら水の問題は片付くかもしれない。


「うむ、褒美としてなにか願いを叶えてやろう。なんでも申してみよ」


「じゃ、じゃあ寝巴蛇山ねはだやまから流れる水の量をもっと増やしてもらえますか?今のままだと二つの氏族が少ない水を奪い合って戦争が起きそうなんです」


「そういえば少し前に気分が悪くて身じろぎをしたことがあったな。その時に水が漏れ出ていた隙間が潰れてしまったのであろう。よろしい、その願い聞き入れるとしよう」


「ありがとうございます」


 俺は安堵のため息をついた。


 これで両氏族の争いは解決だ。










「ふざけるんじゃあない!」


「ああ!?文句でもあるのか?」


 その時、遠くから怒号が聞こえてきた。


 何事かと振り返ると俺の眼に今まさに戦いを起こさんとするエルフ族と獣人族の姿が飛び込んできた。


 両部族とも怒りに目を燃やして相手を睨みつけ、その手には武器が握られている。




「あいつら!何をしてんだよ!」




「あやつら問題が解決したと見るや否やどちらがより貢献したかで揉めだしたのだ。あれでは手の付けようがないぞ」


 駆け寄ってきたリンネ姫が困ったように息をついた。


「クソ、あいつら!さっきまで力を合わせていたのにもう忘れたのかよ!」


 間が悪いことにスポーツドリンクを作るために両部族ともかなりの手勢を連れて来ている。


 力を使い果たした今の状態であの数を止めるのはかなり厳しいかもしれないぞ。




「なんじゃ、何が起きているのだ」


 ウズナ、の思念体が俺の隣にやってきた。




「丁度良かった!あなたの力であいつらを止めてやってもらえませんか?あなたが言えばたぶん言うことを聞くと思うんですけど」


「何故お主がやらぬ」


「ああなってしまったら俺でも止めるのは無理ですよ。て言うか今までのことでもう動けないんですよ」


「そんなわけはあるまい、お主にはまだまだ力が有り余っているではないか。ははあん、さてはお主、力が制限されているからできぬのだな?ならば我が手伝ってやろう」


 言うなりウズナが俺の顔を掴んで引き寄せた。


 ウズナの唇が俺の唇に重なる。


 俺の記憶はそこで途絶えた。








    ◆








「てめえらエルフ族はたかだか木の実を絞っただけじゃねえか!しかも途中でなくなりやがるしよお!」


「それを言うなら貴様らなどただ塩を持ってきただけではないか。果物を育てることの大変さも知らぬ蛮人が」


「なんだと!」


 連日働いていた疲れもあってエルフ族と獣人族の対立は最高潮に達していた。


「ったく、あいつらは性懲りもねえ」


 グランが呆れたように頭を掻きながら両者に割って入ろうとした時、背後から巨大な魔力の接近を感じ取った。


「な、なんだ?」


 ここ数年、いや数十年感じたこともないほどの強力な魔力にグランは慌てて振り向いた。


 これほどの魔力を放つのはワールフィアでも魔王と呼ばれる魔族だけだ。




「テツヤ…?」




 その魔力は蛇頭窟の傍らに佇む一人の男が発していた。




「テツヤ…なんだよな…?」


 確かにその影はテツヤだ。


 いや、テツヤだったと言うべきだろうか、今やその姿は人の姿を留めなくなりつつあった。




 ヒトだったかつての身体は肉体賛美の芸術家が過剰に誇張を利かせた彫像のように歪に膨れ上がり、体の節々から変形した骨が棘のように盛り上がっている。


 額からは巨大な二本の角が生え、以前にアスタルがテツヤの力を開放した時に現れた紋様が不気味な赤い光を放ちながら再び現れていた。






「な、なんだあやつは?貴様らが呼んだのか?」


「お、俺は知らねえよ!お前らの手勢じゃねえのか?」


 異様な事態に気付いたバルドとローベンも争いを止めて変貌するテツヤを眺めている。


「テ、テツヤ…」


 テツヤの足下では突然のことにへたり込んだリンネ姫が唖然と見上げていた。






「ゴアアアッ!!!!」


 テツヤだったものが吠えた。


 いや、吠えたなとどいう生易しいものではなかった。


 魔力を込めた咆哮はもはや爆発にも等しい。


 テツヤの周囲半径数メートルが吹き飛んだ。




「姫様!」


 すんでのところで飛んできたソラノがリンネ姫を救い出した。






「あ、あれは何なのですか?まさか…」


「…あれはテツヤだ」


 認めたくないというように絞り出したリンネ姫の言葉にソラノは耳を疑った。




「そんな馬鹿な!あれは…あれではまるで…」


 魔族そのものではないか、という言葉をソラノは辛うじて堪えた。


 言ってしまえば本当に事実になってしまいそうだったからだ。


 それでも今のテツヤの姿はヒトだと言っても信じる人など誰もいないだろう。


 見ているだけでソラノの肌から玉のような汗が噴き出た。


 自分の力では遥かに及ばないと体が理解しているのだ。




「クソ、あいつは何なんだ!敵なのか!?」


「と、とにかく、まずはあやつをどうにかするのだ!皆のものかかれ!」




 エルフ族も獣人族も突然現れた異形のものを見てパニックを起こしかけている。




「醜き者め、我が魔法でチリと消えるがいい!」


 バルドが詠唱を始めた。


「ま、待つのだ!あの者にそれは効か…」


「ライトニングボルツ!」


 焦るルスドールの声を遮ってバルドの魔法が発動した。


 両の手から生み出された巨大な光の弾頭がテツヤに向かって放たれる。


 しかしそれはテツヤに当たる直前に消えうせた。



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