外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

19.ウルカンシアへ

 水滴がウォータージェットカッターのように石壁を穿っていく。


 危ねえ、あと一歩遅かったら全身を穴だらけにされてたぞ。


 水滴攻撃を防ぎきった俺を見てダリアスが猛然と攻撃を仕掛けてきた。


 刃と化した布を振るい、時に水滴を弾丸へと変えて矢継ぎ早に襲ってきたが俺はそれを全て防ぎきった。




「?」


 しばらくの攻防の後にダリアスが驚いたように動きを止めた。


 その手に持っていた布が力なく垂れ下がっている。


 完全に水分が抜けているようだ。




「思った以上に早く乾いちまったみたいだな」


 攻撃をかわしている最中に周囲の土を多孔質に変えておいたのだ。


 言ってみれば宿舎全体が珪藻土になっているみたいなものだ。


 部屋中を舞っている埃も水分を吸い込む助けになっている。




 ダリアスの布が含んでいた水分は全て土の中へと消えてしまった。




「お得意の水攻撃もこれで終いみたいだな」




 俺の言葉にダリアスが怒りに顔を歪めた。




 懐から小刀を取り出し…襲い掛かってくるかと思いきや自分の手を切りつけた。




「なにっ!?」


 腕から流れる血がダリアスの持っていた布を赤く染め上げる。


 まさか?


 再びダリアスが襲ってきた。


 マジかよ?自分の血を武器にするとか正気の沙汰じゃないぞ!


 それはまさに命を懸けた攻撃だった。


 攻撃力も水を武器にしていた時とは桁違いだ。


 血が染みこんだ地面すらダリアスの制御下に入っている。


 それでも俺は負けるわけにはいかない。


 隙を見て台所にあった大鍋をダリアスにぶちあてた。


 ダリアスは壁をぶち抜いて吹き飛び、完全に沈黙した。






「終わったのか?」


 ゼファーとイネスが近づいてきた。


「いや、まだだ。こいつらは完全に沈黙させないと…」


 貴族学園を襲ってきた連中みたいに自殺しかねない、と言おうとした時、ダリアスがゆっくりと起き上がった。


 同時にその全身から魔力が迸る。


「危ねえっ!」


 とっさに地面をせり上げて巨大な壁を作り上げた。


 爆散したダリアスの血が壁を大きくえぐり取っていく。




 壁を取り去った時、そこに残っていたのは血痕とわずかな布片だけだった。




「自分の命も顧みないのかよ。とんでもない奴らだ」


 気付けば俺は背筋にびっしょりと汗をかいていた。








「結局なんで襲ってきたのか分からずじまいか…」


「そうでもない」


 ダリアスのいた場所を確認していたゼファーが立ち上がった。




「我々がここにいることを知っているのは我々を攫った者だけだ。そして燼滅じんめつ教団のこやつがここに来たということはそこに繋がりがあるということだ」


「つまり火神教ひのかみきょう燼滅じんめつ教団が繋がってるってことか!」


「その可能性は高いだろう。どちらにせよウルカンシアに行かねばわからぬことだ」




 ゼファーがイネスに振り向いた。


 イネスは恐怖と驚きがないまぜになった顔で固まっている。




「あ、あなた様は…」


 何かを言おうとしているけど言葉にならないみたいだ。




「迷惑をかけたな」


 そう言ってゼファーは耳に付けていた純金と宝石でできたイヤリングをイネスの手に渡した。


「イネスよ、お主の貢献はしかと見届けた。いずれ必ずその功績に相応しい報いを用意しよう」


 イネスは口をパクパクさせたまま首を上下させている。




「しかし今は我々のことは口外せんでくれるか。これは余と主の間の秘密だ」


 そう言って人差し指をイネスの唇に当てた。


 イネスの顔が真っ赤になったと思うとふらふらと地面に倒れた。


「おっと」


 ゼファーがそれを抱きかかえる。


「気を失ってしまったらしい。ついでに送り届けるとするか」




 チッ、イケメンめ。




 俺たちはイネスを糧食管理官の宿舎に運び、旅の準備を整えた。




「食料と水を少々もらっていくが先ほどのイヤリングでお釣りがくるだろう。拝借していくとしよう。今のうちにウルカンシアへ向かうぞ」


 その時突然目の前に黒い影が舞い降りてきた。




「うわぁっ!」




 びっくりして身構えるとそれは巨大なハヤブサだった。


 脚に黄金のアンクレットをしている。


 このハヤブサは見たことがあるぞ。まさか…




「陛下!ご無事ですか!」


 ハヤブサがヘルマの声で叫んだ。


 やっぱりヘルマが使役しているハヤブサか!




「ヘルマか、そちらは仔細ないか」


 突然ハヤブサが舞い降りたというのにゼファーは平然としている。




「今すぐそちらへ向かいます!」


「いや、それよりもクラドノ村へ兵士を送り守らせよ。全て内密に行うのだ」


 その声は既にベルトラン十五世のものに戻っている。




「了解しました。陛下はどちらへ?私もすぐにそちらへ…」


「いや、その必要はない。こちらにはテツヤがいるからな。それよりも周囲に気取られぬようにせよ。余の状況を決してほかに漏らしてはならぬ。何かあればこちらから連絡する」


「陛…」


 ゼファーは会話を途中で切り上げてハヤブサを宙に飛ばした。


 ハヤブサはしばらく頭上で弧を描き、やがて北へと飛んでいった。




「さて、ここがばれてしまった以上我々がウルカンシアに向かうことも知られてしまうだろう。さっさと移動せねばなるまいな」


「なんでヘルマの助けを断ったんだよ!今の状況は絶対にあいつの力が必要だろ!」


「あやつは放っておいてもいずれ余の前に現れる。その前にやっておくことがある」


 ゼファーは俺の言葉を全く意に介さずに手綱を振るった。




「ヘルマが来る前にウルカンシアに向かう。行くぞ!」


「ったく、なんなんだよ、一体!」




 俺たちは星空の下、荒れた大地を駆けていった。



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