外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

26.ベルベルヒの頼み

「つまり、蛇髪女人ゴルゴーン族には男性がいないのか?」


「そ、そう。わ、私たちは他の種族の男性との間に子供を作る。う、生まれてくるのは女児だけ」


 突然の告白に驚いたものの、あれから俺たちはベルベルヒに蛇髪女人ゴルゴーン族がどういう種族なのかを教えてもらっていた。




「で、でも私たちが住んでるのは、こ、こんな場所だし、誰か来てもちょっとしたことで石になってしまうから、な、なかなか相手が見つからない」


 そう言うベルベルヒはさっきから俺の隣に座って腕を離そうとしない。




「だから俺たちにも姿を見せなかったのか」


 ベルベルヒはこくんと頷いた。




「わ、私たちの石化はふとした弾みで、は、発動してしまう。だ、だから特に男性の前には出られない」


 なんと難儀な能力なんだ。




「だ、だから、今ではこの国に来る人も、す、すっかり減ってしまって。そ、そのせいで、ほ、他の種族とのやり取りをどうしたらいいのかも、わ、忘れてしまっていて」


 そう言ってベルベルヒは肩を落とした。


 色んな要素が重なり合って種族全体で引きこもりみたいな状態になっていたのか。


 ともあれ完全に没交渉になりたいというわけではないみたいだ。




「場所が問題なら引っ越すわけにはいかないのか?」


「そ、それは無理。この瘴気は私たちにとって凄く大事。こ、この瘴気がないと私たちの肌はす、すぐにひび割れてしまう」


 なるほど、他の種族にとって有害でも蛇髪女人ゴルゴーン族にとっては欠かせないものなのか。


「せ、せめて行き来する場所だけでも瘴気を押さえられたらいいんだけど」




「でしたら、道を作ってゴムの木を植えてみてはどうですか?」


 話を聞いていたフェリエが提案してきた。




「ゴ、ゴムの木?」


「ええ、これです」


 フェリエは持ってきた荷物の中からゴムの木の苗を取り出した。


「この木は瘴気を浄化する能力が高いんです」


 そう言って苗木に手をかざした。


 ゴムの木がみるみるうちに大きくなる。


 同時に部屋の中を充満していた瘴気が薄くなっていくのを感じた。


「す、凄い…!こ、こんな木があったなんて」


 ベルベルヒも驚いたようだ。




「この木を蛇髪女人ゴルゴーン国へ通じる道沿いに街路樹として植えたら少なくともその道周辺の瘴気はかなり薄くなると思いますよ」


「それは良いな!だったら俺がその道を作るよ。沼地ばかりだったら行き来もしにくいし」


「そ、そんなことが可能…なの?」


「ああ、さっきも言ったけど俺の力は土属性だからな。こういうことは得意なんだ。でも先にやることがあるからすぐには無理だけど」


 俺の言葉にベルベルヒが頷いた。


「わ、分かってる…ド、ドライアドの国のことでしょ。そ、それは私も異論ない。み、認めるよ」


 ベルベルヒの言葉に俺たちはほっと胸をなでおろした。


 これで二つ目もクリアだ。




「で、でも、そ、それには条件がある」


 安心したのも束の間、ベルベルヒが話を続けてきた。




「条件?」


「そ、そう。み、認める代わりに、て、手伝ってほしいことがある」


「手伝い?道を作ることだったら…」


 俺の言葉にベルベルヒが頭を横に振った。




「そ、それとは別。わ、私が言っているのは、と、隣の吸血族の国のこと」


 俺たちは目を交わした。


 吸血族?なんでここでその話が?




「じ、実を言うと、さ、最近吸血族のレ、レジスタンスから協力を求められてる」


 ベルベルヒが話を続けた。


「きゅ、吸血族の王、ツァーニック・ヴァンピエルが狂気に走り、自分の同胞を殺しまわってる。い、いずれその暴虐はこちらへも来るだろうから、わ、私としても無視はできない」


 龍人族でも同じ話を聞いたっけ。


「そういえば私も吸血族の国にだけは近づくなと言われていました。近寄るだけで捕まり、血を全て吸い殺されると」


 フェリエの言葉にベルベルヒが頷いた。


「きゅ、吸血族は元々そこまで危険な存在じゃなかった。ち、血を吸うと言っても命まで取るようなことはなかったし。で、でもツァーニックは違う。彼はヒトも魔族もお構いなしに殺しまくっている」




「私もその噂は聞いたことがあるな。ツァーニックが王位についてから吸血族は他の種族と一切関わりを持たなくなり、国内で何が起こっているのか外部から知ることができなくなったのだが、逃げ出した吸血族によると粛清という名の虐殺が行われているのだと」


「そ、そう。レジスタンスが彼は咀魔そま、魔族を喰らい己の力ににする吸血族とは全く異なる存在になったと言っていた」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!話が飛躍しすぎて頭が追い付かないぞ!つまり、そのツァーニックという王を倒さないことにはドライアドが国を作ることはできないってことなのか?」


 ベルベルヒが頷いだ。


 マジかよ。


 フィルド王国では反乱を起こしたランメルスを倒したけど、ワールフィアでは反乱軍に加担することになるのか。


「その、ツァーニックと話し合いをすることは無理なのか?止めるように説得するとか」


「む、難しいと思う。ここ数年、吸血族の国に入って出てきた者はいないと言われてる。わ、私たちもあの国は警戒してる」


 駄目なのか。


 俺はアマーリアやフェリエと目を交わしたが、二人とも困ったように頭を振るだけだった。


「ちょっと考えさせてくれないか?色んなことがありすぎてすぐには決められそうにないんだ。その、レジスタンスと話をすることはできないかな?」


「わ、わかった。レジスタンスにはこちらから言っておく。彼らは私たちとの友好の証しとして蛇髪人ゴルゴーン族の印章指輪を持っている。そ、それが目印になると思う」


「OK、それじゃあ一旦この話は持ち帰ることにするよ。それからの話はその時ってことで良いかな」


「い、いいよ。そ、それならまたテツヤに会えるし」


 ベルベルヒが頬を染めて笑いかけてきた。


 髪の毛の蛇が鎌首をもたげてこちらを見ているのが若干怖いぞ。



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