外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

2.三度(みたび)のベルトラン帝国

「ベルトラン帝国~、なんでまた?」


 正直ベルトラン帝国はあまりいい思い出がないと言うか、行くと常に面倒ごとに巻き込まれているような気がするんだよな。


「まあそう嫌な顔をするな」


 リンネ姫が苦笑しながら話を続けた。




「実を言うと近々彼の国に留学している兄の卒業式典に参加することになっているのだ。その時に同行してもらいたくてな」


「ああ、そういうことか」


「卒業式典の他にパーティなどもあってな、そちらの付き添いをしてくれる人も必要なのだ」


 なるほど、それなら行かないわけにはいかないよな。




「そう言ってくれると思っていたよ。兄もテツヤに会いたがっているしな」


 そう言ってリンネ姫は立ち上がった。




「それでは早速明日にでもゴルドの方へ来てもらうぞ。服だの礼儀作法だの行く前に準備しておかなくてはいけないものがたくさんあるからな」


「それでは私たちも…」


 そう言っていそいそと立ち上がりかけるアマーリアをリンネ姫がじろりと睨んだ。




「今回はお主たちは留守番だ」


「そ、そんなあ~」


「冗談だ」




 あからさまに落胆するアマーリアたちを見てリンネ姫がくつくつと笑った。


「たまにはのんびり旅行で骨休めをするのも悪くないだろう。私の警護隊に参加させるから羽を伸ばすと良い。ベルトラン帝国を知るのはお主たちにとっても悪いことではないだろうしな」




「流石はリンネ姫!」


「ありがとうございます!」


 リンネ姫の言葉にみんなの顔がぱあっと明るくなった。




「出発は二週間後だ。それまでに諸々の用意を済ませておくのだぞ」








    ◆








 二週間はあっという間に経ち、俺たちは三度となるベルトランの地を踏んでいた。


 今回はリンネ姫の護衛も含めて百名を超える大所帯だ。


 しかも全員の荷物を乗せた荷馬車が五台もついてきている。


 トロブに引っ越した時も思ったけど女性の移動はとにかく荷物が増えるみたいだ。


 こうして俺たちは二週間ほどかけてベルトランの中を抜けてビキタという山間の小さな町に辿り着いた。


 俺たちが付いたビキタという町は砂漠や平原、熱帯雨林の多いベルトラン帝国では珍しい爽やかで緑豊かな高原の町で、リゾート地らしく豪華な宿が幾つも建っている。


 俺たちはその一軒をまるまる借り切って滞在することになっていた。


 流石は王族の旅だけあってやることが派手だ。




「なんで魔法の力でぱっと移動しなかったんだ?」


 宿で荷物を降ろしながらリンネ姫に聞いてみた。


 大所帯ではあるけど俺の魔法を使えばもっと早く移動できたはずなのに。




「ベルトラン帝国は魔法の使用に対して厳しい制限を設けているのだ。私たちのような異国からの訪問者なら尚更でな、王家と言えどもそうそう魔法の使用は許可されぬのだ」


 リンネ姫がむかつくと言いたげに顔をしかめた。




「でもこの前は空を飛んで移動したぞ?」


「あれはほとんど非公式だったからな。おそらくあのヘルマという兵士が方々に手を回したのだろう。今回のような公式の訪問ではなかなかそうもいかぬのよ。許可を待っていたらいつまでかかるかわからぬしな」


 そういう理由があったのか。ヘルマは流石に隊長を務めるだけあって細かいところに気を配っていたんだな。




「しかしなんでこんな所に来たんだ?」


「ここはベルトラン帝国でも有数の景勝地でな。兄は、というか兄の通っている帝国貴族学園の卒業生は現在ここに来ているのだ」


 そうなのか?なんでまた?




「卒業生たちは式典の前にここにある学園所有の屋敷で最後の学園生活を過ごすしきたりなのだ。まあ体のいい学生生活最後のどんちゃん騒ぎらしいのだがな。なのでパーティーもここで行われるのだよ」




 なるほどね、クラスを挙げての卒業旅行みたいなものなのかな。


「そういうことだな。式典は帝都で行われるが数日ここで過ごすことになるだろう。そういうことだから私とテツヤは屋敷に向かう。お主たちはここで待機しているのだ」


 リンネ姫は振り返るとみんなにそう告げた。


「何故ですか?何故私たちは列席できないのです?」


「そうです!姫様の護衛だって必要なはずでは!」


 抗議の声をあげるアマーリアとソラノを護衛隊長のセレンが手で制した。




「気持ちはわかるが堪えてくれ。ベルトラン側からの要請で我々の警護は必要なしとのことなのだ。ここが異国である以上そのルールには従わなければならない」


「しかし!」


 なおも食い下がるアマーリアにリンネ姫が人差し指を突き出した。


「そのためにテツヤに来てもらったのだ。テツヤだったら何が起ころうとも大丈夫、そうだろう?」


 そう言って俺の方を見てウィンクをしてきた。


 マジか、そんな理由もあったのかよ。一気にプレッシャーが大きくなった気がするんだが。


 しかしここまで頼られて断れるわけがない。




「お、おう、任せておけって!リンネ姫はこの俺が守る!」




 俺はそう言って拳で胸を叩いてみせた。




「そういう訳だ。パーティーは今宵より二晩行われる。終わるまでこの町で待機しておいてくれ」


 リンネ姫はそう言って俺の腕を取りウィンクをしてきた。


「さて、我々はパーティーの準備を始めるとしようか」



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