外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

11.越えざる壁のヘルマ

 俺が連れてこられたのは城内にある闘技場だった。


 流石にベルトランの王城だけあって前にキリが戦ったマテクの闘技場とは比べ物にならないくらいしっかりしている。


 円形闘技場で、周囲をぐるりと囲う観客席には話を聞きつけてきた城内の兵士や使用人で埋め尽くされていた。


 中段にある王族用観客席にベルトラン十五世の姿が見える。




 足下は土になっていて周囲は石の壁で囲まれているから俺にとっては有利な条件だけどヘルマはあまりに相手として悪すぎた。


 ヘルマの魔力をそのまま攻撃力に転化する戦闘スタイルに対して俺の土属性は相性が悪いのだ。




 ヘルマが手にしている二本の曲刀は模擬刀とは言え当たればただでは済まないだろう。


 一方で俺が選んだのは鉄槍だ。


 とは言ってもこれを槍として使う気はさらさらなくて単純に金属部分が多いから選んだだけだ。




「どちらかが降参、あるいは続行不可能と判断するまで続けるように。よろしいか?」






 俺たち二人が頷き、試合開始の鐘がなった。




 開始早々ヘルマが突っ込んでくる。


 左右から襲い掛かる曲刀をすんでのところでかわす。


 親善試合なんでとんでもない、ヘルマは本気だ。




「~~~~~っ!!」




 ヘルマはそのまままるで踊りでも踊るように曲刀を縦横無尽に振るってきた。


 全く反撃の余裕がない。




 俺の方はかわすので精いっぱいだ。




「くそっ!」


 一瞬の隙をついて足下から生やした石で作った錐をヘルマは後ろに回転してあっさりかわした。




「そこだ!」


 生まれた距離を活かしてヘルマに向かって床から壁から礫を放つ、がヘルマはその全てをかわし、あるいは叩き落した。




 やはりとんでもない強さだ。


 ただ、俺自身驚くこともあった。




 以前のヘルマはもっと強かった気がする。






 アスタルさんに開放してもらった力は既に元の状態に戻っているはずなのに不思議とヘルマの動きがよく見える。


 たぶん今までの俺だったら初撃を喰らってそこで試合終了になっていただろう。


 開放の影響がまだ残っているのだろうか?




「少しは上達したようだな」


 攻撃の手を休めずにヘルマがにやりと笑った。






「お陰様でね!男子三日会わざればって言うだろ!」




「何を言っているのかわからんが、もう少し付き合ってもらうぞ!」


 ヘルマの攻撃が更に苛烈さを増してきた。


「本気で行かせてもらうぞ!」




 距離を置いたヘルマが手を前に出して印のような物を組んだ。


 詠唱と共にヘルマの身体から光が溢れだす。




 いや、全身に浮かび上がった紋様が発光しているのだ。


 あれは…俺がアスタルさんに力を開放してもらったのと似ている?


 そう思った瞬間、ヘルマの姿が消えた。




 やば…っ




 嫌な予感が全身を貫く。




 大急ぎで大地をせり上げて周囲に壁を作り、同時に身をかわす。




 その瞬間、作り上げた土壁が手にしていた槍と共に両断された。


 嘘だろ?向こうが持ってるのは刃引きしてない模擬刀だぞ?




 驚く俺の目の前にヘルマが現れた。


 まるで瞬間移動しているような速度だ。


 辛うじて前にかざした槍が更に断ち切られる。


 もはや俺が持っているのは二本の鉄棒でしかない。


「こ、これは親善試合じゃないのかよ!」




「本気でやらねば楽しめないであろう!?」


 ヘルマは全く攻撃の手を緩める様子がない。


 駄目だ、戦士としてのヘルマの闘志に火を点けたっぽい。


 しかもヘルマの能力は耐魔力も付与するのか曲刀を操作しようと思っても全く効果がなかった。




「でえい!」


 俺は闘技場全体に土の柱を林立させた。


 しかしヘルマはまるで雑草でも刈り取るようにそれを全て断ち切りながら突っ込んでくる。


 だがそれが俺の作戦だ。


 断ち切られた柱を空中で融合させて全方向からヘルマを拘束する!




「小癪な真似をっ!」




 ヘルマの身体の紋様がひときわ輝きを増した途端、その身を縛っていた拘束が一瞬で破壊された。


「これで終わりだ!」




 俺とヘルマの身体が交差する。


 そしてそこで動きが止まった。




 ヘルマの手に曲刀はなく、そのかわりに手刀が俺の首に突き立てられている。


 そして俺の手にしてた槍の残骸がヘルマの首元にあてられていた。






「そこまで!」


 審判の声が響いた。




 振り向くとベルトラン十五世が手を挙げているのが見えた。


 どうやら満足したみたいだ。


 気が付けば闘技場は歓声と拍手に包まれていた。


 ほっとした顔のリンネ姫も見える。




「貴様、これが狙いだったのか?私の武器を破壊するためにあれだけ回りくどいことをしたというのか」


「直接触れれば魔力も効果があるんじゃないかと思ってね。上手くいって良かったよ」




 何事もなく戦闘を止めるにはこれが一番だと思ったのだ。


 あのまま続けていたら二人ともただでは済まなかっただろう。




「ふ、相変わらず食えない奴だ」


 ヘルマが俺の持っていた槍の残骸を取り上げた。


 それを軽く放り投げたかと思うとヘルマの手が掻き消え、槍の残骸が更に細切れになって地面にばらまかれた。




 素手でもできるのかよ!


 もしヘルマが本気で俺を殺そうとしていたら今頃は…


 首筋が氷でも当てられたかのように冷たくなった気がした。




「なかなか楽しい試合だったぞ。お主とはまたやりあいたいものだ」


 そう言ってヘルマは踵を返し、闘技場から去っていった。


 いや、こんな大変なのはもう御免だよ。



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