外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

35.決戦前夜

 ツァーニックに対する全面攻撃は翌日行うことに決定した。


 レジスタンスはツァーニックから身を隠す方法を知っているとはいえ、奴の力は日に日に強まっているからいつこの場がばれてもおかしくないらしい。




「眠れないのか?」




 ぼんやり夜空を見ているとアマーリアがやってきた。


「ちょっとね」


 アマーリアは隣に腰を下ろすと頭を俺の肩に預けてきた。




「私もだ。戦いの前の日はいつもこうだよ」


「アマーリアみたいな歴戦の勇者でもそうなのか」


「当たり前だ、私を何だと思っている」


 アマーリアは拗ねたように口を尖らしたけれどすぐに笑顔をこちらに向けてきた。




「しかしテツヤがこうなるのは珍しいな。初めて見た気がするぞ」




「…実を言うとさ、怖いんだ」


「怖い?」


 意外だ、というようにアマーリアが俺を見つめてきた。


「ああ、怖いんだよ。ツァーニックと戦ってみて分かったけど奴は強い。とてつもない強さだ。全然歯が立たなかった」


 俺は知らず知らずのうちに手で膝頭を握りしめていた。




「でも本当に怖いのはそれじゃないんだ。あいつから逃げ出した時、頭の中にあったのはみんなのことだった。俺が負けたらあいつが次に狙うのはみんなだと思うと怖くてたまらなかった」


 アマーリアは俺の独白を静かに聞いていた。




「アスタルさんのお陰で強くなったかもしれないけど、それでも奴に届くかどうか。そう思うとじっとしてられなくてさ」


 今まではただがむしゃらにやってきただけだった。


 仲間を危険に晒したこともあったけど、心のどこかにはそれでも上手くやれるという気持ちがあったのかもしれない。


 でも今回は違っていた。


 人質に取られるかもしれないという焦り、ツァーニックの底知れない力、自分の力が及ばないという恐怖、それがないまぜになって俺の心に絡みついていた。




 俺は本当に奴を、ツァーニックを倒せるのか?




 ふっと頭が柔らかいものに包まれた。


 気が付けばアマーリアが俺の頭を抱きしめていた。




「テツヤには私がついている、だから大丈夫だ」


 アマーリアの口から優しい言葉がこぼれた。




「怖いと思うのは当然だ。私だって怖いさ。でも私の側にはテツヤがいる。だから今までどんな困難だって乗り越えてこられたんだ。だからテツヤも私を頼ってくれ。支えにしてくれ」


 アマーリアの唇が俺の額に触れたのを感じた。


「私では力になれるかわからないけど、テツヤが怖いと思うならそれを私にも背負わせてくれ。私はあなたの力になりたいんだ」


「アマーリア…」


「いや、私だけではないな。私たち、だ」


 アマーリアの言葉に振り返るとそこにはソラノとフラム、キリが立っていた。




「前に言っただろう、悩みがあるなら私に言ってくれと」


 そう言ってソラノが俺の額を軽く小突き、頭を抱きしめた。


「足がすくむのなら私が足になろう」




「腕が震えるなら私がテツヤの腕になる」


 フラムがそう言って俺の腕を取った。




「キリはいつでもご主人様と一緒。どんな闇でもキリが一緒にいる」


 キリがもう片方の腕を取った。




「みんな…ありがとう」


 気が付けばツァーニックに対する恐怖は朝霧のように消えていた。


 俺は四人を抱きしめた。




「俺がどうかしてたよ。こんな素晴らしい仲間がいるんだ、怖がる必要なんかどこにもなかったんだな」


 言葉にするだけで力が湧き上がってくる。


 俺は独りじゃない、そう思うだけでどんなことでもできそうな気持になる。




「考えてみるとさ、そもそもはベルトラン帝国がワールフィアに攻め込んでくるのを止めるための旅だったんだよな。だとしたらこんな所で止まってる場合じゃないよな」


 その通りだとアマーリアが頷いた。




「じゃあ明日はとっととツァーニックの野郎を片付けて、ちゃっちゃとドライアドの国を作って、ベルトラン帝国の鼻を明かしてやろうぜ!」


 ようやくいつものテツヤが戻ってきたな、とソラノが微笑んだ。




「よし、そうと決まったら早く寝よう!明日は早いんだしさ!」


 見上げると夜空に奇麗な月がかかっていた。








    ◆








 翌日、全員集合したところにベルベルヒがやってきた。


「こ、これをみんなにあげる。く、国から持ってきた」


 それは蛇髪女人ゴルゴーン族が着てる服と同じ生地で作られた服だった。




「こ、これは瘴気麻という、うちの沼に生える植物の繊維で編んだ服。しょ、瘴気にも負けない強さを持ってるから耐魔力も高い」


「確かにこれは凄い耐魔力だな!これを着てるだけで普通の攻撃魔法なら大抵防げるぞ!しかも凄く動きやすいから戦闘の邪魔にもならないし」


 俺の中に新たに宿った力はベルベルヒの持ってきた服の特性を瞬時に解析していた。


 この服はそれだけでフィルド王国の耐魔術式を施した鎧よりも耐魔力が高い。


 ベルベルヒが嬉しそうに顔を赤らめた。




「ふ、普通の服は瘴気で腐るけど、こ、これは大丈夫だから」


「ありがとう、これは凄い戦力になるよ。というか、これは滅茶苦茶貴重なんじゃないか?」


「べ、別にそこまで貴重でもないよ。ふ、服を作るのは手間だけどみんな暇してるし、なんならもっといっぱい作れるけど」


 これはひょっとしたらとんでもない一品を見つけてしまったのではないだろうか。


 耐魔術式を施した鎧はそれだけで一財産になる。


 家宝にしている騎士だっているくらいだ。


 蛇髪女人ゴルゴーン族と国交を結べたら経済的にも戦力的にも凄いアドバンテージになるんじゃ…


 いやいや、今は捕らぬ狸の皮算用をする時じゃない。


 俺は頭を振ってその考えを振り払った。




「みんな!今日、この一戦は吸血族の、いやこの世界の運命を変えると言っていい戦いだ!ツァーニックは強敵だが倒せない相手じゃない!この戦いでこの国の自由を取り戻すんだ!」




 俺の檄にレジスタンス、ドライアド、みんなが呼応した。




「行くぞ!目指すはツァーニックの城だ!」



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