外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

23.助け

 背後には謎の男の開けたドア、正面からは近づいてくる追手の足音、どうする?どっちに行く?


「ええい、ままよ!」


 俺は少女の手を引くと後ろで開いているドアに滑り込んだ。


 ゼファーもすぐ後に続いてくる。




「そこの陰に!」


 男の声に従って部屋の奥に飛び込み、同時にドアを乱暴に叩く音が聞こえてきた。


「静かにしていてください」


 俺たちを助けた男はそう言ってドアを開けた。


「おい、ここに小娘が逃げ込んでこなかったか?」


 男のだみ声が聞こえる。


 その声を聞いてエイラの身体がびくりと強張った。


 やっぱりあの男たちはエイラを追っていたのか。




「いえ、ここには誰も来ていませんが」


「隠すとためにならねえぞ!」


「あなたたちこそ何故こんな時間に外に出ているのですか。ウルカン様がお帰りになられたというのに外を出歩くのは不敬ですよ」


「チッ、ウルカン教の信者かよ面倒くせえ。おい、行くぞ!」


 遠ざかる足音に続いてドアを閉めて鍵をかける音が聞こえてきたところでようやく安堵のため息が出た。




「もう安心ですよ」






 部屋の中にやってきた男を改めて見た俺は仰天した。




「エ、エリオン王子?」




 それはこの地域の民族衣装に身を包んだエリオン王子だった。


「しっ、まだあの男たちが近くにいるかもしれない」


「な、なんでこんな所に…」


「それはこちらの台詞だよ、なんてね。当然君を探しに来たんだ」


 そしてもう一方ひとかた、と言ってエリオンがゼファーの方を向いて深々と頭を下げた。


「ご無事で何よりです、陛下」




「そちはフィルド王国のエリオン王子か。よくぞ参った」


「覚えていただきありがとうございます」






 二人の様子を見てエイラが不思議そうな顔をしている。


「なあなあ、ひょっとしてあの人もやんごとなき御方なんで?」


 キツネが小声で聞いてきた。


「まあな。その辺の話は今はちょっと置いておいてくれ」


 俺は興味津々なキツネを押しやってエリオン王子に話しかけた。




「それにしても、なんでここに?いや、なんでここにいるんですか?どうやってここが?」


「君たち二人が消えた後すぐに探しに出たんだ。あの群衆の中にはこの辺の民族衣装を着ている者が何人もいたし言葉もこの辺の訛りだったから火神教ひのかみきょうが関わってるだろうとあたりを付けてね。友人を頼ってこの町に来たって訳さ」


 訳さって…それだけでピンポイントにここを探し当てるなんてことができるのか?実はこの人とんでもないんじゃ…




「そ、それじゃあこの家は…」


「ああ、これは友人の家なんだ。今は誰もいないから安心していいよ。食料や寝床もあるからゆっくりしてくれ」


「何から何までかたじけないな」


「お安い御用ですよ。陛下のお役に立てるのであればそれだけで重畳です」




 エリオンはそう言ってこっちを振り向いた。


「じゃあ食事をしながら君たちに何が起きたのか聞かせてくれないかな」


「食事があるんすか!?いやー、実は腹がペコペコなんすよ!」


 その言葉にキツネが目をらんらんと輝かせた。


 まったく調子のいい奴め。








    ◆








「そんなことがあったのか…」


 エリオンが驚いたように息を吐いた。


「そういう訳で火神教ひのかみきょうが怪しいってことでこの町に来たわけなんです」


「そして俺がお二人に力を貸したって訳っすよ。あ、俺はキツネと言います。冒険者をやっててテツヤさんとは昔からの顔なじみでして」


 ハムを豪快にかじりながらキツネが自己紹介した。


「何が昔からだ。しかも散々俺にたかってるだけじゃないのか」


「まあまあ固いこと言いっこなし」


「しかも最初は我々を捕まえるために探していたのだがな」


 ゼファーの皮肉にキツネの顔が青ざめた。


「いやいやいや、あれは連中を欺くための演技ですって!密かに探して逃がす算段をしてたんすよ!信じてくださいよ」


「いや、こいつは金のためなら親だって質に入れるような奴だからな。今だって放っておいたら何をしでかすか」


「ちょ、テツヤさん勘弁してくださいよ~」






「それはそうと、テツヤと陛下はずいぶんと親しいようですね。口調もざっくばらんというか」


 俺たちの会話を聞いていたエリオンが興味深げにつぶやいた。




「ふふん、今はただのゼファーという行商人だからな。こやつは俺と一緒に旅をしている仲間だ。ならば言葉使いも気を使う必要はあるまい」


 ゼファーが愉快そうに笑った。




「なるほど…そういう設定でしたか。ならば私もその仲間に加えていただきたいですね。名前は…リオンとでもしましょうか」


「ちょ、王子…それは」


 思わず声をあげる俺にエリオン王子は人差し指を振ってみせた。


「それは違うだろテツヤ。今の私はリオンだ。私にも敬語は無用だよ」


 エリオン王子もゼファーも明らかに今の状況を面白がっている。


「~~~もういいや、なんでも。言っとくけどあとで不敬罪はなしだからな!」


 俺はため息をつくとパンにかぶりついた。



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