外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

21.龍人国

 龍人国はトロブから真っ直ぐ西に進んだ山の中にあった。


 西に進むにつれて魔素が濃くなっていく。


 普通の人間であれば体調を崩してしまいかねないくらいの魔素の濃さだけど俺やフェリエは帰還者リターナーだからなのか不思議と平気だった。


 ソラノは浄気魔法を使って凌いでいる。


 ワールフィアに向かうにあたってリンネ姫が魔素を防ぐための魔具を用意してくれたけど今の所必要はなさそうだ。


 山の中に分け入るような道を荷台に乗って飛んでいると関所が見えてきた。


 龍人族の戦士が関所を守っている。




「そこの者ども、止まれ!何用があってここへやってきた!」


 俺たちが近づくと衛兵が武器を構えて立ちはだかった。


 今回の旅に同行してきたのは俺たち五人とフェリエ、バーチの合計七人、明らかに怪しいパーティーだからそれも当然か。




 アマーリアが衛兵たちの前に進み出た。


「私はラング・ペンドラゴンが姪、アマーリア・ハウエルである。国王への面会は既に取り付けてある。ここを通してもらいたい」


「なにい~?貴様らのような怪しい連中が国王に面会だと?そのようなたわ言を信じられると…」


 若い方の衛兵は尚も懐疑的だったけれど、横にいた年配の衛兵がアマーリアの顔に気付いて血相を変えた。




「こ、これは失礼いたしましたアマーリア姫様!全て承知しておりますのでどうぞお通りください!この若者の無礼はどうかご容赦ください!」


「よい、この者も職務を遂行していただけに過ぎない。己の任務を立派に果たしていたとと叔父上に伝えておこう」


「ははぁ!もったいなきお言葉です!」


 衛兵は今にも地面に頭をこすりつけんばかりに平身低頭している。


 俺は衛兵たちの態度の豹変ぶりに呆気に取られていた。




「なあ、ひょっとしてアマーリアって龍人族の偉いとこの出だったりするのか?」


「何を言っているのだ」


 小声で尋ねるとソラノは呆れたようにこっちを見てきた。




「アマーリア様の母上は龍人族の国王ラング・ペンドラゴン殿の妹君、つまりアマーリア様は王の姪御になるのだぞ」


 マジかよ!


 フィルド王国でも名家の出だとは知ってたけど、ワールフィアでもそうだったのか。




「元々龍人族の姫だった母上がひょんなことからフィルド王国の貴族だった父上と出会い、二人の間に生まれたのが私なのだ。母上はほぼ勘当同然で国を出たらしいが、今では両家の関係も良好になっているよ」


 アマーリアが補足してくれた。


 アマーリアの身の上にそんなドラマがあったのか。




「私ではなく両親だがな。なので今でも数年に一度は里帰りをしているのだよ。今回は少し間が開いてしまったから私のことを知らない者もいるみたいだがな」






 そんなことを話しているうちに龍人族の町に到着した。


 町の入り口ではひときわ巨大な龍人族の男が待ち構えていた。


 アマーリアと同じ濃い藍色の髪を長く伸ばし、濃い髭を顔中に蓄えている。


 左眼には大きな刀傷が斜めに走っている。


 全身から溢れる気迫がこの男がただの戦士ではないことを物語っていた。




 アマーリアが走り出した。


「叔父上!」


「おお、アマーリア!我が姫!大きくなったな!」


 その男は駆け寄ってきたアマーリアを抱きしめると天高く持ち上げた。


 ということは、この男が龍人族国王のラング・ペンドラゴンなのか。




「叔父上もお変わりないようで」


「そちらはますます美しくなったな。見違えたぞ。ますますお主の母親そっくりになってきたな」


「もう、からかって!昨晩水晶球で見たばかりではないですか」


「はっはっは、水晶球越しと実物は別物だよ!同じ水でも清水と泥水だ!」


 こんなに無邪気にはしゃいでいるアマーリアを見るのは初めてだ。


 本当に仲が良いというのが見てわかる。




「して、そちらにいる方々は?」


 ラングがこちらを見た。




「叔父上、彼がテツヤです。そして彼女が昨晩話したフェリエと私の仲間たちです」


「おお、お主がテツヤか!お主のことはアマーリアからよく聞いているぞ!」


 ラングが近寄ってきて俺の手を握ってきた。


 痛みを感じるくらい力強いけど敵意がないのもはっきりわかる握手だった。




「さあさあ、積もる話は後だ、まずは我が城を案内させてくれ!」


 挨拶をする間もなく俺たちはラングの先導の元、龍人族の城へと向かうことになった。






「いや~、お主にはいつか会いたいと思っていたのだ!ささ、飲んでくれ」


 ラングはそう言って徳利を俺に向けてきた。


「は、はあ」




 あれから俺たちはあれよあれよという間に宴会に参加することになった。


 流石にアマーリアの一族だけあってみんな恐ろしい位に酒を飲んでいる。




「我が姫、アマーリアにはいつもお主の話を聞かされていたのだ。あまりにお主の話ばかりだったから自分で逆鱗をかきむしりたくなるくらいだったぞ」


「お、叔父上!」


 アマーリアが真っ赤な顔で反論している。




「何を恥ずかしがっておる。テツヤのためなら一週間でも風呂を我慢できると言っていたではないか」


 風呂を我慢する?そう言えば前にそんなことを言っていたような。


「我が一族には女に三日風呂を我慢させるほどの良い男という言い回しがあってな、つまりはそれだけその男に惚れこんでいるということだ。一族の中でもとりわけ風呂好きのアマーリアがそこまで言う男がどんなものなのか興味があったのよ」


「叔父上!」


 アマーリアの顔が火を噴きそうなくらい赤くなっている。


 こんなアマーリアを見るのは初めてだ。




「で、だ」


 ラングが急に真面目な顔になって聞いてきた。


「子はいつ生まれるのだ?」


 俺は飲みかけていた酒を盛大に吹きだした。






「お、叔父上!何を仰ってるのですか!」


 アマーリアが真っ赤になって叫んだ。


「ん?今日は婚姻の報告に来たのではなかったのか?儂はそうだとばかり思っていたのだが…」


「昨日の晩に言ったではありませんか!ドライアドの国を作りたいから挨拶に行くと!」


「おお、そうだったか。テツヤ殿の話ばかりしていたからてっきりそうだとばかり…」


「もう!私とテツヤはまだそういうのではありません!」


「そうかそうか、”まだ”そういう間柄ではなかったか」


「知りません!」


 ラングがにやにやしながらアマーリアをからかっている。




 こうして宴会は賑やかに過ぎていった。



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