外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

6.襲撃者

「分かっていると思うが貴様らは人質だ。大人しくしているなら危害は加えない。そのかわり少しでもおかしな真似をしたら容赦なく殺す」


「この屋敷一帯に強力な耐魔防壁が張っている。魔法は使えないから無駄なことはするな。更にこの屋敷の警備隊は既に無力化されている。余計な期待などはしないことだな」


 襲撃の首謀者と思わしき男が人質となった学生たちに警告を発している。




「ま、待ってくれ」


 その時、その男の前にまろび出てくる影があった。


 あいつ、廊下でいちゃもんを付けてきた、確かカイウスとかいう名前だったっけ。


「わ、私の父はこの国の元老院議員だ。き、君たちの要求はなんだ?金か?金なのか?だったら私の父に要求するがいい、幾らでも払うだろう。そのかわり私の命の保証はしてくれ」


 あの野郎、一人だけ命乞いかよ!




 カイウスは愛想笑いを浮かべて襲撃犯の足にすがりつきそうなくらいだ。




 男はそんなカイウスを一瞥するとその顎を蹴り上げた。


「ふぎゃあぁぁっ!」


 情けない声をあげてカイウスがもんどりうった。




「我々は金が目的でこんなことをしているわけではない!貴様ら権力中枢にのさばる豚共に怒りの鉄槌を下すためだ!死にたくなかったら大人しくしていろ!」


「ひいいぃっ!」


 男に一括されたカイウスは情けない声をあげて輪の中に逃げ込んだ。




「あいつら金が目的じゃないのか。じゃあなんのために?」


「それはまだわからない。それよりもテツヤ君、君の力であいつらを無力化することは可能かな?」


「それはまあ、なんとかなりますけど」


「じゃあ更にお願いをしていいかな?できれば人質になったみんなは誰一人傷つけたくないんだ。できるかな?」


「やってみましょう」


「助かるよ。あそこにいるのはみんなこの国の要人の子息子女ばかりなんだ。彼らが一人でも傷つくとこの国はおろか我が国の政策にも影響を与えかねないからね」




 え、そういう理由なの?てっきり友人だから助けたいとかそういうことかと。




「もちろんそれもあるさ。でも僕はこう見えても王子だからね。この事件が及ぼす影響まで考える必要があるんだ」


「テツヤ、お兄様を甘く見ない方が良いぞ。笑顔の裏では常にこういう算段をしているのだからな」


 ううむ、こういう部分はリンネ姫に通じるところがあるかもしれない。


「しかし連中が持ってる松明が厄介ですね。一本でも油に落ちたら大惨事だ」


「それはこっちでなんとかしよう。しかしそれだと再び闇になってしまうが大丈夫かい?」


「それは大丈夫…いや、せっかくだからリンネ姫に手伝ってもらおうかな。セレンさん、外の連中は任せても良いですか?」


「了解した」


「じゃあ、広間が暗くなったら合図ということで」








 セレンが外に出たのを見計らい、まずはエリオンが呪文を詠唱した。


「エクスティングイッシュ」


 エリオンの詠唱で襲撃犯の持っていた松明の炎が一瞬で消えた。


「な、なんだ?何故松明が?」


「早く火を点けなおせ!」




 闇の中で男たちの慌てる声と女学生の悲鳴が交差する。


 間髪入れずにリンネ姫が呪文を唱えた。


「フラッシュ!」


 瞬間、部屋がまばゆい光に包まれる。


「ぐわっ!」


「目、目がっ!」


 リンネ姫の放った光の魔法が男たちの網膜を焼いた。


「今だ!」


 その一瞬の隙に俺は男たちの立っている床を操作して全員壁に叩き付けた。


 同時に床と壁を操って全員を拘束する。






 こうして卒業パーティーの襲撃犯は襲ってきた時と同じようにあっという間に無力化されることになった。




「初めて見たけど大したものだね、これがテツヤ君の土属性の力なのか」


 広間の床に降り立ったエリオンが驚いたような呆れたような顔で辺りを見渡している。


 二十名の襲撃者は今や全員壁に貼りつけにされ、指一本動かせない有様だ。






「お兄様、テツヤの力はこんなものではないのですよ」


 リンネ姫が得意そうに顎を上げている。




「どうやらあちらも終わったようだね」


 窓から外を見ると外にいた連中も全員セレンに倒されたみたいだ。




 その時、屋敷中の照明が元のように光を放ち始めた。


「リンネ姫様、エリオン殿下、ご無事ですか!」


「テツヤ、一体何があったのだ?」




 ほどなくしてアマーリアや護衛隊のみんなが屋敷になだれ込んできた。




「みんな、どうしてここに?」


「どうしたもこうしたもない、突然屋敷が探知できなくなったから慌てて来てみたら武装した連中が屋敷を囲んでいるうえに耐魔防壁まで張られているじゃないか。なんとか防壁を破ってここまできたらこの有様だったんだ。聞きたいのはこちらの方だよ」




 アマーリアたちはアマーリアたちで動いていたってことか。


 襲撃者たちが犯行声明を出す前に片づけられたのは幸いだったかもしれない。


 ことが大きくなってたらこんなに自由には動けなかっただろう。




「しかしこいつらは一体何者なんだ?」


「それはこれからゆっくり聞き出すことにしよう」


 俺は首謀者と思われる男の口の拘束を解いた。




「おい、なんでこんな真似をしたんだ?」


「き、貴様、この国の人間ではないな」


 男が憎々しげな眼で俺を睨みつけてきた。




「まあね、あんたたちの事情は知らないけどこっちに被害が及んじゃ堪らないから抵抗させてもらった。どんな目的でこんなことをしたのか答えてもらおうか」


「断る。言ったところで我々がこの国から受けた苦しみはわかるまい。ウルカン様の断罪の炎がこの国の罪を焼き尽くすまで我らが止まることはない!」


「それはどういう……」


「ウルカン・バーラヤーン!」


 尚も問いただそうとすると男が突然叫び、その直後に血を吐いてがくりとうなだれた。


「お、おい!?」


 慌てて止めようとした時にはすでに遅く、男は事切れていた。


「これは一体…?」



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